最近では、これまで続けてきたことから脱却し、アントレプレナーシップ(起業家精神)を持って新しいビジネスを生み出す環境を創っていくことが重視されています。本イベントでは、
『図解・ビジネスモデルで学ぶスタートアップ』の著者である池森裕毅氏が登壇。本記事では、同氏の起業家としての人生遍歴や、2種類の起業のスタイルについてお伝えします。
『図解・ビジネスモデルで学ぶスタートアップ』の著者が登壇
西舘聖哉氏(以下、西舘):最初は池森さんのご講演ということで、池森さん、よろしくお願いいたします。
池森裕毅氏(以下、池森):はい。よろしくお願いします。みなさん初めまして、池森でございます。
ではさっそく私の講演をさせていただきます。本日は「スタートアップとは」というテーマになっています。内容はけっこうシンプルで、最初に軽く10分~15分ぐらい私の自己紹介をさせてください。
その後に「そもそもスタートアップってなんですか」というスタートアップの定義についてお話します。最後に、私がいつも言っている「起業にはこういうマインドセットが必要なんだよ」というお話をしようかなと思っています。
さっそく私の自己紹介ですが、ペライチで軽くすませますね。私は池森と申します。今、株式会社tsamという会社の代表をやっています。あとStoked capitalという小さなベンチャーキャピタルも運営しています。ほかの肩書きとしては、独立行政法人の中小企業基盤整備機構のアドバイザーや、情報経営イノベーション専門職大学の客員教授もやっています。
私は1980年生まれで、大学を中退した後に起業しました。4社を立ち上げて、今、2社売却しているのかな。今はスタートアップの支援事業を行っています。というわけで、今日は少し私の生き方についてお話しようかなぁと思っています。
オンラインゲームで毎月30万円稼ぐ学生時代
池森:このコンテンツはあまり外に出すことはないんですが、実は私は千葉県柏市で生まれて、千葉県松戸市で育ちました。千葉県市川市にある中学校・高校の一貫校で育ちました。趣味はサッカーと読書です。ほら、学生時代に体育の時間だけ騒がしくて、あとは寝ているような学生はいませんでしたか。あれが、まさに僕です。
中学生の時、僕の机の位置がどこにあったかというと、一番前の教卓の前じゃないんです。教卓の隣にあるんですよ。もう教卓の隣にくっつけられて、「うるさいから、ここに座れ」と言われ、そこでずっと勉強させられていたような子どもでした。
そんな子どもだったんですが、東京理科大学に行きまして。僕が大学に入った頃の1999年~2000年に、アメリカでオンラインゲームができたんですよ。アメリカサーバーで遊んでいたら、オンラインゲームにはまってしまいまして。
大学には通わず1日20時間ひたすらオンラインゲームをする生活を送っていました。オンラインゲームで手に入れたアイテムやお金を、日本円で売却していたんです。オンラインゲームをやったことがある人はいますか。学生やニート、主婦は強いんですよ。時間があるから強い武器を持てるんですね。
でも社会人は強い武器を持てない。その代わり社会人は働いているから日本円を持っているじゃないですか。だから僕は社会人の友だちに、強い武器を売りまくっていたんです。そうやって小遣いを稼いで遊んでいました。結果3年間で(大学の)単位が11個しか取得できずに中退する状況になります。でも僕は転んでもタダじゃ起きない性格なので……。
ちなみに大学生の時、このオンラインゲームで毎月30万円ぐらい稼いでいたんです。そこで次に何をしたかというと「これをビジネスにしたらいいんじゃないの」と思って。オンラインゲームのアイテムとお金を売買できるオークションサイトを作りました。今で言うメルカリですね。
オークションサイトを作り、何もせず月に1,000万円以上稼ぐ
池森:メルカリみたいなものを作ったら会員数だけで10万人を超えて、広告収入だけで月に500万円ぐらい入るようになりました。仲介手数料が500万円とか800万円も入っていたので、なにもしなくても月に1,000万円以上稼ぐ、ほくほくな状況です。お金と時間に余裕ができたので、次にやったのは婚活です。
これが2011年なんで、31歳ぐらいですね。さすがに「もう遊び尽くしたので結婚しよう」と思ったんですが、当時なかなかいいシステムがなくて。微妙に使いどころが悪いサービスばかりで、いい結婚サービスがないなと思っていたんです。そこで2社目の起業です。
婚活サイトを作ろうと思って。「良いものがないなら、自分で作っちゃえ」という話で、婚活会社を作りました。ベンチャーキャピタルや個人投資家から出資を受けて、事業を開始しました。
この時点で2つの会社を経営していたんですが、さすがに2013年ぐらいに疲れてきたので、両社とも売却しました。2014年頃には売却が終わって、ある程度のお金が手に入ったので、六本木でゆっくりする生活を4年ぐらい続けました。
「30分500円」のコンサルから始まり、3社目を起業
池森:その間に海外をぶらぶら放浪して60ヶ国ぐらいバックパッカーで回ったり、小説を書いて新人賞に応募して最終まで残ったり。そんな生活もそろそろ飽きてきたので、趣味でコンサルを開始したんですよ。
インターネットで「30分500円でコンサルします」と告知したんです。当時2014年〜16年あたりでこんなことをやっている人は、ほかにいなかったんですね。またたくまにネットでバズりまして。「おもしろいやつがいる」とけっこう人気になりました。
人気になって依頼が殺到すると、金額も30分500円から1,000円、3,000円、5,000円と少しずつ上がってきまして。2~3年後の2017年には顧問の依頼も入ってきました。当時時給1万5,000円ぐらいでした。
そうこうするうちに顧問の売上が1,000万円から2,000万円を超えるようになったので、「これはまずい」と慌てて法人化し、3社目を起業しました。これが今の株式会社tsamでございます。
