既存の枠組みを超えた発想がどのように新しい事業の形成を促進し、社会に影響を与えるのか。『常識破壊-「問い」が切り拓く未来の事業』と題して開催された本セッションでは、未来の事業を牽引するための「問い」の力について語り合います。本記事では、伊藤羊一氏が常に意識している「3つの問い」についてお伝えします。
常識を超えたイノベーションを創出するには?
司会者:ただいまより、「常識破壊-『問い』が切り拓く未来の事業」を始めさせていただきます。ご登壇いただいているのは、合同会社カラフル代表、一般社団法人コミュニティマーケティング推進協会理事、小笹文さま。
(会場拍手)
司会者:株式会社Paidyエグゼクティブ・アドバイザー、杉江陸さま。
(会場拍手)
司会者:武蔵野大学アントレプレナーシップ学部学部長、伊藤羊一さまです。
(会場拍手)
司会者:ご登壇のみなさま、よろしくお願いいたします。
伊藤羊一氏(以下、伊藤):写真、たくさん撮っていただいていいですよ。
小笹文氏(以下、小笹):どうぞ。
伊藤:待ち受けにしていただいても大丈夫ですので。
小笹:(笑)。じゃあ、始めて大丈夫ですかね。みなさん、朝からありがとうございます。
このセッションは、「常識破壊-『問い』が切り拓く未来の事業」ということで、伊藤さんと杉江さんにご登壇いただきまして、「これまでの常識って何だっけ?」とか、「それにとらわれずに新たなイノベーション創出につながるような問いを持つってどういうことだっけ?」というような話。
あと、「そもそも常識を超えるためにどういうマインドセットを持っていたらいいんだっけ?」みたいなところを中心に浮き彫りにできたらいいなと思っております。45分という時間ですが、お付き合いください。立ち見のみなさん、お疲れさまです。ありがとうございます。では、先に3人の自己紹介をさせていただきたいと思います。
私はモデレーターをさせていただく小笹文と申します。カラフルという会社の代表をしておりますけれども、今そこでマーケティング領域のコンサルティングであったり、別の顔としては、社外取締役で上場企業4社をやっていたりとか。あとは、専門がマーケティングなので、大学の教員をやったり、いろいろなことをチャレンジしながらやっています。

この仕事をやる前にスタートアップの会社を共同創業して10年ぐらいやっていまして、結局今は日経新聞さんに買収していただき、子会社としていまだにやっているわけですけれども。そこのいわゆる起業家としての経験から、今モデレーターとしてこの壇上に上がらせていただいているのかなと思っております。よろしくお願いします。
(会場拍手)
Paidyを退社しジョブレス期間の杉江陸氏
小笹:では杉江さん、お願いします。
杉江陸 氏(以下、杉江):杉江です。愛知県知多郡阿久比町生まれで、18年間阿久比町におりまして、2万2,000人しか人口がいない中で、よくここまで来たなという感じなんですけど。
ここにある肩書上は、Paidyという決済の会社のエグゼクティブ・アドバイザーということになっていますが、2024年末で社長退任して、3月末で退社予定というところまで来ていまして、事実上無職みたいな感じです(笑)。
※2025年2月6日時点のプロフィール
伊藤:ジョブレスです、ジョブレス。
杉江:ジョブレスなんですね。なので、今日みなさんに、「破壊的問い」みたいなお題をいただいて何かしゃべらなきゃいけないんですが。むしろ「お前、次、どうすんねん」って、もう人に会うたびに言われるんですけど、それが怖いんですよね。
伊藤:いや、でもそれ、ちょっと後で聞きたいですね。
小笹:そうですね。
杉江:いやいや、でもすごいプレッシャーで、あたかも次に何かをしなければならないという前提。「起業家は常に何かをし続ける」みたいな常識を破壊すべきじゃないかという気もしていまして(笑)。
小笹:それこそ破壊すべき常識じゃないかということですね?
