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「自由な働き方」を実践する、ハイスキル・フリーランスという生き方(全2記事)

複業やフリーランスで仕事が途切れない人の共通点 若く優秀な競合が現れても、なぜオファーが来るのか?

ベンチャー・スタートアップでスキルや実績を積んだ後に、獲得したスキルセットをもとにフリーランスとして働く人が増えています。複業あるいはフリーランスとして活動する人たちは、どのようなマインドを持って準備をしていったのでしょうか。『ライフピボット』の著者で、ご自身もベンチャーからのフリーランス化を実現した黒田悠介氏に、フリーランスや副業を始めるためのポイントをお聞きしました。 全2回のインタビューの1回目は、フリーランスや副業をする人が増えた背景や、収入を不安定にしないための工夫、そしてフリーランスで長く活躍できる人の共通点などが語られました。

「上へ上へ」から「横方向」へのキャリア観への変化

ーー先月、ベンチャー・スタートアップへの転職支援を行うキープレイヤーズ代表の高野秀敏氏を取材した際、スタートアップで実績を残した後に「フリーランス化する人」が増えているというお話を聞きました。フリーランスコミュニティの発起人で、フリーランス事情に詳しい黒田さんからご覧になって、実際にベンチャー・スタートアップからフリーランスになる人は増えているのでしょうか?

黒田悠介氏(以下、黒田):めちゃめちゃ増えていますね(笑)。体感値でしかないですけれど、例えばマーケターをやっていた人がマーケターのフリーランスになったり、ベンチャー・スタートアップで身に付けたスキルセットを活かすかたちでフリーランスになる人が増えています。

みなさん、だいたい副業を始めたあとに、本業と副業のバランスが変わり、本業よりも副業のほうがおもしろくなってきた、楽しくなってきた、儲かるようになってきたというフェーズで、本業を辞めてウェイトシフトするそういうのをよく見かけます。

ベンチャー・スタートアップで培った知識やスキルを、別の会社で活かすフリーランスや副業がすごく増えています。

以前は、上へ上へと向かうキャリア観の人が多かったと思うんですが、今はどちらかというと自分らしくとか、自分のやりたいこととのバランスを取りながら生きていくような、キャリアの築き方を上ではなく横方向に広げていく感じがありますね。

またもう1つあって、働く人たちの価値観が変化したのと同時に、特にベンチャー・スタートアップで、副業(複業)やフリーランスを受け入れる会社がすごく増えました。働く側も企業側も副業を受け入れやすくなった感じですね。

過去の経験を掛け合わせた、黒田氏のライフピボット

ーーフリーランスや副業をする人が増えた背景として、働く人たちと受け入れる企業側に考え方や姿勢の変化が見られるということですね。黒田さんご自身は、どういった経緯でフリーランスになられたのでしょうか?

黒田:前職がスローガンというベンチャーで、約2年間キャリアアドバイザーをしていました。その前には自分で起業して、経営者をしていた時期が約2年間あるので、経営者としての経験とキャリアアドバイザーとしての経験が活きて、フリーランスになった感じです。

キャリアアドバイザーは対話を通じた学生の意思決定支援ですが、経営者をやっていた経験を生かして、対象を経営者に変えたんです。それでディスカッションパートナーという肩書きを自分で付けました。過去の経験の掛け合わせで、今のフリーランスの職種を作った感じですね。

ーー大学を卒業されたあともベンチャー2社で働かれていますね。

黒田:そうですね。2つともマーケティングに関連した会社でした。フリーランスは自分を商品としてマーケティングしたり、ブランディングしないといけない部分があるので、そこで学んだマーケティング的な物の考え方や経験は今も活きています。

ライフピボットに必要な「3つの蓄積」

ーー時代や環境の変化を受けて、実際にこれから副業やフリーランスを目指そうとする人は、どういったマインドを持ち、準備を進めていったらいいのでしょうか?

