社会的インパクトの最前線に触れ、参加者との共創を生み出すことを目指すイベント「IMPACT STARTUP SUMMIT 2024 」が初開催されました。本セッションでは「インパクトエコシステム」と題し、エコシステムの新たな潮流について議論します。本記事では、変わる働き手の価値観とエコシステムの形について語ります。
岸田政権が前の政権と明らかに違った3つの要素
篠田真貴子氏(以下、篠田):では木原さんにおうかがいします。ご参加のみなさまはよくご存じかと思うんですが、岸田政権のこの何年間かでは、スタートアップ、中でもインパクトスタートアップが随分フィーチャーされてきたなと思います。その背景や意図が何だったのか、あらためて解説をお願いできますでしょうか?
木原誠二氏(以下、木原):はい。今日のテーマが「インパクトスタートアップが王道か?」という話だとすると、もう王道だと申し上げていいと思います。岸田政権になって、前の政権と明らかに違う要素が3つあります。今までの政権ではあんまりフォーカスされなかった言葉の1つがスタートアップ。これは岸田政権になって圧倒的にフォーカスされるようになり、5ヶ年の計画(スタートアップ育成5か年計画)を作ったということです。
2つ目は、課題解決という言葉が政府の文書に入るようになりました。今までは課題先進国って言葉はずっと使われてきたんですけど、課題解決という言葉はそれほど使われていません。それが、課題解決をマーケットにするって言葉が入っています。
それから3つ目は、実は官民連携という言葉が、岸田政権になってメインのストリームになっています。
これは、明らかに営利と非営利の垣根をどんどん低くして、官の課題に民に入っていただく。逆に民のほうは官もしっかりサポートしていくというメッセージです。3年経って、しっかりと定着したかなと思います。
みなさん、総裁選が明日から正式にスタートします。候補者のほとんどの方がスタートアップ、そしてインパクトスタートアップ、あるいはインパクト投資という言葉をそれぞれの政策の中に入れてきています。
なので、この総裁選を通じても、もちろんこのことは議論されると思いますので。私はそういう意味ではもう完全に王道になっているなと。逆戻りすることはないなと感じています。
ベースフード代表・橋本舜氏の起業のきっかけ
篠田:ありがとうございます。今総裁選に出ようとされているリーダーの方々もみなさん、インパクトスタートアップってことをおっしゃっているのは安心というか、ちゃんと注目に値すると。やはりその責任が我々にあるんだなと、今うかがっていて感じました。
橋本さん、岡田さんから、ちょっと投資家さんのお話は出たんですが。起業家と投資家だけでエコシステムなのかというと、もうちょっとありそうな気もするんですね。実際にここまで事業を作ってこられて、「エコシステムにこういうパーツがあったので良かったよ」とか「もっと強化したいな」というのを、橋本さんからお願いできますか?
橋本舜氏(以下、橋本):そうですね。私自身が起業した理由として、まさに前職で政府の方々や自治体の方々と自動運転を使った交通インフラをやっていたので、その中でやはり健康寿命を延ばす、社会保障負担を減らすことが大事だと思っています。
もっと直接的にやれる方法はないかなと思ったのが、共働きやひとり暮らしで「主食・主菜・副菜・もう1品」が食べられなくなっていく中で、主食に「主菜・副菜・もう1品」の原材料や栄養素を含めていけたらいいよなと。
「難しいだろうけど、自動運転とかやっているんだから、10年〜20年すればおいしくなるんじゃないの?」というのが起業の理由だったんですよね。
エコシステムだとヒト・モノ・カネ・情報があると思うので、やはり1つは、社員。あと取引先と言いますか、パートナー企業があると思っています。まず採用って意味では、ミッションをちゃんと説明して、ミッション共感性が高い人に入ってきてもらうことは、すごく大事だと思っています。
やはり事業は常にいろいろと大変だと思うんですけど、変わらないものはミッションに向かっていくところで、ファンダメンタルなところをしっかり作れると思いますし。取引先のみなさまも、我々ってコンビニ3社さまとか本当に多くの方に扱っていただいているんですけど、どうしてもやはり創業100年とかの食品会社と比べられると、厳しいところもあると思っています。
でも、「社会課題解決につながっている」という思いで、けっこう大手の中でも、1人の担当者が支持してくれることが、すごく大きかったりすると思っています。なので、そのあたりは今まで成長してこられた理由じゃないかなと思っていますね。
大企業とスタートアップは強みが異なる
篠田:なるほど、ありがとうございます。ミッションが明確にあって、そこにコミットした社員の方々が集まることが、お付き合いする大企業をも動かすと。ここがエコシステムをドライブするというご経験ですよね。
橋本:そうだと思いますね。やはり支えてくれると思うし、もしかしたら大企業の経営者の方々も、そういった影響を求めてくれているところもあると思いますね。
篠田:例えば先ほど、実際に製造は歴史100年のパン屋さんとかに委託されているとうかがったんですが。向こうから見ると、それこそ初めて業務提携された時は、まだ(ベースフードさんは)社歴も短いし、小さかったと思うんです。相手から見て、ベースフードさんの業務委託を受けようとなった動機は、どのあたりにあったと思われますか?
