2024.10.10
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多くの企業において、異なる領域で新しいビジネスの種を見つけ、育てる「新規事業開発」が求められる中、リブ・コンサルティングが開催した「事業開発SUMMIT2023」。今回は、今年4月に出版した『新規事業を必ず生み出す経営』が話題の新規事業家・守屋実氏のセッションの模様をお届けします。新規事業家として30年余りの経験を持つ守屋氏が、大企業とスタートアップそれぞれで「事業開発に向かない人」について語りました。
権田和士氏(以下、権田):続いて、JR東日本のお話をお願いします。
守屋実氏(以下、守屋):JRは鉄道輸送業で、全部署を挙げて役割分担をしながら、終電から始発までみんなで手分けをして定時運行を守るようにがんばっている会社です。
じゃあ鉄道輸送業ではない新規事業をやろうとする時に「定時運行に寄与しますか?」と言うと、寄与しないんですよね。だから、本業のそばでやると、どうしても影響を受けちゃう。その時に、当時の社長だった方が「出島を作るぞ」と。
そこに50億円のお金を予算として入れて、当時経営企画室の柴田さんという方を社長として送り込んで、柴田さんは自分の信頼できる2人を連れて、3人で出島の事業会社が立ち上がった。
まず、ここがいいと思うんですよね。どうしても本体にいると本体の影響を受けるんですけども出島を作ることができた。僕は出島原理主義者じゃないので、何でも出島がいいとまで言わないですよ。ただ、JRでは出島が作れて、鉄道輸送業以外の何かをやるぞとなった。
そこに柴田さんというリーダーシップのある方がいて、この方が自分の信頼できる部下を連れて行き、言ったわけです。「本気でやれ。本体に戻ることをマイルストーンに置くな」と。これを1回だけではなく、常に言い続けていたんですよ。
これがけっこう大事だと思っていて、どうしても大企業の新規事業、例えば出島とかでも、2〜3年の長期研修に近いと見えると思うんですよ。戻ることが前提になっていて。
「いやいや、新規事業は誰かの本業です。中途半端な半身でひっくり返せますか?」と。柴田さんが、常にみんなに対して言い続けたことは、僕はすごく大事なことだと思うんですね。そこで、「じゃあ」と言って腕まくりしてがんばった人がいたのもまたすごい。これは阿久津(智紀)さんという方だったんですけども。
守屋:(スライドの)一番左の「TTG」と書いた事例です。
JR東日本にはキオスクという駅の売店があります。お気づきになった方がいらっしゃるかもしれませんが、ちょっとずつキオスクは退店していたんです。売れないからじゃないんですよね。働く方が手配できなかったんです。
そこで、すごく混んでいるキオスクは今まで通り人を採用して、ちょっと空いているところは無人キオスクにして、すごく空いているところはウルトラ自販機にしようと。
「でも俺たち、ウルトラ自販機も無人キオスクも作ったことないよね。じゃあ作ったことのある人、作れる人を大募集」といって、スタートアップに声を掛けたんですね。このやり方で、TTGを立ち上げたんです。
実際、自分たちで四の五の考えるよりも、スタートアップの人たちが来るほうがよっぽど効率的だったんですね。スタートアップからすると、JR東日本のキオスクが手に入るわけです。おいしくないですか?
権田:そうですね。
守屋:どう考えてもおいしいからみんなやってきて、渾身のプレゼンをしてくれる。「これがいいかな」と思ったのがあったので、埼玉県に大宮駅という大きな駅があるんですけど、そこで実証実験をしました。
完成形とは言えないけど、がんばるに値する結果が出ました。それを磨いた上で、今度は東京の赤羽駅で実証実験をやりました。そこでけっこういけた。
最後のちょっとしたところを詰めて、高輪ゲートウェイという山手線の新しい駅に1号店を出しましたという話です。このあたりの立ち上げ方は、むちゃくちゃ解像度があると思っています。
守屋:自分たちの課題を基に立ち上げたんですけど、単にキオスクを無人キオスクにしただけかというとそうでもなくて。世の中のコンビニエンスストアで働く人が高齢化する中で、コロナも来て、無人化・省人化したいという話になった。じゃあということで、ファミリーマートさんと話をして、1,000店舗に導入した。
権田:すごいですね。
守屋:今は無人AI決済システムとして、省人化を実現するシステム販売会社として巣立っています。最初はキオスクのためだったけど、JRのその課題はコンビニエンスストアなどいろんなお店の課題と合致していたので、それをそのまま広げていった。今は資金調達もして、上場に向かってがんばっています。
権田:課題を投げて、問題解決は他の人たちが別にやればいいわけなので、これはめちゃめちゃ再現性があるというか。自分たちで全部やる必要はなく、うまくみなさんを寄せながら問題解決していく。
守屋:そうですね。
