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ノンアル専門商社をひとり起業してみた(全3記事)

健康志向の高まりなどで、世界的トレンドの“あえてノンアル” 日本初・ノンアル専門商社を1人で起業した、若手起業家の思い

健康志向や、コロナ禍で酒類の提供が禁止されたことなども影響し、ノンアルコール飲料の世界市場規模が伸長しています。一方で、日本で市場が育っていないことに着目し、日本初のノンアルコール専門商社を20代で起業した安藤裕氏。ブルーオーシャン領域で、専門商社を立ち上げた経緯とは? 多角経営をひとりで行う術や、ひとり起業の醍醐味やハードシングスを探ります。本記事では、ワイン商社勤務を経て、日本初のノンアルコール商社をひとり起業した経緯を語ります。

日本初・ノンアルコール専門商社をひとり起業

児玉あゆこ氏(以下、児玉):ではここから、「飲まないが世界的トレンド!? 市場開拓からはじめ起業4年目 ノンアル専門商社をひとり起業してみた」のお話をしていきたいと思います。まずは私から、株式会社アルト・アルコの安藤さんのご紹介を申し上げます。

安藤裕氏(以下、安藤):よろしくお願いいたします。

児玉:安藤さんは1991年福岡生まれで、一橋大学経済学部を在学中に単身渡仏され、英国最古のワイン商社ベリー・ブラザーズ&ラッドでインターンを経験。大学を卒業後、ワイン商社勤務を経て、2018年に日本初となるノンアルコール専門商社 株式会社アルト・アルコを日暮里で創業されました。

2020年、日本初のノンアルコール専門オンラインサイト「nolky」を立ち上げられます。翌年2021年からワインスクールでノンアルコール専門講師を務められ、同年に著書『ノンアルコールドリンクの発想と組み立て』を刊行されています。

今年2022年は、荒川区内で自社ブランドのノンアルコール飲料の製造を予定されていて、「飲料文化のアップデート」をミッションに掲げられ、ノンアルコールとアルコールの垣根をなくすことに挑戦中です。では、ちょっと長くなったんですが、ここからは安藤さんから簡単に事業のご紹介をしていただけますでしょうか。

安藤:ありがとうございます。ご紹介いただきました、アルト・アルコの安藤と申します。今日はよろしくお願いいたします。

弊社の事業紹介なんですが、アルト・アルコという会社の名前は、「Alternative to Alcohol」という、アルコールに代わるもう1つの選択肢を意味する言葉から来ておりまして、その名の通りノンアルコールを軸に会社を運営しております。

海外から商材を持ってきて販売させていただいたり、ご紹介いただいたように通販サイトの運営、書籍の執筆、セミナーをさせていただいたり、年に一度ノンアルコールの市場調査も行っていたりと、「ノンアルコールでいろんなことをやっている会社」という認識でいいのかなと思います。

世界的酒類メーカーも力を入れ始め、世界的トレンドに

児玉:ありがとうございます。安藤さんお一人で起業されながら、多角的にいろいろやっていらっしゃる部分に興味がある方もたくさんいらっしゃったので、そのあたりを詳しくお聞きしていきたいと思います。

では、ここからはお題に沿ってお話をおうかがいしていきます。まず1つ目なんですが、世界的トレンドだが日本にない領域で、ひとり起業をされた経緯をおうかがいしたいです。まず、ノンアルコールが世界的な流行の波ということなんですが、日本にいるとあんまりピンと日本に来ないんですが、実際はそうなんですね。

安藤:実際、今までノンアルコールに見向きもしていなかった世界的な酒類メーカーも、今はかなり投資や出資をかなりしておりまして、世界ではかなりホットなジャンルになりつつあるところですね。

児玉:そうなんですね。じゃあ海外だと、どこに行ってもノンアルの飲料が普通にあったりするんですね。

安藤:そうですね。ノンアルコール飲料の幅がだいぶ広がったところですかね。

児玉:いろんな種類が出てきているということですね。「お酒を飲めるけど飲まない」という選択をされる方もいるということなんですが、そのへんは健康志向から来ている流れなんでしょうか。

安藤:健康志向は1つの大きな要素ではあると思います。ただそこだけじゃなくて、そもそもお酒にそんなに興味がなかったりとか、特に若い世代はかなり顕著です。それは日本だけじゃなくて世界全体でのトレンドになって、そこに対するアンサーとして、業界側からノンアルコール文化が出てき始めているところです。

児玉:そうなんですね。だけれども、安藤さんが起業された4年前には、日本ではまだそこまで大手が参入されてなかったという現実があったんですね。

安藤:そうですね。だからこそ、「やってみたらおもしろいかな」と思ったところもあるんです。

多様性を謳う時代に、ノンアルコールが提供する価値

安藤:ご質問いただいたとおり、うちが会社を起こしたのは2018年で、実際にノンアルコールが世界的なトレンドになっていったのは2015年ぐらいからなんです。

児玉:そうなんですね。

安藤:やっぱり3年ぐらいラグがあって。私自身は2017年ぐらいに波が来ているのを知って、調べていけばいくほど「おもしろいぞ」ということで、いろいろ(構想が)広がっていきました。

児玉:そうなんですね。じゃあコロナとかも関係なく、2015年くらいから世界的には波が来ていて、その2年後ぐらいに安藤さんが(トレンドを)キャッチされて、「これは事業としてやったらおもしろいんじゃないか」と思われたんですね。

安藤:そうですね。

児玉:そこから、「じゃあ起業してみようかな」と。起業しようと思われるまではどんな経緯でしたか?

