2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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多くの企業において、異なる領域で新しいビジネスの種を見つけ、育てる「新規事業開発」が求められる中、リブ・コンサルティングが開催した「事業開発SUMMIT2023」。今回は、今年4月に出版した『新規事業を必ず生み出す経営』が話題の新規事業家・守屋実氏のセッションの模様をお届けします。新規事業家として30年余りの経験を持つ守屋氏が、顧客を観察して見つけた「勝ち筋」などを語りました。
権田和士氏(以下、権田):今日はスタートアップの会社さんも大企業の会社さんも来ているので、ここからは具体的な事例をお話しいただければと思います。
守屋実氏(以下、守屋):まず、ラクスルという会社がどうできたのかみたいなお話を少しできたらと思います。大前提として、松本(恭攝)さんという創業者がすばらしかったというのがあるんですけど、それを「松本さんすごい」で終わらせちゃうと、誰も何も参考にならないので、少し違うアングルから説明したいと思います。
ラクスルの初期の初期の頃のお話です。僕は松本さんが会社を登記して翌々週に出会っています。ラクスルという事業がどうできたかというと、松本さんが雷に打たれたとか、突然ひらめいたという話ではなく、ミスミに倣ったビジネスモデルと、エムアウトに倣った事業開発手順で作っているんですね。
これは僕から見た景色なので、多少僕の色が強く出過ぎちゃっている部分はありますが、でも実際に、ミスミに倣ったビジネスモデルというのは本当なんです。というのは、松本さんはA.T.カーニーという会社にいらした時に、コスト削減プロジェクトをやっていました。
いろんな会社のコスト削減をしている時に、印刷という費目は相見積もりをかけるとスコンと下がる。がんばって工夫して下がるというよりは、相見積もりをかけると下がると。コスト削減プロジェクトの人間からするといいじゃないですか。
でも途中から、そんなに簡単に下がるということは、「このプライシングは何なんだ? 事業の構造って何なんだ?」と。そこにまず、僕はセンスがあると思うんですよ。
その後、松本さんは前職でいらした会社の中で、ミスミという会社をビジネスモデルのケーススタディにして、「印刷の市場にミスミのモデルでビジネスをガッチャンコしたら、これはいけるんじゃないのか?」と。ここもセンスですね。
「だから、元ミスミとか現ミスミのやつに話を聞いてみたい」。で、実際に動いたのが最もセンスがあるところだと思うんですけど、結果としてたまたま僕のところに来てくれたんですね。いろいろと話をして、「これは、松本さんの言っている通りだわ」と思いました。それで、「入れてください」とお願いをして、そこから関係性を持たせてもらいました。
守屋:「ミスミモデル」というのは、この図の上のほうです。
大昔、お客さまと営業マンがいました。お客さまが何か言うと、営業マンが「わかりました」と言って、工場に相見積もりをかけるんですね。こなれた値段が出てくるとお客さまが注文する。これは今も存在する都度発注の世界、特注品みたいな世界だと思うんですけども。
これが非効率だよねということで、1977年にミスミの創業オーナーの田口さんが、カタログ通販という標準化みたいなことをやりました。
この時に「持たざる経営」とうたっていたんですけども。いろんな工場に相見積もりをかける時に、自社で工場を持つのではなく、「工場の空いている未稼働なところを都度都度発注に使います」みたいな。
要は今で言うシェアリングエコノミーですね。そんなビジネスモデルを使ったんですね。で、躍進して、今は時価総額1兆円くらいの会社になっています。
松本さんはケーススタディで学んだ時に、印刷会社も世の中にたくさんあって生産能力が過剰にあるから、だいたいどこの会社も空き時間がある。そこをシェアリングしたらいけるんじゃないのかと。右上の図ですね。
実際に「守屋さん、印刷のシェアリングエコノミーってアリ?」という話をもらって、「本気でアリだと思う」と。なぜなら、昔ミスミで検討したんですよね。ただ、ネットがなかった時代だったので僕たちは諦めたんですけども、ネットができた後に松本さんの話を聞いたらできるなと思って。
これがミスミのモデルに倣ったという話です。それで、やるドメインとか、ビジネスの骨格みたいなものがなんとなくは見えてきた。
守屋:それが本当にいけるのかを試したのが下の図です。エムアウトの開発手順ですけども、「いける。じゃあゴー。どーん」じゃなくて、仮説して、実証して、実証が終わった後に参入しましょう。
今だとPoCとかPoBとかPMFとか、片仮名があると思うんですけども、当時はなかったので、僕たちは「仮説」「実証」「参入」と言っていました。
「まずはちゃんとした仮説を立てよう。その仮説が本当に合っているかどうかわからないから、実証実験をしよう。それがうまくいったら本気で入ろう」という3ステップだったんですね。
それを実際にラクスルでやったのが、右側の図です。グレーとピンクと黄色と、見にくいんですけど青の細いバーの4段階です。エムアウトで考えたのは3段階だけど、実際のラクスルの現場では4段階だったんです。