杉江:そうね。今日はそんなこともお話ししたいな、なんて思っていますけどね。
伊藤:それもちょっと聞きたい。
杉江:ぜひみなさん、いろいろ教えてください。よろしくお願いします。
(会場拍手)
10年在籍したヤフーを退社した伊藤羊一 氏
杉江:では、続いて伊藤さん。よろしくお願いします。
伊藤:はい、伊藤羊一です。本業は「Voicy」のパーソナリティをやっております。
(会場笑)
伊藤:あと、武蔵野大学でアントレプレナーシップ学部を2021年4月に立ち上げて、4年経つんですよ。大学で4年というのは、最初の卒業生が出てくるんですね。だからもう、「卒業生が」と言った瞬間に、それだけで僕はもう(涙が)ポロッみたいな、そんな状況でございます。
※2025年2月6日時点のプロフィールこのイベントもバス2台でチャーターしてきて、めっちゃボランティアとかね……学生いる? ほら、ちょこちょこね。
小笹:おぉ、すごい、すごい。
(会場拍手)
伊藤:ありがとうございます。あと三鷹にMusashino Valleyというスタートアップスタジオを立ち上げました。それから、ちょっとニュースというか、ここでお知らせするのもなんなんですけど。ヤフーに10年いたんですが、この3月末をもって会社を去ります!
杉江:お疲れさまです。
伊藤:あっ、これ、拍手するところです。
(会場拍手)
伊藤:ちょうど10年でいなくなることになりました。新卒で銀行員だから、実は杉江さんと同じですよね。プラスという文房具屋さんに行って、10年前にヤフーに行きました。
杉江:あっ、プラスにいたんですか? 今私、コクヨにもいるんですよ。
伊藤:マジですか!?
(一同笑)
杉江:似ているな(笑)。
伊藤:プラスにいた頃は、「何ですか、敵ですか? じゃあ、しゃべらないほうがいいです」みたいな感じだったのに、今はもうコクヨさんも大好きでございます。
杉江:ありがとうございます。
伊藤:あとちょいちょい本を書いていまして、1分で話せないんですけど、『1分で話せ』という本を書いています。
(一同笑)
伊藤:ということで、よろしくお願いします。
伊藤羊一氏が常に意識する「3つの問い」
小笹:ありがとうございます。じゃあ、本題に入っていこうと思うんですけれども。我々もそうだったんですが、(テーマを)投げかけられた時に、「これ、広くて深すぎない?」という話で、どういう話をしていこうかなと、けっこういろいろ考えたんですけど。
たぶん一人ひとり、「問いって何?」というものの解釈は違う……違うというか別に正しいものはないと思うんですけど。それについて深く考えている人もいれば、今までそんなに考えたことがなかったなという人もいらっしゃると思うんですね。
みなさんに身近な自分事として考えていただくために、まずお二人の問いとの向き合い方みたいなところをちょっとうかがってみたくて。
まず伊藤さんにおうかがいしたいんですけど。ご自身がふだんお仕事をされていらっしゃる時も含めて、どういうふうに問いを立てられるのか。あとは学生さんをいっぱい抱えていらっしゃると思うんですけど、次世代のアントレプレナーの方たちの問いを設定していく作業に、どういうふうに付き合っていらっしゃるのか。そのあたりをうかがってもいいですか?
