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次世代人材育成とインパクトスタートアップ(全4記事)

「お金は返しません」と言い、約100億円でリアルテックファンドを設立 永田暁彦氏が明かす、アントレプレナーの“真の役割”

社会的インパクトの最前線に触れ、参加者との共創を生み出すことを目指すイベント「IMPACT STARTUP SUMMIT 2024 」が初開催されました。本セッションは「次世代人材育成とインパクトスタートアップ」と題し、次世代人材育成におけるインパクトの視点の重要性や、インパクトスタートアップが共創する社会について議論が行われました。本記事では、永田暁彦氏が「アントレプレナー」の真の役割について語ります。

永田暁彦氏が振り返る、これまでの歩み

水野雄介氏(以下、水野):産学官の連携の話も聞きたいんですが、じゃあ永田さん。僕から簡単に永田さんを紹介させていただくと、みなさん知っていますよね? 株式会社ユーグレナのCEOで、CFOもやられています。リアルテックファンドも立ち上げられて、今はUntroDという、これはまた新しいファンドですかね?

永田暁彦氏(以下、永田):はい。

水野:(直近も新しいファンド)を作られたと。同世代の仲間なんですが、永田さんの自己紹介と、今のポスト資本主義について考えていること、あとは大学生に対して考えていること。このへんを教えてください。

永田:はい。いっぱいあった(笑)。

水野:しゃべりたいことがあったらいいですよ(笑)。

永田:でも、さっきニヤニヤしていたのは、5人中2人が口が悪いやつを選んだなと思いながら(笑)。

水野:いやいや(笑)、好きなんです。

永田:総長のおかげで株式会社ユーグレナという会社を15年間経営していて、まさに東京大学発のベンチャーでお世話になっていました。2023年にCEOを退任して、同時に今は投資先がたくさんありますが、研究者、サイエンティストに投資するファンドを10年間やってきたところです。

そういう意味では、産学官という意味合いもあるんだろうなと思うんですが、僕がアントレプレナーの役割を強く感じているのが、この十数年間の活動にあるなと思っています。

「アントレプレナー」の役割とは何か

永田:例えば10年前に「サイエンティストに投資するファンドを作ります」と言ったら、全員から笑われたわけですね。でも今や直近3年間、スタートアップ投資の金額は減っているけど、研究者投資だけ増え続けているんです。これは、やっぱり社会が変革した瞬間を見ているんですよ。

水野:なるほど。

永田:それがなぜ変革したのか、僕はよく見ているからわかっているんですよ。先ほどから出ている「アントレプレナー」の役割って何だろうなと考えると、アーリー・スモール・サクセス。小さな最初の成功を示すことで、その後に流れてくる潮流を生み出す役割なんだと思うんですね。

そうなると、その後ろの大きな流れに飲み込まれて、きっと最初の流れを作った人は歴史にも名を残さないかもしれないんですが、それでもかまわない。なぜなら「それがやりたいから」という人たちが、僕はアントレプレナーじゃないかなと思っているんですね。

なので、たぶん今日会場にいるソーシャルインパクトスタートアップの方で、100年後に名を残している人は1人もいない可能性があると思っているんです。でも、社会は変わった。「それで最高じゃないか」と思えるかどうかは、とても大切なことだと思っています。

それが、なんとなくポスト資本主義というものにつながるキーワードなんじゃないかなと思っていて。そこに自分の欲、「こういう社会にしたい」という欲があるんだけど、これまでの概念とは違う欲を持っている人が、これまでの概念の流れを引き寄せるというのが、僕はおもしろいと思っているんですね。

僕は一番最初に約100億円でリアルテックファンドを作ったんですが、「本当にお金は返しません」と言って集めたんですね。

水野:ファンドなのに?

永田:はい。

水野:リターンある? リターンなしで。

永田:この前、その時の担当者の方とご飯を食べていて。彼が、「永田さん、最後の経営者プレゼンで、本当にお金は返しませんって言いましたもんね。すごかった」と。

水野:それはすごいね。それで意思決定してくれたんですか。

永田:はい。

水野:すごいっすね。

研究者は、もっと研究だけに自己中でいい

永田:だけど、じゃあなぜサイエンティストに投資が集まる世界になったかというと、そこからスタートしたのに結果的にファンドとして返せる状況になってきたんですよね。

水野:そうですよね。

永田:そうすると、別に社会的意義とか意思ではなくて、これまでの資本主義のルールに則った人たちが、わらわらと集まってくる世界に変わったということなんですよね。だから、今の最新の僕らのファンドはお金を増やしますと言っています。それでいいじゃんって、僕は思っていて。

