2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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北野唯我氏(以下、北野):スタートアップでの報酬についてもお話ししましたので、お金という意味でストックオプションについてもちょっと聞いていきたいと思います。
このスライドにあるように、「権利の付与」があって、そこから「権利行使」のタイミングがある。これは上場のタイミングなどが多いと思います。そこから、いわゆる「株式売却」をして、その差分が「キャピタルゲイン」となります。特にアメリカなど海外では、ストックオプションを付与するケースが昔からあって、日本でも増えてきているんですね。
実は「ジャフコさんは、ストックオプションを日本で最初に仕組み化した企業さんである」と聞きまして。あらためて、どういう背景でそれが生まれたのか、またその変遷について、ものすごくニッチですがお聞きしてもよろしいですか?
三好啓介氏(以下、三好):ものすごくニッチですね(笑)。もう少しだけ正しく言うと、当時の日本にストックオプションというものはなかったのですが、新株引受権付社債というものがありました。それを、法的にも税制的にもクリアする形で、「疑似ストックオプション」として未上場企業が使える形を作り上げたのがジャフコです。
北野:それは、どのような背景から来たんでしょうか?
三好:昔々の話だと、ずっと企業を経営していらっしゃった創業オーナーの方が、次の経営陣にバトンタッチしていきたいと考えた。でも、その人たちは株を持っていないし、買おうにも値段が高すぎて難しい。そこで、次の方に経営をバトンタッチして、株を所有してもらえるように応用したのが、最初の使い方ですね。
北野:なるほど。そういう背景なんですね。
三好:結果的には、日本の法律や税制が追いついてきたこともあって、本来のストックオプションというものが、日本で実現できるようになってきたんです。
北野:三好さんの立場から見て、現在の日本のストックオプションの状況や環境、変化について、どのように思われますか?
三好:ストックオプション自体は広く一般的になりつつも、これをどう利用すべきかですよね。いわゆる魔法的な手法ではなく、自分の会社にこれをどう使うべきなのかを考えなくてはいけない。場合によっては「使わない」という選択肢もあると思っています。こうしたことを、いろんな経営者の方が考えるようになっているのが現状だと思います。
北野:まだ完璧に使いこなすフェーズにまではなっていないという感じですか?
三好:いや、みなさん使っているんだけど、「それが自分の会社にとって本当にいい使い方なのか」ということですかね。
北野:なるほど。いわゆる「報酬」としての、ストックオプションに対する変化が、スタートアップの人材競争・人材獲得においてもポジティブな影響を与えているのでしょうか?
三好:先ほど、ストックオプションに関していろんな良い面・悪い面があるとお話ししましたが、これを受ける人も、仕組みを作る会社側も、そのことを知っておくべきだと強く思いますね。
そうしないと、会社としては付与したのに、もらった人はあまりモチベーションが湧かないということが起こる。逆も然りですね。どのタイミングで入社するかによって、「公平感が保てない」という問題や、いろんな課題がありますよね。それらを全部整理し考えた上で、モデルを作ったり、もらったりできているかどうかが大切だと思います。
北野:いわゆる株式による報酬は、株主と社員、あるいは経営陣の方々が同じ方向を向きやすいと思うんですよ。例えば、その株式をもらっていない状態では、利益が上がろうが下がろうが、社員の給与はそんなに変わらないという考え方がある。
その一方で、同じ方向を向くためには「時価総額を上げる」「バリュエーションを上げる」、ひいては「純利益を上げる」ことをきちんとして、期待値を上げていかなければいけない。そういう意味では、例えばGoogleなどは昔から「上手に使っているな」と、素人目線からは思ってしまうんですが。
ベンチャーキャピタルという視点からすると、経営者は社員を同じ方向に向かわせるために、ストックオプションなどを上手に使っていく能力が必要かなと思いました。それとも、別にストックオプションの使い方に限らないという感じでしょうか?
三好:バランスですよね。金銭にしろ、株式にしろ、どっちにしても報酬ですよね。このバランスが崩れてはいけないんです。
例えば上手く上場して株式の価値がすごく高くなったとする。そうなると「もうここで売却して会社を辞めようか」という人が出たりとか、また株価の推移に一喜一憂して、本来やらなきゃいけない仕事が十分にやれていないとか、下手するとそういうことが起きるかもしれない。
そういう意味で、「ベクトルを上手く合わせる」とか、「自分の会社にどう導入するか」ということは、個別のテーマになりますね。
北野:なるほど。わかりました。ものすごくディープなテーマにお答えいただきました。
北野:それでは、2つ目のテーマに入ります。「スタートアップにおける『キャリア選択の新しい考具』」です。実際に、スタートアップに入ろうとなった時に、率直にどうやって選んだらいいのかわからない。たぶん、ほとんどの人がそうだと思うし、私自身も正気、迷いました。
「投資する」視点と、「キャリアを選ぶ」視点とでは、「自分の時間を投資する」という意味で思考法的には似ていると思うんですよ。三好さんがスタートアップに投資する際に、一番見ているポイントはどこですか?
