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才流(サイル)のコンサルタントが教える 新規事業を成功させる PMFの教科書(全4記事)

他社にない特徴を出すという“間違った差別化”が成功を遠ざける 成功事例に見る、「PMF」達成の2つのステップ

業界業務の経験豊富な「その道のプロ」に、1時間からピンポイントに相談できる日本最大級のスポットコンサル「ビザスク」。そのビザスク主催のセミナーに、BtoBマーケティングのコンサルティングを提供する才流(サイル)の小島瑶兵氏が登壇。本記事では、PMF(プロダクトマーケットフィット)達成のための「顧客理解」の重要性や、PMFするための選択肢などが語られました。

成功事例に見る、PMF達成の2つのステップ

小島瑶兵氏(以下、小島)PMFの3つの成功事例を紹介させていただいたんですが、共通点としては、リリース後にお客さまの課題感や、現状の強みが伝わらないという課題感に気づいて、プロダクトや見せ方を変えることでPMFを達成したことです。

PMF達成の鍵はプロダクトとマーケットを合致させることですが、大きく2つのポイントがあると思っています。解決されていない顧客課題をきちんと捉え、その上でサービス内容や見せ方、提供価値をお客さまの課題に合致させるという2ステップを踏んで、みなさまPMFを達成されています。

3つの事例をご紹介したのは、PMFの話になった時、「他社との差別化が必要なんだよね」と、他社にはできない違いを見せることをサービスやプロダクトの主眼に置くケースがすごく多く、「顧客課題がない」「顧客課題に合致していない」という「偽の差別化」みたいなことが起きてしまいがちです。

なので、顧客課題からスタートして、「その顧客課題を解消できるように、どうやってサービス内容やプロダクトの見せ方を変えればいいんだっけ?」と考えていただければと思います。特に(スライドの)1番がおざなりになりがちなので、そこを捉えていただく。

2つ目の提供価値やサービス内容に関しては、会社さまによって「これはできる」「これはできない」というのが正直あるかとは思いますし、制約条件もあると思います。

先ほどお見せしたとおり、プロダクトを提供している会社さまが、営業活動やプロモーション活動の小手先ではなく、オペレーション業務を追加で販売されたり、ユーザーインターフェースやサービスの軸を変えたり、かなり抜本的な改革を行うことでPMFをしたケースも多数ありますので、その事例もお話しできればと思っていました。

顧客ヒアリングに足りないのは、深さよりも「数」

少し質問を見させていただきます。「『プロダクトで解決できない顧客の課題をヒアリングした』というお話がありましたが、顧客課題の深掘りの時のヒアリングのポイントがあれば教えていただきたいです。ヒアリング数が大事なのか、深さが大事なのか、比較が大事なのかなど」というご質問です。

数と深さはどちらも大事だと思いますが、あえて申し上げると、いろいろとご支援させていただく中で、数が圧倒的に足りていないケースが多いかなと感じています。

ある事例をご紹介します。最近リリースされてすごく伸びているSaaSのプロダクトがありますが、そこの会社さまはリリースされる前に、知り合いや過去のつてをたどって200件の商談をされていました。

顧客の生の声をベータ版のプロダクトにきちんと反映して、このプロダクトで200件の商談の中から有償の契約を10件以上取られた上で本リリースされています。5人とか10人というレベル感ではなく、50件、100件、あるいは200件の声を聞いていくところがすごく重要なのかなと思います。

ヒアリングの細かいポイントに関しては、インタビューで聞いていただきたい項目や、陥りがちな失敗のご紹介がありますので、後ほど回答させていただきます。

「『レシートポスト』の事例のように、ツールだけでは解決できず、サービスを併せて提供する場合、サービスを自社が提供できない場合の処方箋はあるのでしょうか?」。これは回答がすごく難しい質問ですが、多くの会社さまがぶつかる課題かと思いますので取り上げさせていただきました。

自社が提供できないとどうしようもないところはあるかと思いますが、あり得るとしたら、他の会社さまと組んでやっていくとか、徐々にそちらのほうに移行していくとか。実際にM&Aでそういった会社を買うケースもありますが、経営者レベルでないとその意思決定はできないと思います。

