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爆速経営~激変するマーケットで成長を実現する方策~(全4記事)

ヤフーの「爆速経営」を、スタートアップは真似してはいけない 経営者が考える、意思決定の「スピード」の捉え方

グロービス経営大学院が主催した「あすか会議2022」。本セッションではではユーグレナ出雲充氏、ヤフーCEO小澤隆生氏、BASE鶴岡裕太氏の3名が登壇したセッションの模様をお届けします。ヤフーが掲げる「爆速経営」をテーマに、変化の激しいマーケットで組織の成長を実現するためのポイントについて議論が行われました。本記事では、「爆速」に対して3者がどのように考えているのか語られました。

激変するマーケットで舵取りをしていくヒント

井上陽介氏(以下、井上):本セッションには、すばらしいパネラーのみなさん、スピーカーのみなさんにお越しをいただいています。ぜひ多くの刺激を受けていただきたいなと思っています。

この前のセッションでは、世界の大きな変革・変化・激変という話がありました。外部環境は大きく変わってきている。ウクライナの話、サプライチェーンの変化、さらにエネルギー、資源、そして為替の変動。

みなさんのビジネス、そしてこれからのキャリアは、少なからずその大きな変化の波を受け、その波をどう乗りこなすのかが問われていると思うんです。その中でみなさんがどういう経営・ビジネスの舵取りをしていくのか。そのヒントをこのセッションでできる限り引き出していきたいと思っていますので、お三方、ぜひよろしくお願いいたします。

大きな流れでいきますと、今日は「爆速経営」というテーマです。爆速と言えばこの方、小澤さん。おざーんさんに来ていただいているので、「爆速と私」というテーマで、まずはお話をいただきたいなと思ってます。

もう1つはこれからの展望です。先ほどルネッサンスの話がありましたけれども、未来に向けて経営をするにあたって、これからどういう展望を持っているのか。外部環境の変化をどのように捉えて、事業の成長戦略をどのように捉えていらっしゃるのか。このあたりに恐らくみなさんにとってのヒントがあるんじゃないかなと思ってます。

3つ目のテーマ。そこに向かっていく中での、経営者としての志や思いやスタンス、思想、考え方。これをぜひおうかがいしたいなと思っています。

実はこのセッションをやるにあたって、「何をこのお三方に聞きたいか?」と聞くと、実はそれぞれの思い、志、思想へのコメントが非常に多かったので、そういった場として、今日は3つのテーマを立てていきたいなと思ってます。

もちろん後半では、みなさんの質問を受けて展開していきます。先ほど事務局から案内がありましたけれども、最後15分ほどはみなさんの質問も受けていきたいなと思ってますので、ぜひ書き込んでいただければと思います。いい質問にはぜひ「いいね」をしていただけると、そのあたりをピックアップしながら進められるかなと思います。

「爆速」というスローガンを掲げた、宮坂体制のヤフー

井上:ではさっそく「爆速と私」ということで、最初に小澤さんにこのテーマについてお話しをいただきたいなと思ってます。2012年9月にヤフーにジョインされて、その段階から宮坂さんをはじめとしたみなさんで「爆速経営」というテーマで経営をリードされていらっしゃった。この中で、小澤さんはどんなことを考え、どのような行動されて、どのように会社を変えてきたのか。「爆速と私」というテーマでちょっとお話をいただきたいなと思ってます。

小澤隆生氏(以下、小澤):みなさんこんにちは。あらためまして小澤でございます。日頃、Yahoo! JAPAN、LINE、PayPay、ZOZO、一休、アスクル、Zホールディングスグループのサービスをご利用いただきまして、誠にありがとうございます。厚く御礼申し上げます。

(会場拍手)

小澤:何分しゃべります?

井上:そうですね。刻みながらいきたいなと思ってますが、2、3分でいっていただいて。

小澤:わかりました。「爆速」というのは昔からあった言葉ですけども、2012年に、今の東京都副知事の宮坂学さんが当時社長に就いた時に、スローガンとして打ち出しております。

ただ、今日いらっしゃっている出雲さんや鶴岡さんのいらっしゃるようなスタートアップ・ベンチャー企業に比べれば、当時の爆速はだいぶ遅いです。

つまり我々みたいな、非常に従業員数も多い、社歴も長い会社は、とにかく動きが遅い。一般的に大企業病と言われるんですね。「爆速」と言ったとて、結果的にそんなに速くはならないけども、そういう会社は、もう強烈な危機感がある。

その危機感がある時に、社長が「こんなまずいことになってる」と言うケースもあるし、我々のように「スピード速く動こうぜ」と。裏側には「そうしないと死ぬ」(という危機感があります)。

