「シード期からの爆速成長の秘訣!徹底議論!」と題して開催された本イベント。株式会社Sales Marker 代表取締役CEOの小笠原羽恭氏、元スマートニュース株式会社執行役員の川崎裕一氏、新規事業家の守屋実氏が登壇し、シード期のサービス立ち上げに関してディスカッションを行いました。本記事では、BtoB営業の極意や、PMFを達成する上で重要なポイントについて議論しました。
前回の記事は
こちら PMFを達成する上で重要な「プライシングの観点」
萩谷聡氏(以下、萩谷):小笠原さん、今の話を聞いてPMFで検証していくポイントや大事な点、この辺りを気をつけたほうがいいという反省も踏まえて、あったら教えてください。
小笠原羽恭氏(以下、小笠原):はい。もともと私はエンジニアから経営コンサルタントに転身したので、ボトムアップ型とトップダウン型の両方の思考を身につけたからこそ言えることがあって。プロダクトを磨けば磨くほどPMFに近づくという考えには、必ずしも当てはまらないことが多いと感じています。
私の経験から言えることは、少なくともBtoBでは、お客さまにとって価値のあるものであれば、プロダクトが整っていなくても買うという点です。
BtoCの場合はプロダクトを磨けば磨くほどユーザーがどんどん増えていってPMFするケースもありますが、BtoBとBtoCではまったく違う話かなと思っていて。PMFの話をする際、BtoBかBtoCかの前提なしで共有されることもあるので、そこは切り分けて、みなさんのビジネスに合わせてご認識いただくといいかなと思っております。
その前提で、先ほど守屋さんがおっしゃっていた1円で受注するべきポイントを10円にしたのは、かなり大事かなと思っていて。これはプライシング(価格設定)の一種だと思っています。実は私たちも、企業のデータそのままだと、月数万円ぐらいしかいただけない領域もあったりするんですね。一方で、最初から15万円とか20万円とか月販売できて、今、月間で50万円ぐらいの平均単価のものもある。
「どういう価値を提供するのか」という観点で価値を再定義し、従来の枠組みを超えた広範なカバー範囲でサービス提供しています。先ほどの例のように、印刷するだけを価値として売っている会社さんがほとんどのところ、印刷して配るところまでカバー範囲にしたところ、頭が抜き出て、単価も上がって、みんながハッピーになるという。
これは、今後いろいろなサービスが増えていく中で、重要なポイントになると思っています。できるだけ広い範囲をカバーし、できるだけ高い金額でサービスを提供できるかというプライシングの観点を持つこと。戦略ファームでもよく採用される考え方であり、PMFを達成する上で、かなり重要なポイントかなと思っております。
萩谷:いやぁ、これはおもしろいですね。
関係性の悪い上司に稟議書を通すイメージで
守屋実氏(以下、守屋):ちょっとBtoBで、しゃべり忘れたことをしゃべってもいいですか?
萩谷:お願いします。
守屋:特に大企業で働いている人にとって想像しやすいんじゃないのかと思うんですけど。僕はよく「BtoBは稟議書作成代行業だ」と言っているんですよ。
BtoBは経済合理性があるとだいたい通るじゃないですか。要は100万円儲けたかったら、客に1,000万円ぐらい儲けさせれば、100万円が来るに決まっている。1,000万円を儲けたいから1億円ぐらいで、1億円を儲けたかったら100億円を儲けさせればいいわけで。
とにかく稟議書作成代行業だと思えば、落とせるか落とせないかはなんとなく出てくると思うんですよね。自分たちで一生懸命躍起になって商売をやっていると、エゴエゴしてきて、主語が我が社になるんですね。でも、それでBtoBが落ちたら世話ないと思っていて。
相手は自社の利益以外はあまり優先順位を上げてくれないじゃないですか。仲のいい上司にゴリ押しで通すんじゃなくて、関係性の悪い上司に「それでもこの稟議書だったら通るわなぁ」という状況を想像すると、かなりの確度だと思うんですよね。
若い人は書いたことがないかもしれないけど、稟議書はだいたい、みんな書いたことがある。そういうのも含めて想像すると「BtoBはいけるかな」と僕は思っています。
萩谷:なるほど。わかりやすいですね。お客さまの課題の解像度が相当高くないと稟議書は書けないから。そのくらいあげていきながらプロダクトを(練っていく)。
守屋:そうですね。「結局うちは、なんぼ儲かるんだ?」「ほかと比べたのか?」とかいろいろな質問があって、特にそりの合わない上司だったらこういうこと突っ込まれるんだろうなぁって……。
萩谷:やらない理由探しですよね。
守屋:そういうのができると、さっきの小笠原さんみたいに、まだできてもないプロダクトが売れるというノリだと思うんですよね。
BtoB事業の本質は「顧客の意思決定を指南すること」
小笠原:ここがめちゃくちゃ大事だと思ってまして。私はコンサルティングファーム出身で、しかも、もともとエンジニアだったので営業の経験はありません。それでも、最初の1~2回の商談でSales Markerを売ることができました。
なぜそれができたのかと言うと、コンサルファームに入社する際、面接を担当された執行役員の方から、ある言葉をかけられたことが大きなきっかけでした。
