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田所氏講義 ピッチの極意(全3記事)

投資家の関心を引く、ピッチの「冒頭10秒」の重要性 『起業の科学』の田所雅之氏が説く、ピッチのポイント

スタートアップ向けクラウド経営管理ソフト「FUNDOOR」を提供する株式会社FUNDINNOが主催するセミナー「資金調達 ピッチの極意」に、『起業の科学』の著者・田所雅之氏と、ユニコーンファームCSOの清田享平氏が登壇。本記事では、田所氏による「ピッチの極意」の講演の内容をお届けします。ピッチが冗長になる理由や、投資家が起業家から聞きたいことなどが語られました。

資金調達までは最低でも3ヶ月かかる

田所雅之氏(以下、田所)VCと関係を構築して最終的に投資契約を締結して、資金を活用していくんですが、そこに向かうためのピッチの解説をしたいと思います。

まず時間的な目安のお話をしますね。僕や清田のところに「資金調達したい」という相談がけっこう来ます。例えば10月半ばに来て、「11月末でクロージングしたいです」みたいな、けっこう無理な相談をされることもあるんですね。これはけっこう難しいです。

エンジェル投資家なら自分のお金なので、いわゆる男気投資みたいな感じでやる方もいるかもしれません。でも、投資家はプロなんです。

リミテッドパートナーというものがありまして、機関投資家や、コーポレートベンチャーキャピタルなど事業会社からお金を預かって運営しているんですね。ちゃんと毎月投資委員会があって、そこで議論してから投資を行うので、最低でも3ヶ月かかります。だから、時間を保守的に見ていくことは大事です。

先ほどのスタートアップの件は、僕が代表にメンタリングしたのが今年の6月だったんですね。

そのタイミングでめちゃめちゃバーンレートが上がっていて「いつバーンするんですか?」と言ったら「9月末」とおっしゃいました。それで「資金調達する目処はあるんですか?」と聞くと、「いや、ないです」みたいな話だったんですよ。

「資金調達してからプロダクトを作る」みたいな話でしたが、これはニワトリ・タマゴですよね。すでに彼はエンジェル投資家から3,500万円を集めていました。それだけあればある程度プロダクトのプロトタイプも作ることができるので、トラクションを出す努力もできたはずです。でも、そういう状態でもなかったと。

ある意味、時間軸を見誤ったんだと思います。「貧すれば鈍する」という表現がありますが、(京セラの創業者である)稲盛和夫さんは「土俵の真ん中で相撲を取れ」と言いました。土俵際に迫られると、つまりキャッシュフローがなくなってくると、基本的に出せる技も少なくなってくる。

気持ちの余裕がなければ、周りにあたってしまったり、できる手数や施策がどんどん少なくなっていく。だから、時間的な余裕を持つことは大事だと思います。

あと、スタートアップ業界は紹介文化なので、やはり正面突破みたいなこともあります。そういうふうに、信頼できる人と関係構築をしていくことも1つのポイントですね。

ピッチが冗長になる理由

ということで、ここからピッチの内容に入っていきます。清田からもある程度詳しい説明がありましたので、僕は違う角度から説明していきますね。

ただ、出す事例がエアビーとSmartHRで、被っているんですね。僕はSmartHRがTechCrunch(Japanが主宰するピッチコンテスト)で優勝したピッチを解説します。残念ながらTechCrunch Japanは去年閉じてしまったんですけれども。

次は「用意するべきピッチパターン」ですね。よく行われるのは「ショートピッチ」で、「TechCrunch」だと5分、「ICC」だと7分、「IVS」だと5分です。あらゆる事業において、僕は5分以上かかるものはないと思うんですね。

企業で説明するとなると、15~20分かかるパターンもあるかもしれませんけど、「いかにして端的に伝えるか」が大切です。冗長的になるということは、自分自身がその事業について理解していないんだと思うんですね。

