社会的インパクトの最前線に触れ、参加者との共創を生み出すことを目指すイベント「IMPACT STARTUP SUMMIT 2024 」が初開催されました。本セッションでは「インパクトエコシステム」と題し、エコシステムの新たな潮流について議論します。本記事では、規制を「自分たちが作るもの」と捉える重要性について語ります。
宇宙のゴミ掃除の事業を孫泰蔵氏に相談
篠田真貴子氏(以下、篠田):これは岡田さんにうかがってから、木原さんに同じ質問をさせていただきたいんですが。まさにスタートアップで、アジェンダセッティングをするのに、初めは「あなた誰?」状態じゃないですか。
そこから、今言っていただいたアジェンダセッターとして認められる立場になったこと……その転換点になったタイミングとか出来事は、何かありますか?
岡田光信氏(以下、岡田):私が宇宙のゴミを掃除しようと心に決めて、尊敬の意味を込めて、孫泰蔵さんに最初に説明に行ったんです。西麻布の何かのお店だったんですけど、2分で終わったかな。
(会場笑)
孫泰蔵氏(以下、孫):(笑)。「えぇ?」と言って終わりましたね。
岡田:ちょっと説明が足りなかったかなとも思うんですけれども、何の質問でしたっけ?
(会場笑)
孫:政府とかそういった人たちが動くように、あなたのアジェンダが社会のアジェンダにスイッチする瞬間は何かあったんですかと。
岡田:ありがとうございます(笑)。私がやっていたことのイメージで言うと、50メートルプールをつまようじでかき混ぜ始めて、今4,300日くらいだと。それを毎日やっていると、大きな渦になっているというイメージなんですね。でも、これはけっこうシンプルだと思っていて。例えば今日も一人ひとりにお話しするじゃないですか。
こうやって話した時に、帰って、「今日めっちゃおもしろい話を聞いたよ。こんな問題があって、こんなことをやろうとしていて、ここまで来ている人がいるんだよ」という反応の積み上げだと僕は思っているんです。
だから、いかに一人ひとりとちゃんとお話をして伝わっていくかの積み上げじゃないかなと思っています。
「お金を払う人がいない」社会起業の問題
橋本舜氏(以下、橋本):泰蔵さんはそれを聞いてどう思ったんですか?
孫:「えぇ?」と思った。
(会場笑)
孫:「えぇ? 無理でしょう」と。というか、もうちょっとちゃんと言うと、それはすごく大事なことだと。ちょうどその時、映画で『ゼロ・グラビティ』がやっていて、(その問題が)ものすごく怖かったんですが、「あれは本当なんですよ」と言われたんです。
「でも、それを掃除したら誰がお金を払ってくれるの?」と素朴に聞いたんですよね。そうしたら、「うーん、それが問題なんですよ」って。「それが問題なんだったら、ものすごく大変だよね」って(笑)。
(会場笑)
孫:いろいろ話をしたことを憶えています。
橋本:でも思うのは、僕も8年半やっているから信じてもらえるっていうのがけっこうあると思っていて。岡田さんも長いと思いますけど、信じられない話も、人生フルコミットして長年やっていると、本人なりにはファクトなんだろうなって感じがします。
篠田:「まだやっているよ」ということですか?
孫:うん。
岡田:一応フォローアップで言うと、ちゃんと最初のラウンドにお金を入れていただいたんですよね。
(会場笑)
孫:そうですね。でも実は「誰がお金を払うの?」というのはものすごく根源的で、そのへんのスタートアップが「顧客が誰?」と言っているのとレベルが違う「誰?」だと思うんです。
だって、「払う人がわからない」じゃなくて、「いないじゃん」というところから、彼は本当に世界中でロビイング(特定の主張を有する個人または団体が、政府の政策に影響を及ぼすことを目的として行う私的な政治活動)をして回って、「これは人類全体として負担するべきだ」と。人類全体と言うとフワッとしてるから、誰がどう負担するべきか。
各国のどのパートがどういう理屈でそのコストを負担していくべきか、ずっと地道にロビイングしていったんですよね。IEEE(米国電気電子学会)とかでも話していたり、いろんな機関と話をして、そこから知恵を得て、モデルを組み上げて、国連とかいろんなところをリードしていったんですよね。
それが「なるほど」とみんなが思える理屈だったので、多くの人たちが乗っかってきてフォロワーが増えて、大きな流れになっていったと、私は解釈しています。
岡田:丸です。ありがとうございます。
(会場笑)
孫:最初からそう言ってよ(笑)。
アメリカで誰もお金を出さなかったドローン事業が、時価総額6,000億円に
橋本:インパクトエコシステムですよね。
篠田:本当に。だから「エコシステムはどうあるべきか?」という質問が間違っていたと、今反省しました。「自分がどう作りたいの?」という話だよ、ということですね。
岡田:そうです。
孫:そうそう。「自分が作る」というのがインパクトスタートアップの場合は大事で、そこからやらなきゃいけないっていうのがポイントですね。私が応援しているアメリカの企業なんですけど、ドローンで物を運ぶスタートアップがあるんです。アメリカでは航空法の規制があってそもそも飛べないので、誰もお金を出さなかったんです。「飛べないんだったらビジネスにならないじゃん」と言って。
