2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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馬渕磨理子氏(以下、馬渕):それでは、ひろのぶと株式会社 代表取締役 田中泰延さまにご登場いただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
田中泰延氏(以下、田中):よろしくお願いいたします。
馬渕:ここからは、インタビュー形式でいろいろお話をうかがってまいりたいと思います。まず、「今までにない出版社を目指します」という、ひろのぶと株式会社の設立の背景や課題観を教えていただけますか?
田中:最初は非常に個人的な動機に基づいていまして。そもそも僕、2017年の初めに24年間勤めていた電通という会社を退職しまして、いわゆるフリーのライターとして独立したんですけれども。
その後2019年にダイヤモンド社から『読みたいことを、書けばいい。』という初めての自分の本を出版する運びになりまして。これがまあ、ラッキーパンチなのか何なのか、生まれて初めて書いた本なのに紙の本が16万部、電子が数万部売れて20万部近く売れたんですけれども。
その時に「うわ、なんかベストセラーになった!」と喜んだのもつかの間、「そんなにお金って入ってこないんだな」って思って。それは日本の印税が本の定価の10パーセントと決められているからです。
僕は最初、「そんなに売れないだろうから10パーセントでも5パーセントでもまあいいや」と思って書いたわけですけれども、実際に売れてみると「これだけ売れてこの収入だと、本って、ものすごく大ベストセラーを連発する作家じゃないと食べられないんだな」ってことが身に染みてわかって。
「じゃあこの仕組み自体は日本の国の中でどうなっているんだろう?」っていうふうに調べました。そうすると明治時代からずっと変わってなかったと。だいたい著者は1割もらうことになっているということだったので、業界の慣習みたいなものを変えなくちゃいけないかなと思いました。
それと同時に、自分は印税がどうのとかお金がどうの以前に、本を出版するってことに人生における非常に喜びがあったというか、「これは私が書いた本です」っていうのが世の中に出て、残って、今も図書館にあったり書店にあったりするのが非常に幸せな体験だったので、その両方を実現したいなと。
本を出す喜びと、出すんであれば今までと違う印税率の高い状態で著者さんにお支払いする。この2つを両立するビジネスを始めたいなと考えました。
馬渕:ご自身の実体験に基づいてということですね。ファンとして経営に参加してほしいという思いが共感された企業だなという印象がありますが、活動の中で手応えなどはありますか?
田中:当社は2段階に分けて資金調達を行っています。2020年3月の創業ですからもうすぐ2年半が経つんですが、最初の1年半は個人投資家の方に対して「こういう会社でこういう夢があるんです」ということで私募を募って、個人投資家のみなさんから1億4,000万円が集まったと。
18人の投資家のみなさんからお金を託していただいたんですが、個人と個人のお付き合いで、大金を持っておられる方から事業に賛同するとおっしゃっていただいた。これは非常にありがたく、当社のベースになっているものです。
ただ、やっぱり本を出版する、書店に並ぶ、みなさんに買っていただく、読んでいただくってなると「本が好き」、出版に関しても「自分はこんな嗜好を持っている」「好みを持っている」「こんな作家が好き」「こんな本が読みたい」っていう多くの人の声が欲しいなと。
その時に出会ったのがFUNDINNOさんです。いわゆるクラウドファンディングじゃなくて、株式投資型クラウドファンディングというものがこの世にあるんだと。「このやり方は革命的じゃないかな」と思ってお願いをして、審査を受けてなんとか「お金を集めていいですよ」っていうことになったのでお願いした。
そのベースにはやっぱり「本を好きだ」「こんな本を読みたい」っていう人のたくさんの声が欲しかった。そんな方に味方になってほしかったですね。
馬渕:なるほどなるほど。最初の段階での富裕層の方からの資金調達も大事ですが、間口を広げて、本が好きな方に応援してほしいというお考えがFUNDINNOに結びついたということだったんですね。
田中:本当にね、「個人投資家のみなさんから1億4,000万円調達しました」とホームページに書いても無風なんです。反応としては。
馬渕:そうなんですね。
田中:そういうのを書くと、「それは知らんがな。お金持ちが出さはったんやろ」と思われるんですよね。
馬渕:なるほど。
田中:ところがFUNDINNOさんで株式投資型クラウドファンディングをやって4,000万円調達したと発表すると、みなさんが「すごいね」「おめでとう」「たくさん仲間が増えたね」っておっしゃってくださる。「やっぱり自分事として考えてくれているんだな」と思いましたね。
馬渕:それは、私たちにもとてもうれしいお言葉ですね。たくさんの方に応援いただいて成り立つということが、まさにおっしゃられたように自分事になって、より結束力というか、応援の気持ちが高まるということですね。
FUNDINNOでは、上限達成まで27分というかなり短い時間で資金調達をされましたが、このあたりはどのように分析されていますか?