まずグレーで、僕たちは最初、資本金200万円で立ち上げています。ECってむちゃくちゃ金がかかるので、まずはポータルサイトをやりました。「印刷比較.com」みたいな感じなんですよね。A4のチラシを5,000枚だったらここが一番安くて、7,500枚だったらここで、カラーにするとここですと、そんなのをやりました。
これがけっこうウケて、毎月20万人ぐらいの人が「印刷したいよ~」とサイトを訪ねてくれ、「じゃあ印刷するね」という会社が1,000社ぐらい来てくれて、そのトラフィックを見ていたんですね。
これで僕たちはなんとなく仮説が立てられました。「印刷会社ってこういう構造で、何でも印刷できるわけじゃないんだな」「お客さまってこういうことがわからないんだな」「ここってトラブるんだ」。そういうのを見て、満を持してピンクに入りました。自分たちのECの立ち上げです。
その時に、図で見てもらうとわかるんですけど、売上が伸びていない。なぜかというと、実証実験をしていたからですね。
権田:なるほど。
守屋:売上を伸ばすことや利益を出すことを必死にやるのではなく、「俺たちの勝ち筋は何か? それが決まったらどーんといくぞ。それまでは、伸ばすことよりも、儲けることよりも、試すことのほうが大事だ」と考えました。
守屋:基本線はいけそうだなと思ったので、今度は黄色のところに入って、詳細を試します。例えば「注文」ボタンは、オレンジと緑だとオレンジが1.3倍になるとか。
そんなのをいろいろとやる中で、自分たちの勝ち筋だと思ったことが右上に書いてあります。印刷会社は印刷したがる。だから、ラクスルは印刷物を楽にするためにシェアリングしたんですけど、お客さまからすると課題は「刷る」だけではないんですよね。例えばチラシを1万枚刷った人って、たぶん刷ることも困っていたんですけど、配ることにも困っていた。
権田:なるほど。
守屋:お客さまの一区切りに合わせると、「刷って配る」じゃないかって。そういう区切りをつけたら、これまたすごく良かったんです。チラシを1万枚刷ると1枚1円ですけど、刷ってポスティングすると10円なんですね。
要は客単が10倍になって、お客さまからは喜ばれて、既存の印刷会社さんは「刷る」だけど、僕たちは「刷って配る」と構造的に違っている。「これが、勝ち筋だ」と、どーんといったら、前月比30パーセント成長を作れました。
たぶん多くの企業では、ラクスルで言うピンクとか黄色のところでしびれを切らして、試して試して試しまくるということをやらずに、「Day1からちゃんとせえ」みたいな話になると思うんですよ。だけど、Day1から全部わかっていたら世話がないと思っていて。
僕たちも、「刷って配る」にオリジナリティがあって客単価が10倍になるとは参入前にはわからなかったんですよ。
権田:そうですよね。
守屋:「注文」というボタンをオレンジにすると緑の1.3倍になるというのもわからなかった。これは事業会社もそうだと思うんですね。捏造した仮説や、勇気を振り絞って作った作文ではなくて、本当に試してわかったもののほうがいいに決まっているし。
スタートアップだったらスタートアップで、資金調達した大事なお金で外したら死んじゃうので、勝ち筋を作った後にいったほうがいいんですね。
権田:ちなみに(スライドの表の一番左の)ポータルサイトから(一番右の)青まで、検証期間はどれくらいだったんですか?
守屋:公表してはいないんですけど、なんとなく棒1本が1ヶ月ぐらいと想像してもらえればいいんじゃないですかね。
権田:ポータルサイトをやった時、供給サイドと需要サイドのどちら側を意識していたんですか。
守屋:どっちもですね。僕たちはサイトだったので、最初に集められたのは印刷会社さんですね。どの印刷会社さんが一番安いかという情報がきれいになったら初めてお客さんは来るので。
順番で言うと、印刷会社のデータを作り、その後でお客さまというか検索する方がやってくるという順番。モデルとしては広告なので、「トラフィックが出たので広告をください」というビジネスですね。
僕の場合は、ミスミの経験とエムアウトの経験が活きていて、しかもちゃんと試して勝ち筋がわかった後にどんといったという話なので、「イチかバチか」ではないんですよ。それなりの経験に基づいてちゃんとやりましたという話ですが、誰もがそういう経験ってあると思うんですよね。
もし自分自身に経験がないんだとしたら、経験のある方を集めればいいじゃないですか。正社員として雇用しなければ仲間に参画してくれないということはないんですよね。
こういう自分なりの何らかの手がかりや武器とかを寄せ集めて作っていく。ピカピカの、前人未到の新規事業である必要ってあまりないと思っているんですね。
権田:「業界のことをよく知っている方と、新規事業のプロフェッショナルが組むといいですよ」みたいな話があると思うんですけど。今回のケースでは、松本さんが業界のペインを握っておられて、そこに新規事業のプロフェッショナルが掛け合わさったかたちの配役だと。
守屋:そうですね。当時、新規事業のプロだったかと言うと、そうでもなかったと思うんですけどね(笑)。少なくともミスミのビジネスモデルはわかっていたし、エムアウトで事業開発手順とかも身につけてはいたので、そこは幾分かは貢献できたのかもしれないですね。
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