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次世代人材育成とインパクトスタートアップ(全4記事)

歴史から見る「最もパフォーマンスを出したリーダー」の特徴 「欧米の真似をする時代」が終わりに近づく今、次世代人材を育てるには

社会的インパクトの最前線に触れ、参加者との共創を生み出すことを目指すイベント「IMPACT STARTUP SUMMIT 2024 」が初開催されました。本セッションは「次世代人材育成とインパクトスタートアップ」と題し、次世代人材育成におけるインパクトの視点の重要性や、インパクトスタートアップが共創する社会について議論が行われました。本記事では、日本的な「リーダーシップ」のあり方について語ります。

「リーダー」の要素は文化によって大きく異なる

水野雄介氏(以下、水野):じゃあ、今度はちょっと深井くんに聞いていいですか? やはり僕は教育が好きなので、インパクトスタートアップのリーダーがどう生まれてくるかも聞きたいし、なんで生まれてくるのか、どう潮流が生まれてくるのかとか、あとはリーダーを生み出し続ける人にも興味があって。

わかりやすく言うと(吉田)松陰先生なんですが、松陰先生のところのあんな小さい松下村塾で総理大臣が何人も生まれるって、普通に考えてないじゃないですか。だから、リーダーを生む人はどんな人なのかとか、そういうところも含めていろいろ教えてほしいなと思います。

深井龍之介氏(以下、深井):いやぁ、どこまでちゃんとしゃべるかでムズいなっていう感じです(笑)。

水野:自由にしゃべってもらっていいです(笑)。

深井:まず、リーダーが何かっていうのは、文化とか自分がいる組織や人によって、実はかなり違うんですよ。いったんリーダーを「人を引っ張ることができる人間」だと定義した場合に、そもそも人の引っ張り方って文化によってけっこう違うんですよね。

例えばアメリカの大統領のようなリーダーって日本からも出てこないし、出てきても人を引っ張れないんですよ。逆もそうで、日本の総理大臣みたいな人がアメリカで何をやったって人を引っ張れない。これは文化差なんだよね。

引っ張られる人と引っ張る人がどういう認識の世界で生きているかによって、実はそこがめっちゃ影響されています。それとは別にマネジメントというものがあって、マネジメントは半分以上技術なわけですよね。リーダーシップって、たぶんあんまり技術じゃないんじゃないかなと思っていて。

水野:なるほどね。

「欧米の真似をする時代」は終わりに近づいている

深井:まず、文化によってリーダーってぜんぜん違う。僕が歴史をすごく勉強して感じているのは、我々はそろそろ欧米の真似をする時代が終わっている感覚があるんですよ。

資本主義にしろ、スタートアップにしろ、リーダー像にしろ、もう今は自分たちで編み出したほうがいい。実際、日本はどうだったのかを振り返ってみたら、実績を見て科学的思考をしたら絶対にすぐにわかると思うんだけど、日本で成功している人たちは欧米型のリーダーじゃない。

インドで寿司屋をやっても成功するのかもしれないですが、インドで寿司屋をやるのと日本で寿司屋をやるのって、同じ技術を持っていたとしてもいろんな意味で違うじゃないですか。だから、郷に入れば郷に従わないといけないわけですよね。

さっきのポスト資本主義の話に戻るんだけど、そもそもアメリカの資本主義と日本の資本主義って、僕から見ると同一ではない。イギリスもそう。ものすごく文化に引っ張られている。アントレプレナーもそうで、まったく一緒じゃない。ぜんぜん違う(笑)。

なので我々は、自分たちの文化に対する深い理解の下に新しくリーダー像を作らないと、今生じている社会問題には欧米型のリーダー像の人たちが越えられない問題が出ているわけですよ。

僕はインパクトスタートアップにすごく期待しているし、自分自身もそれをやりたいと思っている。それは、自分たちの文化をメタで理解した状態で、戦略的に新しいリーダー像を作っていくことをやったほうがいいと思っていて。

COTEN深井氏が語る「最もパフォーマンスを出したリーダー」の特徴

深井:それでいくと日本のリーダーって、いわゆる僕たちが「リーダー」って呼んだ時のリーダーじゃないんですよね。

水野:おもしろい。

深井:(これからのリーダー像は)嵐の大野(智)君みたいな感じだと思います。

水野:ほぅ。

深井:ちなみに僕もぜんぜん詳しくないです(笑)。

(会場笑)

水野:えっ、嵐に詳しくないのに言ったの(笑)?