橋本:会社さんもステージや大きさは違うと思うんですけど、やはり最初に「100年やっていたけど思いつかなかった」と言われますね。それを自分たちの小さなところで実現させていることは、やはりものづくりの担当者としてリスペクトに値すると、思っていただけますね。
やはり大企業とスタートアップで強み(に違い)はあると思っています。我々で言うと、マスプロダクションみたいなところは、我々が取り組まないほうがいいと思っていて。
でも彼らもずっと同じことをやっていると、例えば価格競争になっていくじゃないですか。だから新しい付加価値を足せればそこから抜け出せる。そうするとまた社員にもメリットを還元できると思うんですよね。そこは役割分担かなと思っています。
「社会問題の解決」がないと、ステークホルダーも集まらない時代
篠田:ありがとうございます。ちょっとまた同じ質問を岡田さんにもうかがいます。先ほど投資家の話が出ていたんですが、エコシステムで、他に必要な役割やあって良かったなと思うパートナーとかのお話をお願いします。
岡田光信氏(以下、岡田):エコシステムというのは、もう本当にいっぱいステークホルダーがあって、投資家はもちろん、政府、国際機関、サプライヤー、従業員、メディア、アカデミアも全部そうです。インパクトというか社会問題解決がないと、今はステークホルダーも集まらないんじゃないかなと思っています。
ちょっと実例を挙げると、もう来年2025年には、世界の労働人口の75パーセントがミレニアル世代になって、僕は超マイノリティに入っちゃうんですね。ミレニアル世代って、絶対に社会問題の解決が最優先で来るし、その次のZ世代はもっと来ます。なのでそういうのがない組織には、たぶんみんな入らないんじゃないかなと思います。
私事で言うと宇宙のゴミの問題を解決しようとしているんですが、世界で最もややこしい問題の1つだと言われています。その理由は、普通そういうグローバル・コモンズの問題は、国境があったりすると解決できるんですね。
レギュレーションをかけたり、補助金とか、罰則規定とかできるんですけど。宇宙って国境がないものですから、まぁ、統一政府があればできるんですけど、できないという難しさと。技術が難しいとか、ものすごい早さで問題が悪化しているとか、いろんな問題があるんです。
すでに私は2024年に2回国連に呼ばれてお話をさせていただいていて。来週もまた国連に(呼ばれて)、ニューヨークに飛んで本部でしゃべるんですけれども。だんだんみなさんが「このアジェンダって、私も関わって解決しないと解けない」となってくると、追い風になっていくんですよね。
なので、何が社会問題なのかってアイデンティファイして、「いや、こういう解き方があるんです」「これはこういうふうに支持されているんです」というところまで説明できると、いろんな追い風がやってくる。ステークホルダーを招き込んでいくことができるなと、今ちょっと感じているところです。
篠田:ありがとうございます。今、アジェンダセッティングということを言っていただいたと思います。旧来は、やはり公的な機関の役割だったと思うんですよね。