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新しい事業創出のヒントはスタートアップにあり! ~著者に聞く、今こそ知りたいスタートアップの世界~(全4記事)

一度の失敗では倒れない大企業ならではの事業戦略 『図解・ビジネスモデルで学ぶスタートアップ』著者が語る、新規事業の勘所

最近では、これまで続けてきたことから脱却し、アントレプレナーシップ(起業家精神)を持って新しいビジネスを生み出す環境を創っていくことが重視されています。本イベントでは、『図解・ビジネスモデルで学ぶスタートアップ』の著者である池森裕毅氏が登壇。本記事では、「大企業とスタートアップの協業」をテーマに、大企業が取るべきアグレッシブな事業展開のヒントをお伝えします。

スタートアップと自治体の協業

西舘聖哉氏(以下、西舘):次の話がまさに、そのアセットの部分につながる話だと思うんですが。今、スタートアップが自治体とやる事例も増えていると思います。どこかとスタートアップが組もうとする時の全般の話になるんですけど、前例踏襲的なビジネスの考え方がまだまだ多いかなと思っていて。

それこそスタートアップは「最先端のテクノロジーを活用して」という話なのに、いまだにその最先端のテクノロジーのうまくいった事例を探し始めるという話を聞くので。そういう思考から脱するためには、どうしていったらいいのかなと。企業側としてどうバーっと踏み出せるのか。

池森裕毅氏(以下、池森):それはあります。シンプルに、大企業の中でもアグレッシブなマインドの人を担当者に置くことだと思っています。これはけっこう重要です。

例えば経産省というとコンサバな、ちょっと保守的なイメージがあるじゃないですか。石橋を叩いて渡るようなところがあるんですよね。なかなか先進的な取り組みがしづらい。でも4年ぐらい前、経産省近畿局の創業支援課にすごくアグレッシブな課長さんが就任されたんですよ。

「まずやってみろ」というアグレッシブな責任者の必要性

池森:その課長さんは、今までのやり方はだめだから、リーンスタートアップでやろうと。立ち上げて「トライアンドエラーで回す」「失敗は全部責任を取るからやろう」と音頭を取るすごくアグレッシブな人だったんです。

そのアグレッシブな方から私にお声がけがあって一緒に立ち上げたのが 「U30関西起業家コミュニティ」です。これは経産省がやっているオンラインのコミュニティなんです。経産省がFacebookグループを作って、今、600人ぐらいの起業家が集まっています。

オンラインコミュニティでも経産省なので、東証などいろいろなパートナーがいるんですが、大企業やスタートアップ、VCとの連携だけに50も60も名を連ねていて。中小企業やメンターも民間から40、50人も入っている、勢いがあるコミュニティです。経産省のドメインのgo.jpというURLでやっているんですね。

なぜこんなことができたかというと、アグレッシブな責任者が「まずやってみろ」「リーンスタートアップでいいから、失敗したら責任持つし、学んでどんどんやれ」「KPIも考えなくていいし、難しいこと考えなくていい。まずやってみる方が重要だ」と音頭を取ってくれたから。

西舘:すばらしい。

池森:この音頭を取れる人が責任者にいるかいないかは、大きな違いだと思います。

西舘:さっきの起業家のマインドセットを持っている担当者をつけるかどうかという話ですね。

池森:そうですね、コンサバな行政の例はたくさんあって。例えば東京都中小企業振興公社は東京都の一部なのでお堅いところなんですが、そこのStartup Hub Tokyo TAMA(TOKYO創業ステーション)という施設で、今はもう変わったんですが、(以前)すごくアグレッシブな責任者がいまして。

「まずはやってみよう、どんどんやってみよう、考えなくていいから、まずいろいろ動こう、実験してみよう」という人だったんですよ。だから運営をアドバイスしている身としては、いろいろなことをやらせてもらって、けっこう先進的な取り組みができました。

つまり上の人次第。今、大企業の方が見てくださっているのならば、こういった取り組みを、ぜひアグレッシブに攻めてやってくれると助かります。

一度の失敗では倒れない大企業ならではの戦略

西舘:そういう人は外部から連れてきたりするんですか。それとも中で探して見つかるようなものなのか?