なので、いちばん最初の小さなサクセスを作り続けることで、しかもこれまでの資本主義的な動機ではない動機でスタートしている人たちが引きつけて、一般的な概念としての資本主義がそこに乗っかっていく世界というのが、なんとなくアントレプレナーだと。

かつアカデミアという意味で言うと、正直、社会に役立とうとはされていない方ばっかりなわけですよ。

水野:え、そうなんですか(笑)。

永田:そうです、そこがすばらしいんですよ。「新しい原理を見たい」。この欲求が前に進む力を生んでいるところに、資本主義とは離別した価値観があるわけですよ。そこを後から接続していけば勝手に社会に流れてくるので、もっともっと研究者は、ピュアにピュアに研究だけに自己中でいいと僕は思っていますね。

水野:なるほど、おもしろい。どうぞどうぞ。

藤井輝夫氏(以下、藤井):今のサイエンティストのお話で思い出した。東京大学の梶田(隆章)先生がノーベル物理学賞受賞の知らせを受けられて記者会見をした時に、「このニュートリノ振動の発見は、何かすぐに役立つものではないけれども、人類の知の地平線を拡大するような研究だ」ということをおっしゃったんですよね。まさにピュアな研究、という話の一例だと思います。

大学の研究者は、そういう純粋な気持ちでサイエンスをやっている人がほとんどですから、それをどう世の中につないでいくかが1つの大事な観点かなと、今のお話をうかがっていて思いました。

オタク的に“好きを突き詰める人”がイノベーションを起こす

永田:まさに社会にはそれぞれの役割があるんだとすれば、アカデミアに期待されている役割をいかにエッジーに突き詰めさせてあげられるかで、社会の全体の総和を作り上げきるのかというところ。それは研究者だけが考えることではなくて、まさにさっきのアロケーションだったり、仕組みの再構築という話につながるんだと思っていて。

全員が中央に置かれている中庸な目的に向かって動き始めたら、たぶん最大化は生まれないんだと思っています。これはアーティストも一緒ですね。

水野:だからオタク的に、「それがめちゃめちゃ好きだから突き詰める」みたいなやつが、イノベーションを起こすんだというところなんですかね。歴史が好きだしね。

若手代表というところでもあるので、佐藤さんに来てもらっています。今回、インパクトスタートアップ協会の事務局もやってくれているんですが、若手で非常に優秀なんですね。佐藤さん、今のみなさんのお話を聞いたり、あとはポスト資本主義の話がありましたが、考えていることや思ったことを教えてください。

佐藤真陽氏(以下、佐藤):そうですね。私も今、大学院に通いながら、今後は博士課程に行こうかな、研究者になりたいなと思っている1人の学生として今日はお話しできたらなと思っています。

やっぱり私の周りも見ると、純粋に普遍的な論理を見つけていきたいという学生はすごく多くて。普遍的なものを見つけた時って、もしかすると今来てくださっているインパクトスタートアップのみなさまであったり、それこそ今後アントレプレナーシップを持って社会に変革を残していきたいという人たちの1つの気づき、材料になるのかもしれないと思っています。

私は事務局をやりながら、自分が学生として勉強している中でよく思うなというのを、今の永田さんのお話を聞いていて思いました。

研究者を育てる場所としての大学の役割

佐藤:あとは藤井総長のお話の中で、大学連携、ポスト資本主義、大学はどうするべきかみたいな話があったんですが、私自身が大学に所属する立場で、ポスト資本主義の中であるべき大学の姿ってどうなのかな? というのは、個人的にすごく気になりました。その点については少しお聞きしたいなと思いました。

ポスト資本主義の中で、実際に大学という教育機関というもの、そしてアカデミアというか研究者を育てる場所として、大学はどうあるべきなんでしょうかというのをお聞きしたいです。よろしくお願いします。

藤井:はい、ありがとうございます。私自身の考えでは、先ほどお話ししたように、ポスト資本主義と言っているバックグラウンドにはいろんな難しい問題があるわけですね。これも地球規模の課題もあれば、社会の中でのいろんな課題もあって。

そういう課題への、ある種の解決策や手がかりとか、道標みたいなもの。これはもちろんサイエンスをやりながらなんですが、そういった課題解決にもつながるような、あるいは価値創造につながるような手がかりを生み出していくのも、1つの役割かなと。

