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次世代人材育成とインパクトスタートアップ(全4記事)

次世代を担う「天才」は地方から生まれる確率が高い? 日本の人材育成の課題と教育の重要性

社会的インパクトの最前線に触れ、参加者との共創を生み出すことを目指すイベント「IMPACT STARTUP SUMMIT 2024 」が初開催されました。本セッションは「次世代人材育成とインパクトスタートアップ」と題し、次世代人材育成におけるインパクトの視点の重要性や、インパクトスタートアップが共創する社会について議論が行われました。本記事では、日本における人材育成のヒントを探ります。

無意識に生まれる地方へのバイアス

水野雄介氏(以下、水野):今、ちょっと地方の話もありました。今日はピッチでも地方がすごく多かったんですよ。宮崎からとか、沖縄とか信州とかあったんですが、地方のチャンスじゃないけど、地方と東京の違いってどういうふうに見ればいいんですかね? どなたか。

深井龍之介氏(以下、深井):誰に聞いておけば……(笑)。

水野:つまり、地方の大学とか、もしくは高等教育機関はどうあるべきなのか。地方って言わなくてもいいんだけど、もしかしたら差分をつけられるのかとか、できることってあるのか。そうすると地方活性にもつながるし、そこに行きたい学生を増やせれば、芽がグッと出たりもするかもしれないじゃない。

だから地方というのは、どういうふうにこの次世代教育を捉えればいいのかなっていうのを、永田君か先生、お願いします。

永田暁彦氏(以下、永田):まず、地方がどうだって言っている時点で、地方に対するバイアスが半端じゃなくかかっているということだと思うんですよ。

水野:まぁね。

永田:つまり、東京に対して劣後しているっていう……。

水野:劣後……うーん。

永田:たぶん今、バイアスをまき散らかしていると思うんですよ。

水野:はい。すみません。

永田:実際、というか世の中がそうですよ。だから勝手に東京に集まるわけでしょう?

水野:そうね。

永田:みんなが勝手に東京に集まる。僕は東京に住んでいないから、東京なんか住みたくないと思っているし、だから今日もつらくてしょうがないんですが。

(会場笑)

「東京にいなければならない理由」が減少している

永田:東京にある価値って、やはり「人」なんですよ。東京は人の価値が半端じゃないですよ。でも、それもITによって確実に「東京にいなければならない理由」が減少しているわけですよね。

東京じゃなくちゃいけない価値が減少し続けているのに、東京に何かがあるかもしれないという幻想……いいライム(「減少」と「幻想」で韻を踏んでいる)ですね。幻想を得続けているっていうのは、明らかにギャップがあると思っています。

反対からしてみれば、東京との対比で言えば、その地方にしかないバリューにちゃんと目を向けられているかどうかがとても大切な事実だと思うんですね。そこには文化があり、歴史があり、サイエンスがある。

僕たちのファンドは、日本で一番地方に投資しているファンドの1つなんですね。なぜかというとアカデミア、国立大学というのは、ノーベル賞は東京大学以外のほうがはるかに多いわけじゃないですか。どれだけ各地域の歴史的背景から研究が積み重ねられてきたかに注目するだけで、お金のアロケーションは変わるというだけなので。

それはファンドという1つの事象だけでもそうなんだから、自分の人生、企業、組織から考えても、そこにある特別な価値観を見つけ出しさえすれば、東京以外にそういうものがアロケーションされるはずだと思っています。

それを認識したその地域の生徒や子どもたちが何を学ぶかは、今、僕たちがその価値をちゃんと発見して顕在化させてあげることが、とても意味があることじゃないかなと思います。

日本のいいところは各地域に国立大学があること

藤井輝夫氏(以下、藤井):おっしゃるとおりで、ほとんど付け加えることはないんですけれども。ただ、やはり日本のすばらしいところは、国立大学という話がありましたが、要するに各県に必ず国立大学があるという点ですね。それから、その大学ごとに地域の特色、あるいは地域のみなさんにサポートされている優れた研究があるということなんですよ。

