2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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今井達也氏(以下、今井):では次のテーマにいきたいと思います。次は「『うちか、うちじゃないか』の採用手法」というところで。そもそも篠田さんの人間観、人間に対してどう見てらっしゃるかというところがございまして。これもお話をうかがう中で2つありました。
そもそも「人間の本質はそんなに変わらない」と。あとでどうにかしようっていうのはなかなか難しいですよ、というのが1つ目。
2つ目は「人間が人を育てるのは無理」。なぜかというと、きっかけがあって、育つ環境があって、その人が勝手に成長していく。そういうふうな環境を与えることが必要ですし、しかも人間というのは成長意欲がないと、そういった環境があっても成長しないですよ、というところが前提としてあります。
だからそういった意味で入り口の採用がめちゃくちゃ大事なんですよ、という話をしていただいてました。
篠田さんの採用の考え方なんですけれども、ビジョン、会社がどうあるべきかという、先ほどお話しいただいたところですね。その思想を実現するために「お互いが幸せになるような採用をしなくちゃいけない」と言われてまして。
じゃあその思想というか、会社が目指してるところは何なのかっていうと、ヘッドウォータースさんのミッション、ビジョン・バリュー……というか、社内ではクレドだったりするんですけれども。
ミッション・ビジョンのあたりで、どういうことをこういった言葉にされたのか教えていただけますか。
篠田庸介氏(以下、篠田):これうちのメンバーが勝手に作ったビジョンなので、僕作ってないんですけど……(笑)。
今井:そうなんですか!?(笑)。
篠田:僕、ミッション・ビジョン・バリューとかは基本作らないタイプなので、こう言うのもなんなんですけど。壁に書いた文字になった瞬間に、僕は思考停止すると思ってます。「うちの会社はこうですよ」という言葉を僕が箇条書きにしてみせるということは、一度もしたことないし、今後もするつもりはないです。
篠田:ただ、長文のブログとかを7年ぐらい、毎週書いている時期がありました。最近あまり書いてないですけど。そうやって「我々はこういうことを大事にしている」「こういう人でありたい」「こういう未来を作りたい」みたいなことは言葉と文章で、山のように、いろんな角度からずっと話し続けて10年、20年経ってきてる。
それを受けて自分たちの言葉で、実感のある言葉で、じゃあいったん文章にしようって彼らが作ったのがこれなので、ずれてはいない。僕はこれを作るのにはそこまでタッチしてないですけど、「これは間違ってないですか?」って聞かれて「これはいいんじゃないの」って言ってる感じです(笑)。
今井:チェックはしてると(笑)。
篠田:あと採用について、それこそ「人は変わらない」っていうのはネガティブな意味じゃなくて。合う合わないとかって、20歳、30歳、40歳になって変えることがちょっと面倒くさいし、無理なんじゃないかなと思うんですよね(笑)。能力は上がると思います。あんなに10年前「使えない」ってみんなに言われてたやつが、今めちゃくちゃ活躍してる例って結構あります。
「こいつはダメなやつだ」とか「使えないやつだ」という言葉は、言ってるやつがバカだなと思うんですよね。必ずそいつが輝く場所はあるし、輝かせる道は絶対ある。ただ時間はかかるかもしれないけど。きれいごとじゃなくて本当にそうだと思います。
そんなに人をバンバン採れない中でがんばってくれてる人を「こいつはダメだ」って、一刀両断にかっこよく言うことで気持ちよくなってるやつを見ると、「バカだな」と思うんですよね。ダメなやつはいない。必ずそいつは何かできることがある、ということがある。
篠田:ただ、根本的に価値観が合わないとか、好きなこととか幸せになるものが違うのに一緒にいても、それは能力の問題じゃなく幸せになれない。その意味では変われないし、変わる必要もないと思っています。根本的にもともと目指してるものが違うのだから、無理に変える必要はないじゃないですか。それをマインドセットさせるみたいなのもいらなくて。