まさに先ほどの話になるんですが、これが本当に社会の中でインパクトにつながっていくためには、ピュアなアカデミアだけの要素では成立しないので。

むしろアカデミアの外側のみなさんと一緒に、まさに今日のようなこういう場でいろいろとお話をしながら、その仕組みをどういうふうに作っていくか、あるいは「一緒に何かをしようよ」というお話をしていくとか。

そういうことを通じて、この大学の中で生まれた知を課題解決や価値創造につなげていく努力を、大学の中だけに閉じこもっているのではなく、もっと外に出て行ってやっていくのが大事じゃないかということを言っています。

年間10億円を研究開発費に充てるユーグレナ

水野:ちょっと深井くんの話にいきたいんですが、その前に今の話で、ユーグレナってまさに大学発じゃないですか。

広がっていくとか、広げていくところ。逆に上場もして、課題も感じて、たぶんそれに対して今やろうとしていることがある。どんな世界を作りたいのか、そこに対する課題や連携において思ったことを聞きたいなと思って。

永田:僕は100社以上、研究者の会社に投資をしてきました。やっぱり資本主義という言葉1つ取ってみても、何によってコミュニケーションするかで結果がまったく変わるってことなんですね。「いやあ、先生。あなたの技術で一発儲けましょう」と言ったら、まあ扉が閉まるわけですよ。当たり前ですよね、そんなことのために研究していないんですよ。

でも例えば、僕はユーグレナを15年やってきて、研究開発費を1年間いくらかけているかというと10億円を使っているわけです。50人の研究者で10億円使える研究室はありますかと言ったら、ないんですよ。

だから僕は投資先の先生になんて言ったかと言うと、「自分の研究をとことん突き詰めるための権利を得ましょう」と。これが、例えば起業のメッセージなんですよ。

この時点で株式会社を作るという、これまでの概念と違う概念だけれども、資本主義を使っていきましょうという話をしているだけなんですよね。いかにそういう概念変化をしながら自分の目的を果たすかだと思うんです。

さっき株式会社アストロスケールの岡田(光信)さんも言いましたけど、宇宙ベンチャーは、いろんな社会意義とか「儲かるか」とかをみんな話しているけど、僕はぜんぜん信じていないんですよ。全員宇宙に行きたいだけだもん。そう、わかっているんですよ。

わかっていて、どうやって真ん中に同じストーリーを載せるか。共通言語の資本主義を載せるかというだけで、その向こうにはいろんな思惑があっていい。

研究者への投資は進み始めている

永田:少しアカデミア側が清貧過ぎるところに資本主義に近づくこと自体が、決してその清貧さを失うことではなくて、「社会を巻き込むための共通言語を真ん中に置くことなんだ。その結果、自分たちのエッジーさを保ち続ける目的なんだ」となると、うねりが一気にググググッと変わる感覚を得ていますね。

水野:なるほど。今作っているクロスオーバーのインパクトファンドの発表もこの間ありましたけど、そのへんはどうつながるんですか?

永田:もうぶっちゃけ、研究者に投資される世界ってどんどん進み始めているんですよ。たぶん僕が明日死んでも、このうねりは止まらないんです。

水野:リアルテックファンドみたいなものは、もうかなり進んだと。

永田:どんどん進んでいるので。そうなると、自分のアントレプレナーとしての仕事が拡大していかなくてはならないという意識があるんですね。今回のクロスオーバーインパクトファンドは、今の日本の上場したスタートアップが継続して成長できるように支えるための、未上場で投資して上場後長く持てるファンドです。

ほかにも例えば今、福祉の世界にとてもお金が集まりますかというと、集まらないですよね。でも(福祉自体は)絶対に必要。歴史研究にお金が集まるかというと、集まらない。だけど、何を1歩目に証明すれば資本主義の動きが変わるのか。

少なくともこの15年間で体験してきたことを、誰もが必要だと思っているのにお金が集まらない業界にコピー&ペーストしていく活動をしたくて、社名からディープテックを外したという感じです。

水野:かっこいいですね。

永田:だって、教育は儲からないんでしょう? 教育、お金が集まらないでしょう?

水野:集まらないですよ。

永田:でも、あなたたちが1兆円企業になったら、「今からの時代は教育テックだ」とか言い始めなきゃでしょう? 簡単じゃん。

水野:それもそうだし、そもそものアルゴリズムとしておかしいじゃんと思っているから、こういう取り組みをやっているわけなんです。

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