なので、実はピッチというものは「短くなればなるほど難易度が上がっていく」と言われています。「いや、10秒ピッチならすぐ言えるじゃないか」と思われますけど、そうでもないんですよ。

10分ピッチのほうが、バンバンだらしなく話せるんですね。実は長くなればなるほど簡単になる。整理しなくてもいいので。

先ほどの「〇〇のUber」とか「〇〇のairbnb」というのは、「一言で言うと自分たちのサービスは何なのか」ということを表しています。これは、いわゆる類推とかアナロジー思考と言います。「自分たちのサービスを一言に結晶化すると何なの?」と考えた結果の表現ですね。

これは最初に考えるものではなくて、おそらく染み出てくるものだと思うんです。つまり、自分たちが決めることではなくて「顧客に対する独自の価値提案」であると。

UVP、Unique Value Propositionとも言いますが、こうした一言は、「自分たちの価値が検証された結果として出てくる言葉」なんだと思います。

エレベーターピッチやショートピッチの目的

次は「エレベーターピッチ」です。僕も投資家をやっていたんですけど、投資家には非常にいろんな資料が飛んでくるんですね。だから、ピッチの目的は「投資家の時間をブッキングすること」なんです。

実は、最初の30秒ピッチとかショートピッチで投資を受けることは無理なんです。投資を受けるにはインベスターピッチといって、Zoomで30分、対面で60分やるものがあるんですね。だから、はじめのピッチは「投資家の60分をブッキングするため」にやるんです。

そのために、まず10秒ピッチをクリアして、30秒ピッチ、エレベーターピッチをクリアすると。スティーブ・ジョブズのいたAppleは6階にあって、エレベーターで1階に降りるまでの間が、だいたい30秒だったんですね。

その時に投資家や、スティーブ・ジョブズとか偉い人に鉢合わた場合、「ちゃんと自分の事業について言えますか?」というのが、いわゆるエレベーターピッチですね。

それがクリアできたら、次は3~5分のショートピッチをしていきます。これは『起業の科学』でも紹介していますが、「誰と」「何を」「どのように」という感じで、端的に表現していくんですね。

このあたりも、ショートピッチをきちんと作っていく中で結晶化して、染み出てくるのかなと思います。

ショートピッチの構成

今日のメイントピックはこの3~5分のショートピッチですね。これは、いろんなピッチイベントでもよく使われるフォーマットなので、お話ししたいと思います。

スライドに表示したのは、ショートピッチでカバーする内容です。タイトル、プロブレム、ソリューション、トラクション、ユニークインサイト、チーム、ディフェンシビリティなどがあります。

ただ、これはわりと初期ですね。僕の本でも紹介していますが、CPF(Cost Per Follow=フォロワーを新規獲得する際の費用対効果)、PSF(Problem Solution Fit=顧客の課題解決に最適なサービスを提供している状態)あたりで「解くべき課題は何なのか」みたいなところがあって。

それに対して「自分たちの特殊な価値は何か」という抽象論が続いた後に、先ほどの項目があれば「実際にどういうデモを展開しているのか」が具体的に説明できるんですね。

じゃあ、それは絵に描いた餅ではなくて、実際の先行仕様も含めたトラクションがどうなっているのか。そういうふうに顧客対応していく中で、「どんな学びがあったのか」「我々はどんな秘伝のタレを獲得していったのか」と。

先ほど質問で「大企業が真似したらどうするんですか?」というものがありましたが、そういったユニークインサイトの獲得は、実際に顧客との対話や対応の中で生まれます。つまり、これは「時間で勝つ」ということなんですよ。

大企業にしてみたら、一見するとそういったインサイトを取りにいくのは不合理な意思決定だと思うかもしれません。ただ、不合理な意思決定を掛け合わせていくと、実は合理的な意思決定になるんですね。こういった秘伝のタレを見つけていくことが非常に大事だと思います。

これをまとめて、僕は「ユニークインサイト」と呼んでいますが、それが大切であると。あとはチームですね。やはり初期においては、どちらかというとプロダクトはまだできていない場合もある。トラクションもないと。