だからこそ最初から合う人を採ったほうが無駄なマネジメントの労力もかからないし、不幸な時間を過ごすこともない。あとで教育することをがんばるよりは、まず入り口で限界はあるのかもしれないけど、「お互いに幸せになれるだろう」と、そのタイミングでお互いに合わせた情報で確信を持てる人とだけ仕事をしようと。
能力が別に高かろうが、凄いキャリアがあろうと、それが合わない人と仕事をやっても絶対最後ダメになるし、お互いに損しか生まれないので。まず入り口ではそうしようかなとは思ってます。(組織は)価値観の集合体なので、こういうことをベースに考えながらやってるということですね。
今井:ありがとうございます。そうだったんですね、ミッション・ビジョン・バリューとかって、もしかしたら篠田さんが関わってるのかなと思ったんですけど、そうじゃないんですね。
社員のみなさんに「じゃあ考えて」って、権限移譲じゃないですけど、それでみなさんに作ってもらってたんですね。
篠田:「考えて」も言わなかったです。勝手に作ってましたよ(笑)。
今井:さすが自律思想ですね(笑)。
篠田:なかなかいいこと言うなと思って今、感心していました。
今井:(笑)。ありがとうございます。
今井:先ほどの「お互いが幸せになれる」っていうところで、それってどういうことなんですかと事前にお話しいただいていて、その内容を絵にしたんですけれども、ちょっと分かりにくいので僕のほうで説明させていただきます。
幸せになるためには「個人の幸せ」と「会社の幸せ」があると。個人の幸せは何かっていうと、1つは「天職」。「これをやってると幸せだな、うれしいな、やりがいあるな」っていうものをやっている。
あとチャレンジ、「挑戦」ですね。例えば「こういった新しいテクノロジーが使える」とか「キャリアがもっと上がっていく」とか、そういった挑戦できるようなものが合わさって、それが結果価値になるし、個人が一番パフォーマンスを出せる状態になれると。
それにプラスアルファ「一体感」があると、さらに個人の幸せはぐんぐん上がっていく。じゃあ一体感って何かっていうと、みんなで1つのものを目指していったり。例えば「みんなで上場するぞ」とか「やった! 自分たちの成果で株価がすごく上がったぞ」とか。「全員の力でここを達成しよう」みたいな、その「達成したぞ」とか「達成するぞ」みたいなところの一体感が合わさると、個人の幸せになる。
その方向性が会社のビジョンとかミッションとか、そういったところにちゃんと繋がっていくと、個人としてもすごく幸せです。「会社の幸せ」はビジョンを達成することなので、そこが合わさることでお互いが幸せな採用ができる、仕事ができるということになるのかな……とお話しいただきました。なにかプラスアルファはありますか?
篠田:そのとおりだと思いますが、少し事例を挙げるとしたら、WBCとか見ました? WBC、すごく盛り上がりましたよね。俺もめちゃくちゃ盛り上がって、「凄いなこれ」って思って。心が満たされるじゃないですか。
みんなよく最近、「間違った個人主義」みたいなのがあると思うんですよ。「自分のキャリアを上げるためにこの会社に来ました」とか、「自分の家族が大事で、ワークライフバランスが大事で」って。
間違ってはいないですよ。それはそれで絶対押さえないといけない。経済的に豊かになるとか、家族を守るとか、精神的な平穏をちゃんと手に入れるとか、経済的な面も含めて。そういうことは大事なので、個人としてそれは持たなきゃいけないと。
でもそれが「ゴール」なのか? というと、ではなぜチームでがんばって勝ったもので、あんなに満たされるの? そんなに熱狂できるの? と。
国家を挙げてとか、会社を挙げてとかって時に、なんでみんなそこに思いを乗せて熱狂できるのかといったら、みんなで勝てたほうが絶対に充足感とか、人生生きた中の幸せみたいなものは手に入るのではないかと思うんですよね。
一番時間を使って、一番リアリティのあるところでお互いに関わる会社において、その気持ちが味わえたらもっと幸せじゃないかなと思います。
