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スタートアップのメンタリング(全6記事)

失敗する起業家に多いのは、「ムリ・ムダ・ムラ」のムラ スタートアップを成功に導く、全体最適の“医者の眼”とは

中小ベンチャー企業での社外No.2、パートナーCFO®を広く一般に普及することを目的とする、一般社団法人日本パートナーCFO協会が主催するイベントに、ベストセラー『起業の科学』の著者で、スタートアップアドバイザーアカデミーを創設した田所雅之氏が登壇。「スタートアップのメンタリング」をテーマに、スタートアップの伴走者としてのメンターの役割や、ムラで失敗したスタートアップの事例などが語られました。

スタートアップの伴走者としてのメンターの役割

田所雅之氏(以下、田所):スタートアップにおいて大事なことは、初期において、反直感的だけれども、どうしたら勝ち抜けるかを戦略するかどうか。あとは、僕は人の眼という言い方をしますが、伴走者ですよね。実際に背中を押してあげることで、行動量を増やしていくと。

マーク・ザッカーバーグが「Done is better than perfect.」(完璧を目指すより終わらせたほうが良い)と言っているように、完成志向の中で行動量を増やすのは、非常に大事だと思うんです。

単なる無謀はだめです。先ほど言ったみたいに、タイタニック号で椅子を片付けるみたいなことを、けっこうやっているんです。

僕も年間1,000社近くの事業を見ますが、既存の代替案で満足している場合や、技術的に無理なこと、コスト構造的に無理なこともあります。そういったノックアウトファクターを検証せずに、単なる無謀でやっている場合もあったりします。

一方で、過度の網羅思考だと行動量が減る。要は、いろいろなリスクファクターだけを洗い出してしまって動けないのもだめかなと思います。人の眼として、いかにして行動をさせるかが大事だと思っています。

先ほどの表現で言うと、(スライドの)深める・浅める。浅めるは、あまり聞かれたことがないと思うんですが、実際にアクションしやすくなるように噛みくだいてあげることです。

広げる・狭めるは、いろいろなソリューションの幅出しをしてあげること。つまり、1つか2つの施策よりも、当然5つあったほうが質の高いものになりますよね。かつ整理する時間を与えて、狭めてあげる。自分がちゃんと知見を持った上で、全体を行き来することが大事だと思っています。

「ムリ・ムダ・ムラ」のうち、失敗するスタートアップに多いのはムラ

これを図で解説すると、(スライドのように)鳥の眼は市場の選定やロードマップです。

視点を広げる、もしくは視点を遠くすることですね。あとは、構造的に市場の見立てやロードマップの作り方、TAM SAM SOMの計算などで構造を理解する。

一方で、虫の眼も非常に大事です。

西口一希さんが『顧客起点の経営』という(本を)去年書かれていて、すばらしい本なのでぜひ読んでいただきたいんですが、顧客心理はずっと変わり続けるんですね。

僕は『起業の科学』を書いて後悔していることが1つあって。みなさんを勘違いさせてしまったことがあったんです。僕はPMFは状態じゃないと思うんですよ。お客さんの心理状態は常に変わり続けるので、PMFは動詞だと思うんです。例えば、今みなさんZoomを使っていますが、3年前と今のZoomのユーザーインターフェースは、ぜんぜん違うんですよ。

思考停止になるので僕の好きな表現ではないですが、「VUCAの時代」という言葉があります。VUCAの時代で、何が一番のインパクトかと言うと、お客さんの心理状態とそれに対する期待が変わっていくと。

