CLOSE

インパクトエコシステム(全4記事)

各地方の豪族的な企業とインパクトスタートアップの相性 ファミリーオフィスの跡継ぎにささる理由

社会的インパクトの最前線に触れ、参加者との共創を生み出すことを目指すイベント「IMPACT STARTUP SUMMIT 2024 」が初開催されました。本セッションでは「インパクトエコシステム」と題し、エコシステムの新たな潮流について議論します。本記事では、ファミリーオフィスとインパクトスタートアップの相性の良さについて語ります。

各地方の有力な企業とインパクトスタートアップの相性の良さ

孫泰蔵氏(以下、孫):実は僕もまったく同じ視点でお話ししようと思っていたんです。これは日本も他のアジアの国々も、実はヨーロッパもそうだとこの間確認したんですが、ファミリーオフィスと言われる人たちがいるんですね。

日本で言うと、地方のいわゆる豪族って言われる人たちが、その地域でいろんな事業をやっていらっしゃる。例えばバス会社やタクシー会社のような交通系や、ガソリンスタンドを経営されていたり、小売業をやっていらっしゃったり、製造業界の発祥(の企業)ですとか。

いろいろなものを複合的にその地域でやっていらっしゃる企業って、各地にあって。アジアの各国にも財閥って言われる人たちがいらっしゃるんですけど。実はそういったファミリーオフィスの人たちは、インパクトスタートアップのエコシステムと親和性がすごく高いですし、実際にやり取りをしていて非常に手応えを感じています。

どうしてかと言うと、ちょうど今、代替わりが起こっているんです。創業者はおじいさまとかおばあさまだったりすることが多くて、そこから今、2代目、3代目がちょうど継ごうとしているタイミングなんですよね。日本もアジアも全体的にそうなんですが、今、継ごうとしている3代目の人たちって、だいたい30代〜40代前半くらいなんですよ。

そういった人たちは、もちろん自分たちの事業をアップデートしなきゃいけない。従来のやり方では古くてついていけないから、アップデートしなきゃいけないのは当然あるんですけど。

それと同時に、ソーシャルインパクトや、環境のことや地域のこと、教育とかいわゆる社会的な意義をものすごく意識している世代なんですよね。その2つが両方あるんだけど、どうしていいかわからないところがあって。

実は私たちはインパクトスタートアップの人たちと彼らを(つなげるために)、一緒に投資をするとか、ソリューションとして紹介をすることを通じて、ネットワークをどんどん作っていくことをやっています。

「あなたたちはその地域の担い手でしょう?」「単純に一企業というよりは、もうその地域を代表して、社会をどう盛り立てていくか、どう良くしていくかという社会的義務みたいな責任感をお持ちですよね?」と。

「その時にインパクトスタートアップの持っている技術やアイデア、製品、サービスを使いながらやっていくと、雇用も増えるし、社会的意義や地域の課題を解決できることがいっぱいありますよ。そしてそこで自分たちも事業のイニシアチブを取れますよ」という話をすると、どこの国でもめちゃくちゃ刺さります。

「運用利回りを最優先しなくていい」ファミリーオフィスの優位性

橋本舜氏(以下、橋本):僕もファミリーオフィスの、自己資金で回しているファンドの方と話すんですけど、ファミリーオフィスって、結局ファウンダーズ・ファンドですよね。創業者の自己資金で投資できるファンド。人さまのお金じゃないから、運用利回りを最優先しなくていいと思っていて。

ここにいる起業家の人たちが、みなさんファミリーオフィスのファンドを作って、自分の意思で投資できることがどんどん増えてくると。それはすごく楽しみだなと思っています。

木原誠二氏(以下、木原):泰蔵さんの話で感じることは、地方創生が政府のテーマなんですね。この地方創生っていうのは、岸田政権であれ菅政権であれ安倍政権であれ、これから誕生するであろう政権であれ、共通のテーマなんです。

今までは、地方に予算を回す、税金を回す、国の機関を地方に持っていく、いろんなことをやっているんだけど、フライしないですね。なぜかっていうと、そこにやはりビジネスがないし、ある種のドリームもないし、それから社会貢献するっていう意志もないので。

地方創生は、これからはやはり企業城下町みたいなのを全国に作って、企業の連携で地方を元気にしていく時代だと私は思っています。そういうことを考えた時には、泰蔵さんがおっしゃるとおりで、各地方には有力な豪族的な企業がいる。こことインパクトスタートアップがしっかり連携をして、大きな企業連携体の中で地方を押し上げていくモデルがこれから必要になる。

じゃあ、「それは誰がつなぐのか?」というのを、泰蔵さんみたいな方がやっていただくのは非常にいいけれども、本来は金融機関とかがしっかりやらなきゃいけない。だけど、まだそこが十分意識ができていないので、エコシステムを考えた時は、金融機関の意識向上もこれから非常に重要かなと思っています。