三好:「この会社・この事業・この人の、何に賭けるのか」を、自分の中でクリアにすることが大事です。「何に賭けた投資なのか」ということですね。会社を選ぶ時も、同じかなと思います。先ほどの話のように、自分の人生を考えた時に、ここからの自分の何年間を、あるいはもっと長いかもしれませんが、それを「何に賭けるのか」ということを明確にしておく必要がある。
それが自分にフィットしていて、「賭けているもの」が変わらなければ、いろんな困難や課題が生じたり、当初とはかたちが変わったりしても、納得感は十分にあると思います。逆に言うと、納得感があれば自分のキャリアもそうだし、投資回収ができるんですよ。そこがすごく大事だと思います。
北野:なるほど。三好さんのこれまでのケースで、そういったことの具体例があれば教えていただけますか?
三好:例えば、先ほど出たタイミーですね。大枠で考えると、日本では働き手が減っているわけです。新しい働き手に入ってきてもらったり、今の働き手により働きやすいかたちを提供したりしないと、このミスマッチが埋まりません。
その時に、すでに働いている方について考えてみると、働き方で困っていることの1つに「シフト」があります。「シフトという課題」をクリアするという点で、タイミーは、ありなのかなと。これは「人の働き方」という大きなテーマの中にある需給ですね。
北野:おもしろいですね。
三好:そんな中で、社長の小川(嶺)さんの構想と、やっていることに賭けて、「一緒にやろう」と決めました。他のビジネスモデルを否定したくはないんですが、そういうのがありましたね。
北野:他の企業さま、例えばココナラさんとか、LayerXさんなどに関しては、どういうところで一緒にやってみようと賭けたんでしょうか? 別の例でも構いません。
三好:ココナラさんも、マッチングビジネスですよね。マッチングビジネスで大事なのは、どちらに軸足を置くかなんです。「卵が先か、鶏が先か」で、両方必要なんですが、そこを「こっち」と決めることが大事なんですね。そう考えた時に、ココナラさんは出品者に寄っているんです。それで、僕は投資しようと思いました。
北野:なるほど。
三好:つまり「私はこういう力を持っています」「こういうことができますよ」と出品者がアピールをしていて、そこに共感した人がその人に依頼するというモデルなんですね。企業側がニーズを持っていて、企業側に軸足を置いたモデルもあるわけですが、「出品者側に立っている」というところで出資したのがココナラさんですね。
北野:おもしろいですね。社長とか起業家そのものはそんなに見ないものなんですか?
三好:あえて言わなかったんですけど、正直そこを一番見ています。
北野:(笑)。そうですよね。では、その場合どこを見られていますか?
三好:「どこ?」と言われると、先ほどお話ししたようにいろんなタイプの方がいらっしゃるので難しいのですが。常にどの起業家の方にもお聞きするのは「何がしたいの?」ということですね。
これは、「『なぜ?』を繰り返す」というのと同じで、お会いした時に、「何がしたいの?」とお聞きします。これが、会社の成り立ちに非常に重要なんです。ビジネスモデルがいろいろな影響で多少変わっても、「何を実現したいのか」ということが変わっていなければ、修正しながら一緒にやれますから。
ところが、「やりたいこと」や「成し遂げたい」ことが違っていたら、すべての判断ややることが変わってきちゃうんですね。だから、お互いにそれが合致することが非常に重要ですね。
北野:一方で、同じようなアイデアで、「こういうことをしたい」という人がいっぱいいる可能性もありますよね? そうすると、その「What」を実行する主体者が、「どんな人格なのか」「信じられる人なのか」「どういう人間性なのか」といったところが重要な気がするんですが、そこは見ないんでしょうか?
三好:非常に重要ですので、もちろん見ます。いろんな意味で、いろんな起業家の方が生まれたというお話をしましたが、今はチームを見る必要があるんですよ。
北野:チームですか。
三好:先ほどニッチビジネスのお話をしましたが、昔はある種、一騎当千のツワモノのような社長さんがいらっしゃった。その方が大軍を作り上げていくのが、日本での成功起業家の1つのモデルでした。
北野:私の中でも永守(重信)さんのイメージがありました。
三好:そうですね。これが日本の中の、成功起業家のわかりやすいかたちですね。今ももちろん、こういうタイプの方もいらっしゃいます。ただ、今はそれだけではなくて、チーム編成をするということをみんながすごく理解するようになりました。
北野:へぇ~。
三好:もちろん「自分が社長なんだから」と全責任を負う気持ちはあれど、役割や仕事を分担し、議論する。「ここに行きたい」と考えた時に、「最適なものを作り上げよう」とみんなが考えるようになったんですね。だからチームがすごく重要です。
北野:昔、ある方が「ルパン三世理論」ということを言っていました。「次元、五ェ門、ルパン」で、それぞれ役割が違う。「ルパンと次元は相棒」で、「五ェ門は、いわゆる『必殺技』を持っている」みたいに表現されていました。
「チーム」というと少し抽象的な気もしますが、もう1段階具体化すると、三好さんはどのように見られているのでしょうか?
三好:そのような「ルパン三世チーム」を構成できているところは、ある種非常に素晴らしいパターンですね。共通項で「何を大切にするか」を持っていながら、それぞれキャラや特技が違うチーム編成ができれば一番いいです。
ただ、これってそう簡単ではないんですよね。そうでない時は、「本当はこんな特技が必要だよね」とか「必殺技はみんな持っているんだけど、やりたいことがみんな違うよね」といったことが起きる。だから、ここの突き詰めはけっこうやりますね。
北野:なるほど。
三好:「どう考えるのか」「どうするのか」「何を軸にするのか」「成し遂げたいことと今の現状は、どうやったら埋まるのか」といったことを議論なり会話なり、ディスカッションしますね。
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