2024.10.01
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【イグジット後のキャリア・後編】一人社長のM&A成功ポイント/成功者の共通点/勝木健太氏(全1記事)
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高野秀敏氏(以下、高野):1人の起業ってなかなか簡単に売却できない気がしていて、そのへんもすごかったのかなと思うのですが。ある程度売却することを意識されて会社をやられてたのかもしれないですけれども、売却のポイントはありますか。また、今後会社を作って売却する人のために、どうやったら売却できるのかを教えていただけますか。
勝木健太氏(以下、勝木):でもやっぱり、社員が1人もいなくて、かつ自分で100パーセント株を持ってたのが、一番やりやすかった(ポイントだ)と思いますね。
M&Aで相談とかをよく受けますけども、やっぱり経営陣、役員に株を5パーセント・5パーセントぐらい渡してるせいで利害が一致しないパターンが多い。社長は売りたい、でも役員陣はこれじゃまったくうれしくないとか。うまくいったらステークホルダーが応援団みたいになって、応援してくれる仲間を巻き込むのが会社経営の本質でもあるんですけど。
一方で重要な局面において、人間の利害はだいたい一致しない。そういった重要な局面において、人間はなかなか利己的な判断に陥りがちです。組織崩壊、空中分解。すごくトラブルになる事例もたくさん見てきました。
勝木:いろんなことを言われますけども、とにかくシンプルに経営するのが、実は一番難しくて賢いんじゃないかと。あとは、今になってわりと言われてますけど、社員0人のソロプレナーって言葉がちょっと来るかなと思ってまして。
これが言われてきたのは、このChatGPTのおかげなんですよね。要は生成AIが出てきたら本当に社員0でユニコーンを作れるんじゃないかみたいな話です。
高野:確かに。
勝木:当時そんなことを言っても「いやいや」って言われてたと思うんですけど。ただ、年々テクノロジーが進化することは間違いないわけじゃないですか。だったら社員0人でかなり伸ばせるような事業ができてくるんじゃないかって思ったんですよね。
実際今でも、例えばメンタリストのDaiGoさんなんて、個人ですけど営業利益はそのへんの上場企業よりも遥かに上ですよね。
高野:あの人はモンスターレベルですごいです。
勝木:だから大きな流れとして、テクノロジーの進化が個人のエンパワーメントにつながってるので。今、私も会社を作ってますけど、会社って概念が形骸化していく流れもちょっと感じてます。
高野:売却したソロプレナーで言うと、3~4億円ぐらいの規模だから、けっこうトップレベルというか。
勝木:もっといますけどね。
高野:motoさんがトップ級なんですかね。
勝木:あとは私の知人でも、たぶん私の金額よりも遥かに大きい方がいますし、めちゃくちゃいると思いますね。
高野:(笑)。ソロプレナーイグジットの時代っていうのはニッチですけど、けっこう人気が出るかもしれないですね。
勝木:そうですね。ソロプレナーは、もちろんチームがないのと、属人性って言われがちなんですけど、ロックアップ(IPOの売り出しから一定の間、株主による保有と新規発見の発行の停止を保証させる契約制度)をつけると、属人性という話がなくなる。ロックアップ期間中に「属人性100パーセントから減らしていきます」みたいに言うとか。
なので、意外と個人で属人的なものは売れないって言われがちなんですけど、ただ、シンプルなので、すごくリスクファクターもないんですよね。
だから実はどっこいどっこいで、むしろソロプレナーのほうが売りやすいという説はありますね。組織カルチャーとのマッチとかも、別に社長同士がマッチしてたら大丈夫というか、そのへんもPMI(M&A後の統合プロセス)が実はしやすいんじゃないかなって感じてます。
高野:その売却のポイントを考える時に、大きい会社をやるのもいいんだけど、やり方によってはソロプレナーでやるのも、実は売却や利害関係を調整しやすい。そういう言い方をしてる方って勝木さんしかいない気がするんですけど、実はそういうこともあるかもしれないんですね。
勝木:そうですね。最近もM&A BANK出身の福住優さんって方から、「勝木さんと同じ社員0人で売却された方を今度おつなぎします」って言われて。意外とけっこういるんですよね。
