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フィンランドのイノベーティブな働き方と組織づくり(全3記事)

学生のスタートアップ人気が加熱、国会ではベビーブームが到来... フィンランドの、若者や女性が活躍できる「文化」の成り立ち

業界業務の経験豊富な「その道のプロ」に、1時間からピンポイントに相談できる日本最大級のスポットコンサル「ビザスク」では、その道のプロによるセミナーも開催しています。今回は「フィンランドのイノベーティブな働き方と組織づくり 」をテーマに、『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』著者の堀内都喜子氏が登壇しました。幸福度ランキング4年連続1位で、残業が少なく有休消化は100%が当たり前。でも1人当たりのGDPは日本の約1.25倍であるフィンランド。なぜ生産性の高い働き方ができるのか、その理由について考えます。

フィンランドは日本にとって「ヨーロッパの中で一番近い国」

堀内都喜子氏(以下、堀内):みなさま、こんにちは。堀内都喜子と申します。今日はたくさんの方にご参加いただきまして、本当にありがとうございます。

今日はフィンランドの話を中心に行いたいと思います。事前の質問もたくさんいただきました。そのあたりも後ほどお答えしていきたいと思います。

フィンランドについて、もうご説明する必要もないかなと思いますが、北欧の一国です。右がロシア、左がスウェーデンです。遠い国のようなイメージを持たれるかもしれませんけれども、実はフィンランドは、ロシアを間に挟んで日本と隣国同士なんだと私たちは言っています。

今は直行便で10時間かからずに行けます。コロナ禍ではありますけれども、フィンエアーやJALがほぼ毎日飛んでいますし、もともとコロナ以前は名古屋、関空、さらには札幌、福岡などからも飛んでいました。コロナが収まればそういったところも徐々に復活していく予定です。

みなさんヨーロッパに行く際には、フィンランド経由の便もぜひご利用いただけたらなと思います。「ヨーロッパの中で一番近い国」と覚えておいてください。

首都のヘルシンキは一番南にありますが、私自身はユヴァスキュラ(Jyväskylä)という、国の真ん中あたりの「J」で始まる町に住んでいました。ヘルシンキについては映像をご覧になる機会があると思いますので、ユヴァスキュラの写真も用意してみました。

世界ラリー(選手権)の開催地にもなっているので、車好きの方は聞いたことがあるかもしれませんね。「1000湖ラリー」とも呼ばれていたりして、今でもトヨタのラリーカーの開発拠点が近くにあります。

ここは学園都市で、私もそちらの大学で勉強しました。湖を中心に町が発展しています。

冬が長く、家で過ごす時間が長いフィンランド

これは夏至の頃の真夜中の写真です。冬になると、今ちょうどこの寒い時期はマイナス20度くらいまでいきます。湖が凍って、その上を歩いたり、スケートしたりできます。

どうしても冬が長いですし、特に冬至の頃は本当に日が短い。夏はすばらしく過ごしやすいですけれども、やはり暗い時期が長いです。

今でこそ日本でも「ステイホーム」ということで、この2年「家で過ごす時間を快適に過ごそう」と言われ続けていますけれども、フィンランドの場合は昔から冬が長く、家で過ごす時間が長かったので、「いかに家で過ごす時間を快適にするか?」「効率良く過ごしていくか?」というのは、長年考えられてきたことです。

私が行った年は本当に日照時間が短くて、日照時間が1ヶ月トータルでなんと3時間しかありませんでした。

フィンランドの概要を先にご説明します。人口は550万人です。だいたい北海道と同じくらいでしょうか。面積は日本とほぼ同じですので、いかに人口密度が低いかがわかるかと思います。

ほとんどの人たちは南のほうに固まっているので、ヘルシンキですとか主要な都市は南にあります。ラップランドはもちろん観光地としても有名ですし、地方にもいろいろな研究所や大学が散らばっていますので、地域格差はそれほどありません。

「北欧のスタートアップ中心地」と呼ばれる背景

森林が7割以上で、世界的に見ても日本とほぼ同じくらい、森林の占める割合が高くなっています。そのおかげで、紙、パルプ、木材、森林業は伝統的産業としてフィンランドが強いところでもあります。