また、さっきの話に戻りますが、それをちゃんと世に出すというか。それぞれ地域ごとにいろんな特色や歴史的な背景も重なって、それぞれのやり方が出てくるんだと思うんです。

それをうまく実装してあげれば、その地域に特色づけられた、いいスタートアップなり、インパクトなりを生み出せるようなものは出てくるはずだと思う。

大学コミュニティとしてもそういうことができるといいなっていうのは、私自身もずっと考えていることではありますね。

深井:さっきの質問、これに誘導したくて聞いてくれたんですね。

水野:そう。

深井:ごめんなさい、完全に外れてしまって(笑)。

水野:(笑)。リーダーの話ね。

天才は地方から生まれる確率のほうが高い?

深井:今、ちょっと考えてみまして。まず、天才の育ち方と天才以外の人たちの育ち方がけっこう違うなって、歴史を見ていて思っていて。本当は天才も天才じゃないやつも、その時の社会環境との合致で天才かそうじゃないかみたいになっているから、全員天才になり得るんだけれども。

天才って基本的に、事故みたいなものでボンッて出てくるじゃないですか。出そうとして出すというよりは、ボンッて出てくる。今も時代の変わり目だと思っているんだけど、特に時代の変わり目とかだと周縁地域から出てくるんですよ。イノベーターって、基本的にはメインストリームからは出てこない。

これはけっこう歴史上の再現性があるんだけど、さっきのそれこそ松下村塾とかもそうじゃん。江戸の次の時代を引っ張る人間は、江戸からは出てこないんですよ。だから、東京の次の時代を引っ張る企業が東京から出てくる確率のほうが低いわけです。

水野:なるほど。

深井:そういう意味では、天才が地方から生まれる確率のほうがたぶん高い。それは環境の問題。一方で教育というのは、アクシデンタルに出てくる天才を待つのではなく、比較的戦略的にボトムアップをする活動じゃないですか。社会自体は、天才を待っていても良くならないんですよね。教育しないと絶対に良くならないんですよ。

歴史を勉強していて一番おもしろかったのが、僕はもともとそんなに教育に興味なかったんだけど、社会を本気で良くしようとしたら、教育以外無理っていう結論に自分の中で至って。それが、空海が同じことを言っていて。

水野:空海レベル(笑)。

深井:いや、違う違う(笑)。やっと空海が言っていた意味がわかった、みたいな。

日本人は隣の人を助けるモチベーションが高い

深井:めっちゃ勉強して、社会構造とかいろいろな因果関係がわかってくるようになったら、教育以外で次の時代の社会を良くするというのは、ホモ・サピエンスである以上かなり難しいことがわかってきて。

じゃあ、このボトムアップ的な活動を、教育、人材育成としてどうやっていくか。しかもそれを日本でやる場合は、やっぱりさっきおっしゃったように、日本人って隣の人を助けるモチベーションが超高いわけです。

水野:佐藤さんが言っていたやつね。

深井:そう。自分が社会を引っ張って変えていこうとか、それで大金持ちになってやろうという人は、統計で言ったらめっちゃ外れ値。たぶん、山の中のここらへん(正規分布の端)にしかいない(笑)。

山のここらへん(正規分布の真ん中の盛り上がっているところ)の人たちって、「困っている人を助けるモチベーションをめっちゃ持っている」みたいなのが、けっこうデフォルトとしてあると思うんです。これは文化だと思います。

日本でそういう教育をやろうとしたら、そこのモチベーションが発揮されるような環境に置くことがすごく大事だと思うんですよね。

水野:松陰はそういう感じだったのかもしれない。実際、どんな教育をしていたのかな。

深井:松陰は外れ値です。彼はすごくファナティック(狂信的)だし、彼は孟子を参考にしているんですが、1人のカリスマである吉田松陰という人がいて、それに引き寄せられたあの当時の人は全員外れ値だから。