高野:これは1つの新しい流れですかね。今まではたぶん、たくさんはいなかったはずですけども、こうやってまた事例が出てくると参考にしてやる方が出てきますよね。
勝木:そうですね。私もちょっと再現性を見せるためにもう1回ぐらいやりたいんですけど、やっぱり社員さんがいたりファイナンスとかしてると、10億円ないと株主が満足できないパターンとかあります。ただ10億円ってなると、買い手側からしたら相当慎重になりますよね。
高野:普通に考えたら1年間に2億円ぐらいは利益で、5年以内、できれば3年ぐらいで投資したお金を回収したいと思うので。じゃあ5億円ぐらい利益が出る会社って言ったら、そもそもその会社はある程度上場見えてるじゃんってことですよね。
勝木:そうですよね。
高野:だから高いレベルを目指しすぎちゃうと、かえって売却はしにくくなるというか。日本はIPOと売却の時のバリエーションの解離がかなりあると思います。
「いや、うちの会社、バリエーション60億円なんで」っていう人が、60億円で売るのはもうほぼほぼ0。それが30億円でも無理なイメージですよね。
勝木:私が最近聞いたのは、例えば日本を代表する総合商社からしたら、10億円のM&Aで仮に減損になっても小さいと思うじゃないですか。でも決してそんなことはないらしくて、減損は減損でやっぱり監査法人とか銀行からの目線が変わっちゃうと。
高野:まぁ、失敗したってことですからね。
勝木:「あなたたちのリスク管理能力はどうなんだ?」と。下手に貸倒引当金とか積み増されたり、全社的にいろんな影響が出てくるって話を聞いたんですよね。
高野:一般的には、20億円でのベンチャー業界で売却、買収があったって言ったら、「おお、すごいな!」ってなりますもんね。
勝木:そうですね。やっぱ日本の会計基準、実はちょっと難しいですよね。米国とかIFRS(国際会計基準)だったら、のれんの償却問題がありますし。あと、タレントバイが起こりにくいのも、アクイ・ハイヤー(買収による人材獲得)も、全部のれんですからね。
高野:じゃあ、みんなIFRSにすればいいってことなんですか。でもそうすると、僕の仕事の観点からいくと、国際会計基準に従った管理本部長を探すのが難しくなって、あんまりいないって現象が起きちゃうんですけども。
勝木:そうですね。でも今、世界的には日本のような保守的な会計基準ののれんの償却に移そうって流れが強いらしいですね。でもM&Aで狙う側からしたら、困りものですけどね。
高野:M&A的には米国型というかIFRS型がいいけど、日本型のほうが監査とか会計の感覚で言うとあんまりトラブルが起こりにくい。なんか、仮想通貨取引所みたいな話ですか?
勝木:(笑)。
高野:日本は問題が起きたから一番セキュリティがしっかりしてるって聞いたんですよね(笑)。
勝木:適正価格で売るのが基本だし、やっぱりM&Aは値段だけじゃないですよ。もちろん売れたほうがキャピタルゲインで金融資産は手に入りますけど。プラスどこに売却したとか、売却後ちゃんとロックアップ中がんばって伸ばしたとか。これは金融資本だけじゃなくて、人的資本とか。
あとはM&Aの売却後に培った、その売却先との社長との絆とかですね。あとは、M&Aした後にいろんな紹介とかをされることも増えますし。イグジット組の交流とかも含めると、M&Aで得られるものは金融資産ばかりが思いつきますけど、そういう人的資本とか社会資本、自分の稼ぐ力とか(もあります)。
あとは大企業、売却先で部長を2年間やった、執行役員2年間やったみたいな。そういうのも非常にキャリア的には大きな積み上がりですから、お金だけじゃない、総合的な資産になる気がしますね。
なのでけっこうM&Aでの相談には、「名の知れた会社にだったら、別に値段を気にせず売っても、だいぶ箔がつくよ」って話はしています。
高野:実際、上場企業のみらいワークスさんに売却されて、今度上場企業さんの幹部もやられたと思うんですけど、やはりぜんぜん違いましたか。
勝木:毎月の取締役会とか執行役員会とか、上場企業特有のけっこう精緻な予実管理みたいなところの感覚は、1人でスモビジをやってる時には身につかないので、2年間経験してみて、すごくイメージが湧きましたね。
高野:勝木さんは銀行にもコンサルにもいた方なんで、事業会社にジョインした時にも合わせられるタイプだったのかなと勝手に思っていました。別に学生起業家を否定するとかは一切ないんですけども、まったく会社員経験なくやった方で、イグジットした後にちょっとメンタルが来ちゃったという友人も実はけっこういて。やっぱり会社員としてやってた人のほうが合わせられるのかなと、ちょっと思ったんですよね。