黒田:自分の信用をどう担保するかが重要です。例えば社会に示せるような過去の実績がはっきりとある方はそれを提示できますが、そうではない方はある程度実績を作ってから、副業やフリーランスになるほうがいいかもしれません。

信用を得るためには過去の情報が必要です。経験や実績をちゃんと整理したり、ない場合はうまく作っていく必要があると思います。会社の中で実績を積みづらい場合は、社外で何かしら実績や経験を積むことが必要かもしれません。その信用ができた状態で、副業やフリーランスを始めるとかなりスムーズにいけると思います。

ーーその「実績作り」を目的に、スタートアップに就職や転職する方もいるのでしょうか?

黒田:ベンチャー・スタートアップに行く人は、どちらかというとビジョンや会社の世界観に共感するところが大きいと思います。「スキルを蓄積して副業やフリーランスに」と、その先をめちゃめちゃ見据えている人はそこまで多くないかもしれません。

でも結果的にスタートアップにいることで実績が溜まり、フリーランスや副業を始める時に有効に効いてくるというのは、すごくあると思いますね。

経験することで、「スキルセット」や「人的ネットワーク」が増えたり、「自己理解」も変わる。そうした中で、「副業始めてみたいな」とか「フリーランスでいけるかな」という考えが生まれたり、実際に選択することもあるようです。

ーー今挙げられた「スキルセット」「人的ネットワーク」「自己理解」の3つの蓄積に、スタートアップでの就業は有効と言えそうでしょうか?

黒田:それは、もちろんですね。ただ、初期フェーズと安定してきたフェーズの企業とでちょっと異なり、創業期はどちらかというとカオスに近いので、いろんな業務を経験できる。スキルセットの幅を広げやすいし、自己理解も深まりやすい。人的ネットワークがどれだけ広がるかは、業界次第、業種次第だったりしますけど。

一方で大人ベンチャーな感じのところは、業務分担がしっかりされているので、いろんな経験ができるかはちょっと置いておいて、特定の業務のプロフェッショナルが集まったりするので、自分よりもレベルの高い人たちと切磋琢磨できる環境があって、自分のスキルセットが高まるところがあると思います。

なので、初期フェーズと大人ベンチャーだと、得られるスキルセットや経験のタイプが違います。

副業に追い風となった大企業の「ホワイト企業化」

ーー肌感で結構ですが、スタートアップからフリーランスになる人と、大企業からフリーランスになる人だと、どちらが多いのでしょうか。

黒田:肌感ではやっぱりベンチャー・スタートアップの方が多いですね。最近の大企業はホワイト企業化していて、業務時間が減ったり、ちゃんとリモートワークで仕事ができる環境が整ったりしているので、フリーランスにならずに、空いた時間を使って副業するだけでも十分だったりします。

安定的な収入源がある中での副業のほうが楽しかったり、むしろ副業でチャレンジできたりするんですよ。本業が安定している分、副業でぜんぜん違うことをやることができるので、フリーランスにならない。めちゃめちゃいいポジションだと思います。

ーーちなみに、「スキルセット」「人的ネットワーク」「自己理解」の蓄積という観点で見た時、大企業での就業はスタートアップに比較して不利だったりしますか?

黒田:意外と社内でいろんな人とつながれたり、転属ができたり、いろんなイベントや制度もあるので、それをちゃんと活用したら、実は人的ネットワークも築けるし、いろんな経験もできるし、スキルセットも広がっていく。大企業であってもベンチャー・スタートアップであっても、環境をどう活かすか次第な気がします。

足りない部分があれば、外部のコミュニティに所属したり、副業をして、会社では補いきれない3つの蓄積を溜めている方も多くいます。

収入を不安定にしないための工夫

ーーここからは、実際に副業やフリーランスを始める際の注意点をお聞きしたいと思います。まず、最初に気を付けるべきポイントをお聞かせください。

黒田:何が一番違うかというと、会社にいるとある意味業務が自然に発生したり、指示があったりしますが、副業やフリーランスになると、自分で仕事を獲得したり、生み出さないといけなくなります。それが最初のポイントになります。

仕事の生まれ方にはいろんなやり方があって、いかに課題を持っている人や価値を提供できる人との「つながりを作るか」が、一番工夫が必要なところです。

あと、時給をいくらにするかとか、いくらで契約するかといった値付けを自分でする必要があり、最初はそこもけっこう苦労します。経験を積むためにも、まずはちょっと安めに設定しておいて、いろんな仕事をして案件が増えてきたら、値上げするという感じで、最初は安めに設定してもいいのかなと思います。

ーー収入を不安定にしないための工夫はありますか?