普通の人はあそこに行っていないから、あそこにとどまった人ってやはりちょっと変わった人たちだった。あれはまさに周縁から出てきた天才系の活動で、あんまり再現性のある教育ではない。

水野:そうなんだ。

深井:あの時代だったからああなっているけど……今でもなるかもしれないけど、例えば30年前ぐらいの日本に吉田松陰がボンッて出てきて何かをやっても、あんなことにならないと思います(笑)。あれは時代の問題。外的要因と合致しているからそうなっているわけです。

水野:なるほど、ありがとうございます。

東大総長が語る、今の働き方の問題点

水野:せっかくなのでみなさんから質問を受けたいなと思うんですが、何か聞いてもいいですか?

藤井:どうぞ。

水野:せっかくなので質問をどうぞ。

質問者1:人材の流動の話のことで聞きたいんですが、企業にいて、それからスタートアップに行くって言うと、みんな「すごく冒険するね」っておっしゃいますよね。

私自身も大学で25年間働いて、2年前にスタートアップに転職したんです。そうしたらみんなから「なんでそんなリスクを冒すんだ?」って、すごく批判に近いものを受けたんですね。でも、私自身はそれは良いチョイスだと思うし、良かったと思うんです。こういう考えがどうやったら広がるかを教えてほしいです。

水野:誰に聞きたいですか? じゃあ、藤井先生、お願いします。

藤井:実は私も「人材が流動していっていいんだよ」という社会をどう作ったらいいかということに、とても問題意識があって。例えば女性の働き方の観点もそうですし、それから大学関係で言うと、文部科学省は「博士人材を活用したい。博士を増やしたい」って言ってるんですね。

それから、日本はもっと海外から人に来てもらって働いてもらう必要がある。これまでのようにだいたい18歳ぐらいで大学に入って、22歳で就職して、ある組織でずっと働いて、そこからどこかに移ろうとすると、「なんでそんなことするんですか?」言われてしまうじゃないですか。

このように、そういう行動がリスクだと感じてしまうこと自体に問題意識があります。例えば女性のキャリアで見ても、いろんなライフイベントがある時に、いったん何年かは仕事の最前線から外れて、でもまた元に戻りたい。じゃあ元のポジションに戻れますかというと、けっこうそれが難しかったりするわけですよね。

それから大学にいて、しばらく働いたらスタートアップをやって、スタートアップでまたしばらく働いたら、場合によっては公的なところに行って、あるいは政府で働くとか。本当は動いてもよいはずなのに、なかなかそういうキャリアがスタンダードなものとしては許容されないことになっている。

時間の多様性が許容されにくい日本

藤井:ですから、おっしゃるようなことが普通に起こるような社会にしていくべきだと、実は私もあちこちで申し上げているんです。

特に日本の場合は、時間的な多様性がなかなか許容されにくい。若い世代、まさに次世代のレンジの方々にとっては、だいたい大学を卒業する手前ぐらいから、そこがけっこう大きなプレッシャーになってきてしまうんですよね。そのあたりをなんとかしてあげなくちゃいけないなと。

問題意識は共有しますが、どうすればいいかというと、「これをやればなんとかなります」っていう即効性のある解決策はなかなかなくて。社会の仕組みそのものを変えていかないと、たぶんうまく回らないんだろうなと思っています。しかし、次世代の人材育成の観点からも非常に重要なポイントだと思います。

永田:一瞬だけいいですか?

水野:どうぞ。

永田:僕は、大企業に時間を使うリスクなんか絶対に人生で取れないんですよ。僕からすると衝撃的なんですよ。なんでそんなリスクを取っているんですか? これは、つまりパーセプション、認知の違いだと思うんですよ。

ドルに投資するとか、株に投資することをリスクって言う人もいますけど、僕からすると貯金を持っているのは円に投資するリスクを取るということなのに、そう考えられていない。スタートアップと大企業の議論も似たところがあり、認知が変化しているかどうかがとても大切なんじゃないかなと思っているんですよ。

