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常識破壊-「問い」が切り拓く未来の事業(全4記事)

3兆円の「代引き」市場に取って代わった決済サービス Paidy元社長が明かす、プロダクトの成功を確信した瞬間

既存の枠組みを超えた発想がどのように新しい事業の形成を促進し、社会に影響を与えるのか。『常識破壊-「問い」が切り拓く未来の事業』と題して開催された本セッションでは、未来の事業を牽引するための「問い」の力について語り合います。本記事では、Paidy元社長の杉江陸氏が、プロダクトの成功を確信した瞬間について語ります。

元社長が語る、Paidyが成功するまでの経緯

小笹文氏(以下、小笹):ありがとうございます。杉江さんにもPaidyの話をうかがいたいなと思っています。

私は外から見ていると、やはりPaidyを生み出したこと自体が、ある意味、世の中的、社会的には常識の破壊。あらかじめ与信の審査とかがない状態で、例えば分割払いができるとか。そういうこと自体もレベルの差はあれ、今までの常識をちょっとずつ破っていって、それが結局あれだけの大きなビジネスになったなと思っているんですけど。

杉江さんが、「いや、あれやろう」「あれにコミットしよう」と思われたところも含めて、前提としてどういう問いみたいなものがあって、それをPaidyだったらどういうふうに解決できるなと思われたのか、おうかがいしてもいいでしょうか?

伊藤羊一氏(以下、伊藤):うん、知りたい。

杉江陸 氏(以下、杉江):まずね、たぶん誤解があると思うんですけど、僕は別にPaidyの創業者じゃないんです。

小笹:はい、はい。

杉江:Paidyのプロダクトが鳴かず飛ばずな中で、創業者のラッセル・カマーというカナダ人に「なんとかしてくれ」と頼まれて、Paidyに7年前にジョインしたんだけど。

その時にも同じプロダクトはあった。Paidyはその当時どんなプロダクトだったかというと、メールアドレスと電話番号だけ入れれば、クレジットカードとか銀行口座をリンクしなくてもスルッと決済できちゃうプロダクトだったんですよね。今でもそうなんですけど。

「このプロダクト、絶対にいける」と確信した瞬間

杉江:さっきの「Why?」の話で言うと、今からすればこれは当たり前のプロダクトだと思うんだけど、1つは世の中のイノベーションの動向。

当時も今もそうだけど、(今は)1つはAIが出てきたよね。なので、AIと大量のデータをダンプで扱えるようになってきている。そして、一人ひとりが全員スマホっていうスーパーコンピューターを持っているとなったら、基本的には大量のオルタナティブデータから人の倒産確率を当てられるみたいなことは当たり前だし。

今そこにあるコンピューターでいろんなアクティビティを全部完結したいと思ったら、そりゃ、そういうプロダクトはできるよねという、もう時代の産物なんですよ。こんなの、できないのがおかしい。だから、それ自体はイノベーションはないと言えばなくて、単なる組み合わせの問題なんですよ。

だけど、「So what?」はめちゃくちゃ大事で、当時の僕らのチームには「So what?」がなかった。

伊藤:なるほど。

杉江:そう。結局、「それで世の中の人たちの生活のどこが変わるの?」がなかったんですよ。でも、僕が思うに、「あっ、このプロダクト、絶対にいける」と思った理由があって、「今あるものの何に取って代わるべきプロダクトなのか?」というところで言うと。

実は、クレジットカードでもないしデビットカードでもなくて、本当は昔からある代引きなんですよ。決済情報を投入しないでもある程度スルッと買えちゃうって、一番スムーズなのは実は代引きなんですよ。

伊藤:なるほど。

杉江:何もしなくていいじゃないですか。受け取る時に現金を払えばいいんですよ。でも、受け取る時に現金を払うのは面倒くさくないですか? あと、なんなら、このPaidyの宣伝をすると、受け取ってから返品したら、これはもっと大変です。

小笹:そうですね。

3兆円の「代引き」市場に目をつけた

杉江:例えば2,000円の物を現金で買ったとして、売り手から2,000円戻してもらうのに、銀行口座をお伝えして、銀行口座はセンシティブ情報だから消し込んでもらわなきゃいけないわけですよ。これはこっちも大変だし、向こうもめっちゃくちゃ大変。

これ、全部変えられるよねって。その当時に代引きの市場は3兆円あったんですよね。

伊藤:そうそうそう。

杉江:今は我々のおかげで2兆円ぐらいに減っているんですけど。

伊藤:佐川(急便)さんとかは、そこでめちゃめちゃ儲けていたんでね。

杉江:そう。だから簡単に言っちゃえば、3兆円のうちの例えば3分の1の1兆円を取って、テイクレートを5パーセント取れば、それで500億円のレベニューになるでしょう? もう簡単にわかるわけですよ。

だから、「So what?」を突き詰めればそこに至れるんだけど、それがないから一生懸命、「クレジットカードじゃなくてうちのを使ってください」と言わなきゃいけなかったんだよね。