黒田:いくつかあります。1つは複線化。提供できるメニューをいくつか持つことですね。個人にはこのメニュー、法人にはこのメニューと分けたり。そういうメニューの出し分けみたいなことができると、いろんな出会いをちゃんと仕事につなげられるようになると思います。また、メニューが多いと一部がうまくいかない時期でも「こっちはうまくいく」という安定感も出てくると思います。

安定感のために必要なパートナーとの支え合い

黒田:もう1つは、行列を作ることが重要です。お店でイメージすると、ポツポツとしか人が入ってこないと、通りかかった人全員に声をかけて、変なお客さんまで入れちゃったりするんですね(笑)。

でも行列ができていたら、「この人ヤバいかも」と思う人は、列から外れてもらうことができるし、「あなたはお先に入ってください」みたいなこともできる。フリーランスは仕事をする相手を選べるので、選ぶためにはちゃんと行列を作っておかないといけません。

高く設定しすぎてぜんぜんクライアントが見つからない状況を作るよりは、安く設定して行列を作り、少し待ってもらったり、場合によっては断れる状態を作ることが、安定感につながります。並んでいると値上げの理由にもなりますし、いかに行列を作るかは大切ですね。

ーー複線化と行列を作ると。

黒田:あとは、パートナーがいる場合はパートナーとの支え合いも実は重要です。私は妻が大企業で働いているので、実は安定感(笑)があったりします。あまり言われないことですけど、片方がチャレンジする時は、もう片方が安定感を出すという支え合いができるので、実はパートナーシップも大事なんです。

フリーランスは会社というベースはありませんが、家族とか家庭というベースはあるので、そっちでいかにちゃんと関係性を築いて、支え合い、安定感を出すか。妻がベースラインを作ってくれて、私がボラティリティのある収益でみたいな(笑)。家庭でポートフォリオを組んでいる感じですね。

案件の「断り方」を覚えることの重要性

ーーせっかく始めた副業やフリーランスを、途中で挫折することなく、継続するためのポイントがあればお聞きしたいです。

黒田:フリーランスになりたての頃は、仕事がぜんぜんなくて頓挫するか、ありすぎて心が折れたり、忙しすぎて頓挫するかのどちらかのケースが多く、そのバランスが重要だと思います。

案件を受けすぎてもいけないし、少なすぎても続かない。案件の量とか自分の稼働時間を適切に維持することが意識としては必要で、それは個人の働き方のサステナビリティにすごく結びつきます。

「この案件、ちょっとヤバそうだけどお金にはなりそうだから」と受けると、稼働時間を取られ過ぎて、精神的にやられるケースもあるので、フリーランスは働き過ぎてはいけないなと。

だから断り方がすごく重要です。稼働時間が増えすぎて、「このクライアントもぜひやりたいけどちょっと今は動けない」という時は、私は知り合いにパスします。信頼できる知り合いにパスをして、「この人だったらいけると思うので、この人でいかがですか?」とつなぎます。

そうすると、私は空いた時間で別のことができるし、案件を渡した相手もめちゃめちゃ喜びますし。逆に今度何かあった時や、私が仕事の少ない時とかはその人から案件をもらったりもするので、お互いさまだったりするわけです。なので、いかに信頼できる人にパスを出すかも1つの断り方ですよね。

あと、「こういう理由で私の条件に合わないのでお断りします」と伝えるのも1つです。その時は「そうでしたか」と引いたクライアントが、その後に「ちょっと条件を整えてきたのでこれでお願いできませんか?」と別の依頼をしてくれたりするんですよ。

断り方次第で、次の展開が生まれたりするんですよね。無理に受けて自分が苦しむよりは、他の人に渡して信頼を貯めたり、いったん断って条件を整えてもらう。次につながるので、うまい断り方を身につけられるといいなと思います。

フリーランスもウェルネスやウェルビーイングがすごく大事なので、心身ともに健康で、社会的なつながりをちゃんと持って働ける状態をどう作るかということかもしれません。

フリーランスで長く活躍できる人の共通点

ーー黒田さんがご覧になって、フリーランスを上手に、長く続けられる人の共通点はありますか?

