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日本から世界へ: イチゴ植物工場が生みだす200兆円産業(全5記事)

世界で戦うため、日本発の「イチゴ」で勝負をかけた理由 投資家も注目するスタートアップ「Oishi Farm」CEOの狙い

アメリカ・ニューヨークを拠点にする植物工場ベンチャーであるオイシイファーム(Oishi Farm)は、日本生まれの甘いイチゴを工場生産して高い注目を集めています。創業者CEOの古賀大貴氏と、オイシイファームの初期投資家の川田尚吾氏が、日本発メガベンチャーの可能性を語りました。本記事では、24時間工場内をロボットが走行しデータを管理する、オイシイファームの植物工場について解説します。

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Oishii Farmの初期投資家が確信した可能性

後藤直義氏(以下、後藤):川田さんはOishii Farmの初期投資家ですが、もちろん植物工場といえば、日本はシャープや東芝というメーカーをはじめとして、一時期は山のようにレタス工場みたいなものを作ったわけですよね。

ある日古賀さんがやってきて、「イチゴの植物工場をやりたい。金をくれ。ただし技術は別に見せられるものはない。でも、絶対に儲かるんだ」と。なんでこれを信じられるわけですか?

川田尚吾氏(以下、川田):いわゆるアーリーステージのインベスターってみんなつながっているから……。

後藤:つながってますよね。

川田:「最近こういう案件が来ているんだけど、ちょっと怪しいんじゃないか?」(という話が当時はあった)。

後藤:「古賀が怪しい」と。

川田:一部、言われていて。

後藤:(笑)。

川田:「わかった。俺が確かめる」と。それで、いろいろ(古賀氏と)ディスカッションしていたんですよ。ただ、USのNavy出身のブレンダン(・サマービル)という共同創業者がインテリジェンス部門にいたから、情報統制がすごく厳しいんです。

後藤:なるほど。

川田:それで、「投資家にならないと技術は見せられない」と。

後藤:金を出すまでは教えないと。

川田:うん。「困ったね。どうしようか?」と議論していたら、彼(ブレンダン)が「ミニマムロットの出資だけしてくれ。そうしたら投資家になるから、いろいろと細かい技術を見せる」と返して。

古賀大貴氏(以下、古賀):(川田氏が)「1,000万円だけ出資する」と。

川田:そうそう。

後藤:1,000万円。

川田:数千万円出そうとしていて、1,000万円だけ出して。確かに1,000万円はけっこうな金額なんだけど、スポーツカーを買って、翌日にすぐ全損事故で壊しちゃったと思えば、まあいいかなみたいな。

後藤:(笑)。ベンツ1台分ぐらいで、古賀さんの手の内を見てやろうと。

川田:あと、「一部だけ出したら見せます」という切り返しも、ビジネストークとしてはすばらしいじゃないですか。

後藤:そうですね。

川田:それで「わかった」と出して、いろんな技術を見せてもらって、「これは本当に行くな」というふうに確信して。

後藤:確信した。

日本で植物工場がうまくいかなかった理由

後藤:何を確信したかは次のパートでしゃべっていただきたいと思うんですが、「(植物工場の中で)俺だけは潰れない」ということについて、古賀さんが「この図を見てくれればわかる」と言うのでこれを持ってきました。古賀さん、これはどういう図ですか?

古賀:要は「なぜイチゴが戦略的に一番正しいのか?」というのを端的にまとめたものです。結局、日本で植物工場がうまくいかなかったのは、みんなレタスしかやらなくて儲からないからだったんですね。

なので、まずはとにかく「儲かるぞ」ということを短期的に示してあげることが非常に重要だと考えた時に、どんな作物だったら一番品質に差が出て、既存品とアービトラージが取れて、高い値段で売れるかということを考えたんですね。

なので、レタスのコストを下げることよりも、売値が高く、レタスの何倍も売値がつくような作物でやったほうが筋がいいだろうということで、まずは「その作物ってどんなものがあるかな?」というのを考えたのが1つ目ですね。

2つ目が、これはレタスの植物工場でそうだったんですが、結局誰でも簡単にまねできるものであれば、万が一儲かるとなって、次の日に誰かがものすごい資本で入ってきたら、もうやられちゃうわけですよ。

なので、まだ誰にもできなくて、みんなが「できない」と言っている難しいもの。花が咲くような作物じゃないと、たぶん中期的にテクノロジーモートで守ることができないだろうというのが2つ目の理由です。

最終目標は「世界最大の農業生産者」になること

後藤:3つ目が一番重要で、最終的に10年、20年、30年後を考えた時に、植物工場レースがどういうふうになっているかと考えると、たぶん電気自動車と非常に似ていて。

最初の10年ぐらいは、各社で技術優位差があるので食っていけるんですが、だいたいうちができるということは、そのうち他の人も追いつくようになると考えるのが普通です。そうなる時までに「イチゴといえば」「野菜や果物といえばOishiiさん」という圧倒的なブランドを作る。

「イチゴといえば『あまおう』」という、あの「あまおう」の牙城を崩すのって、やはり難しいんですよ。どんなにおいしいイチゴを後から作っても、なかなか塗り替えられない。「このポジションを最初に作ることがすごく重要だな」と考えて、この3つができる作物という観点で考えた時に出た答えがイチゴだった。

トマトもけっこういい線は行くかなと思ったんですが、やはりブランドを作るという意味ではイチゴかなと。なので、別にお金持ちに高級イチゴを売りたいからやっていたわけではまったくなくて、世界最大の農業生産者になる(ことが目標だった)。

世界最大の植物工場って、長い目で見ると自動的に世界最大の農業生産者になりますから。なのでそこに行き着くために、「どこで始めるのが一番戦略的に正しいのか」ということを考えてイチゴを選んだということですね。

ニューヨークにおけるイチゴの需要

後藤:川田さん、どうですか?