勝木:それもあるかもしれないですね。あとは私の場合は1社目を売却して、2社目ももちろん(売却を)考えていました。その時に当然ちゃんと伸ばして2年間やったのは、次につながると思ったので。ある意味ちゃんとがんばり続けることのインセンティブ設計がありましたよね。
高野:すばらしい。そういう意味では、売って終わりじゃなくて、その後もきっちりやられたし、成果も出たってことですね。
勝木:そうですね。私は別に根っからの起業家気質じゃないので。もしかしたら20~30年後は、超大企業で新規事業の統括の執行役員とかやっていたいかもしれない。その意味で、大企業的なキャリアもぜんぜん捨ててないです。ここで学ぶべきものがすごく貴重だと思っています。
高野:最後に、勝木さんはかなり運気を大切にしてると聞いています。自分も会社を長くやっていて仲良くなってくると、この運の話になることが多いんですね。勝木さん流の、運をつかむポイントがあれば教えてもらいたいなと。
勝木:一番簡単なのは、やっぱり掃除ですよね。大谷翔平さんの奥さまもだいぶ験担ぎとかお掃除とかされていたりするので、けっこうそういう各業界の超一流の方や経営者の方は、運気を重要視される方が多いですよね。
私の中では、特にトイレ掃除がおすすめです。これをやると心が整うというのと、いろんな汚れに気づけるようになるので、事業の汚れにも気づけるようになった気がしますね。
高野:なるほど。おもしろすぎる! やっぱりお掃除は大事ですね。
勝木:「どこの部分を見るようになって、事業は伸びたんですか」って問われたら、明確には答えられないんですけれど。ただ無意識レベルでたぶん「ちゃんとしよう」「きれいにしよう」ってマインドが身について、ちょっとした微差が積み重なってすごく大きな差になる気がしています。
私は掃除を起点にした経営改善コンサルとか、いずれやるかもしれないです。
高野:掃除が大事だっていう名経営者もかなり多いですし、歴史のある会社だと5S(職場環境の改善や維持のために用いられるスローガン)みたいなことを言う方が多いので。理由がなかったらみんな言わないと思うので、きっと何かあるんだろうなとは思いますね。
勝木:そうですね。あとはもしかしたら、掃除とか神社参拝とか、いわば験担ぎじゃないですか。験担ぎそのものに見えないパワーがあるって私は思っています。経営で一番難しいのって、うまくいくかわかんない、勝ち筋が見えない中でがんばり続けないといけない中で、ある種狂信的な、「絶対これでうまくいく」って思い込みがないと、つき抜けるレベルまでやりきれなくて、心が投げちゃうと思うんですよね。
私も売却した後に「こうしてこうしてうまくいきました」って言ってますけれど、実際はもっと暗中模索なわけですよね。こっちでうまくいくかな、そもそもこの事業がダメなんじゃないかとか。
この暗中模索をして形にしないといけないところの、ある種の精神安定剤というか拠り所になってる気もしますね。それぐらい徹底的に何かを突き詰めたら、だいたいなんでもうまくいく気がするんです。例えば、集客スタイルだったら、YouTubeをひたすらやるのでも、Xをひたすらやるのでも、どっちでも正解かもしれないじゃないですか。
でも自信が持てなくてYouTubeも中途半端にやり、Xも中途半端にやり、インスタも中途半端にやり。結局何も起こらないみたいなことがある。その時に、スピリチュアルなパワーを使ってでも、「もう絶対にこれでうまくいくんだ」と思い込む力みたいな。思い込みが激しい人は成功者が多いですね。
高野:そうですよね。マインドセットが大事で、セルフマインドセットができてますよね。
勝木:極端な思考が、実は良くも悪くもレバレッジが効くと思うんですよね。ある種、因果関係じゃなくて、単なる相関関係で。神社とかも、「神社に行ったからうまくいったんじゃ!」 って創業者の方が思い込んでるだけかもしれない。
でもその思い込みが謎のフィードバックで、うまい方向に流れを作っていくみたいな。謎の思い込みによってレバレッジをかけている可能性がありますね。
高野:今日はキャリアについてと、起業、そして売却。最後は運気ということで、かなりバリエーションに富んだ、さまざまな話をうかがいました。ありがとうございました。
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