地銀もエコシステムの重要なプレイヤーに

孫:おっしゃるとおりで。実は2023年の暮れに、「日本中の豪族の後継者の方々をお集めした会があるので、泰蔵さん、話をしてくれ」と言われて、行ったんですよ。みずほ銀行が主催で、いわゆるプライベートバンキング部だったんですけど。

特にプライベートバンキングといっても、そういう方々だけを集めた会合をやって、勉強会を継続的にやっていらっしゃるらしくて。それで僕がそういう話をしに行ったら、めちゃくちゃ刺さっていました。「ぜひもっと具体的な話を聞きたいし、具体的な会社を紹介してくれ」と言ってくださったんですよね。

彼らもまだ、継ぐといってもやはり実績を作らないと正式な後継者になれないみたいなところがあって。そういう意味で彼らを後押しすることにもなるんですよね。なので、「どんどん実績を作れるように君たちを応援するから、一緒につるんでいきましょう」と、僕は言ったんですけど。

おっしゃるとおり、地銀さんもいっぱいいらっしゃるから、金融機関がその橋渡しをうまくできるはずなので。そういうふうになるといいですよね。地銀もエコシステムの重要なプレイヤーになるべきだなと思います。

篠田:この話題を私が投げかけた時は、ちょっと思いもしなかったこと、中でも「地方の豪族のような企業さんとか、それを支える金融機関、あとその地域の自治体もエコシステムの中のすごく大事なプレイヤーだよ」というところが浮上してきました。いかがですか?

橋本:そうですね。我々の製造委託している日本トップ10の売上のパンメーカーの方々も、みなさん、地方の雄の方々ですね。次の社長になられるであろう方が、今40代くらい。

篠田:さっき岡田さんが言っていた、要はミレニアル世代からもっと若いくらいの世代。

橋本:まぁ、そうですね。僕からすると10歳くらい上なんですけど、そういう人たちがもう専務とかをやられていて、やはり意気投合してやっているケースがけっこうありますね。

篠田:そうか。じゃあそこは、橋本さんたちも実感があるところなんですか?

橋本:そうですね。特に製造業っていうのは、東京本社じゃない会社がほとんどだと思うので。例えば愛知だったり九州だったりするので、そういった意味では全国の方々とご一緒する機会は増えましたね。

セールスフォース創業者が鏡の前でやっている習慣

篠田:ありがとうございます。もっとお話をうかがっていきたいんですが、最後に4人それぞれから、「インパクトスタートアップのエコシステムが王道として定着し、さらにその先に行くのに、ご自身は何を仕掛けていきますか?」というところをおうかがいしてクロージングにしたいなと思います。順番はお任せします。

橋本:僕からいきます。エコシステムを設計していくこともすごく大事だと思っているんですけど、やはり山の頂上を示し続けることもすごく大事だと思っています。それを10年、20年、30年言い続けることは、僕でもできると思っているんですよね。

だから僕は、やはりミッションである、主食で栄養バランスが取れたり、品目のバランスが取れたら「健康はあたりまえになる」というのに近づくと、ひたすら言い続けることで、そういう化学反応ができてくる。

やはりそこの粘り強さみたいなものも必要だと思っているので、スタートアップだから5年、10年で終わりじゃなくて、そこはやり続けられればいいなと思いました。

篠田:ありがとうございます。メッセージを出し続けるのだというお話でした。次は岡田さん、お願いします。

岡田光信氏(以下、岡田):みなさん、マーク・ベニオフってご存じですか? Salesforceのファウンダーなんですけども、今時価総額20兆(円)とかいっていると思うんですけど、1代でそこまでいっているんです。

彼とダボス会議で会った時に、「毎朝何をやっているんですか?」と聞いたら、「鏡に向かって自分の会社のミッションをしゃべっている」と言っていました。「それって、毎日一緒じゃないですか?」と言ったら、「一緒だ」と。「でも、鏡を見て自分にしゃべっている時に、ちょっとでも自分の声にぶれがあるとわかる」と言うんですよね。

自分が1ミリずれると、社員は100キロずれるから、とにかく自分が完璧にこのミッションを信じているっていうのを、ちゃんと毎朝作る。場合によってはミッションを直すことをやっていると言っていて。僕は、ミッションを言葉にして自分に言って、それを信じて動くことが基本じゃないかと思っています。

篠田:それを聞かれて、その後ご自身の行動は何か変わりましたか?

岡田:実際にやってみて、自分で鏡に向かって5秒以内でしゃべるんですけど、もうめっちゃ恥ずかしいですよ。すごくドキドキしますから、やってみてください。モヤモヤしたものが、言葉にするとはっきりします。

政治家が一番力を発揮できるのは「税制」

篠田:とにかく言葉にするということですね。では次、木原さん、いいですか?