篠田:もう1つ、僕はサッカーを見るのも大好きで、ワールドカップや海外のサッカーとかを見たりもします。でも未だに僕自身がサッカーをやっているので、ワールドカップの決勝って凄いなと思う以上に、しょうもない草サッカーで自分が点を取った時のほうが嬉しいんですよ(笑)。
これはプレイヤーでいるっていうこと。自分が傍観者として見て楽しむということよりは、プレイヤーで楽しんだほうが、しょうもない小さいことであってもめちゃくちゃ楽しめるんだろうなと思った時に……WBCも大事だし、みんなで盛り上がることは大事だし、巨人ファンであって「勝ったぜ!」も楽しいですけど。
同時にやはり自分たちが所属するチーム、自分たちが普段関わる仲間、こいつらと一緒になにか「ここまで成し遂げたのか」みたいなことをやり遂げた時に、その喜びたるやWBCに勝ると思うんですよね。
それを僕は仕事の人生の中で感じたことが何度もあるので、今の若い人には教えたいし、感じてほしいし、人生をその意味で豊かにしてほしいと思っています。そしてそれが別方向に向いちゃうともったいないので、同じ時間を使うので。個人の経済的な安定や成長や「この仕事だけやってれば俺すげぇ輝けるし幸せになる」っていう天職や、こういったものを組み合わせてチームの勝利に繋げていくと。
メッシはドリブルをがんばってして、シュートすればいいと。こいつはサイドバックと、こういうところはちゃんとそれぞれ能力違うので。それを合わせてチームの勝利に繋げていくことによって、お互いの市場価値も上がるし、個人の市場価値も上がるし、経済的な安定も手に入るし。そしてチームが勝つことによってさらに経済的な安定も手に入るし、充足感も手に入ると。
このへんを全体で、「こっちはいいけどこっちはダメ」ではなくて。おそらくいく時は全部相乗効果で、全体的に上がっていくんだろうなと。この良性循環を作っていくことが大事なんだと思って、そこをいかに組み上げるかはいつも意識しながら、会社の制度・戦略、個人に相対する態度、このへんは考えるようにしてますね。
今井:ありがとうございます。僕、篠田さんのお話を聞いてて思うのが、一貫性だったりとか価値観の考え方の筋の通り具合の良さみたいなのが、本当にすべてにおいてあって。根本的に人の幸せとか、そこに帰着した考え方をお持ちだなっていうのはすごく感じるところがあります。
で、採用のお話に戻すと……それこそ「うちか、うちじゃないか」って採用の手法で言うと、ヘッドウォータースさんはこういった先進的なことをやっていらっしゃるので。
お互いが幸せになるために、個人の自分のやりたいこととして「こういったことができるよ」って、本当に「うちじゃないとできないよ」って言える会社さんなので。「うちに来ればこういうことできますよ、他じゃなかなかできないですよ」っていう意味で「うちか、うちじゃないか」をタイトルとして設けました。
それで良い人が来たりするのは「ヘッドウォータースさんだからできるんじゃないの」と思われる方がきっといらっしゃると思うんですけど、でもそんなことは僕はないと思っていまして。弊社のBUSINESS DRIVEの中に「採用」っていう項目があるんですけど、その採用の動画の中の1つの、「人材募集をするための型」としてお伝えしてる内容になります。
例えばヘッドウォータースさんみたいにAIとか、先進的だったり、ある意味キラキラしてる会社さんじゃなくても、必ずこの4つを見出すことができるかなと思ってます。
1つ目が「理念に共感」。会社のどのような理念を掲げているか。価値観・あり方がすばらしいものだったら、そこに共感して人は集まります。2番目の「魅力的な未来」、ビジョンですね。魅力的なビジョンだと人は集まります。
3番目に「意味ある仕事」。先ほどの天職とか挑戦とか、そういったことができるところに関しては人が集まります。
もしかしたら「うちってあんまり意味ない仕事をしてる」って思われる社長さんとかいるかもしれないですけど、それはそんなことなくて。なにかしらサービスをする、商品を売ることによってお金を得ているということは、イコール社会に役に立ってるって僕は思うんですね。
