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常識破壊-「問い」が切り拓く未来の事業(全4記事)

「Will」が思いつかない時の新規事業創出の手順 「Must」から始めるアイデアの生み出し方

既存の枠組みを超えた発想がどのように新しい事業の形成を促進し、社会に影響を与えるのか。『常識破壊-「問い」が切り拓く未来の事業』と題して開催された本セッションでは、未来の事業を牽引するための「問い」の力について語り合います。本記事では、「Must」から考える新規事業の創出の手順についてお届けします。

新規事業における「問い」の立て方

小笹文氏(以下、小笹):ちょっと話を変えてうかがいたいなと思うのは、例えば会社で新規事業をやらなくてはいけない立場にいるとか、それこそ世の中の風潮で、「いや、起業家は新しいことを考え続けねばならない」というものの外圧がある。

自分事化せずに何かしら問いを立てなきゃいけないようなモードになっている人は、けっこう多いんじゃないかなと思うんです。

伊藤羊一氏(以下、伊藤):そうね。

小笹:ただ一方で、やはりそういう問いはちょっと薄いというか。なんか続かなかったり、筋がずれちゃっていたり、ということがありがちだなと思います。本質的な良い問いは、どうやったら生まれるのかなというところを、お二人におうかがいしたいです。伊藤さんはどうですか?

伊藤:最終的にはそういうことなんだと思うんですね。だから、確かに問いを立てなきゃいけない、新しい事業を作らなきゃいけないとなると、やはりちょっとおもしろくねぇとか続かないとかあるかもしれないんですけど。

今まさに小笹さんが言ったように、それでは薄いじゃないですか。で、「薄いってどういうこと?」というと、やはり経験が少ないというか筋トレが少ないということだとしたら、僕は「最初にWillでいければいいや」みたいな感じはあるんだけど。ただ、学生とかと接していると、そんな簡単にWillが「うおぉ!」とかいって降りてくるわけないわけですよ。そうすると、Must、Will、Canってね。

小笹:リクルートの(フレームワーク)。

最初は「Must」から考える

伊藤:それこそリクルートのフレームワークで言うと、最初はもうMustでぜんぜんいいと思っていて、Mustでやらなきゃいけない。やっているうちにCanが増えてくるわけですね。Canが増えてくると「ありがとう」とか言われるようになるから、「これか」みたいな感じで目覚めていく。

だから、僕も最初からこんな大学の学部を作るなんてぜんぜん思ってもいなくて。結局源泉がどこから来ているかというと、メンタルをやられてから復活してきて、「あっ、考えるってこうやってやればいいんだ」「あっ、人と話すのはこうすればいいんだ」というのを積み重ねて、「あれ?」みたいな感じで結実したのが、今57歳なんですけど、50歳を超えてからですよ。

だから、Willというのはそういうことで、結果としてそこに行けばいいかなっていう。

小笹:そうですね。私も元リクルートだったのでアレですけど、やはりMustとCanがないとWillは生まれないんですよね。

伊藤:そうなの。Willから行こうとすると「無理だわ」っていう(笑)。

小笹:そう、Willから始まっちゃうと(笑)、そうなんですよね。ありがとうございます。杉江さんはいかがですか?

他社の意思決定の過程を想像してみる

杉江陸氏(以下、杉江):なかなかハイエンドなお話から入ったのでアレなんですけど。例えば今日、私は日経新聞を開いたら、一面でトランプの関税や日産がどうのこうのみたいな話が出ていました。それを読んで、例えば「日産とホンダ、アホだな」と考えるか、「私がホンダの三部(敏宏)さんだったらどうするかな?」と考えるかでは、ぜんぜんアングルが違うよね。

「私が三部さんだったらどうする?」と考えると、知らないことだらけなんですよ。でも、三部さんがなぜこうしたのかをイメージするのも、想像でしかないんだけど、すごく豊かな時間だと思うんですよね。

小笹:そうですね。

杉江:「じゃあ、すごくたくさんの選択肢があるはずの三部さんが、今回この選択肢を採ろうとしているのは何だろう?」。意思決定ってしょせん選択なんですよね。

可能性Aと可能性Bと可能性Cと、可能性Zみたいなものもあると思うんだけど、その中であえて可能性Cに賭けるという意思決定をしたとすると、「いったい何が起きるんだろう?」とまた考える。こういうのは、毎日毎時間できるんですよ。これもさっきの観察という話なんですけど、人がやっているのを見るだけで、相当の学習ができるんですよね。

伊藤:そうね。疑似体験ですね。

杉江:そう。しかも、人のことを批判していても意味がない。例えば、「トランプって嫌なやつだよね」だと意味がないんだけど、「なんでトランプはそうするのか?」とか、「私だったらどうする?」と考えると、途端にけっこう答えに詰まる。だって僕だってトランプの代わりなんてできないもん。

だから、できないならできないなりにその人たちの思いを想像してみる。で、そこに共感してみる、あるいは反発してみる、みたいなところからWillが生まれると僕は思っています。