ただ、フィンランドは最近は起業ブームで、特にスタートアップと言われる新しい会社がどんどん生まれています。

たぶん今日聞いていらっしゃる方は、(フィンランドの企業と聞いて)ノキアを思い浮かべる方も多いかなと思います。やはりフィンランドの企業として強く、昔から大企業として知られています。

ノキアはもともと紙を作る製紙から始まって、タイヤを作ってみたり、時代に乗って電子機器を作ってみたりして、大きな不況の後に(事業を)携帯電話に集約しました。その後携帯電話からスマートフォンへの切り替えがうまくいかなかった時、その事業の部分は切り離して、今は無線機器とかネットワークの構築のほうで、世界的にも主要な企業として生き残っています。

生き残るために切った携帯部門にいたエンジニアの人たちを、ただでリストラしたわけではありません。もちろん会社にはある程度の財力がありましたので、リストラする際も、まずは会社が起業したい人たちに向けて、起業のいろいろな講座を開いたりレクチャーしたりしました。

良いアイデアには資金援助をしたり、オフィスを貸したりして、結果トータルで800社以上の「ノキア発スタートアップ」が生まれたと言われています。

そういったエンジニアとアイデアを持っている人たちを結びつけたりして、今はスタートアップが非常に勢いのある国となっています。ということで、フィンランドは最近では「北欧のスタートアップ中心地」と呼ばれたりしています。

起業に関心を持つ若者が増えた「SLUSH」

みなさん、「SLUSH」という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか? これは11月末から12月の頭にかけて行われるスタートアップの祭典で、数万人が参加するイベントになっています。

コロナ前はいろいろなところから国家元首が来たり、日本でもJETRO(ジェトロ)を含め、福岡市が参加したり、最初の頃は孫正義さんがゲストスピーカーとして参加されていました。

「SLUSH」の特徴は、ロックコンサートやライブ会場のようにレーザー光線を使ったりする演出が派手で、この運営はすべて学生で行っています。北欧の大学生がそれをすることで、「ああ、スタートアップってかっこいいな」「起業ってちょっとやってみたいかも」と思う若い人たちが増えてきています。

実は昔、私が留学した頃の2000年から2005年は、まだノキアも強かったですし、製紙会社もとても強かったので、若い人たちの就職の理想は「大企業に入ること」でした。

しかし最近では、「自ら起業してみたい」という人たちが本当に増えていて、高校生、大学生の中でもたくさんそういう人たちがいます。特にこの「SLUSH」を経験すると、「自分でもできるのではないか?」とか、「自分もこのステージに立って、ピッチングをしてみたい」なんていう人も多く現れています。

国が起業家を支援する、整ったスタートアップエコシステム

学生が運営していると言いましたけれども、ここで学生CEOをした人たちがどんどん起業して成功もしています。

例えば今、日本でUber Eatsのライバルとして、Wolt(ウォルト)「ダブリュー・オー・エル・ティー」(という)ブルーのマークの会社があります。CMもやっていますが、この会社を作ったミキ・クーシは、「SLUSH」の代表を務めていた人です。

Slushではいろいろなビジネスのマッチングも行われています。「SLUSH」だけはでなく、そういったスタートアップエコシステムが、フィンランドは非常に整っています。

また、海外からもスタートアップを目指す人たちを募集していて、ビザもそういう人たちが取りやすくなっていたり、フィンランドの場合、起業とかスタートアップをしたい人たちに、1年間手当を支払ってサポートしています。生活費の糧として毎月7万円ほど支払うシステムもあって、今はスタートアップが本当に人気です。

特にゲーム会社は、大きく育っているところもたくさんあります。例えばSupercell(スーパーセル)やROVIO(ロビオ)は、その先駆者でもありますね。

国会の約半分が女性、閣僚のベビーブームが到来

フィンランドと言ってみなさんが思い浮かべるのは、何があるでしょうか? もちろん、ムーミン、サンタクロース、デザインとよく言われますけれども、最近は「ジェンダー」が注目されています。