そういった意味では、必ず自分たちがやってる仕事の中で「意味ある仕事」をやってらっしゃるので、そこをきちんと求人票に書いていく。自分たちが誇れるような仕事をやってるんだよってことをもっと伝えていくことが、ものすごく大事かなと思います。
で、4番目が「成長できる環境」ですね。先ほどの「挑戦できる」というところも含めて、そういった会社には自ずと人が集まってくるのかなと。
どういうふうに自社を見つめ直して見せていくかがすごく大事かなということを、人材募集の型という形でBUSINESS DRIVEでお伝えしているんですけれども。
今井:たぶんヘッドウォータースさんは全部当てはまるのかなと思いますが、プラスこれになにかあるとか、ここがやはり大事だよねって思うところ、篠田さん的に何かありますか。
篠田:非常にいい話だと思います。うちも今はAIとかIoTとかキャリア的にキラキラ輝いてる所があっていいのですけど。設立当初、当然1人とか2人の時は1つもないですから。それなしでやるとしたら、やはり魅力的な未来というか……魅力的かどうかは分からないな。
魅力的かどうかというよりは、抽象的ではなく解像度がものすごく高い未来を、ちゃんとその場のノリではなくて、自分の思想として語れると、そこにみなさん共感できる人が集まってくる。それが鮮明であればあるほど、たぶん他と違うようになっていくと思います。
例えば「挑戦したいね」みたいな話で言うと、学生さんはみんな新卒で採ると「挑戦したい」とか言う人いるじゃないですか。「本当か?」とかいう話なんですよ。「挑戦したい」っていう言葉をもっと掘り下げて、思想として思った時に、リスクを取れるのか。
本気であればアメリカのスタートアップとか見てると、あれも挑戦っていうか......リスクはそんなにないですけど、でも死ぬほどハードワークして仕事していたりするわけですよね。トレードオフのハードワークとかリスクとか、それとセットで「挑戦」という言葉を使わなかったら、これ嘘じゃないですか。
だから「挑戦する」という言葉をもっと掘り下げて、それを自分の会社がもし言葉で使うのであれば、自分の会社はそれを本当にその意味で実行してないと、その単語は使ってはいけないと思います。
篠田:そう考えた時に、では制度でもルールでも言葉でもカルチャーでも、それを実現した時にはおそらく、そこまで徹底する会社はいないので。「この会社しかないな」ということになるんだと思います。
そのレベルの制度とかルールまで落とし込まれた「挑戦」をやろうと思ったら、「うちしかないよ」と言えるぐらいまで研ぎ澄ます必要がある。本当に挑戦したいのであればうち、そうでもなく、ちょっとした挑戦っぽいことをしたいのであれば、他。
そういった人はうちに来る必要もないし、来ても幸せにならないから。「うちに来たほうが幸せになるんだったら来て、じゃなかったらやめて。うちは挑戦できるけど、その代わりこんな財務状況悪いし、金もないし、成功もしてないし。ただ挑戦できるよ」と。
悪いほうも全部オープンに見せて、「こんなしょぼい、どベンチャーに来るって、普通の人は来ないからね」みたいなことを全部話して、ちゃんと学生にはフェアに、情報に偏りが出ないように。ただ「我々、これもやるよ」ともちゃんと話して、「どうする?」っていうことをやると「うちか、うちじゃないか」という話に研ぎ澄ますことになる。
求職者におもねるような「給料うちのほうが2万高くするよ」とか「福利厚生こんなつけるよ」とか「うちは仲が良くて、みんなバーベキューいつも休みの日に一緒にやってるよ」とか、キラキラしたホームページの採用みたいなのはよくあると思うんですけど、そんなことをしなくても、本質で合う人だけ採っていけるんです。
本質を曇らすものはあんまり表に出さなくてよくて、そこで自信を持って「これだったらうち、これじゃなかったら他」という話をちゃんとしたほうがいいんじゃないかなと、採用に関しては思ってます。
今井:もう本当にそのとおりですよね(笑)。ありがとうございます。こういう採用ができる可能性があるので、諦めずに。採用は非常に難しいですけれども、がんばっていきましょう。ありがとうございます。
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