深井:でもなんかさ、あの人リーダーっぽくないじゃん。

水野:大野君?

深井:うん、大野君。

水野:大野君っぽいって、どういう意味で言ったの?

深井:要は、言葉がうまくなくてもいいし、ガッて引っ張ってなくてもいいわけ。結果的に環境を整えて、それぞれの内発的動機で動ける環境を用意するのが、我々の文化圏における最もパフォーマンスを出したリーダーなんですよ。僕が今まで観測した結果は。

水野:なるほど。

深井:なので、日本人の動かし方ってトップダウンじゃないんだよね。最近そこを考えているっていう感じですかね。結論が出ていないので、シェアするかどうかはちょっと迷った。

水野:パネルディスカッションなのでいいじゃないですか。すごい。

日本ならではの考え方を人材育成に活かす

水野:藤井先生は今のリーダーに関して何か思われることはありますか?

藤井輝夫氏(以下、藤井):今おっしゃったこと、非常にいい考え方だなと思いました。実は東京大学も今、まさに次世代の未来の社会を作っていけるような人をどう育てていけばいいかということで、新しいカレッジを作ろうとしているんですね。

そこで考えているのが「College of Design(仮称)」という新しいカレッジです。このデザインもaesthetic designというか、いわゆる欧米で伝統的に語られてきたデザインとはちょっと違って、日本ならではのデザインのコアを世界に示していこうと思っています。

それが、社会をこれから作っていく人、「Future Shapers」と言っていますが、そういう人たちを育てることにつながるだろうと思っています。日本ならではの、あるいは東洋ならではの考え方みたいなものをしっかり入れて、それを世界に示していきたいと思っていたので、今の話はとても響きましたね。

水野:自分たちで考えていかなきゃいけないと。

深井:自分たちの文化理解に根差して、欧米を参考にはするが真似するのをやめる。

水野:学術的ですね。まず自分たちをメタ認知するっていうことですね。難しいですよね(笑)。

深井:メタ認知したほうがいい。資本主義って、僕からするとすごくキリスト教の信仰に近い感覚があるんです。だから僕たちは、そのまま入れられなかったと思っているんですよ。

水野:なるほど。

深井:宗教って言っちゃうと、みんな宗教を生活と分離できると思っているけど、宗教って生活と絶対に分化できないので、僕たちのあらゆる生活のアクションと言説と言動に入り交じっているんです。キリスト教圏から出てきたわけだから、当然そりゃそうだよねと思うわけ。すごくキリスト教チックなの。

そういうことをメタ認知すると、自分たちがこれから模範、モデルケースを作っていく時に、少なくとも絶対にシリコンバレーじゃない(笑)。

インパクトスタートアップ協会とかを作って、じゃあどういうインパクトを社会に出していくかという時に、自分たちに対する深い理解があるとパンチ力がぜんぜん変わってくると思っているので、COTENとかを作ってやっているんです。僕から言えるのはそれぐらいです。

水野:なるほど。おもしろいですね。

日本でイノベーションを起こすには

水野:何か感じたこととかはあります?

佐藤真陽氏(以下、佐藤):そうですね。日本風だとか欧米を真似しないというさっきの話で言いますと、私は2024年3月3日に「IMPACT SHIFT」というカンファレンスをTibで開催していたのですが、そこのセッションの1つに「東洋型のインパクトは何か?」みたいなセッションがあったんですね。

うちのISA(一般社団法人インパクトスタートアップ協会)の幹事の五十嵐(剛志)さんとかが話していたんですが、その時に「日本風のインパクトの目指していく姿って、金継ぎみたいなのが日本らしいんじゃないか」みたいな話が出ていて。

水野:何ですか?

佐藤:金継ぎ。

水野:金継ぎ?