田中:これがとにかくびっくりでね。僕、その日友人と「今から開始ですよ」っていう、夜19時に焼鳥屋さんに行っていたんですよ。「こんなのみんながお金を持って集まってくれるわけないから、とりあえず焼き鳥を食わせるから君らだけでもやってくれないか」って頼み込んでたんですけど。
そうこうしているうちにスマホを見たら、「田中さん、もう終わったよ」って言われて。「終わったって何?」と言ったら、「当初の目標額の500万円が集まったの?」って聞いたら、「いやいや、上限いっぱいの4,000万円が終わっちゃった」って言われて。最初のビール1杯目ぐらいの時間に。
田中:これにはもうびっくりしたと同時にすごく責任を感じますね。
こういう会社をしたいと言って、まだプロダクトは何にも世の中に出ていない。ただビジネスモデルだけがある状態で、その株式の募集に300数十名の方が応じてくださって、あっという間に4,000万円になって。
個人投資家のお金……。もちろん大事なんですよ。見ていたらごめんなさいね。個人投資家のみなさんは恩人なんですけど、でもプレッシャーの大きさって言ったら、みなさんの託してくれた株式のほうが重い感じがしますね。
馬渕:富裕層の方々の投資よりもということですか?
田中:そうですね。
馬渕:本当ですか。なるほど。
田中:うち、これもFUNDINNOさんと話し合ったんですが、「普通1株の株式の額は10万円ぐらいにするのが基本ですよ」って言われて、「うちは10万円を持ってきてくれるって大変なことだから5万円にしましょう」と、けっこう粘って決めていただいたんです。FUNDINNOさんと。
そうしたらやっぱり5万円の方もたくさんいらして。僕も普通に会社員でしたから5万円って重いなと思って。なかなかね、「5万円とりあえず出すからがんばれ」って人に言えないし。そんなの、結婚式ぐらいじゃないですか。
馬渕:おっしゃる通りですね。
田中:だから、その重みを今噛み締めてがんばらなくちゃなっていうところですね。
馬渕:そうですね。FUNDINNOとしても10万円から始めるのがメインですが、5万円にしていただいたことで、ある意味裾野を広げられたと言うか、たくさんのファンの方の声を反映できたのかなと思いますね。
田中:今日はご覧になっている方もいらっしゃるので、この場を借りて本当に御礼申し上げます。がんばりまーす。
馬渕:このZoomの画面にも記されていますが、ひろのぶと株式会社の英語表記は「Hironobu & Co.」なんですよね。「みなさまと一緒に」みたいな素敵な雰囲気を感じますが、この社名にはどんな思いが込められているんでしょうか?
田中:これは当社の取締役……。代表取締役の僕と取締役の加藤順彦の2人で始めたんですが、その加藤が付けてくれた社名で。僕の名前が田中泰延。ひろのぶのやりたいことを実現する会社。それには仲間が要る。じゃあ「ひろのぶと株式会社」だね。
それからよく英文の会社で、ブランドなんかでも「MAX&Co.」「Tiffany & Co.」ってありますよね。それはもう創業時の思いなんですよね。マックスさんとコーポレーション、ティファニーさんと協力者。この英語のほうを先に決めたんですね。
馬渕:そうだったんですね。
田中:だから協力者がいないと成り立たない、本を世の中に広げるには絶対協力者が要るよっていうことで、まず「Hironobu & Co.」が決まった後、英文を和訳して「ひろのぶと株式会社」になりました。
馬渕:その順番だったんですね。
田中:はい。
馬渕:じゃあ英文から理解したほうがいいですね。「ひろのぶとさんとその仲間」というのが世界観なんですね。
田中:ええ。なんかね、「コーポレーション」っていう言葉はいろんな意味があって、協力者とか会社、それから仲間とか。例えばみんなが集まって飲んで騒いでいる時でも「このコーポレーションはいい」みたいなことを言いますよね。
馬渕:なるほどね。日本の株式会社という意味より、もう少し広い意味が含まれているということですね。
馬渕:実際に御社のサービスを使うと、最大5割の印税率が適用されるというダイナミックプライシングを採用されているそうですが。先ほどおっしゃっていたように、通常の印税率が10パーセントぐらいという中で、半分が著者にいくということですよね?
田中:大手の出版社で何百万部と売るような小説家の方は、15パーセントの方とかいらっしゃるらしいんですけど。まぁ普通は10パーセント。でも当社は最初から20パーセント。今3万部を超えたら週間単位ではもうベストセラーと言われてますから、10万部というとけっこうなベストセラーですけど、うちの場合は、10万部を超えたら、10万1部からは2割を3割に上げましょうと。
馬渕:なるほど。
田中:もっともっとそれが売れて50万部を超えたら、50万1部からは4割。で、世の中がびっくりするような大ヒット本がありますよね。『嫌われる勇気』とか『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』みたいな。あんな100万部、200万部売れるような大ベストセラーになったら、100万1部から先はもう半分持っていってくださいと。
馬渕:おぉ……(笑)。
田中:最終的には5割。
馬渕:夢がありますね。
田中:本を書いて、大流行作家が大金持ちっていう話は聞きますけれども。1回の大ヒットでも、例えば「ビジネス書が150万部売れました」みたいな人、いらっしゃるじゃないですか。1作だけ超大ヒットがある。そういう人にやっぱり富豪になっていただきたいんですよね。
「そんなに払っちゃって大丈夫?」ってよく言われるんですけど、ここが大事なところで。本というのは10万部超えたぐらいからは、俗に「お札を刷るようなもの」って言われてるんですよね。
馬渕:そうなんですか? へぇー……。
田中:初期の費用って、最初に作家さんが原稿を書いて、それから編集をして中身ができれば、あとは印刷です。そこからコストはもうかさんでいかないから。あとは同じものを印刷するだけのサイクルに入りますので。
馬渕:なるほどね。でもそういう仕組みだと、その先いかに普及していくとか、著者さんの自分の活動にもつながってきやすいですね。
田中:そうなんです。
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