安藤:初めにご紹介いただいた通り、もともとワインの業界でずっとやってきておりまして、その頃から「おいしいノンアルコールはないの?」という声をお客さん側からいただくことはちょくちょくあって。

ワインって、けっこう「多様性」を謳いながら販売していたりするんですが、「お酒を飲まない人が過半数いる時代に、そっちを全部無視して『多様性』って言うのもな」と思ったりしている部分もありました。そういった時に、ノンアルコールのトレンドが起きているのを知りました。

実際に「じゃあ、どういったものが出てきているのか?」と、自分で取り寄せていろいろ試してみたら、本当に今までのノンアルコールとは一線を画すようなものが出てきていましたので、これはしっかりとやっていく価値がありそうだなと思い一念発起しました。

前職に勤めながら、水面下で独立準備を開始

児玉:そうなんですね。起業する時のポイントとして、まだ誰もやったことのないブルーオーシャン領域だったり、まだ大手が手を入れてないところはチャンスになり得るとよく聞くので、まさにノンアルコール飲料市場はそこですね。

安藤:そうですね。実際にやってみると、ブルーオーシャンなりの大変さもあったりして痛感するところではあったんですが、初めはやっぱり「誰もやっていないからこそパイオニアになろう」という思いは大きかったですね。

児玉:このあと、その大変さもおうかがいしていくんですが(笑)、そういう経緯があったということですね。じゃあ、2つ目ですね。起業準備期間中に行ったことをお聞きしたいんですが、「起業しよう」と思ってから実際に起業されるまで、どういう経緯で・何をやったかをおうかがいしたいです。

安藤:うちが初めに事業の根幹にしようと思っていたのが「輸入して卸す」というビジネスモデルだったので、当然、会社を作っても輸入するものがないことには何も始まりません。まったく実績のないうちと一緒にやってくれるメーカーを探すところが、一番最初でしたね。

児玉:なるほど。そこがまず初めだったんですね。

安藤:けど、あっちへ行ったりこっちへ行ったりするほどのお金もないので、まずは数十社ぐらいにメールを送って、そこから返ってきてくれた数社といろいろ話を進めていったという流れでしたね。

児玉:それは、会社の設立手続きと並行してされていたんですか?

安藤:いや、それはまだ会社の手続きを進める前です。「まずはそこが固まらないことには、会社を起こしても仕方ないな」というのがあったので(笑)。

児玉:なるほど。

安藤:なので、前職に勤めながら並行して探していった感じですね。

「日本初のノンアル専門商社」という、前例のないチャレンジ

児玉:ワイン商社にお勤めの頃に、水面下で粛々と起業準備をされていたんですね。その期間はどれぐらいだったんですか?

安藤:私がトレンドを知ったのが2017年の年末ぐらいで、そこから実際に会社を起こしたのが2018年の7月なので、半年ちょっとぐらい。

児玉:まずはこれから協業するパートナーになる事業者さんの開拓から始めて、あとは法人設立手続きを始めたというかたちなんですね。

安藤:そうですね。今はいろんなサービスがあるので、そんなにお金をかけずに会社を起こすこと自体は、スムーズにできたかなと思います。

児玉:ありがとうございます。先ほど申し上げた「日本初のノンアル専門商社」という市場作りか行わなきゃいけなかった、ということですね。

安藤:そうですね(笑)。

児玉:起業自体もゼロイチですし、良く言えばブルーオーシャンなんですが、言い換えると「市場を作る」ところから始めるのはとっても大変なような気がしてしまうんですが、まずはどういうところから取り組まれたんですか?

安藤:本当に最初の最初の話をすると、自分たちが何者であるか・どうありたいかを、まずは自分の中でしっかり落とし込みをするところから始めました。

自分がやりたいことは既存のノンアルコールとどう違うのかを、どういうふうに言語化して、言葉として落とし込んでいくか。そこができないことには、結局誰にもわかってもらえないので、そこをスタートとしてやっていました。

そこからは、とにかくやっぱり誰も知らないものなので、いろんな人に会って、それこそ電凸みたいな感じで電話をかけまくって(笑)。会って飲んでもらって、ということをずっと繰り返しましたね。

児玉:じゃあ、わりと地道な作業の積み重ねだったんですね。

安藤:本当に地道です(笑)。

児玉:なるほど。

「プリン体ゼロ」など、これまでは機能性の訴求がメインだった

児玉:先ほどの「言語化するところから」というところで言うと、ホームページを見ると「オルタナティブアルコール」とおっしゃっていて、あんまり日本だと聞き慣れないんですが、この言葉はどういうイメージなんでしょうか?