伊藤:はい。日常的には、極めてロジカルシンキング的なんですけど、3つの問いを常に問うています。これは別にここにいらっしゃるみなさんもなんとなくやられている(と思う)んだけど、僕はあえて意識してやっています。
その1つが、「なぜ?」「Why?」ですね。「Why?」は過去から現在に至るところですね。「Why?」という、「なぜ?」を必ず問うています。そうすると、今ある経緯がわかるわけですよ。「あっ、だからこうなのね」というのがわかる。
過去にこだわっていると、思考が破壊されない
伊藤:もう1つは、「Why?」だけだと過去から現在に聞いているだけなので、現在から未来に何か問う時には、「So what?」ですね。「それで?」という問いを常に立てています。だから、「Why?」と「So what?」というのは、もう日常的に考えている。
それからもう1つは、「Why?」とか「So what?」というのはゴーイング・コンサーンの中で問うているわけで、「いやいや、そもそもそれでいいんだっけ?」ということで。日本語で言うと「そもそも」、英語で言うと「True?」ですね、「それ、マジ?」みたいな。
要するに、「そもそも俺が考えているのは、これでいいんだっけ?」という、「True?」という、この3つを常に(考えています)。これは別にみなさんもそう言われてみればそうだよねということだと思うんですけど、常に意識しているのが大事ですね。
小笹:「True?」になった時に1回客観的に見るみたいな感じなんですかね?
伊藤:そうそう。要するに「Why?」と「So what?」というのは、今あるのが正しい前提で問うわけじゃないですか。でも、現実は違うじゃない。
特に「Why?」は過去が正しいと思って、今、ということなので。過去だけにこだわっていると、思考が破壊されないんですよ。だから、「True?」と聞いて、「いや、そもそもこれでいいんだっけ?」というのを問うていますね。
だから、これは別にロジカルシンキングとか勉強する方はみんな学ぶんですけど、僕がこうやって偉そうに今言っているのは、日々それを問うていること。これは、なかなかやっていないと思いますよ。
頭の良い人が常に自分に問いかけていること
杉江:いや、なんか今のお話、すごく響くんですけど。さっき言ったように私、無職じゃないですか(笑)。毎日、事業アイデアはそこそこ浮かぶんですよ。それこそ「Why?」とか「So what?」とかはいっぱい考えるんだけど。
やはり今一番悩んでいるのは、「本当にそれ、やりたい?」と自分に問いかけること。
伊藤:「True?」ということですよね。
杉江:「True?」というやつ。僕に言わせると「本当?」という話なんだけど、それでいろんな人にぶつけてみて、自分の言葉にできていて、しかもそれが話せば話すほど気持ちが高まってくるようなアイデアなのかなということは、すごく毎日悩んでいるんですよね。
伊藤:そうですよね。それは大事ですよね。
杉江:今の3つ目、すごく響いたんですよね。2つ目までは、「まぁ、頭が良い人はみんなやるよ」みたいな感じになるんだけど(笑)。
小笹:できちゃう人はやれちゃうんですよね。
杉江:そうそう。だけど3つ目、自分に向き合うというのは、けっこう難しい。
小笹:確かに。
伊藤:逆に言うと、要するに頭が良いというのは、「Why?」とか「So what?」というのを、エブリデイ問うているかという。
小笹:エブリデイ、問うている。
伊藤:ごめんなさい、EMC GLOBALの学生が来たので、急にちょっと(英語になりました)。
杉江:英語でやるの(笑)?
伊藤:いやいや(笑)、今、杉江さんがおっしゃったようなところも、もう1個いいですか? あのね、本当に「こいつ、ナメてんのか?」と思われるかもしれないんですけど、けっこうリアルに僕が昔から問うているのが、若い人はわからないと思うんですけど、尾崎豊の『シェリー』という曲があるんですよ。わかる人います?
小笹:わかる? 大丈夫? 半分ぐらいいます。
伊藤:『シェリー』はぜひ聴いてほしい。これね、本当に冗談抜きで、僕は『シェリー』で、「俺はまだまだ恨まれているかい」とか「俺の笑顔は卑屈じゃないかい」と、10個ぐらい問うているんですよ。要するに、「俺は真実へと歩いているかい」ということを問うている。あれをずっと聴きながら、若い頃は本当に「俺の笑顔は卑屈じゃないかい」とずっと言っていましたね。
それはもうある意味、自分に向いちゃっているんだけど、社会に対して向くとそれが昇華していくという。
小笹:そうですね。ありがとうございます。
伊藤:そんな感じですね。