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株式会社アドライト 代表取締役CEO 木村 忠昭氏(全1記事)

目指すのは、ベンチャー×大企業による「価値の最大化」 世界的な課題解決への貢献を目指す起業家の思い

企業とスタートアップ、ベンチャー企業を繋ぎ合わせることでサスティナブル・イノベーションを推進する、株式会社アドライト。株式会社ユーグレナなどの上場を支援してきた実績を持つ同社の代表取締役CEO 木村忠昭氏が、創業までの経緯や会社設立後にぶつかった壁などを明かします。 ※このログはアマテラスのCEOインタビューの記事を転載したものに、ログミー編集部でタイトルなどを追加して作成しています。

東大進学後、当時はマイナーだった企業サークルに入部

アマテラス:まず、木村さんの生い立ちについておうかがいします。現在に繋がる原体験のようなものがあれば、教えてください。

木村忠昭氏(以下、木村):私は、母方の実家がある高知県野市で生まれました。小学校からは祖父の代から父方の家が事業を営んでいる名古屋に移り、その後、中高は鹿児島で過ごしました。

小学校に通っていた頃の私は、みんなと幅広く仲が良いという理由で学級委員に選ばれるような子どもでした。多種多様な人達と関係性を作って、みんなとつながるという私の特性は、この頃から変わっていないように思います。

もう1つの私の特性として、さまざまなプロトコルに柔軟に対応できるという特徴がありますが、この特徴についても幼少期から培われた部分が大きいように思います。

そうして中学高校を経て、東京大学へと進学した私は、おもしろそうという好奇心からあるサークルに入りました。今でいう起業サークルで、ビジネスコンテストの開催などを行う団体だったのですが、当時はスタートアップという言葉もまだなかった頃のため、非常にマイナーな存在でした。

そのサークルには1999年から2000年にかけて、2年間在籍していたのですが、そこで1つ上の先輩である出雲充氏(現株式会社ユーグレナ代表取締役社長)と出会いました。

さまざまな人を巻き込みながら企画を立て、チームをまとめ上げるプロセスは、私の特性ともマッチしてました。何よりも新しいことにチャレンジする人たちと共に過ごし、その考え方の原点になる部分を肌で感じながら活動を進められたこと、そしてベンチャーやアントレプレナーシップの原石を体感できたのは非常に大きな経験だったと思います。

実際に起業して感じた、理想と現実のギャップ

木村:大学院に進学して1年通ったものの、サークル活動の影響から、ベンチャー企業の方と一緒に仕事をしたいという思いがずっと心にありました。そこで、業界の中でも名の知れた有限責任監査法人トーマツのTS1(トータルサービス1部)を志望して入社しました。

その後トーマツを退職し、2008年1月に起業したわけですが、原点にあったのはやはり大学時代のサークル活動での経験でした。起業家の方たちともっと自由に、一緒に何かやれるようになりたいという思いはその頃から変わっていなかったので、元に戻っただけという感じです。

ただ、実際に起業してみると理想と現実のギャップは大きく、いろいろと試行錯誤を重ねることになりました。そんな中でご縁があって始めたのが、社外役員としてのベンチャー企業の上場支援でした。

当時はリーマンショックの直後で、ベンチャー業界は冬の時代を迎えていました。どの企業も片隅に追いやられ、業界の誰もが「がんばって生きていこう」と互いに励まし合っている状態でした。

ユーグレナをはじめ、数社の企業の上場を支援

木村:そんな中、独立起業して上場支援をしている会計士というのはめずらしかったのでしょう。「よかったら手伝ってくれないか?」と経営者の方々に声をかけていただくようになり、上場支援会社の社外役員として各社をサポートさせていただくことになりました。

その流れで大学時代からつながりがあった出雲氏のユーグレナなど、さまざまな企業を社外取締役としてサポートさせていただくことになり、各社が上場を果たしていったのです。

そうして5社が上場を果たした頃、ふと世界を見たいと思うようになりました。今思えば、2013年にスタンフォードで表彰された出雲氏と一緒にシリコンバレーに行ったことがきっかけになったのでしょう。

