2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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司会者:第二部に入る前に、蔡さんのほうから、また自己紹介を。また、どういったことをされているのかということを、ぜひお聞かせいただければと思っております。我々スタートアップから見ると、信託銀行さまはそもそもプレイヤーとして数が少ないですし、なかなか接点がないというところが当然だと思いますので、どういったことをされているのかも併せて教えていただければと思います。蔡さん、よろしくお願いします。
蔡氏(以下、蔡):よろしくお願いいたします。ご紹介にあずかりました蔡と申します。今はIPOコンサルティング課というところに属しておりまして、俗に言うIPOを目指されるお客さまの、未上場の時の資本政策であるとか、ガバナンスのコンサルティングをする課にいます。
そもそも我々は株主名簿管理人という、証券会社、監査法人、株主名簿管理人、この3つを未上場時から選定していないと上場することができない機関の1つになります。通称は証券代行と言いまして、読んで字のごとく「証券事務を代行する」という業務を承っております。
上場すると、今まで顔が見えていた少数株主が、一気に数千人、中には数万人という株主数になります。そうなると、自社での株主管理というのは非常に厳しくなります。そういった煩雑な業務をオフバランスして頂くようなイメージを持っていただけますと分かりやすいかと思います。
ここだけ聞くと、「じゃあ事務代行なの?」というところになるんですが、実は我々の業務はそこから多様化しておりまして、俗にいう「物言う株主」であるとか、会社のバリュエーションに高く影響してくる機関投資家との会話をどうするかとかも発行会社様とご一緒に考えたりもします。
証券代行事務は勿論のこと、今我々はSR(Shareholder Relationship)、IR(Investor Relationship)と言いますけども、現行株主様や潜在株主様との対話をどのように行っていけば良いか、また、そのために大事な一つであるコーポレートガバナンスを構築・強化することによってどのように会社が強くなっていくか、そのようなコンサルティングもやらせていただいております。
蔡:この後の三條さんとのディスカッションをすごく楽しみにしてございますけれども、我々は証券代行の証券の事務と言うよりかは、サイフューズさんとは、資本政策など、けっこう「がっつり」とやらせていただいたかなと思っておりまして、今日、三條さんには、そのあたりなんかもお聞かせいただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
司会者:蔡さん、ありがとうございます。じゃあもうサイフューズの三條さんとは以前から業務上でもつながりがあったというところなんですね。
蔡:そうですね。最初のつながりというところになると2016年からです。最初はご挨拶をさせていただいた程度ではありましたが、だんだんサイフューズさんがステージを重ねていく中で、いわゆる資本政策をどうするかというところで、当時けっこう「がっつり」やりましたね。一回の面談で2時間とかかけて、ホワイトボードにアイデアを書き合いながらどうしていくかとか、このラウンドはどれぐらいの株価がいいのかとか、けっこう「こってり」やらせていただいた覚えがあります。
司会者:わかりました。そうしましたら、そんなお二人が繰り出すQ&Aを大変楽しみにしておりますので、さっそくですがQ1から、蔡さんにQを投げ掛けていただくかたちでお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
蔡:お願いします。さっそくですけれども、ご多分に漏れずだとも思うのですが、2022年のIPOでインパクトが強かったのは、やはりダウンラウンドIPOがけっこう多かったかなというところでした。
2022年は、スタートアップにとって俗に言う「冬の時代」と呼ばれていますけども、その12月にIPOをされたサイフューズさんとして、率直にIPOをして良かったなと思ったポイントと、表裏一体ですけども、逆に大変だなと感じるところをちょっとお聞かせいただければな、と思っています。
三條真弘氏(以下、三條):まず「冬の時代」については、タイトルで僕も今回お呼ばれした時に拝見したんですが、実際どうですかね? 本当に真冬なのか、やはり「肌寒い時期が続くな」みたいな感覚なのか、どんな感じでみなさんは見ていらっしゃるのか。よく質問を受けるんですよね。「今ってIPOのタイミングとしてはどうなんですか?」という質問。どうでしょうか?