権田:しかもそれが1つのパッケージになり、その仕組み自体が広がってファミリーマートさんまでいくという。
守屋:そうですね。これはJRだけでなく、いろんな企業さんにおいて再現性があると思っていて。やるかやらないかなんです。
幸いJR東日本は、「みなさん、情報をどうぞ」とむちゃくちゃオープンで、JRの事例はいろんなところで語られていたりするので、ぜひそれを参考に、「我が社なりの」というものを作っていただけたらいいなと思います。
権田:なるほど。スタートアップと大企業、それぞれかなり具体的な事例をおうかがいさせていただきました。
権田:最後にあらためて、今日は事業開発リーダーの方が多く参加されていると思うので、事業開発リーダーは「こういう人が望ましい」「こういう人はちょっとうまくいきづらい」とか、「リーダーとしてこういうことを考えるべきだ」というお話をいただければと思います。
守屋:そうですね。(スライドに)大企業の社内起業と、スタートアップの中でこじらせてしまう典型的な人を2人ずつを書いています。
権田:わかりやすいですね。
守屋:1人目は、一番上の1行だけ読んでください。「サラリーマン症候群を患っている人」です。
新規事業の責任者って創業者みたいなものじゃないですか。オーナーシップを持って、「我が事としてがんばる」が必要だと思うんですね。でも、「アサインされただけです。業務としてやって、9時から働いて18時になったら帰ります。残業できませんから」みたいな。
このマインドではどう考えてもムリで、サラリーマンの悪いほうが出ちゃっていると思うんです。「人ごと」みたいな。これが「サラリーマン症候群」。これを患っている人がけっこういます。
次が、「安全地帯依存症」。
これはどちらかと言うと新規事業の事務局みたいな、「やらせるほう」というんですかね。要は、自分は火の粉は被らないところにいると。安全地帯にいて、「やれ」と言っている。
なんかいろいろと語っているんだけども、結局その人は何をしているのかというと、社内の誰かに新規事業を発注して、その発注管理をしているだけみたいな。常に自分は安全地帯にいて、うまくいった時は俺のおかげみたいな。
権田:パワーワードですね。「安全地帯依存症」。
守屋:ありがちだと思うわけですね。そもそも大企業にいるというのは、安全性が担保されているからそこにいるという部分もあるので、しょうがないっちゃしょうがないんですけど、ちょっとこの類いはあると思っています。
守屋:一方のスタートアップでは、1個が「オレたちイケてる症候群」。
「オレたち」というと男性限定なのかという話になっちゃうんですけど、比較的男子校のサークルっぽくって、健全な自信をちょっと過ぎちゃって、「やばいぞ、その過信」みたいな。
実はあまりうまくいっていなくて、ところどころに綻びがあるのに、「オレたちはイケているんだ」とアピールする。これも「あまり良くないよね」と思っています。
最後が「賢者の沼依存症」。
先ほど言った「オレたちイケてる症候群」の人たちは、「オレたちはイケてる」と言ってあまり聞く耳を持たないんですけど、これは逆に「どうしたらいいですか?」と聞きすぎちゃう。
これはあなたの事業ですよね。顧客のためのあなたの事業なのに、いろんな人に聞きまくって、賢者の言葉に左右されてしまう。これはこれでダメじゃないかと思っていて。
これらがけっこう頻出する4パターンだと思っています。
権田:なるほど。先ほどの事業の失敗パターンもそうでしたが、事業リーダーに関しても、うまくいかないほうの内容をパターン化していただいています。「こうならないようにしましょうね」というところで、参考になるかと思います。
守屋:こうならないために一番大事なのは、僕はこれだと思います。「意志ある先に道は拓ける」。前に進む人の前に道は拓けると思っているので。
いろんな失敗事例を中心にしゃべったんですけども、「じゃあどうしたらいいの?」という話で言うと、「意志を持て。失敗事例はたくさんあるんだから、それに学べばあなたは失敗しにくくなる。十中八九うまくいかないんだったら、うまくいく1個か2個に行き着くようにがんばろうよ。そうしたら絶対に道は拓けるよ」と思っています。
権田:なるほど、ありがとうございます。「意志が一番重要ですよ」ということで、守屋さんも17戦しているんですものね。
守屋:そうですね。負けまくっていますね。
権田:なかなか17戦している人はいないので、それがすばらしいですよね。なので成功も失敗も含めて、意志を持ってどんどんやっていく方が拓けていくということなのかなと思って聞いていました。
あと1時間でも2時間でも、おうかがいしたかったんですけども(笑)、時間がちょうど来てしまいましたので、以上とさせていただきたいと思います。
守屋さん、本日はありがとうございました。
守屋:こちらこそありがとうございました。
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