伊藤:そうだね。

杉江:「俺ならどうしたい?」って出てくるんですよ。

小笹:当事者意識ですよね。

杉江:だから結局、実は「トランプ」と聞いているんじゃなくて、「俺」として聞いているんだと思うんですよね。なんかそういう自分事にしていくというのは1つのステップかなって、今お話を聞いていて思いました。

伊藤:いや、本当ね。

圧倒的な当事者意識がイノベーションを生む

小笹:ありがとうございます。残念ながら先月ご逝去されましたけど、一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生が、「自分は何をやりたいのか?」とか、「何のために存在しているのか?」みたいな圧倒的な当事者意識がイノベーションを生むんだよとすごくおっしゃっていました。

今、お二人のお話をうかがうと、問いを立てるにあたって自分が何をやりたいのか、社会に対してどう貢献したいのかがしっかり考えられていないと、本当に自分が命を懸けてやっていきたいと思うものにつながる問いは、なかなか生まれないのかなという気がしました。

伊藤:いや、本当ね。だから常識破壊から入るんじゃなくて、我がこととして圧倒的当事者意識で、「これ、どうなの?」みたいなことをやって、その先に結果として(常識が破壊される)。みんな、自分は80億分の1なわけですよね。80億分の1を追求していくと、結果として常識が破壊されているみたいな感じだと思うんですよね。

小笹:自分が何をやりたいのかという。やはり続けていくって大変じゃないですか。特に、それこそ世の中的に常識を破壊すると思われているようなものを続けていくのは、やはり圧倒的に「自分はこれをやりたいんだ」という信念がないと、それこそ杉江さん、できないような気がするんですけど。

杉江:今の伊藤さんのお話、すごく僕はビビッと来ました。なんのてらいもなく今、「80億分の1」とおっしゃったんですけど、今生きている人で80億人を意識している人っていますかっていうのもあって。

例えば今自分が持っている常識は、本当は自分の半径50メートル以内の常識だったりしませんかと。

伊藤:そうですよね。「普通」とか言ってね。

杉江:それ、普通じゃないから!ってことはいっぱいあるんですよ。例えば、毎日朝ご飯を食べるのなんて、世界の80億人ベースで言ったらぜんぜん普通じゃないじゃないですか。

伊藤:確かに。

同じスキルを持った人ばかりのチームは意味がない

杉江:今、朝ご飯の話だけしましたけど、「そもそもコーヒーをおいしいと思う人は、80億人の中にいったい何人いる?」とか、そういうのも全部前提が入っているんですよね。

私が申し上げたいのは、近い人とばっかり付き合っていると常識は凝り固まるんですよね。なので、もし人と一緒になにかしようと思うことがあるなら、なるべく自分から遠い人。なんなら地球の裏側まで行って、その人たちと一緒に話をしてみると、意外と自分がいかに変な人かがわかる。その変なことというのは、悪いことじゃなくて良いことなんです。

伊藤:個性だよね。

杉江:個性なんですよ。それを知るには、自分と似たような人たちばかりと付き合っていてはいけないんじゃないかなと思うんですよね。なので、私どもの会社の話にちょっと触れると、Paidyって280人の従業員がいて、今現在、実は国籍が42ヶ国あるんですけど。

伊藤:すげぇ。

杉江:正直、面談したって能力なんてわからないですよ。だから、半分マジで言っているんですけど、2人(のどちらがいいか)で迷ったら新しい国籍を選ぶみたいな。

伊藤:「迷ったらワイルド」ね。

小笹:確かに。

杉江:そうなった結果として、わずか280人の中で42ヶ国になっちゃったんだけども。よく言われるのはスタートアップで、一番社長の専門に近いスキルを持っている人は一番早くクビになると言われているんですよね。(自分の)得意技だから下手に見える。

だけど、遠いスキルの持ち主のことは、どうせ自分はできないから、否応なしにリスペクトする。そのリスペクト同士が集まっていくと、リスペクトの塊のチームになっていくというようなことが、スタートアップでよく言われます。でもスタートアップじゃなくても同じだと思うんです。

結局、チームでやるとコミュニケーションコストが高いから、一人で長時間働いてさっさと終わらせちゃった方が早い。つまり同じことができる人たちばかり集まっているチームなら、チームである意味がない。でも違う人が集まったら、ぜんぜん違うアングルの話が出てくるから、きっと良い話ができるよねって思うかな。

組織で嫌われる「そもそも論」

小笹:そうですよね、ありがとうございます。あっという間に時間が過ぎてラスト5分になりましたので、みなさんからご質問があれば、ぜひお受けしたいと思うんですけど。スーツを着ていらっしゃる真ん中の方、どうぞ。

質問者1:非常に勉強になりました。ありがとうございます。どなたにということではないんですけども、やはり最後に伊藤さんがおっしゃった、「そもそもを問うのは大事だよね」というお話。組織の中で「そもそも論」って意外と嫌われがちな部分だと思うんですね。

でも、これができないとやはり新しいものは生まれないと思っていて、これが組織の問い力の肝なのかなとお話を聞いていて思いました。この問い力の高い組織を作るためのポイントやアドバイスがあればお聞かせいただけたらと思います。