思い立ってからは5年間ほど、1年の半分を日本、残りを海外という感じの放浪生活を過ごしました。取締役会のときは日本にいて、その他は海外といった状態でした。

そして、2018年頃日本に帰国したタイミングで創業時のメンバーが戻ってきてくれました。この頃はベンチャー・スタートアップ業界も徐々に盛り上がってきており、新規事業に関心を持つ大手企業も増え始めていました。

起業して10年のタイミングで、組織は大きく方向転換

木村:私にとって、一番の関心事はベンチャーです。ただ、幅広いプロトコルに合わせられる私の特性を生かせば、伝統的価値観を持つ大手企業にも柔軟に対応できます。そして、ベンチャーと大手企業を掛け算できれば可能性が広がるのではないかと思うようになりました。

結果、個人企業として10年間ベンチャー支援に力を注いでいたアドライトは大きく方向転換をすることになりました。新たな人員を増やし、ベンチャー・スタートアップとの協業なども含めた大手企業向けイノベーション支援へと舵を切りました。

アマテラス:組織を拡大するにあたって、資金面はどのようにされたのですか?

木村:会社の事業資金は、これまですべて自己資本でやってきました。一気に投資して急拡大を図るやり方ではなく、徐々に案件を拡大しながら、スタッフも緩やかに増やしていきました。流れに合わせて、少しずつ離陸していった感じです。

ちょうどある大手企業の方から「新規事業を始めたいが進め方がわからないので一緒にやってほしい」という相談を受けたので、ファーストケースとして協業を進めたり、中の事業をブラッシュアップしたりできたのが幸いでした。

まだサービスが整っていない段階でしたが、試行錯誤しながら進めていく中で、サービスメニューがどんどん出来上がっていきました。

「自我」と「周りの意見」のバランスに悩む日々

木村:ただ、個人企業から本格的に経営を始めるにあたっては、何もかもが手探りで、いたるところで壁にぶつかりました。ベンチャーの経営者達の横で見てきたことをそのまま当てはめても。何の解決にもなりませんでした。

今までの考え方や手法をいったんアンラーニングし、自分なりのやり方をしないとダメなんだと気付くまでには随分時間がかかりました。完全に吹っ切れたのは、この1年くらいのことです。

経営には正しい答えがない。経営者である自分を軸に、何をやるのか、そして何をやらないのかを決めないといけない。この1年くらいでようやく、そのことも腑に落ちました。そこで、2022年には会社のバリューを全面的に見直しました。

もともと5つのバリューを掲げていたのですが、メンバーの意見を取り入れすぎて、私が腹落ちしきれていない内容になっていました。

そこで、自分が本当に大切にしているものに完全に寄せた上で3つに絞り、メンバー達と一緒に言葉を再設計しました。このバリューの再設計を通じて、創業者としての意思決定の在り方を見直せたのは良かったと思います。

「自我をどこまで出すか」、そして「それに対して周りの意見をどこまで尊重して取り込むか」。以前から、このバランスについてはよく悩んでいました。私はつい全体の合意を取って、総論みたいな方向に進める傾向があるのですが、それだと上手くいかないこともあると身をもって学びました。

「自我をどこまで出すか」という点は今でもよく考えます。ただ、創業者として会社の事業に一番コミットしているのは自分だという自覚をもとに、もし自分の中で何かしら違和感があれば、何かしらの方法で解決してから進めるようになりました。

多様な人たちと「1つの集合体」として活動することを目指す

アマテラス:新たに設計したバリューについて、もう少し詳しく教えていただけますか?

木村:現在の当社のバリューは、「Beyond the Border(前提を疑い、その一線を超える)」、「Lead, Don't Follow(他者を導き、時代を共創する)」、「Form One Circle(互いに働き合い、結果を出す)」としました。

3番目の「Form One Circle(互いに働き合い、結果を出す)」は、まさにアドライトの在り方を示した言葉です。要は、さまざまなバックグラウンドや働き方をしている人達と一緒に、多様なプロトコルに合わせながら、1つの集合体として活動していくことを指します。

これは自社組織でもいえますし、起業家や大企業、行政、大学関係など様々なステークホルダーと接点を持つ事業の方にも当てはまります。

私は自分の特性を組織にも反映させていると考えているのですが、幅広い接点を持ちながらフラットに関係を築いていく在り方を「one circle」という言葉に込めました。