佐藤:お皿とかを金でつないでいく。

深井:瀬戸物のね……焼き物が欠けた時に金で継ぐやつ。

佐藤:日本の社会問題って構造化がぼんやりしているというか、なかなかクリアに見えていないのが現状なのではないかなと思います。でも、そういうところにインパクトみたいな1つの指標があることで、つないでいって、社会課題が解決していっているようなところを見ていくと、日本風っぽいんじゃないかと。

どっちかというと、壊れたものや少し崩れてきたものを直していこうという「新しいものを作る」のがイノベーションじゃなくて、「直していく」ものもイノベーションなんじゃないかという話をしていた時は、私は個人的にすごくストンと腑に落ちました。

MetaやGoogleみたいに大きくドカンと変えていくというよりは、少しずつ足元から徐々に見ていこうというイノベーションという理解が近いのかなと個人的に感じました。というところで言うと、リアルテックファンドとかの研究者も地道なところから始まると、先ほどおっしゃっていたので、東洋型インパクトという思考に近いのかなと感じました。

水野:そうだね。

佐藤:投資の仕方も日本風、東洋風って言えるのかなって思います。

水野:かなり気合いが入っていますけどね。

佐藤:そうですね(笑)。

「正義の反対には正義がある」

永田暁彦氏(以下、永田):僕はリーダーはよく知らないです。わからないですが、「アントレプレナーとは何か?」というほうが僕にとっては重要で、1つ言語化したものがあるんですよ。「誰にも頼まれていないのに自分のミッションに突き進んでいる人」なんです。だって、頼まれていないもん。

水野:そうね。

永田:「教育、何とかして」とか言われていないでしょう?

水野:そうね。

永田:なのに勝手に走っているわけですよ。だから、まさにさっき内発的というお話がありましたが、アントレプレナーというのは勝手に内燃機関が燃えていて前に進んでいる人なんですよ。まずこれが1つ目なんですね。

2つ目。僕がユーグレナ時代、毎日1万人の子どもに食料供給をするプロジェクトを設立した時に、とある大学の学生から「なんでそんな酷いことをするんだ」って言われたんですよ。「人口爆発している現代において、死にゆく子どもを生かすな」って言われたんですね。僕はすばらしい意見だと思ったんですよ。

つまり、この世の中には正義の反対には正義があるっていうことです。だから僕は「ソーシャルインパクトとは何か?」を定義すること自体に恐怖心があります。なので、僕は若干このイベントにも恐怖心を感じています。

水野:なるほど。

永田:感じていますよ。だって、この方法が正しいっていうこと自体……。

水野:仕組み化しちゃうと、それはそれで悪い方向に行くからね。

永田:僕はめっちゃ怖い。

水野:いや、それはそうだよ。

永田:それが2つ目。

東京大学の功績は“最初に生まれた変人”を活かしたこと

永田:つまり、自分が設定している「社会をこうしたい」という方向に内燃機関を持っているのがアントレプレナーだとしたら、あとはもう邪魔すんなっていうだけです。ただただ突き進むので、もう邪魔しないでくださいっていうのが根本的な思想です。

どれだけそれを社会で蓋をしてきたか。どれだけこれまでの価値観をまぶしてきたか。それさえなければ進み続ける人はいるんだと、僕は思っていて。それに共感する人はアシストすればいいし、共感しない人は邪魔しなければいいということだけでも、アントレプレナーは絶対的数は生まれ続けると思っています。

人の熱は熱に伝導するので、東京大学が最もアントレプレナーシップ教育に成功している理由は、一番最初に生まれたいくつかの変人たちを、そのままちゃんと放置したことだと思うんですよ。

それによって、まさにユーグレナもそうですが、「お前ら、東大発なんだから毎年授業で後輩たちに教えろよ」って言われるわけですよ。そうやって、一番最初の変人をそのまま活かしたエコシステムを作り続けているんですよね。

最初の蓋をしなければ、絶対にどこの大学にも、どこの地方にも変人はいて。「変」っていうのは相対的なので、純粋にその人は自分の思いで前に進む。エンジンを積んでいる人が邪魔されずに前に進んだ、または突き破って前に進んだ者の経験を回していくだけで、本来はいいんじゃないかなと思っています。

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