伊藤:いや、本当そうで、組織は逆の方向に行っちゃうんですよ。だって、これまでやってきたものをゴーイング・コンサーンで守りたいから、「そもそもとか、お前」みたいな。

物理的に一番大事なことはいろいろあるんだけど、1つだけ言うと、たくさんしゃべることですよね。しかも、「心理的安全性」というんだけど、あれは要するに言いたいことが言えるということ。社長だろうが新入社員だろうがフラットに言いたいことを言い合える環境を作ってたくさんしゃべる。もうそれだけですよね。

課題を自分で解決するか、他人に任せるか

小笹:ありがとうございます。ちょっと一問一答形式で、お二人のうちどちらかが答えていただくかたちで、たくさんお受けしたいんですが。では、次。まず、こちらの方、お願いします。

質問者2:杉江さんに質問です。日常生活の中でいろんな疑問というか問いを立てていると思うんですけど、どのような粒度で、例えば日常生活でふだん過ごしているレベルから思っているのか。

あと、その問いを使って良いアウトプットを出すために、どのようなインプットをしているのかが気になっています。すぐに良いアウトプットが出たら誰も困らないじゃないですか(笑)。どういうインプットをしているのかが、気になりました。

小笹:いかがでしょう、杉江さん?

杉江:ありがとうございます。1分で答えにくい質問なんですけど。今日僕は新横浜駅で新幹線に乗って、名古屋で降りてここまで来ています。例えば新横浜駅ですごく気になったのは、スターバックス以外にコーヒーを買う場所がなくて、そこで渋滞しているんですよね。なので、「ここでビジネスをしたらどうなるだろう?」みたいなのは考えるわけですよ。

でも、自分が悩んで、ふと引っかかった時に「自分で解決できる?」と思ったら、起業して解決するのか、ほかの人がきっと解決するだろうなってサッと頭を流すかみたいなのは、いつも考えていますよね。

なので、生きていて、なんかつまずきそうになったら、「その石を自分でどけるかどうか」というのを、いつも考えます。でも、あんまりやっていると、だんだん嫌なやつになってくるから、そこそこにしておいてねっていう感じかな(笑)。

伊藤羊一氏が語る、時間の生み出し方

小笹:ありがとうございます。あとお二方ぐらい……次の方は決まっていらっしゃって、ごめんなさい。次、今マスクをかけていらっしゃる方でいったん締め切らせていただきます。どうぞ。

質問者3:「すげぇ」時間で、「ヤバかった」です。ありがとうございます。

(会場笑)

小笹:最高(笑)。

質問者3:伊藤先生に聞きたいと思います。常に問うとか、非常に良いヒントをいただいたんですけど、つい「いや、でもちょっと時間がないんだよね」なんていう言い訳をしたくなる自分がいるんですけど。時間の生み出し方とかで、何か1つコメントをいただけないでしょうか?

伊藤:いや、でもまぁ、100日に一遍ぐらいあるかもしれないけど、例えば歯磨きって時間がないからやらないわけないじゃない。もう習慣になっているじゃないですか。ということは、最初に予定を入れちゃうということですよね。だから、最初に頭の中で問うとか、最初にこういう時間を作るとかすれば、できるようになりますよ。

時間がないからやらないということは、選択と集中の中でそれを選択しなかったということです。ほかのことをやらなくなればできるようになります。

伊藤:アドラー的に言うと、実はしたくないからやらなかったんですよね。

質問者3:よくわかりました。ありがとうございます。

相手にとっての「良い問い」を引き出すには

小笹:ということでした。では、もう1つ質問をお受けして締め切りたいと思います、どうぞ。

質問者4:ちょっと話の論点が変わっちゃうかもしれないんですが、今回は「新事業をどうするかを自分に問う」みたいな問いだったと思うんですけど。相手とのコミュニケーションで、相手にとって良い問いみたいなのはどのようにお考えでしょうか?

伊藤:一言で答えると、相手にとって良い問いというのは、自分では考えられないので、ひとすら聴くということですよね。ひたすら聴き続けると、勝手に相手が「こういうことですね」となるので、もうひたすら聴く。1on1の極意と同じです。

杉江:今の問いかけって、いかにthought-provokingっていうか、思考を後押ししてあげられるか、みたいなことなんですかね? だとすると、やはり世の中には手段と目的を逆転させている人が山ほどいると思うんですよね。

さっきの、そもそも論が嫌われる、みたいなのがあると思うんですけど。それは手段を目的にしてしまっているので、この手段を変えるのは嫌だという人に対して、「いや、目的、そもそもこれやんか?」というのをみんな嫌うと感じていると思うんです。

そこをなんとかぶらさずに、「そもそもこれ、目的がこうだよね」という話は、私は、嫌われそうで実は周りが嫌わない問いだと思います。

小笹:はい、ありがとうございます。まだまだご質問があるかと思うんですけど、申し訳ありません、時間がいっぱいになりましたので、このセッションを以上とさせていただきたいと思います。みなさん、ご参加いただいてありがとうございました。お二人に拍手をお願いします。

杉江:ありがとうございます。

伊藤:どうもありがとうございました。またお願いします。

(会場拍手)

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