だから、次世代教育においてとても大切なのは、認知形成においてどういう認知をみんなに持ってもらうか。なので、「スタートアップに行くことはリスクですよ」と言うこと自体が、もしかすると根本的認知の部分でずれている……。これは僕の主観なのであれですが、そこから物語がスタートしている気がするんですよね。

なので、テクニックや概念だったり、いろんなものがあるかもしれない。さっき言った「貯金をする」ということがどういう認知なのか、「ここで働く」ということがどういう認知なのかということ自体をアップデートしていくことが、とても大切なんじゃないかなと思いました。

水野:ありがとうございます。

大学院→ベンチャーへの就職を希望する人も多い

水野:ちょっと時間が過ぎているんですが、最後に2人。認知についてでも、次世代人材育成についてでも、みなさんにでも、何かしゃべりたいことを。

深井:先に佐藤さん……。

水野:先に佐藤さんで行きますか。

深井:その間に考えます。

佐藤真陽氏(以下、佐藤):じゃあ、佐藤から。唯一の20代として、それこそ次世代の、今後の就職なりキャリアに迷う人材としてお話をします。私は大学を卒業してそのまま大学院に行って、周りはみんな大企業に就職。なんならベンチャーに就職する人なんてあんまりいないんですよ。実際、今もそうですね。やはり(ベンチャーへの就職は)リスクって捉えられてしまう。

でも、逆に大学院に入ってからは、ベンチャーに就職を希望する人がけっこういらっしゃって。なんでかというと、それこそ働き方がフルフレックスであるとか、有休が取りやすいとか、自分の研究をしながら両立できる似たような分野があるという理由が挙げられています。

それこそ開発系のベンチャーや研究系のベンチャーがあるので、選択肢としてだんだんベンチャーが増えてきているのかなとは、個人的には思っています。

それこそ開発系のスタートアップに行きながら修士課程、博士課程に行く。博士課程に行ったけど、ちょっと科研費が難しくてうなだれて、「基礎研究が……」みたいになって、やはり起業する道を選ぶとか。

それぞれの新しい選択肢ができてきているという流れは、今後の次世代育成、私の次の世代にとっても新しい選択肢になっていくのかなと、個人的に今の話を聞いていて思いました。

水野:ありがとうございます。

ここ10数年で変化したスタートアップの認知

水野:じゃあ、最後に締めちゃってください。

深井:まだ何にも思いつかないですね。

水野:(笑)。

深井:具体的な……最後ってだいたい何を言います?

永田:なんか希望のあること。

水野:最後は希望のあるメッセージを。

深井:希望のある話ね。でも、さっきの質問にもあったように、例えば「スタートアップに行くみたいなのがリスクなんだ」と思っている人がたくさんいるというのは、実はほっといても変わると思っているんですよ。

時代って流れがあって、いったんそっちにバーッて行ったら、基本的にバッて急に止まったりしないんですよ。流れ続けるので、こういう協会もできているし。

スタートアップも、例えば自分が参加したのは15年ぐらい前なんだけど、15年ぐらい前だと本当に社会から外れた人のほうが多かった。それがちょっとずつ今は環境が変わってきているじゃないですか。水野さんとかは典型的だと思いますが。

なので、もう時代が動いちゃっているじゃないですか。この動いている時代を10年前の規範とかで裁くと、けっこう大変だと思うんですよね。だからさっき言った「スタートアップなんてすっごいリスクじゃん」みたいな話はそのとおりなんだけど、その認知って時代の流れの大きいうねりの中でいくと、旧認知じゃないですか。

なので、認知を新しく更新することをやっていきながら、世界に対峙していくと、比較的楽しいかなっていう。ちょっとすごくしょうもない話をしたかもしれないですが(笑)、大丈夫ですかね?

水野:最高です。というわけで、なんかいつも僕は結論付けたくなっちゃうんですが、今日はパネルディスカッションだったので、いろいろな話題に波及していったのですごくおもしろかったなと思います。じゃあ、あらためまして、今日はお時間をいただきましてありがとうございました。

深井:ありがとうございます。

(会場拍手)

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