ですので、現実的には自社ができる中で、どうやって課題を解決できるサービスを提供していくかはあると思います。ただ、今できなくても工夫すればできるようになるかもしれないので、ケイパビリティをぎりぎりはみ出したものでもトライしていくのは、すごく重要な観点だと思います。

PMF達成は「顧客理解が9割」

では、次のテーマの「PMFを達成するためにやるべきこと」に移らせていただきます。先ほどの3つの事例は、「顧客の課題をきちんと見つめて、そこに対してプロダクトそのものや見せ方を変えていきしょう」というお話でしたが、他の方法もありますので事例をご紹介します。

最初に「フィットジャーニー」という6つのフェーズのお話をしましたが、原則は左から順番に進めていくことがすごく重要です。

顧客の課題を無視したかたちで差別化したり、他社と違うものを模索してしまう新規事業や新サービスが非常に多いので、まずは顧客課題からスタートするのが重要です。

ただ、顧客課題が重要というのはすでに多くの会社さまに浸透しています。今回はビザスクさまとの接点がもともとある会社さまも非常に多いと思うので、インタビューをされていたり、顧客の解像度の大事さに気づいていらっしゃる方もいると思います。

そういう会社さまがつまずきがちなのが、フェーズ2とフェーズ3かなと思います。先ほどご質問いただいたとおり、「課題を解決するソリューションを実際はどうするの?」という問題がすごく重要で、とにかくフェーズ1を外しては何も起きないので、「左から順番に進めてください」というところです。

我々は「顧客理解が9割」とお伝えしています。

「誰向けのサービスなんだっけ?」「この人は何に困っているんだっけ?」というのを、機能や差別化要素、どういうチャネルでどういうメッセージングで訴求するかに合わせていくことで顧客開拓が進んでいきます。「まず顧客の課題をきちんと捉えましょう」ということです。

お客さまの課題感をあまりよく把握できていない状態だと、想像や妄想で機能開発したり、ピボットしてしまうケースも非常に多いので、解像度はすごく重要なポイントです。

PMFするための選択肢

「顧客のニーズを満たす商品で正しい市場にいる」ことが大事ですが、具体的にPMFをするためにどんな選択肢があるのか。

現時点で「こうすれば確実にPMFしますよ」という方程式を我々も持っているわけではないんですが、数十社を分析させていただいて「どういう選択肢があるか」は出ているのでご紹介します。

まずは、プロダクト側を変えるという発想です。

先ほどの「レシートポスト」のように、プロダクトだけでなくオペレーション業務も対応するかたちで、サービスの幅を広げるパターン。あるいは機能を変える、計画を変える、コンセプトを変える、メッセージを変える、売り物そのものや売り物の見せ方を変えることで、マーケットにフィットさせにいく方向性です。

一方で、売るものは何も変えずにターゲットを変えることでフィットするケース。あるいは市場の変化に応じてフィットするケース。あるいはまったくない市場を創出するケースもありますので、1つずつご紹介させていただきます。

まず、サービスの幅を広げるパターンです。先ほどは「レシートポスト」さまをご紹介しましたが、他でもこのパターンで成功しているケースはけっこうあります。

「ノバセル」さまは、テレビCMの企画から運用までされる会社さまですが、「テレビCMの企画や運用だけでは解消し切れない」「以前テレビCMを出稿したことがある会社さまがなぜ失敗してしまったのかがわからないので、2度目のチャレンジができない」という課題感があることに責任者の方がお気づきになられた。

テレビCMの企画や運用だけではなく、「そもそもそのテレビCMの効果はあったの?」というものを測定する「ノバセルアナリティクス」というツールを独自に開発されて、このツールとセットでご提供していくことでPMFを達成されています。

先ほどの「レシートポスト」さまの場合は、プロダクトに人のサービスを乗っけたパターンですが、「ノバセル」さまは人のサービスにプロダクトを乗せたパターンです。

「見せ方」「価格」「マーケット」を変えてPMF

一方で、見せ方を変えることで状況が変わった会社さまもあります。先ほどご紹介した例で言うと、「KARTE」さまです。「ユーザーインターフェースを変えることでPMFをした例がありますよ」とご紹介しました。見せ方を変えるパターンはユーザーインターフェースだけではなくて、訴求メッセージを変えることでうまくいった例もあります。