安藤:「オルタナティブアルコール」は実際に海外で使われている言葉なんですが、今までのノンアルコールは、まずお酒を作ってからアルコールを抜く「脱アルコール」という引き算の工程を経て作っていくものだったんです。

それに対して、オルタナティブアルコールはベースになるものは果汁や水で、そこにハーブやスパイスを足し算して重ね合わせて作っていくノンアルコールということで、そこで差別化しました。

それこそ、初めは律儀にSTP分析みたいに市場をセグメンテーションして、じゃあどこで取るのかとか。ノンアルコールの場合だと、年代的に見ると年代の高い方たちが多くて、企業としては「プリン体ゼロ」とか、ライフスタイル的な訴求よりも機能性の訴求が多かったんです。

そことどう差別化していくかというところで、より若い層に向けて、よりライフスタイル寄りで打ち出していこうと決めたりしました。本当に「ああでもない、こうでもない」みたいなことをしながら考えていきました。

始めは(パートナーになってくれる企業を見つけるために)電話した時、向こうも忙しいからそんなに話を聞いてもらえないので、ある程度キュッとまとめられるものを自分で考えたという感じですね。

児玉:そうなんですね。何にも知らない方にわかってもらうような資料や、ぱっと伝わる1ワードを作られたんですね。

安藤:そうですね。

始めは自身が持てず、声を震わせながら営業をしていた

児玉:「日本初のノンアルコール専門商社」というのもすごく引きがありますが、こういったワード作りやコンセプト作り、ミッションやビジョン、「こういった人に飲んでもらいたい」というペルソナを考えたり、機能性や情緒性を分析したり、ありとあらゆることをやられていたんですね。

安藤:やっている間は、「何がこれの役に立つのかな?」という思いもけっこうありながらなんですが、そういうのを経ていった感じですね。

児玉:市場作りをやるに当たって、何が一番大変でしたか?

安藤:やっぱり、初めのうちはいろんな人に会っていくことが大変でした。僕自身もクオリティのいいものを入れていると思ってはいますが、参照軸がまったくない世界なので、「本当にこれはいいものなんだろうか?」と、ちょっと半信半疑でスタートしたり。自信がない中で、かなり声が震えながらいろんなところへ営業していましたね。

児玉:(笑)。でも、それを含めてお一人で全部されていますものね。

安藤:そうですね。

児玉:お一人で市場作りから専門商社をやるという、すごいところに挑戦されていました。今日、これをお聞きしたい方がすごく多かったんですが、起業1年目・2年目・3年目に行ったことをそれぞれおうかがいしていこうと思います。

2018年7月に起業されたということで、ちょうどこのイベントの告知をしている時は起業4年目の安藤さんにおうかがいする予定だったんですが、現在は起業5年目に突入されています。

安藤:5年目になりました。

児玉:2017年ぐらいに世界的な芽をキャッチされて、2018年7月に日暮里で創業され、そこから約半年後に実際の販売を開始されています。その翌年にはオンラインサイト「nolky」を立ち上げて、その翌年には講師業や本を出されたりしています。

「何もできないまま会社を潰すんじゃないかな」という不安

児玉:それから、今年は何をやったのかをおうかがいしていきたいです。起業されてから半年後に販売を開始されるんですが、この半年間はどういう感じでしたか?

安藤:そうですね。本当に、この半年間は大誤算(笑)。

児玉:大誤算?(笑)。

安藤:ワインを扱っていたので、ワインを入れるプロセスはある程度理解はしていたつもりで、「その感じでやっていけばいいだろう」と思ってスタートしたんですが、ノンアルコールはワインとはぜんぜん違うフレームワークの中に入れてこなきゃいけなくて。そこがぜんぜんわかっていなかったので、本当に始めは苦労しました(笑)。

児玉:そうだったんですね。じゃあ、頭の中に描いていたことと、いざ実際に走り出してみたらぜんぜん違うと。

安藤:会社を起こして3ヶ月後ぐらいからは販売をスタートできるだろう、という見込みでいろいろ考えていたので、そこはもうぜんぜん違いました(笑)。

児玉:そうなんですね。ちょっと計算が狂ったな、という感じだったんですね。

安藤:そうですね。「このまま、何もできないまま会社を潰すんじゃないかな」みたいなことも心配しながら(笑)。

児玉:起業後初めての壁がここで訪れるわけですね。

安藤:そうですね。

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