木原:泰蔵さんに最後をお任せしたいと思うんですけど、私は政治家というか政府にいるメンバーなので、政策的にみなさんをしっかりサポートする役割だと思います。ただ、その時に大切なのは、政府がなんでもできるわけじゃないってことを、しっかり我々自身が認識しておくことだと思っています。

というのは、明らかに日本の財政は厳しいし、余力がないし、課題発見はできても解決のソリューションを政府が出せるかというと、出せない。そういう自分たちの限界を感じながらみなさんをしっかりサポートしていくことが、王道が根付く一番重要なことかなと思っています。

2つ目は、やはり最初のカスタマーは政府であり、地方自治体であるべきで、「自分たちが最初にみなさんの顧客になる」という意志を持ち続けることだと思うので、それはこれから政府の中で徹底していきたいと思っています。

篠田:ありがとうございます。ちなみにもし、木原さん個人がインパクトスタートアップというテーマの中で、これをやってみたいとか仕掛けてみたいなってものがおありだったら、お話しいただけますか?

木原:やはり政治家が一番力を発揮できるところは、税制なんですよね。先ほど規制っていう話がありましたけど、規制はみなさんに作っていただけるかもしれないけど、税だけは政治、議会、そして選挙の中でしかできないので。「こういう税制にしてほしい」とか「ここが使い勝手悪い」というものがあったら、どんどん言っていただいて、それを1つでも2つでも前に進めたいと思います。

偶然会った喫茶店で投資や連携が決まるシリコンバレー

篠田:木原さん、ありがとうございます。では泰蔵さん、お願いします。

孫:今日ここにいらっしゃっているみなさんは、実際やっていらっしゃるか、非常にこういうことに関心が高い方だと思うので。

今日みなさんの共通のメッセージとして、今はまだオルタナティブとかマイノリティっていう自覚があるかもしれないんですけど、自分たちこそメインストリームなんだっていう自覚を持ってほしいと。

本当にみんなが言うように、自分たちが立てたアジェンダやミッション、ゴールは、そんなすぐに達成できるものじゃないと思うんですよ。だからもう自分の大事な人生、10年とか20年とかかけても惜しくないテーマを、ぜひ選んで邁進してほしいなと。僕が「王道か!」と言えるくらい王道を進んでほしいなと。

(会場笑)

孫:それが言いたかっただけなんですけど。僕としては、実際何に取り組むかってことで言いますと、今日本だけじゃなくてアジアで取り組んでいるんですが。先ほど言ったように、例えば投資家と起業家もそうですし、実際に作ったものを社会に実装してくれる仲間とか、政府とか、いろんな人たちがいるんですよ。

例えばシリコンバレーって超小さいんですよね。そういった人たちが小さなところに全員いるから、もうそのへんの喫茶店に入ったら「おぉ」と言って会えるんですけど、アジア全域だとなかなか会えない。

たまたま会えたら話が盛り上がって投資してもらったとか、提携が決まったとかあるかもしれないですけど、たまたますぎるので。機会損失がすごく大きいと僕は思っていて、新しい化学反応がガンガン生まれる仕組みを実はずっと考えてきています。ついに今、実装している途中なんです。

AIが起業家と投資家をマッチング

孫:それは何かというと、AIを使って起業家と投資家とかいろんな人たちをマッチングします。AIに自分たちが持っている情報やデータを入れると、AIエージェント同士が話し合ってくれて、「あなたの会社はこの会社と会うべきだ。この投資家と会うべきだ」とマッチングをしてくれる仕組みが、今もうベータ版までできていまして。

実際、日々使っているんですけど、めちゃくちゃ便利なんですよ。自分で言うのもなんだけど、「俺が使いたい!」と思うものができつつあるので、それを徐々に開放していこうと思っています。

孫:それがあることによって、同じ話をいろんな投資家に毎回説明しに行かなくてよくなりますし。応援する側は、「自分が応援したいのはこういう会社だ」というのがあれば、パッと見つかる仕組み。それができることによって、より多くのすばらしい出会いが生まれ、イノベーションが加速する。その仕組みを、プラットフォームを作っています。

このプラットフォームは無償で、オープンソースみたいなパブリックなコモンズとして提供していこうと思っているので。それを2024年はがんばろうと思っております。

篠田:ありがとうございます。みなさんも、私も含めて、今日お話しくださった橋本さん、泰蔵さん、木原さん、そして岡田さんに「私が今取り組んでいるミッションはこれです。ちょっと聞いてください」ということを、まずお伝えしたいなと思いました。

ぜひみなさんも交流する中で、お互いに言葉を研ぎ澄まし、視座を高め合って、一緒にインパクトスタートアップをより王道にしていけたらと思いました。パネリストのみなさんにぜひ盛大な拍手をお願いいたします。

(会場拍手)

一同:ありがとうございました。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 各地方の豪族的な企業とインパクトスタートアップの相性 ファミリーオフィスの跡継ぎにささる理由

人気の記事

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!