大統領は70歳過ぎの非常に経験豊かな男性なんですけれども、首相は36歳の女性です。フィンランドは連立与党を組んでいるのですけれども、5つの党の党首は全員女性が務めています。大きい野党の党首も女性で、これは偶然ではあるんですけれども、今国会の約半分が女性ですので、珍しくないかなと思います。

最後のほうで言いますけれども、最近フィンランドの課題として出生率が下がっていることがあるんですが、なぜか国会議員の、特に閣僚のベビーブームが来ております。この約2年の間に8人の赤ちゃんが生まれています。5人の党首のうち4人が30代なんですけれども、実はそのうちの1人は今、産休に入っています。右から2番目の女性ですね。

彼女は保護シェルターで生まれ育ったりして本当に経済的にも恵まれない中、フィンランドの場合は大学院の博士課程まで無料で勉強できますので、「貧困学」で博士号を取って、そのあと政治家になって、今は党首です。

そしてこの間、産休に入る前に党首選に再選されたんですけど、党首選に出る時に、「私は妊娠しています。そして党首選に出ます。再選されてから産休に入ります」と宣言していました。とてもフィンランドらしいというか、「日本ではまだまだそういった雰囲気もないなぁ」と思いながら見ていました。

若い人や女性が活躍するフィンランドの「任せる文化」

閣僚が実際に産休に入った場合は、同じ党の他の人が代理を務めます。党首としての地位は維持しながらも全部の仕事ができるわけではないので、その間は他の人に仕事を割り振ったりしています。

彼女が産休に入っている間、代わりに任命されたのは27歳の議員です。今フィンランドでは若い人や女性の力が(強くなってきています)。もともとフィンランドでは、任せる雰囲気、文化があります。これは政治に限らず企業でもそうですが、特に政治の中ではそれがより顕著になってきているのかなという感じがします。

若いといっても経験がまったくないわけではありません。また「若い」と日本人は言いますけれども、フィンランドでは10代の頃から政治に関わることは何も珍しいことではありません。15歳から党に入る人もいます。政治に興味のある人は、だいたい20歳くらいで政党に所属したり、政治活動に参加したりすることが多いです。

ですので、今党首になっている人たちも30代ですけれども、10代、20代の頃から政治活動をしていた人たちです。

フィンランドが「ジェンダー」の問題にこだわる理由

それから、企業においては......まだまだ数でいうと、50:50というわけではありませんけれども、取締役においても管理職においても、確実に女性が増えてきています。この管理職(の女性比率が)37パーセントというのも、昨年の発表が36パーセントですので、少しずつではありますけれども増えてきています。

どうしてジェンダーにこだわるのかというと、男性目線だけでモノを売ったり作ったりするのではなく、やはり女性の目線も必要だし、逆に女性だけではなく男性の目線も必要です。

さらに今は価値観が多様化してきていますから、いろいろな人の目、いろいろな人の考えを取り込んでいくことが、モノづくりにおいてもビジネスにおいても重要だと考えられるようになってきました。

そしてフィンランドというと、最近話題なのが幸福度ランキングで4年連続1位になっています。でも1位になったからといって、みんながみんな笑顔で......笑いながら暮らしているというのとは違うんですね。フィンランド人に、「また幸福度ランキング1位だね」と言っても、たぶん「絶対嘘だよ」って返されると思います。

どちらかというとフィンランド人は自虐的で、あまり表情に出さないタイプの人たちなんですけれども、幸せじゃないかというとそうではなくて、本当に日々の日常に幸せを感じています。

幸福度ランキングから見る「寛容さ」の違い

それからこのランキング自体は、例えば民主度だったり、選択の自由度、政治の透明性といったことを総合的に見ています。決して日本は悪いわけではなく、例えば健康面でいうと世界トップです。

日本が劣っているわけではないのですけれども、違いは何があるか。あえて挙げるのであれば、フィンランドのほうが「選択の自由度」が高いです。

日本は金銭的なものだったり、「男性だから」「女性だから」「20代だから」「30代だから」といった、いろいろな価値観の無意識の押しつけもあるかと思います。どうしてもそういったことに縛られやすいというのはあると思います。