蔡:もう本当にざっくばらんにお伝えすると、発行会社様側はすごく準備をしてきて、資本政策もそうですし、内部統制もそうですし、他のステークホルダーとの調整もそうです。ただ、そういった準備を無駄にしかねない程に相場が一気に崩れたというか、冷えたというのが正直な印象でございます。
ですから、やはり投資家が強い会社さまになるとIPOを見送っていますし、このタイミングで逆に出ないと、資金的な部分も然り、事業成長的には今出ないとまずいという方々は、強引に出たのかなと思う部分もありました。
蔡:ただ、私はこの立場だからではないですけど、「IPOはできる時にしたほうがいい」という考え方なので、やはり見送ると、テンションも落ちてしまいますし、もう1回同じことを、同じ準備をまた続けなければいけないというところは、やはりモチベーション低下にもつながってしまうので、ちょっとファイナンスというか株価が理由で見送らざるを得なかった方々は辛いだろうなと、正直思っています。
そのような中、御社は無事IPOを果たされたというところもございますので、そのへんのマインドというか、いろいろなステークホルダーとの調整みたいなところもお聞かせいただければ。
三條:IPOをして良かった点は......結論から言うと、当然良かったです。やり抜けたチーム全員の並々ならぬ負担を考えたら、達成できたことでまずホッとしましたし、さきほど申し上げましたけれども、上場したことで見えてくる景色だとか、やはり「今まで準備してきたことがこういうふうになるんだ」というように、上場した後は具体化してくるというところで…充実した毎日を送れていると思います。
さきほど冒頭に向井さんのほうから「上場されて3ヶ月どうですか?」というお話がありましたけど、今までやってきたこととか、考えてきたこととかが、ようやくつながってくるのを実感し始めている感じです。未上場時代に準備しているときには、「これは将来こうなるから」とか、まさに信託銀行さんもそうですけど、「こういう人たちが登場してきて、こういう人たちとこういうことをやっていくんだ」というところが、当時はなかなか伝わりにくいこともあったかもしれません。
一方で、経験したことがある人は当然のことながらわかります。あるいは管理部サイドですね。どちらかと言うと、こういった金融面に携わっている方々からは、以前にIPOに関する経験がある方もいらっしゃるでしょうし、そういった方々には比較的見えやすいところはあるかもしれないですが。
私どもの会社の自己紹介にあった通り、実は我々の場合は20数名のうちのほぼ大半は開発者、研究者という、どちらかと言うと今回のテーマのようなIPOとは無縁の日々を送ってきた方々かもしれません(笑)。
そのような仲間たちと共に、このIPOなり、先ほどからご説明したような将来のポテンシャルをどうやって広げていって、会社の次を作っていくのかみたいな話を、いかにみんなでシェアして1つになっていけるかというところが、当社にとってのIPOという意味では大きなテーマの1つだったかなと思っています。
三條:ノリ的には学生時代の部活のような、弱小チームだけれどもみんなのチームワークで大舞台を目指すだとか、トーナメントみたいなところをなんとか勝ち抜いていくんだみたいな感じで、最後の1・2年は短距離を全力疾走しました。最後は、本当にもう書面、書面、審査、審査の連続で…だーっと続いていく感じになる。本当に言葉通りですけど、それなりに社会人になって全員一丸となってやるような機会を与えていただいたのはある意味貴重な経験だったかもしれません。
なかなか管理部門のサラリーマンが主役になるイベントというのも少ないですから、そういった意味ではIPOチームのメンバーが発揮した集中力は格好良かったし、本当にこのチームでチャレンジできて良かったなと。会社全体としても、自分たちがやっているものづくり自体にも責任感や緊張感が増してきたような感じもしています。