彼らは、規制がないルワンダっていうアフリカのほうに行ってビジネスを始めました。それで既成事実を作ったらホワイトハウスの人たちが見に来て、「これはすごい」となった。実はアメリカも中西部や田舎のほうはアフリカと同じような状況で、ロジスティクスに困っている。
特にルワンダでは、救急物資を運んでいたんですよね。ワクチンとか輸血用の血液とかは一刻を争うので、救急でドローンで飛ばすのがものすごく効いたんですよ。
そういう同じような課題はアメリカにもたくさんあるということで、ホワイトハウスの人たちと彼らがロビイングのリードを取って、「規制はこうあるべき」というドローン法みたいなのを、その会社が自分たちで作っていったんですよね。
それを、政府の人たちも「なるほど」と言ってお互い学習しながら作っていって、今アメリカでは実際に飛べるようになって、ものすごく急成長しました。まだ未上場ですけど、ユニコーンとか、もう6,000億円くらいの時価総額まで来ています。
岡田:その話なんですけど、実は先週、NASDAQのCEOのアデナ(アデナ・フリードマン)さんと食事したんですけど、最近聞いた話で一番おもしろいのは、Ziplineとアストロスケールって言っていました。
孫:おぉ。
規制は「自分たちが作るもの」
孫:だからみなさんも特に(インパクトスタートアップを)おやりになっている方、もしくはエコシステム関係者の方々に申し上げたいんですけど。規制をどう守るかとか、どういじるかとか、どう破るかとかじゃなくて、「自分たちが作るものだ」と思ってほしいんです。
「それは政府がやることでしょ?」「当局がやることでしょ?」と思わない。インパクトスタートアップの先進の人たちは、みんなそれをやっています。UberだろうがZiplineだろうがアストロスケールだろうが、みんなそれをやっていて、「なんでそこまでやるの?」と。「経済合理性で言うと割に合わないじゃん」と言っているような時代はもう終わったんです。
「俺たちはそもそも、そのためにやっているんだ」「存在意義が社会を良くするためなんだ」ということでやっているから、そこの労を惜しむことはないわけですよ。
そこに、「そんなことをやっている暇があったら売上を上げろ」とか言うような馬鹿な取締役は入ってこないんですよ。そんなスタートアップは、馬鹿な投資家は受け入れないんです。なので、政府とか規制当局にお任せするもんじゃないんだよというのを、今日は持って帰ってほしいなと思います。
篠田:自分でルールを作る。
孫:そう。もちろん「俺がルールだ」と言ったら誰も聞いてくれないので、自分たちの我田引水のためじゃなくて、「社会にとってどうあるべきか」と本気で考えるってことですよ。
「本気で社会のためにこうあったほうがいい」「自分たちもそれに従いたい。従ったらいい」と、やはり公的なことがきちんと考えられていれば、行政や政府の人たちもちゃんと耳を傾けるようになるんですよね。
我田引水だと、そりゃあ聞いてくれないですよ。それが、インパクトスタートアップをやる人たちがリードするべき、あるべき姿だと思います。
日本の規制は10年遅れている
篠田:ここまで聞いていただいて、木原さん、いかがですか? やはり旧来は政府、あるいは国会がやっていたものを(個人がやる)っていうお話でしたけれども。
木原誠二氏(以下、木原):今、聞き惚れていました。岡田さんの話は私もずっと昔から聞いているんですよ。なので、先ほどお話があったように、やはり「長く言い続ける」のは本当に大切だなと思います。
実は日本政府はこの話を聞いて「すごいな」とは思ったけれども、「本当にできるかな?」という疑心暗鬼のようなものもあったと思います。だけどある時、私も政府にいましたけど、アメリカから、あるいは国連の機関から「日本にはこういう会社があるらしいね」と聞いて、「これは我々もやらなきゃいけないな」と。
そういう意味では、泰蔵さんがおっしゃったように、まさに岡田さんが世界中で夢を語り続けたことが日本政府に届き、我々も気づいたというのが現実ですので、ぜひみなさんもやっていただけたらありがたいなと思います。
それから、泰蔵さんがおっしゃった規制ですけども、日本は10年遅れていますね。遅れているっていう意味は、いまだに規制改革、規制緩和っていう言葉が中心で残っていると。
世界中、そんなものはもうないですね。世界はむしろ民間が規制を作るという時代になっているので、我々政府もぜひイノベーションを起こしていきたいなと思っています。それから私の立場でエコシステムってことで言うと、やはり地方自治体、地方経済はかなりエコシステムの中では重要です。
これからの課題は間違いなく地方にあるので、地方の自治体とインパクトスタートアップのみなさんがどう連携できるかが、最も重要になると思います。日本の最大の課題は、人口減少、労働力不足なんだけども、明らかに東京一極集中がもたらしている課題なので、これを解決しようとすると、やはり地方に企業がなければいけない。
じゃあ、企業はどこ(が重要)になるのかというと、やはり僕はインパクトスタートアップの企業だと思うので。ぜひこれから1つ大きなエコシステムを作っていきたいなと思います。