「HERP」という採用活動を効率化するツールをご提供されていますが、採用活動の効率化ツールはなかなか理解されなかったり、「それって本当にどういう経営的なメリットがあるの?」というところが伝え切れずにPMFをし切っていなかったという状況でした。

そこで「スクラム採用」という言葉を使い始めました。「スクラム採用」とは、「全社一丸となって採用活動に取り組むことで、採用の全体の予算が圧縮されたり、より良い方を採れるんですよ」というメッセージングです。プロダクトを大きく変えたわけではなくて、メッセージングを変えることで価値が伝わりやすくなって、より売れるようになったという例です。

シンプルに価格を変えることでPMFを達成されたケースもあります。WACULさまの「AIアナリスト」です。Webサイトにこのツールを入れることで、どう改善すればいいかをAIが教えてくれるツールを提供されています。

もともとは、1回1回の解析でショットで金額を課金する形式でしたが、たくさん申し込みは来るものの、まったく儲かる状態ではなく、利益が出ていなかった。顧客ニーズにも合っているし、ソリューションも合っているんだけれど、儲かったり事業的に成立する状態ではなかったというケースです。

「AIアナリスト」さまは、課金モデルをショットから月額制の継続課金に変更されたことで利益が出るモデルになって、その後スケールして上場されました。なので、売れているが儲かっていないというケースの場合は、価格改定がブレークスルーになるケースもあります。

一方で、マーケットを変えることでPMFを達成した例もあります。売り物を大きく変えずに売る相手を変えるパターンですね。これは「Akerun」というスマートロックを提供されている会社さまが実施した内容です。もともと一般家庭向けにスマートロックというサービスを販売されて、一定売れてはいたんですが、なかなか伸び切らなかったとおっしゃっていました。

一般向けの市場に売っていく中では、買われても、ずっと使い続けてもらえず、今後も一般向けではなかなか成長が難しいというところで、企業向けにセグメントを変えてPMFを達成された例です。

もともとtoC向けにリリースしたものをtoBに持ち込んでPMFを達成した例は他の会社さまでもありますので、1つ頭の片隅に入れていただくといいかもしれません。

「プロダクト」と「マーケット」はどちらを先に変える?

もう1つ、マーケット側を変えたパターンの事例もご紹介します。スキマ時間でアルバイトができるサービスを提供されているタイミーさまです。

この会社さまは、もともと飲食店向けにアルバイトの方を派遣するサービスをされていたんですが、コロナで飲食店向けのニーズが一気になくなってしまって、もともとPMFしていたのに外れてしまったという例です。

この時は飲食店向けではなく、例えば物流など、逆にコロナでニーズが増えた市場にもう一度PMFをさせたという例です。

マーケット側を変えた例をもう1つご紹介します。「fondesk」という電話代行業務を行うサービスで、お客さまや営業マンからのお電話を1次受けしてくれるサービスです。事前の質問でもいくつかあったんですが、こちらの会社さまは市場がない場合に当てはまる会社さまです。

代表電話の取り次ぎをアウトソーシングするサービスは、もちろん競合がいくつかあるものの、そもそも存在が知られていないところが大きな課題感としてありました。

この会社さまの場合は、かなり早いタイミングで「こういうサービスがあるんですよ」とわかってもらうような認知形成のプロモーション活動をされていて、このカテゴリーの認知を増やすことでPMFを達成されたパターンです。

まとめると、今ご紹介した会社さまはプロダクトを変えるか、あるいはマーケットを変えるかによってPMFを達成されています。

なので、現状でみなさまが携わっているサービスや事業がPMFしていない場合は、プロダクトを変える、あるいはマーケットを変えるという選択肢をご検討いただくといいかなと思います。

「どちらの順番でやったほうがいいですか?」というご質問を冒頭でいただいています。ケースバイケースとなってしまいますが、多くの場合はプロダクト側を変えるのはかなり大変です。追加の開発費用もかかりますし、場合によってはチーム体制もちょっと変えなきゃいけない。

まずは、「売る相手を変えることでなんとかならないか」を模索していきながら、「このセグメントやこのターゲットにチャンスがあるな」と気づいたら、プロダクトあるいはサービス側をそこに合わせていく。なので、マーケット側から先に考えるのが現実的にはいいのではないかと思います。

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