tsamは顧問業務が順調なので2019年に法人で設立して、コンサルで有名になりました。自治体に招かれ「メンターとして入ってくれ」と依頼を受けて、今、全部で25個ぐらいの自治体のプログラムをやっています。
「30代高卒大学教授」というパワーワード
池森:あと審査員も5、6個ぐらいのプログラムでやっています。審査員をやっているとけっこう評判になって、大学の客員教授に招かれて。そうなんです。僕は一時期「30代高卒大学教授」というパワーワードを持っていました。
その後、経済産業省近畿経済産業局に呼ばれ「ちょっと一緒に事業をやろうよ」と事業を始め、中小機構のアドバイザーになりました。国会議事堂の衆議院会議に呼ばれて、意見を言ったり。
一昨年ぐらいに、今度は投資ファンドを設立したんです。資金調達の相談が増えてきたので、「1個ぐらいVCを作っておこうかなぁ」と思って。
このVCは規模はそこまで大きくないんですが、現在2年間でだいたい2億円を投資しています。あと年間50件近くの講演と審査員を行いながら過ごしています。先週も今週もやっていますし、来週も3、4件入っているんで、月にだいたい4、5件はこなす状況です。あと書籍も2冊出版しています。
ちなみに婚活サービスでは、自分で自分の婚活サービスを使うわけにいかなかったので、結婚できなかったんですね。でも3年ぐらい前にとてもすてきな方と巡り会いまして、東京ステーションホテルで結婚式を挙げました。これが「私の人生」という最初のコンテンツになります。
起業には2種類のスタイルがある
池森:では本題は「スタートアップとは」に入ります。みなさん、今回は大企業やスタートアップとの協業をテーマにしております。まず基本の機能に立ち返っていただきたいんですが、スタートアップとはそもそもなんですかね。みなさんはどう定義します?
これを説明する時に、まずみなさんに知っておいてもらいたいのがこの図です。実はひとくちに起業と言っても2種類のスタイルがあるんです。1つ目が従来のビジネス、左側のスモールビジネスです。
2つ目がスタートアップ型ビジネスです。どう違うかというと、この図の横軸が時間の経過、縦軸が売上・利益なんですね。
スモールビジネスは一次関数になっています。でもスタートアップ型ビジネスは二次関数になっているじゃないですか。このように成長曲線が大きく違います。この二次関数がアルファベットのJに似ているので、われわれは「Jカーブ」と表現しています。このように成長曲線が大きく違う起業のスタイルがあることをご理解ください。
スモールビジネスは、必ずしも急成長やIPOを目指さない
池森:では、この左側の一般的なビジネスについてお話しましょう。
そもそもスモールビジネスとは何か。これは安定した収入を目指し、持続可能な規模で運営される企業で、急成長やIPOを必ずしも目指さない事業です。これは、あくまで私が定義するスモールビジネスの概要です。安定した収入を目指して持続可能な規模で運営されるものということになります。
例えばオリジナルコーヒーのEC販売は、よくありますよね。地元でオリジナルブレンドのコーヒーを売ったり、オンラインで自分のオリジナルブレンドを売ったりという。
あとはSNS運用代行ですね。Twitter(現X)やTikTok、YouTubeなどで「運用代行をしますよ」とか。アパレル販売もそうです。自分の服を売ったりブランドの服を売ったり、規模の大小は関係ありません。
それからメディア運営、人材派遣、開発・デザイン受託もそうです。これらはすべて基本的にスモールビジネスと呼ばれております。ちなみにスモールという言葉で勘違いされるんですが、スモールビジネスは成長曲線の話で、規模の大小はあまり関係ありません。個人的にはそう定義しています。
成長曲線の傾斜角度もあまり関係がなくて、とにかく一次関数の伸びを全体的にスモールビジネスと、われわれは定義しています。
スモールビジネスの特徴としては、個人や小規模なチームで運営されることが多い。地域密着型のサービスや商品を提供することが多い。利益率よりも安定した収入を重視する傾向がある。自己資金や少額の融資で運営されることが多い。それがスモールビジネスの特徴です。
スタートアップは、資金調達を繰り返して急成長を目指す企業
池森:ではこれとは逆に、スタートアップとは何かを説明しましょう。私が定義するスタートアップとは、先進的なテクノロジーを用いて事業を立ち上げ、資金調達を繰り返すことで短期的な成長を果たし、最終的にIPOや事業売却を目指す企業。これを私はスタートアップと定義しております。
先進的なテクノロジー、つまり新しいテクノロジーやイノベーションを使って、会社を立ち上げます。そして最も特徴的なことはエクイティファイナンス、ベンチャーキャピタルなどから資金調達を繰り返して急成長を目指すこと。そしてIPOやM&Aを最終的なゴールと据えているのが、スタートアップですね。
スタートアップの事業にはどんなものがあるか。例えばメルカリや今、流行りのタイミー、あとはココナラ、パーソナルビジネスですね。こういったものは急成長する可能性がありますので、スタートアップ型ビジネスと表現しております。
スタートアップ型ビジネスの特徴は、イノベーションや技術革新を重視する。短期間での成長と拡大を目指す。リスクテイクが多く、失敗のリスクも高いので、ハイリスクハイリターンです。資金調達を通じて迅速に市場シェアを拡大する。ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家からの資金調達が一般的。これらがスタートアップの特徴になります。
今の説明で、なんとなくスモールとスタートアップの違いはご理解いただけたのかなと思っております。
今回はざっくばらんに2種類の起業があることだけを覚えて、持ち帰っていただければと思います。まとめるとスモールビジネスとは、安定した収入で持続可能な運営を目指すもの。スタートアップは短期間で急成長を果たし、IPOや事業売却を目的としているものとなります。