当時、ヤフーはPCでは強かったんです。ただ、スマートフォンへの対応がすごく遅れておりましたので、これをやるのが宮坂体制でした。とにかくそれを早くやり遂げなければならない。

「何を」がしっかりしていれば、「爆速」は機能する

小澤:みなさま方もいろいろグロービスで勉強されたり、いろんな企業でご活躍されてると思いますが、会社を動かす時はいろんなパターンがある。その裏側には、「動かす」と言うからには、何か目的があるわけです。「あっちに行こう」と言って、全員がバラバラに走るわけにはいかない。

なので「爆速」というからには、裏側に何か目的がある。我々にとってそれがスマートフォンへの対応でした。そこに対して「いついつまでに何パーセント」という目標を決めました。

多くの従業員の志ややる気を引き出すのって、実はすごく難しいんですよ。社長がいくら話したって引き出せないこともある。ただ、「爆速である! いついつまでに何パーセントやるのである! 用意ドン!」ということなんです。

これはやっぱり、大きな企業を動かしたり自分のチームを動かす時にはとても重要で、特にスピード感を出す時は大切です。

「爆速」とは言ってないですけど、同じかたちでやったのはPayPayです。ユーザー数0から、今4年で5,000万人が見えてきました。

私は最初の立ち上げから関わったわけですけども、「絶対に現金の比率を、当時の70%から50%を切るところまで持ってく。そのためにやれることは全部やる。よーいドン!」と。後発でしたけれども、シェア1位になることができた。

こういう体験を通じて思うのは、やっぱり爆速というのは「何を」がすごく重要なので、「何を」がしっかりしていれば、「爆速」が機能すると思います。

爆速で「意思決定」を進める上での経営者の役割

井上:ほぼ3分でまとめていただいてありがとうございます。「爆速」で1つの方向性を向かわせていくけれども、ついてこれないケースとか社員もいるんではないかなと思うんですが、そこはどのように巻き込んでいく、もしくはマネジメントされていらっしゃったんですか?

小澤:まず、全員が爆速でやる必要はないですね。サーバの運用とかが「爆速!」というわけにいかないじゃないですか。やはり役割なんですよ。一番爆速になんなきゃいけないのは経営者です。意思決定を迷ったらダメ。とにかく一番最初に水を流すのは経営者ですから。

「AかBか」と言ったら「Bだ」っていうのに、1年かかってたらとんでもないことが起きるわけです。もう「Bである」と言い切る。そのあと順繰りに水が流れていく。別に爆速じゃない仕事は山のようにありますが、爆速にならなきゃいけない仕事が一部ある。基本的には「意思決定」です。

井上:そうすると、やっぱり意思決定のセンスや感度を経営者は磨き込み、瞬時に判断できる(ようにすることが必要なんですね)。

小澤:まず、社長は一番情報が多いから、意思決定はある意味楽です。それから本部長だとか部長だとか降りていくと、要は意思決定がどの筋に(沿えばいいかを示す必要があります)。

日本国だったら憲法に照らし合わせて、こうだああだというんです。とある事業に関しても、僕らは「センターピン」と呼んだりしますが、「何を大事にするか」というものに照らし合わせて、AだBだという筋をちゃんと経営者が示してあげれば、迷いは少なくなります。

そういうのがないと、部署・部署、人で判断がぶれていく。そのまま爆速で意思決定をした時には、爆速で間違えていくんですよ。これはけっこう大事で、だから最初に方向性も示して「こっち」と言った範囲の中で、意思決定を爆速でやっていくことを心がけていますね。

スタートアップが感じている“Zの影”

井上:なるほど、ありがとうございます。では、同じ「爆速と私」というテーマで、出雲さんにバトンタッチしたいなと。

出雲充氏(以下、出雲):「爆速と私」。私、別に「爆速」って言葉をふだん使ってないんですけども。

(会場笑)

井上:そうですよね。

出雲:今日、本当にみなさんがヤフーに優しいですよね。ちょっと優しすぎるんじゃないかなと思うんですよ。普通、最初自分のことを紹介する時に、「Yahoo! JAPANとアスクルと一休とZOZO、LINEをご利用いただきありがとうございます」って、これはもう独占的プラットフォーマーですよ。

(会場笑、拍手)

出雲:拍手するところじゃないでしょう。もうベンチャーは大変なんですよ。本当にユーグレナ社もBASEも、苦しい思いしてがんばってるんですね。

井上:気がついたら“Zの影”が現れるみたいな。

出雲:だからもうちょっとスタートアップに優しくなるように、ちょっとみなさんのマインドをひっくり返さなきゃいけないっていうことが、最初にわかりました。

(会場笑)