でもシード期においては、そのチームや、チームが持っているケイパビリティやトラックレコードで張るみたいなこともあると思います。だからこのあたりの強弱は、おそらくチームの強さやフェーズによるのかなと思います。

ピッチのポイントは「AIDMA」

「ショートピッチでカバーすべき内容」をバーッと一つひとつ説明しますね。まず「タイトル・サマリー」ですが、ピッチのポイントは、まさにAIDMA(アイドマ)と言われています。これはもともとマーケティング用語で、Attention、Interest、Desire、Memory、Actionです。

大事なのはやはりAttentionで、「最初の5~10秒で、いかにして聞いている人をハッとさせるか」ということ。そして、さらに次の10秒で、いかに興味を持っていただくか。

次の3~5分がDesireですね。実際に「この人とインベスターミーティングで話したい」と思わせるかどうか。次はMemoryです。例えば、投資家の中でも担当者レベルのアソシエイトの人もいます。ピッチする人がアソシエイトの場合、彼は自分が受けたピッチを、プリンシパルなど彼の上司であるパートナーに対して行う必要があるんですね。

その時に「じゃあそのサービスって一言で何なの?」ということをちゃんとMemoryしていなかったら、伝言ゲームが続かないというか、そこでメッセージが漏れちゃうんですよね。だから、AIDMAの「M」の部分、Memoryも非常に大事だと思います。

最後はActionです。プレゼンの目標は情報交換ではありません。聞き手をきちんと決めた上で、「聞き手にActionをしてもらうこと」なんですね。そのためにこちらもActionして、次の時間をもらうと。

Actionして、「実際にインベスターピッチを取り付ける」ということですよね。なので、そのあたりは、「最初の10秒で惹きつけることができるかどうか」ということだと思います。

投資家が起業家から聞きたいこと

次はよくある問題ですが、「問題の大きさやインパクト」「根本原因」「なぜそれが放置されていたか」「現状の代替案の問題点」の解像度が低いと、投資家は「またこれが出たか」と思ってしまうんですよ。僕はこれを思考停止課題と呼んでいます。

投資家が聞きたいのは、「今回のアングルはどう違うのか」なんですね。もう議論し尽くされたことでも、「今回の我々はこんなアングルで持ってきました」というものがあるかどうか。

そこにおいて、「具体的にこういうふうにソリューションを立てています」「UXはこうなっています」みたいなところを示していく。

次は、「それは実際にマーケットだったり、スケールするビジネスなの?」ということですね。スタートアップ型の事業は意外と少なくて、言ってみればスモールビジネス型であることも、けっこう多いんですよ。

スタートアップのテクノロジーを活用することで、いわゆる「スケールするモデルであるかどうか」なんですね。僕も年間で、多くのピッチのメンタリングやアドバイスをしますが、半分くらいがスタートアップ型モデルである必然性がなかったりします。

そもそもこれは、あるセグメントでマーケットフィットしたら、「それを拡大させることは可能なのか?」ということです。「これって、ただの受託にならないですか?」みたいな。だから、そのあたりを伝えていくことも大事です。

その後は「トラクション/KPI」ですね。「実際に顧客がいるのか」、またこれはフェーズにもよりますが「どれくらい成長しているのか」というところ。

あとは「ビジネスモデル」です。これはけっこうピボットするので、そこまで踏み込む必要はありませんが、時間があれば伝えていくと。

大事なのは「ユニークインサイト」で、「我々がやっていく中で、どういう秘伝のタレに気づいたのか」「それは実際に構築できるのか」みたいなことを考えていく。考えるというか、発見し、磨いていく。これが大事だと思います。

あとは「競合」ですね。あるあるなんですけど、自分たちが有利な軸だけを引いた表を作って、「自分たちは右上にいます」というパターン。これもやはり思考停止だと思うんですね。

このへんの恣意性は投資家から見たらバレてしまいますので、ちゃんと競合を評価することも大事です。

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