先ほどの外からの見え方とかも含めてですね、「上場会社だと言えるようになったんだ。職員になったんだ」という気持ちを、さすがに言葉にしてという人はいませんけれど、きっと気持ちの上ではそういったところで張りが出てきたのかなと思って見ています。大変だなと感じるところは、その分、外からの期待が一段と大きくなるということであるかもしれませんが。
ただ、我々はどちらかと言うと、アスリート的な感じのメンバーが多いです。なので、やはり期待にどれだけ応えていい結果を出していくかとか、いい意味で期待を裏切りたいとかっていう、そういう高いモチベーションでやっている若いメンバーが多いです。そういった意味でも今回の経験をまたバネにして、また次の大きな目標、チャレンジがありますから、そこでまたみんなで一丸となってやっていこうというテンションでしょうか。
なんかこのあたりを語っていると、やはりスタートアップの原点みたいなところをありありと感じます。とはいえどうしてもIPOまではやはり時間がかかっちゃいました。さっき10何年目と言いましたけど、けっこうなベテランと言えばベテランです。なので、本当にいろんなことがありすぎて、その間の大変だった記憶が飛んでしまったこともあったかもしれません(笑)
それでもやはり原点に帰ると、自分たちが大事にしている思想とか、自分たちがやりたいこととか、自分たちが最初にワクワクしたような、これを世の中にどうやって届けたいかなど、大切なベースが必ずあると思うんです。それをエネルギーにして、今回の上場のような大きな事業上のイベントを1つ1つ乗り越えていくというのはすごく良かったなと思いますし、ありがたい経験をさせていただいたなと本当に思いました。
蔡:私はいわゆる管理系の方々としか私はお会いしたことはないですけども、御社にいつも伺って思うことは、新しいメンバーの方も、前からいらっしゃるメンバーの方も、すごく元気にあいさつをしてくださるんですよ。
私は、ちょっと自己紹介の中では端折りましたが、もともとベンチャーキャピタルに出向していた経験とかもあったので、やはり投資前に絶対会社を見に行くんですね。その時に、やはり下を向いている社員さんが多いと、「これは社内コミュニケーションとか内部管理とかどうなっているのかな?」とか、ご挨拶をしてほしいというわけではないんですが、お客さま対応に関係する部分って会社のフィロソフィーが出るんですよ、けっこう。
そんな中、御社にお邪魔をすると毎回みなさん元気だし、お邪魔する度に少しずつオフィスのディスプレイが変わっていたり、おしゃれなカフェ風ミュージックが流れたりとか、みなさんすごく働きやすそうだなと思っていました。確か、管理部門の方って数名ぐらいだったかなと。
三條:最終的に、そうですね、5名、6名というところだったので、比較的、どうでしょう。最近はそのぐらいの人数でというところも多いように聞きますけれど。ただ、しっかり中心メンバーをIPO専門あるいは経験ありの人で固めるというやり方と言うよりは、当社の場合は、比較的いろいろな環境から参画してくれたメンバーです。
今回は本当にいろんな業界とか、いろんな領域から来てくださった方で構成したチームで、IPOという点では未経験の方も含めて、チームワークでやりきりました。ただ、最終的にIPO時点では全員が、社歴で言うと、3年以上とか5年という感じになりましたので、チーム全員が、準備期間をフルフルで、今回のIPOの経験を積むことができたというところは組織としての基盤がしっかり整ったという点でも非常に大きかったと思います。
蔡:多種多様なバックグラウンドの方の中で、IPOのご経験者と言うと、本当に少ない感じですか。
三條:そうですね。
蔡:ですから、みなさま、まさにこれから始められたみたいなところが非常に多かったかなという印象だったので、そのバックグラウンドありきでの作業とか、そういったことではなかったわけですか?