池森:民間からが多いと思います。ただ経産省上がりの人でもアグレッシブな方はおられますので、そういう方を採用するのもありかもしれないですね。

西舘:もしかしたらこれまでは異端と言われていたような人。これからの時代のためにあえてそういう人に任せてみるのも、経営判断で必要なのかもしれないですね。

池森:先ほども言ったように、大企業はランウェイが数ヶ月ではない。

西舘:そうですね。3中長期、3年後ね。僕も大企業にいたことがあるので「3年後の目標を立ててくれ」とか、会社の目標も中期や長期の経営計画は見たことがあるかな。

池森:ランウェイを気にせずにいけるのは大企業の戦略。だからこそ1回赤を掘ってでも挑戦してみる。逆に(大企業なら)スタートアップより(失敗を)受け入れられると思っているんですよね。スタートアップは基本的に一発ぽしゃったら「死」じゃないですか。

西舘:まぁ、潰れますね。

池森:そう。大企業は何回か失敗しても立ち直れる体力がある。大企業こそアグレッシブに攻めても余裕があると思うんですよ。余裕があるうちにトライしたほうがいいじゃないですか。



西舘:間違いないですね。もうこれ以上は立ち行かなくなってからじゃ、なにもできなくなりますからね。

池森:そうなんです。取れる戦略、取れない戦略が出てくるので。本来だったらば余裕があって取れる戦略がたくさんある。しかもアセットもあるんだから、そこにフットワークが軽い人材、アグレッシブな人材を置くだけで、大企業も一気に伸びると個人的には思っています。

あと1点だけ言うと「最初から大きなものを求めすぎないで」というのは正直あります。昨日も某大手の方とやり取りしたんですけど、「やっぱりうちは1,000億円とか1兆円の売上がないと相手にできない、なかなか出資できないんだよ」と。最初からさすがにそこを目指されても無理があるんで、ちょっと長い目で見てほしいなと思っている次第でございます。

西舘:ある意味、そこに至れるかどうかを見極めて、自分たちのアセットを提供して一緒に伸ばしていこうという姿勢が必要ですよね。

池森:そうですね。

スタートアップとの事業創出の好事例

西舘:5年後になったらめっちゃ伸びているかもしれないけど、その時にはたぶんパートナーさんがたくさんいて、結局組めなかったということもあると思うので。

池森:ポテンシャルを見極めて、大企業のアセットと組み合わせてどれだけシナジーがいけるか、アップセットを狙えるか。「スタートアップだけだとこれだけなんだけど、会社のアセットを使ってシナジー効かせたらこれぐらいいくだろうな」など、その先を見ながら入れてもらいたいんですよ。

たぶんその先はやってみないとわからないんで。「シナジーを含めても1,000億円いかない」と判断するんではなく、相乗効果も含めて、ちょっと長い目で見てもらえればなと思う。

西舘:ありがとうございます。ここまでスタートアップと企業の組み方について、めちゃくちゃ話していただきました。最後のテーマになるんですが、「スタートアップ的な事業創出の好事例を教えてください!」という。

書籍でも10社ぐらい詳細に紹介していただいていて、ビジネスモデルの勉強になりましたが……。書籍に書いてあることでも書いていないことでも、事業の作り方や「ここがうまくいったのは、こういう理由がある」ということなど、ちょっといくつか教えていただきたいです。

池森:そうですね。大企業をうまく使っている事例としては、アイカサやヘラルボニーさんはすごくいい使い方をしているなぁと個人的に思っています。あとはメンタルケアで大企業に入ってもらって、福利厚生をがっと伸ばしている事例もあります。お互い要所要所で組み合わせている事例はチラチラありますね。

「eスポーツ×英会話ビジネス」注目のスタートアップ

西舘:当たり前の話ですが、本当に新しくて世の中にない価値だったら、スタートアップ単体でもうまくいくパターンはあるんですよね?

池森:もちろんありますね。

西舘:ここはおもしろかったというところはあります?