そこの部分を、n=1で捉える虫の眼が非常に大事かなと思っています。その構造を理解した上で、具体的な施策に落とし込むことが、虫の眼です。

魚の眼は先ほどAmazonの事例で紹介しましたが、その構造を理解し、仕組みで勝つためにどうしたらいいのかを考えること。

人の眼は、実際に浅めて行動していくところ。

あとは全体最適の医者の眼ですね。ちょっと戦略の話をすると、スタートアップが死ぬ理由の1つは「ムリ・ムダ・ムラ」のムラなんですよね。成長にムラがあると。

メタ認知させることによって、今自分たちがどこのフェーズにいるのか。そこにおいて過剰投資をしないこと。スタートアップはお金がありすぎて死ぬことはないんです。事業ってお金がありすぎて死ぬことはないんですよね。

何が死ぬ原因かと言うと、時期尚早に拡大してしまって、バーンレートが上がってしまったこと。それでランウェイが尽きて死んでしまうケースがほとんどなんです。

なんでそうなるのか。自分たちで客観的に見ることができていないんです。うまいラーメン屋ができたと勘違いするんですけど、他人に食べさせたらめちゃめちゃまずいみたいな状況なんですよね。それで死んでしまうケースが多いと思います。まさに医者の眼で、きちんと見定めていくことが大事です。

ムラで失敗した事例

1つの事例で、みなさん、セブン・ドリーマーズを知っていますか? (スライドが)社長の阪根(信一)さん。

当時国内でいうと、メルカリに次いで2番目に多い100億円を調達したんですけど潰れたんですよ。小学校が僕と同じで、阪根さんは僕の先輩で仲良かったんですけど。

去年「NewsPicks」に記事が出ていてビビったんですけど、どういうスタートアップだったかというと、全自動洗濯折りたたみ機をやっていたんですね。(スライドのような)でかいマシンがあって。

「J-Startup」にも選ばれて、100億円を調達したことでけっこう話題になったんですよ。記事を読んでてビビったのが、確か2019年4月29日に倒産したんですけど、破産申し立てをしたのが4月23日。「私は、その4日前まで会社が倒産するとはみじんも思っていませんでした」ということなんです。でも、22億円の負債を抱えているわけですね。つまりガバナンス0じゃないですか。

(倒産した時のセブン・ドリーマーズの状態はスライドの)こんな感じかなと思うんですよ。

ファイナンスの結果は、トラクション(実績)があるからですね。なんでトラクションやPMFができるかというと、例えばCSやセールス、マーケティングができていたり、PDMができるからですよね。

これがなんでできるかというと、採用ができて、組織マネジメントができて、組織体制があるから。なんでそれが機能するかというと、ガバナンスがあってオペレーションがあって、戦略があるからじゃないですか。

(破産後に)本人と話したことはないんですが、お金を100億円集めていますと。ただ、パナソニックが10億円ぐらい出資していたんですよ。パナソニックはユニクロと仲がいいです。

実際に出荷する時に、ユニクロのエアリズムを(全自動洗濯折りたたみ機で)つかめるかどうかの試験があったんですけど、エアリズムってツルツルしているんですよね。それがつかめなくて出荷できない問題が起きちゃったんですよ。

ムラを抑えるために必要な視点

言ってみれば、これはCPFすら達成できなかったと。でも、セールスやマーケ、PRをやたら強化していたんですよね。おそらく社員も300人ぐらいいたと思うんです。そういう感じで、まさにムリ・ムダ・ムラで言うと、非常にムラがあった状態かなと思っています。

ムラとは何か。パフォーマンスは遅行指標じゃないですか。お金を調達してから、トラクション(実績)は後で起きるわけです。ここのムラが非常に多かったと。

CFOの役割は、ここの部分を同期させて、このムラを減らすことだと思うんです。そこがまさに医者の眼です。これも局所的じゃなくて、全体を見ることですよね。先ほど言ったみたいにファイナンスのバリエーションは、あくまでも結果指標なので、その手前の部分にちゃんとムラがないかどうかが非常に大事かなと思います。

メンター、サードメンターは、それぞれのフェーズにおいて、適切に伴走してあげることが非常に大事です。僕の捉え方としては、いかにして5つの眼を身につけていくのか。その示唆を与えていくのが大事だと思います。

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