三條:スタートアップであれば、明るくて元気が良くて若くて優秀な人で経験も豊富な人を望むわけですけれども、なかなか最初の段階からそういう形でスタートを切りたいと思っても、正直難しいですよね。
まず頭の中にあるのは、さっき申し上げましたけど、我々にとってフロントは何かと言われれば、さきほど申し上げたようにやはり技術であり研究なんですね。
管理部門は体制を整えて準備を整えて〜ということは将来に向かってやらなければならないことはわかっていながらも、足元は研究や技術や、まずまずメインの事業のところが進まないことには、いくら前段の準備のほうを進めても......という葛藤に苛まれてはいました。
結果として、上場のXマイナスいくつというぎりぎりのところ、X-3ぐらい、2018年の末ぐらいまでに、なんとか今のIPOメンバーというところの採用を終えてという感じになってしまいました(笑)。
蔡:おっしゃられたように管理部門の方とまさに技術の方と言うと、ぜんぜん仕事の内容が異なってくるという。例えば技術者の方は、再生医療のバックグラウンドがある方とかを採用されたのですか?
三條:これはですね、IPOの人材の採用と同じで、本当にどこも同じだと思います。我々の場合は、再生医療ってさっき「細胞を材料にしたニューモダリティですよ」みたいな話をしましたけれども、最初からその経験とかをど真ん中で持っている人ってなかなかいないんですよね。その意味ではIPOも同じですね。
基本的には世にないものを創っていこうという意味では、これは別に研究であっても技術であっても管理であっても基本的に共通しています。
我々が最初の頃に採用でポイントにしていたのは、「やはりサイフューズってこういう感じだよね」とか、「サイフューズの人って〜」というところをまず、みんなでイメージして少しずつですが具体化していきました。
自分たちが持っている特徴は何かということについて話し合ううち、例えば外部の方がサイフューズのどの人に話を聞いても研究、技術、会社、いずれについてもある程度の説明もできる人であるというところに好評価や好印象を持っていただいていることに気付きました。
たまにあるんですね。内勤の事務方とかで、業務はすごくできる方なんだけども、実は「会社がやっている研究とか事業のことを説明してください」と言われると、自身の業務範囲じゃないところはほとんど知らないとか。
三條:一方で、場合によっては、研究者とか技術者の方の中には、必ずしも管理業務が扱っている金融面などは関係ないです〜分かりません〜と。関係なくはないんですよ。
展示会や学会に、限られた人数で出ていきますと、いろんなところで「サイフューズさんの話を聞いてみたい」と声を掛けていただくチャンスがあります。ただ、実際に聞かれた時に、「私は研究なので。私は技術なので。すみません、会社のことは説明できません」って。それでは、やはりなかなか会社の魅力というのが伝わりません。
そういうことではなく、外部の方から、誰に聞いても自身の会社を表現できるのはすごいですねと言ってもらえるというところが、サイフューズの魅力の1つであり、それを体現してくれるメンバーというのが採用で求めていく人物像だったんじゃないかなと思っています。
とはいえ実際は、本番前に急いで会議室に集まって、みんなで説明文書を読み込んだりしましたけど(笑)。普段会社説明に触れる機会の少ないメンバーにしてみると、創業が何年だったかとか、どういう事業をやっているかというところですら、改めて折りに触れ聞かない限りはうまく説明できるはずがありませんので。
そういう時もですが、社内の誰か~と言うよりは、全員が、自分たちのやっていることのポテンシャルを一番誰よりもわかっているはずですので、自分たちの核になっているのは何なのかというところを、時間を割けるだけ割いて、本当に何時間も議論するとか、当時はそういう時間を過ごしていたと思います。
そうでないと、けっこうテクニックに走りがちですね。例えば対外的なプレゼンを行う社長だけが格好いいプレゼンテーションをどんどん作って、資料作りもやってどんどん進めていく。現場は現場でがんばってくれと。採用は採用で管理部長がやっていくとなると、なかなかチームを作っていくというのは難しいかもしれないです。
人数が少ないからこそできたのは、最初の段階でできるだけ、スローガンを掲げるんじゃなくてですね、なるべくどうやったら一丸になれるかというところをいろいろ模索するという、そういう時間や負担が取れるのはその時代しかなかったなぁと思います。
蔡:(笑)。ありがとうございます。
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