川田:加えて言うと、僕はスタートアップのアーリーステージへの投資が多かったんですが、とはいえ投資のプレゼンの時に「本当に市場が立つんですか?」みたいなことってみんな言うじゃないですか。

後藤:言いますよね。さすが、そのとおりですよね。

川田:だけど、「じゃあ本当にニーズはあるの?」というところはわからないじゃないですか。

後藤:わからないですよね。

川田:ところがイチゴに関して言うと、アメリカでは西海岸で作ったイチゴをバカでかいトラックでえっこらえっこら運んでいって売るから、そもそもアメリカのニューヨークで売られているイチゴはみんな硬くて。

後藤:酸っぱいですね。

川田:保存できるように、移動に耐えられるように、硬くて酸っぱいんですよ。それをニューヨークのマンハッタンを渡ったところで作ったら、こういう柔らかいトマトもそうだし、先ほどみなさんが召し上がられたイチゴもそうなんですが、すぐ持ってきて売れるじゃないですか。

要は、そういうイチゴがまったく存在しないところで売るわけだから、ビジネスリスクがないんですよ。つまり砂漠で水を売るようなものです。

後藤:いやいや、水ではないです。ストロベリーって、別に毎日食べる必要はないですよね。

川田:(笑)。

日本発の高品質のフルーツを世界に届けるために

後藤:奥さんの誕生日とかに「おめでとう」と言って買いますが、毎日毎晩ストロベリーを24時間365日作れたところで、テスラのモデルSみたいなプレミアムストロベリーを全員が買うのか? という話ですから、そこらへんはどうなんですか?

古賀:もちろん全員がモデルSを買えるわけじゃないですが、モデル3になってくるとまた買える人の数が増えて、モデル2と1があるのかちょっとわからないですが、もし100万円で全自動のテスラの車が買えたら、たぶん全員それを買うわけですよね。

もし完全無農薬の「あまおう」が、毎日お近くのスーパーで300円、400円で買えたら、たぶん買いますよね。なので、最終的に行き着きたいゴールはそこです。

だけどそこに行くまでの間に、テスラだって最初はロードスターというものがあって、年間で500台しか作れなくて、2,000万円もした。でも、電気自動車なのにポルシェよりも速いということでブランドを作っていって、そこからちょっとずつ安いものを出していって、マーケットを広げていったわけですよ。

イチゴのマーケットをグローバルで見ると5兆円ある中で、最終的には当然一番安いところまで行きたいんだけれども、まずは上位1割。ここだけでも5,000億あって、上位1パーセントでも500億円あるわけですよ。なので、ここから順に潰していくということですよね。

後藤:ありがとうございます。

川田:さらに言えば、やはりフルーツって日本が圧倒的においしいじゃないですか。

後藤:おいしいですよね。

川田:海外では、千疋屋みたいな位置づけの高級フルーツって本当にまだ限られたマーケットしかない。だけど、これが本当においしく気軽に買えるようになると、アメリカのスイーツ市場にも入っていけるからリプレイスがあるので、投資家的にはそこも非常に期待したいですよね。

後藤:投資家的にはね。ありがとうございます。

たった3人でゼロから作り出した最初の工場

後藤:それでは、山のように聞きたいことはあるんですが、2問目の「そもそもどうやって始めたのか?」というところに行きましょう。

日本というのは長年、やはり「海外で勝てる産業を作りたい」と。GoogleやAmazonやAppleみたいな会社がなかなか出ないんだけど、どうやって海外で勝ったらいいかわからんということで、20~30年悩んできたわけですよね。ついぞソニーやトヨタみたいな会社はまだ出ていません。

Oishiiはそうなりたいと言っているわけですが、それはどうやって始めたかについて、次に古賀さんにうかがいたいと思います。

古賀:そうですね。最初は本当にシンプルで、さっきのスライドの「なぜイチゴか?」という戦略は最初からあったので、あとはとにかくイチゴをなんとか作れるようにしようというところでした。

イチゴの植物工場を作ろうとした人は日本にもけっこうたくさんいたので、そういった人たちからアドバイスをもらいながら、自分たちでLEDとか棚とか機材を全部日本から輸入して。それで、私とファウンダーのブレンダンと、もう1人インターンの男の子がいたんですが、この3人でゼロから(作りました)。

後藤:これ、手で作っているの(笑)!?

古賀:これを手で1個1個(作りました)。(対応しているのが)日本の電圧なので、ワイヤーを全部切って。ソケットとかもアメリカは違うので、YouTubeでどうやってつなぐのかとかを勉強しながら、本当に1本1本全部お手製で……。

後藤:古賀さんって技術者じゃないですよね?

古賀:僕も違いますし、ブレンダンも違うし、このインターンの子も当然違うんです。

後藤:文系3人で手作り植物工場、みたいな。

古賀:そうなんです。LEDのドライバーが何百個とあるんですが、エンジニアが入ってきて最初に言われたことは「これ、全部1個のドライバーにできるよ」。何時間もかけて何百個も作っていたんですが、それぐらいなんだかわからない中でやっていましたね。

川田:僕が最初に入れたお金はこういうものになっていったんです。でも、僕は基本的に研究室でいろいろとハードウェアもやっていたから、こういうのを見るとちょっと胸が高鳴るわけ。

後藤:高鳴るのはいいんですが、この写真だとイチゴができる気がしませんよね。

川田:(笑)。イチゴがないよね。

後藤:教科書とか設計図みたいなデファクトは一応あるんですか?

古賀:そういうことをやっていた人たちから指導を乞いながら、「だいたいこんなような感じでやるんだろうな」というのは多少ありましたね。

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