池森:書籍にも書いていますが、いち押しはゲシピという会社で、今急成長して伸びています。このゲシピはすごくおもしろくて。どういう会社かというと「eスポーツ×英会話ビジネス」なんですよ。西舘さんはeスポーツをやったことがありますか。

西舘:もちろん競技シーンはないんですけど、eスポーツ的なゲームは経験したことがあります。

池森:オンラインでバババって銃で打ち合って戦うゲームとか。海外ではやっているeスポーツは外国人がプレイヤーとして戦うことが多いんですよね。

西舘:そうですね。

池森:チームが外国人になったり、敵が外国人になったりしたら英語を話すじゃないですか。だから小学生・中学生はあんまりうまく戦えないんです。さらに味方にもなれなくて連携ができないんですよ。小学校、中学校の時に英語が苦手な子どもっていませんでした? まぁ私なんですけど。

西舘:僕もそうです。

池森:勉強は嫌いなんで、英語の時間は漫画を読んでいたんですけど。ゲシピはeスポーツを使いながら英語を教えるんです。

大好きなゲームをやりながら「Go straight! Pick it up! Enemy on roof!West!」という。子どもたちは苦手な英語を大好きなゲームをしながら学べるんですね。その英語には瞬発力が求められるから「I have been to……」なんて言っていたら、殺されちゃうわけですよ。

西舘:(笑)。

池森:瞬発力を求めて「Quickly!」「Roger!」という感じで、「Go straight!」「West!」とどんどん言えるんですよ。

オンラインゲームで英語を学ぶ子どもたち

池森:子どもたちにとっては、苦手な英語の時間が楽しくなる。プラス、そこで学んだ英語をプライベートでも活かせるわけです。子どもたちはアルファベットもわからないから、カタカナで「ゴーストレート」とか書いて、予習復習をする状況が生まれます。



これはあまりにもすごいので、ちょっと前まで買い手のウェイティングリストが2,700人ぐらい行列をなして講師の抽選待ちという状況でした。

西舘:へー、めちゃくちゃ大人気ですね。

池森:そうです。今のところ大企業との連携は裏側で少しずつ進めてはいますが、基本的にはゲシピ単体で成り立っています。これは好事例ですね。

西舘:めちゃくちゃ時代を捉えてますね。海外ともこんなにラフにつながれるようになったけど、まだ(英語が)話せないからうまく連携ができなくて……というのは、オンラインゲームの経験がある子だったら、たぶんぶつかるところだと思うんですね。

それを思考としてビジネスにつなげたのがすごいですね。まったく思いつかなかったです。

池森:そうですね。大企業もいくつかの事業者と少しずつ連携しているんですが、評判はいいですね。どのイベントをやっても申し込みがいいですし、評判も良くていろいろな加入につながる。教育の事業もいいので、アセットがあるところはゲシピみたいなところと組むと急成長で伸びていくと思います。

たぶん(ゲシピは)3年後~4年後には上場しているんじゃないかなと思っています。

西舘:おぉ、楽しみですね。

池森:今のうちにアライアンスを組むのはすごく狙い目です。

スタートアップと大企業の協業で失敗するケース

西舘:ありがとうございます。逆に「これをまねしちゃだめだよ」ということも、ぜひ知りたいんですが。社名は言わなくていいので、こんなことをやっちゃったから事業がうまくいかなかった事例も1つ教えてもらえますか。

池森:そうですね。大企業との肌感覚、速度感が合わなくて、変なものを求められてしまったとか。取りたくない戦略を大企業の都合で取らされて、うまくいかなくて別れたいんだけど、わけのわからない条件の出資を受けてしまい、別れることができずに困っているとか。けっこうあるあるで聞きます。

西舘:出資を受けてしまっていると、そうですよね。組む側同士がちゃんとお互いのことを理解して、目指すべきところ、目指したいところが合う、同じ世界を見れる人たちと組んでいかないと資本があるほうに引っ張られちゃう。これはスタートアップ側も気をつけていきたいところですね。

池森:そうですね。スタートアップとしては、アセットがある大企業と組めるのはすごくうれしいので、ほいほい行ってしまうところがあるんですが……。スタートアップ側もちょっと承知で学ばないといけないかもしれませんね。

西舘:池森さん、ありがとうございました。

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