また、2番目の「Lead, Don't Follow(他者を導き、時代を共創する)」は、私たちがやろうとしてることを示しており、会社のミッションとも深く関わっています。

アドライトのミッションは、「Building sustainable businesses together(未来へと続く事業を共に創る)」で、私がコミットしていることを言語化したものです。9年間私が役員をやってきたユーグレナのサスティナブルファーストな価値観の影響も受けています。

「サスティナブル・イノベーション」に取り組む背景

アマテラス:アドライトでは2022年から「サスティナブル・イノベーション」に取り組んでいると聞きました。木村さんはサスティナブルという概念をどのようにお考えですか?

木村:当社ではサスティナブル・イノベーションを、「人と地球を善くするためのイノベーション」 と定義しています。持続可能であることを最上位に置く一般的なサスティナブルとは少し違った意味で使っています。

アドライトの事業は、日本語のミッションでも表現している通り、本質的には「未来へと続く事業」を目指します。だからこそ、今に合わせて事業を最適化するのではなく、可能性もリスクも不確実性も全て内包する未来の側に立って、走り続けるのです。

「今」のエッジであり、「未来」の側に立ち続ける。この立ち位置を私達は「辺境」と呼んでいます。今でいえば、海外のスタートアップとかサスティナブルイノベーション、クライメートテックといった世界が「辺境」といえるでしょう。

いわゆるデジタル・イノベーションと比べると、サスティナブル・イノベーションは事業の成長速度が緩やかなため、時間がかかります。

また、それぞれの土地の特性や歴史、文化などさまざまな要素が複雑に絡み合うため、デジタル・イノベーションよりも難解といえるでしょう。だからこそチャレンジする価値があると私は考えています。

日本企業の良さを生かすには、ベンチャーだけの力では足りない

木村:これから先は、今までのようにデジタルを駆使してひたすらスケールアップを図ったり、単に儲かる新規事業を作ったりすればいいという話ではなく、その事業の質がより重要になってくると考えます。脱炭素のような環境問題だけでなく、ウェルビーイングやヘルスケア、フードテックのような文脈も出てくるでしょう。

こういった部分において、これまで日本企業がものづくりを中心に培ってきたノウハウやアセット、他者との関わり合いの中で協力して価値を生み出すマインドは必ず役に立つはずです。

日本企業の良さを生かして、世界的な課題解決に貢献していくためには、ベンチャー企業単体の力では足りません。 日本に昔からあるような事業会社等と連携をとり、シナジー効果を生み出していく必要があります。

とはいえ、大手企業とベンチャーを単純に組み合わせただけでは互いの強みを生かせません。私達アドライトは両者をつなぎ、その価値を最大化するハブの役割を担います。

2022年にはサスティナブル領域の日米欧のスタートアップと日本企業による事業共創プログラム SUITz が立ち上がりました。当社は今後、国内に限らず、クロスボーダーでのインキュベーション支援にもより力を入れていきます。

「今」だけを見ていると事業が陳腐化してしまう

木村:私たちは常に辺境に立ちながら、未来に向かって突き進んできました。もちろん現時点での課題解決や価値提供によって事業を成立させ、組織を拡大していくことも大切ですが、「今」だけを見ていると事業が陳腐化してしまうでしょう。

とはいえ、「今」と「未来」の両方を同時に考えるのは大変です。そのため、今後はそれぞれの特性を生かした組織を作っていき、攻守の切り替えをうまく出来るようにしたいと考えています。

コロナ禍によって複業、兼業の人材が増えたことで、当社は「オンラインでしか動けない」「部分的にしか動けない」など何かしらの制約を抱えている人を巻き込み、さまざまなプロジェクトを進めてきました。

社内のさまざまな要素や関わる人の接点をいかに組み合わせ、さらなる価値を形成するか。それが当社の今後の課題です。

「サスティナブルイノベーション」「クライメートテック」などの要素と組み合わせてプロジェクトを設計し、推進したいと考える人にとって、当社は可能性の宝庫です。

これからもアドライトは未来に向かって走り続けますが、私たちのバリューに共感し、限界なき世界を共に描いていける方との出会いをとても楽しみにしています。

アマテラス:本日は貴重なお話をありがとうございました。

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