伊藤:(笑)。

杉江:これは本当に大事です。でも、そこにもう1つあるのは、こういうプロダクトでやりがちなのが、エンドユーザーから手数料を取りがちなんですよね。

小笹:はいはい。

杉江:あるいは、「後から払うんだったら金利取ってよ」みたいな話があるんだけど、いや、それだけはやりたくないっていう。

伊藤:なるほどね。

杉江:もう1つの自分のパッションみたいなのはやはりあって。なんでかというと、僕はPaidyをやる前に、レイクという消費者金融の社長をやっていたんですよね。

お客さんはみんな困っているわけですよ。困っているのは、別に僕らが追い込んでいるという話じゃなくて、大抵は自分じゃない人の無駄遣いを一生懸命支えようとして困っていたりするんだけど。金利で追い立てられて最後に倒れていくというのを、絶対やりたくないというパッションはやはりあって。そこの3つがたぶん僕らをナビゲートしてくれたなと思います。

伊藤:なるほどね。

一つのことについてひたすら考え続ける

杉江:本当に北極星って、その3つだと思うんですよね。なので、今のお話はすごく響いた。なんだけど、「じゃあ、浪人したらどうすんのよ?」みたいな時に、さっきのパッションもあるんだけど。

逆に、なんかいつも「Paidy、Paidy、Paidy」と同じことを考えていたじゃないですか。だから、1万時間とか10万時間とか100万時間考えていたんだけど、今、同じことをずっと考えていないとちょっと辛いんですよね。

例えばよく言うのは、リンゴが木から落ちてニュートンは万有引力を発見したみたいにみんな言うじゃないですか。リンゴが落ちるのは誰でも、古代から知っているわけなんだけど。

小笹:(笑)。

杉江:あの人は本当は、リンゴが落ちて何を考えたのか。よく言われているのは、「なんで月は落ちてこないんだ?」とずっと思っていたんだけど、「あっ、わかった。物同士が引き合う力と遠心力がバランスしているからだ」ってその時初めてわかったわけですよ。

伊藤:そうね。だから、リンゴはきっかけなんですよね。

杉江:きっかけなんですよ。しかもなんならあの頃、ペスト病が流行していて、あの人はずっと家に引きこもっていたんですよね。だからもう、何万時間とそれを考えられる時間があって、そこに至ったみたいなのがあった。今僕は、実はそれがちょっとなくて、いくつか考えることがあって、ここも考えて、あそこも考えて、これも考えて、人に相談して、みたいな。

伊藤:なるほど。

杉江:そこをお二人にナビゲートしていただけたら。「今、悩んでいます」みたいな。

小笹:(笑)。

伊藤:でも、逆にそういう時間は人生の中でめちゃめちゃ大切ですよね。

杉江:本当、そうですね。

伊藤:だから、ここに突き詰めて、「Why?」と「So what?」「True?」というのをやってきたわけじゃないですか?

杉江:はい。

伊藤:そこはオーバーホールじゃないけど、いやいや、待てよと。全部開放されるという中で、「さて?」と今度は自分に矢を向けるわけですよね。そこに向き合わないと、新しい活力は生まれてこないような気がしますよね。

杉江:そうね。

「そもそも、それでいいんだっけ?」と前提を疑う

小笹:あとすごく思うのは、やはり常識のレベルを疑うというか。今日のテーマもそうですけど、それこそ「いや、リンゴは落ちて当たり前だよね」とか「月は浮いているのが当たり前だよね」っていう。それ以上何も考えずに、それが常識だよねというようなところで止まっていると思考停止に陥るというか、考えないと思います。

伊藤:そうね。

小笹:やはりお二人のお話をうかがっていると常に考え続ける、疑い続けるような思考法を持っていらっしゃるなと思っています。

伊藤:そうそう。別にそれは思考法ではなくて。だからニュートンも、別にすごく頭がキレッキレに働いているから、「リンゴが落ちた」ということに気づいたわけじゃなくて、やはりきっかけなんですよね。

小笹:そうですね。

伊藤:それをずっと考えているからそうなんですよね。杉江さんもそうなんですよね。だから、「Paidy、Paidy、Paidy」と言っているから結果として「こうだね」と。だから、それこそ「Why?」は相応にして、「So what?」をアホみたいに考えると……アホってちょっと失礼なんだけど……考える。「そもそもそれでいいんだっけ?」みたいな、「そもそも代引きじゃね?」みたいなところがあるから結果として出てくる。

ということは、僕も「待てよ」と。「学部を作らないか?」とか言われて、「何学部ですか?」と聞くと、「伊藤さんの好きに決めていい」とか言うわけですよ。

杉江:(笑)。

伊藤:「もう一声、ちょっとヒントをください」と学長に言ったら、ここだけ本当に僕じゃなくて学長が言ったので、ちょっと自分のことで大変恐縮なんですけど。「伊藤さんみたいな人を育てたいんだ」と言われて、「おぉ、それは俺がやるしかなくない?」みたいな感じで燃えたんです。

その後、どうしたらいいかわからないじゃないですか。大学の学部なんて作ったことないし、単位もわからないし、教員もいない状況の中で、やはり「Paidy、Paidy、Paidy」と考えているような時間でした。

小笹さんもきっと、「イベレジ(イベントレジスト株式会社)、イベレジ、イベレジ」とか、もうたぶんイベレジのことしか考えていなかったですよね?

小笹:はい。寝ている時も考えていましたね。

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