フィンランドは、それが非常に緩いです。もちろん価値観は人によって違いますが、個人の価値観に合った選択がしやすいのがフィンランドだと思っています。

それから「寛容さ」が日本とフィンランドで違ってくると言われています。いろいろなことが多様化して、多様な人がいる中で、フィンランドは非常に寛容で、「社会に貢献したい」という思いが強い人が多いという結果が出ています。

温暖化の影響を非常に受けやすい国としての課題

あともう1つ、最近日本で言われているSDGsですけれども、フィンランドは達成度が世界1位です。ただ、「SDGs世界1位」という言葉自体、フィンランド人はあまり意識していないといいますか、「SDGsって何なんだろう?」と思うぐらい意識していないと思います。

ただ、SDGsの1つの大きなテーマが「誰も取り残さない」ということなんですけれども、北欧はもともと福祉国家を作る上で、「誰も取り残さない」ということをスローガンにしていました。

「次の世代にどういった世界を残していきたいか?」「どういった国であってほしいか?」といった時に、(考えるのは)環境だけではありません。SDGsの目標って「当たり前のこと」でもありますよね。当たり前のことなんですけど、なかなかできていない。その当たり前を、フィンランドでは自然にやってきているんです。

ただ、もちろんフィンランドにも課題はあります。例えば環境に関して、フィンランドはあれだけ北にあるので、温暖化の影響を非常に受けやすい。ですのでフィンランドにとっては、脱炭素や温暖化対策は、本当に身近な問題なんですね。

今それに向かい合うために、国としては「2030年までにカーボンニュートラルにする」という野心的な目標を立てました。国はもちろん、民間、企業、自治体など、すべての人を巻き込んでやっていかないとなかなか達成できないということで、今動いています。

オンライン公共サービスのDXが世界トップクラス

それから今フィンランドが力を入れているのは、「サーキュラーエコノミー」の考えです。これも数年前から、フィンランドは国際会議を開いています。循環型経済ですね。

あとは意外に知られていないかもしれないですけど、フィンランドはオンライン公共サービスのDXが世界トップクラスです。

1960年代からマイナンバーを導入していたこともありますし、例えば医療データはもう一元化されていて......もちろん個人情報はありますけれども、全国どこの病院に行ってもすべてのデータにアクセスできます。処方箋もそうですし、自治体の転入・転出もクリック1つでできるようなかたちで行われています。

「人」中心のオンライン公共サービスということで、この努力は今もまだまだ続いています。特にコロナになって、フィンランドでも急に加速化した感じがあります。

フィンランドの働きやすさを作る「人材は一番の資源」の考え方

世界1位や良い所をお話ししましたけれども、独立したのが1917年ですから、実は約100年前は写真のとおり、こういった状況でした。フィンランドは、ヨーロッパでも非常に貧しい国の1つでした。

長年スウェーデンの占領下にあって、そのあとロシアに取られて......そこから独立したんですけれども、内戦があったり、第二次世界大戦ではまたロシアと戦い敗戦国になるという、厳しい状況を何度も何度も乗り越えてきています。

その中で「福祉国家にしていく」という方向に、他の北欧に追随するかたちで転換しました。フィンランドは資源があまりないんですね。豊かな森と自然はありますけれども、天然資源があるわけでもないですし、人がたくさんいるわけでも、有名な企業が昔からあったわけでもないです。その中で、「人材は一番の資源」というのは言われ続けてきました。

福祉国家として成長していくんですけれども、第二次世界大戦でほとんどの男性が戦地に取られ、女性の労働力が重要になってきました。

戦後に女性の社会進出が始まり、男性は男性で、「女性が働いている間に誰が育児をし、家事をするのか?」となった時に、「男性も家にいる権利がある。男性も肩の荷を下ろして、ただ働くだけではなく、家の中のことも一緒にやっていく」という方向に動き始めて、いろいろな制度を整えていきました。そういったことで、今のような働きやすいフィンランドができていったと思います。

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