「君はコンサルティングファームの仕事が何かわかる?」と聞かれたんですね。課題解決や、お客さまが気づいてないニーズの発見、価値の提供、アウトプットの最大化、期待を超える成果とか、いろいろあるんですけど、「そうじゃなくて、コンサルタントの本質は意思決定を指南することだ」とおっしゃいました。
この言葉がかなり強烈でインパクトに残っていて。BtoB事業の本質は「お客さまの意思決定を指南すること」にあると、私の信念として根付きました。
営業は、ただお客さまのやるかやらないかの意思決定を補助しているだけに過ぎない。そこで、いかにお客さまが意思決定しやすい情報を並べるか。もし意思決定を阻害する要因があるなら、それを取り除くにはどうすればいいのか。あらかじめ全部整理しておけば、失注する理由も減り、事業も展開しやすくなる。
このプロセスこそがPMFを達成するうえでかなり重要なポイントなんじゃないかなと思っています。さっきの守屋さんのお話は、私もとても大事だなと思って聞いておりました。
<h2>「広告で広げればなんとかなる」という誤解</h2>
萩谷:ありがとうございます。非常にわかりやすい話が続いています。さっきC向けの機能面の話もあったんですけど。川崎さんは実はB向けも見られていますよね。
川崎裕一氏(以下、川崎):2人の話を聞いていて、僕は時間のだいたい7割ぐらいをこっち(B向け)に割いてた。要はスマートニュースもミクシィも広告の売上が多かった会社だから、広告を買うのは広告主なんですよね。だからやっぱりB向けの営業が僕の強みではある。
Sales Markerの話を聞いていて思ったのは、僕もけっこう広告で同じような話をしているので、そこが共通項なんだろうなと思って。広告についてはみんな誤解している人が多いですよね。とりあえずバーって広げればなんとかなるみたいな。
大事なことは、結局効果は割り算になっているわけですよね。それは見てくれないユーザーを排除する。排除というか、見ても興味を持ってくれない人を少なくすることを忘れがち。
だから要は「リーチを増やそう」「インプレッション増やそう」「クリック増やそう」として、興味がない人がたまたまクリックしたとしても、お金は1円ももらえない。興味を持ってない人が見てくれちゃ、お金がかかっちゃうから(逆に)困るわけ。
萩谷:そうですね。
川崎:そこで僕が言ったのは、なるべく御社の広告を見せないようにしたい。見せるのは興味がある人だけ。そうすればバジェットはすごく抑えられるし、成果が高いはず。
萩谷:なるほど。
川崎:そして僕がその場で約束するのは「必ず僕たちはでかくなる。でかくなるから必ず儲けさせる」ということ。最初のユーザーは少ないじゃないですか。少ない時に少ない獲得なんだけど、僕らがでかくなったら、獲得数は比例関係で絶対にでかい。
かつ初期に学習すれば、すごく蓄積するんですね。最近のAIもそうだけど、学習データを早期に獲得して貯めていけばいくほど、有利なCPA(顧客獲得単価)や獲得効率が高まることは、もともとわかっていた。
だから僕は自信を持ってユーザーにおもねらない、あまり見せすぎない。だけど僕たちと一緒にいったら必ず成果が上がるから「がんばっていきましょう」という。エモさもあるけど、僕は約束は絶対に守ると。
ロジックを積み上げただけでは、売上は上がらない
萩谷:お客さんからすると「それじゃ規模が出ないんじゃないの」という話になるけど、規模ではってことですね。
川崎:そうそう。あと僕はB向けの話は難しく考えすぎの人もいると思うんですよ。結局B向けのお客さんは、売上が上がるか、コストを下げた場合にしか買わないんです。だから中途半端なものはダメですよね。コストが直接下がったりヒットしたりするものは欲しいと。
実は売上が一番難しいんですよ。コストを下げるのはコンサルでも…というか賢い人ならできるけど、売上はバカしか上げられないんです。
(一同笑)
バカというか、要は科学のようにちゃんと説明をしつつ、テンション高くいかないと(売り上げを)作れない。
萩谷:そうですよね、わかります。
川崎:それがけっこう難しいから、「ロジックで積み上げたら、売上が上がるわけでもない」と言っておきたい。もちろん僕は超ロジカルなんだけど、でもそれだけじゃ足らないとすごく思っていて。
最後に僕がB向けだけじゃなくてなんでC向けをやっているかと言うと、僕はエンドユーザーの世界を知っているからなんです。例えば「SmartNewsのユーザーはこうだ」「mixiのユーザーはこうだ」「はてなのユーザーはこうだ」と知っている。だからユーザーと一緒に物を売ったり、彼らと一緒に協業して何かをやるのはおもしろくないですか。
そうじゃないとSmartNewsさんやYouTubeで広告を打っているのと差がなくなっちゃう。だからC向けの商売をしている人間は、Cの世界観を徹頭徹尾自分の体の中に染み込ませて営業しなきゃダメ。そこに差があるのかもしれない。
萩谷:おもしろいですね。完全にBtoBのプロダクトとは違いますね。確かにCのお客さんは、合理的なところだけじゃ説明がつかない部分もありますよね。
川崎:僕も営業トップだからなるべく合理的に説明したいと思うんだけど、合理的にやっても売れる営業と売れない営業は現実に出てくる。それは一体なんなのかは、常に頭を悩ませるわけですね。