黒田:みんな本当にノリがいいですね。この点に尽きると思います。「こういうのやるけど来る?」と聞いたら、「ああ、行く行く」と言って来るし。別の地域で誰かが楽しくやっていたら「ちょっと遊びに行くわ」と言って、出張費も別に出るわけじゃないのに遊びに行ったりとか。

そういうノリの良さみたいなところがあると、結果的にいろんな出会いが生まれたり、いろんな機会に恵まれて、仕事が発生したりするんですよね。

ーー確かに、行動することでセレンディピティが生まれる可能性もあります。

黒田:本当にセレンディピティですね。イメージで言うと、川を前にしてどうやって渡るかを考える時間がもったいないので、取りあえず一歩川の中に足を突っ込んで、足の裏で川の石を探りながら、ちょっとずつ川を進んでいくみたいなノリがたぶん必要です。

「この川に入って何の意味があるんだろうか」とか「向こうに渡って何の意味があるんだ」みたいなことを考え出すと動けなくなるので、「一回入って渡ってみよう」的な(笑)ノリの良さが大切な気がします。

ーーということは、逆にフリーランスを続けられない人はノリが悪かったり動かないということに……。

黒田:(笑)。でもそうだと思います。今の自分のコンフォートゾーンがあったらそこに留まって、ラーニングゾーンに踏み出そうという意識が少ない人とか、ラーニングゾーンから呼び掛けられても「ちょっとやめておこうかな」と言って行かないとか。

新しい場所に行く、新しい人に出会う、新しい機会に向け自ら動く、みたいな、その3つがたぶん必要で、それはやっぱりノリですよね。そんな感じがします。周りの生き残っているフリーランスは、確かにみんなノリがいいですね(笑)。

若く優秀な競合が現れても、案件依頼が続く人の特徴

黒田:あとは愛嬌(笑)。フリーランスに限った話ではなく、例えば長く仕事をしていると若くて優秀な、自分より上位互換みたいな人が出てきたりする。新しい技術とか新しい業界の情報って、やっぱり若い人たちのほうがキャッチアップが早いんですよね。

そうなった時に、価格が一緒だったら若い人にお願いしたくなるのが人の情なので、そっちに行っちゃうと思うんです。でも、愛嬌がある人だったら、「この人と仕事をしたいからこの人に依頼する」とか、「この人とやるとコミュニケーションが取りやすいからこの人に話をする」みたいなことが起きる。

単純なスキルセットや若さじゃないところがたぶんあって。「人間力」という言い方をしてもいいですけど、私はよく「愛嬌」と言うので(笑)、そこも大事だなと考えています。

別にコミュニケーション能力みたいなところはそんなに必要なくて。勘違いされている節がありますが、「コミュニケーション能力が要る」とか「営業がめちゃめちゃできないといけない」みたいなところはぜんぜんなくて。それよりたぶんノリと愛嬌だと思います。

仕事は「取る」ではなく「生まれる」もの

ーー自分で「仕事を取る」と思うと、営業力とかコミュニケーション力が大切だなとみなさん考えますよね。

黒田:そうなんです。だから「仕事を取る」という言葉が危うくて。そうではなく、仕事が生まれるんですね。人と話したり、会う中で、「また一緒にやりましょうよ」「いいですね」となるのが仕事が生まれる場面で、「仕事を取る」「獲得する」みたいな言葉を使うと、がんばって営業しないと、働き掛けないといけなくなる。

ーー仕事は生まれるものですね。

黒田:そうですね。だから他動詞じゃなくて自動詞なんですね。私はけっこうその世界観です。他動詞的にキャリアを築くんじゃなくて、自動詞的にキャリアを築いたほうがたぶんいい。

「案件を取る」とか「人を集める」とかじゃなくて、「人が集まる状況を作る」とか「仕事が生まれる場に行く」とか。そういう自動詞的な感覚があると、穏やかに生きていけるんじゃないかと思います(笑)。

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