スタートアップが「爆速」を真似してはいけない

出雲:「爆速経営」というのは、これも騙されているんですよ。僕は「爆速経営」という言葉に、「格好いい。羨ましいな」っていう思いがあって。妬み半分みたいな話ですけれども、でもちょっとあまりに格好よくて悔しかったんで、会社では「絶対真似するな」と。

スタートアップ・ベンチャーが気合とか爆速とか、そういう数字で表現できないものを使ったら、どこまでがんばったらいいのか、どこまで速くしなきゃいけないのかがわかんなくなるんです。あとで時間がある時に、弊社のホームページを見ていただきたいんですけれども、ユーグレナ社は行動指針である「ユーグリズム」で「7倍速」って言っているんですよ。

(会場笑)

出雲:爆速じゃないんですよ。爆速だったら、どれだけがんばればいいのかわからない。7倍速というのは、今日の会議で決めようとしていたものを「ちょっと今日は結論が出ないので、来週にしましょう」と1週間、つまり7日先延ばしにしていると、いつまで経ってもヤフーに追いつけない。7日かかることを1日で決める。だから7倍速だと。

今日今ある情報で決めなかったら、うちみたいなスタートアップ・ベンチャーは、すぐになくなってしまう。死んでしまう。潰れてしまう。だから爆速じゃなくて、7倍速。「最速で一歩を踏み出し、やり切る」とホームページに書いているので、あとで見てください。

井上:ぜひみなさんググっていただいて。でも今の話をおうかがいすると、やっぱり7倍速のように、「スピードは、経営において極めて重要である」というお考えが背景にあると。そう理解していいですか?

出雲:はい、そうです。

スタートアップが成長していく上で「スピード」は何よりも大事

井上:ありがとうございます。じゃあ、ここの流れで鶴岡さん。

鶴岡裕太氏(以下、鶴岡):もう最悪ですね......。

(会場笑)

鶴岡:おざーんさんと出雲さんが話して、もう僕は話すことないなって思って。参考にならないです。だって2人の話はヤバいことが一瞬で伝わるじゃないですか。

井上:そうですね。しかも、控え室で議論していた話と全然違うところが来る。さすがすごいなというのは思いますよね。

鶴岡:だから逆に、僕の話が役に立たないんじゃないかなと思って。

井上:いえいえ。

鶴岡:それこそ、2人の話も全然参考にならないから……何でしたっけ? 爆速ね。出雲さんと同じで、「爆速」なんてふだんはぜんぜん使ったことないんです。でも、おざーんさんも「あり得ない」と言ってましたけど、我々のようにいつどうなるかかわかんない立場の上では、やはりもうスピードが何よりも大事ですよね。

直近はわかんないですけど、BASEが創業して以来だと、スピードの方がお金よりも大事と言えるぐらいです。いつどうなるかわかんないし、それこそどっかの会社が「爆速」とか言い出して、スタートアップでガンガン、僕らがやってるような小さいマーケットにですら入ってきかねない。

井上:どこかの会社が。

鶴岡:どこかの会社がいろいろやられているので、やはり僕たちとしては、意識してないですけど、もはやスピードがないと生きていけない。その意味では、我々が成長していく上ではスピードは何よりも大事なもの。

トップが、スピードを持って意思決定する姿を見せ続ける

鶴岡:それこそヤフーさんが「爆速」って言って、スタートアップ界隈にも緊張感が出ました。それは良かったなと思ったんですけど、何でもやるんじゃないかというか、本当はスタートアップサイドって、ヤフーに挑んで行く側なわけじゃないですか。でもちょっと風潮的には、ヤフーにやられるんじゃないかって。

我々としては嫌ですけど、それがすごい緊張感になるって意味では、この「爆速」という言葉が出てきて良かったなと思いました。我々としては「爆速」を意識したことないですけど、成長する上では大前提かなって思います。

井上:「爆速」「7倍速」、そして「お金よりもスピードだ」ということなんですが、経営の発信という意味では、内部にはどういうメッセージを出していらっしゃるんですか?

鶴岡:スピードに関してですか? そうですね。おざーんさんがおっしゃってくれてましたけど、やはり創業者がいると、オーナー企業だから「意思決定」が速いと思うんですよね。そこは唯一無二の武器だったかなって感じはします。最終的には独占的にガーッて決めていける。

うちはまだ300人ぐらいで組織が小さいので、意思決定はスムーズです。なのでトップがいち早く意思決定をするとか、スピード感を意識した行動をするとか、その姿を見せ続けるのは、我々のフェーズだとすごく大事だったかなと思います。

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