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「進化思考」でつくる、変化の時代を生き残る事業(全6記事)

生態系の生存競争から学ぶ、ビジネスチャンスの見つけ方 『進化思考』著者が語る、「取りこぼし」に隠れた市場の可能性

『進化思考』でつくる、変化の時代を生き残る事業」をテーマに行われた、神戸市主催のイノベーション創出プログラム「プロジェクト・エングローブ」のキックオフイベントの模様をお届けします。「進化思考」とは、生物の進化から創造的なアイデアを生むルールを見出す思考法。提唱者の太刀川英輔氏は、40億年にわたる生態の変化の中に、持続可能なビジネスを考えるヒントが詰まっていると主張します。本記事では、生態系の生存競争とビジネスの競争の共通点や、地球環境と産業のつながりについて語られました。

センスがいい=選び取る基準がはっきりしている

太刀川英輔氏(以下、太刀川):実は、このスライド自体が500枚くらいあるんですよ。ちょっと全部は話せないんですけども、最後に話したいと思ったのが「生態」の話です。

今回のテーマにおいては、生態系の話がすごく重要です。取り残しているものがいっぱいあるからです。と言うわけでこれから生態の話をしましょう。

例えば、丸いテーブルA、四角いテーブルBみたいなものがあった時に、これが「どっちがいいデザインですか」と言われたら、みなさん迷いませんか?これだけではどっちがいいかを定義できなくないですか?

つまり、物には周囲の状況との関係があって、ここで良し悪しが決まるんです。そのものをいかにがんばって良くしても、例えばトマトの糖度を上げても、糖度の高いトマトってそもそもいるんだっけ? みたいな観点に対して、答えていなければいらないかもしれない。適応の観察次第で違う選択肢になるかもしれないということです。つまり、解剖的な探求だけだとヤバいんですね。

周囲のものとの関係性が、ある基準に従っている無印良品的になっているやつと、そうではない驚安の殿堂ドン・キホーテ的なやつを比べると、なんとなく前者のほうが整っている感じがする。センスがいいと言われる現象って、要するに選び取られるものがはっきりしているという現象です。 

生態系の探求でわかる、人間社会の「取りこぼし」

太刀川:話したいことはいくつかあって、周囲のものとの関係性は、当然まず我々の周りにいる人たちを理解するところから始まると。まず5W1Hで全部整理していくと、誰が関係しているのかがわかるでしょうと。

例えばこの不思議な図は、小学1年生と中学2年生の人間関係の図です。『アンパンマン』と『鬼滅の刃』とか、だいたいこれぐらいの層に響くのは、これぐらいの人数までみたいなのがわかる感じがしますけど。

まずは我々が取りこぼしている関係者を洗い出してみましょうということですね。あと物もあります。いろいろな物に頼って生きているので、物の整理もしてみましょう。それがどういう状況で起こっているのかをひと通り調べて、1個ずつ確認するのが、生態系の探求の仕方の基本の基です。

結果として、「どういうことが生態系の中で発生しているのか」と、僕らのビジネスや生きている状況で起こるいろんな競争が似ているので、この話をしたらおもしろいと思いました。

要するに、絶滅の理由とか生態系の中での競争にも種類があって、それと人間社会を比べると、取りこぼしている観点が見えるかもしれない。つまり生存競争のパターンの話です。

ビジネス競争と共通する、生態系の生存競争パターン

太刀川:けっこう目立つ競争は、同じ餌を食べている場合ですね。隣で同じ餌を食べているやつらは目立つわけなんです。人間が作ったものだと、それは同じ「目的」を食べているやつらと言えるかもしれません。

例えばフェラーリとランボルギーニは、同じような客層の同じような目的に向かって競争している感じがするけど、でもここで、フェラーリと新幹線の話をよく取りこぼすんですよね。

新幹線と飛行機の話も取りこぼすかもしれないです。飛行機の会社は、実は新幹線がライバルなんです。ここに来る時も、僕には2つの選択肢がありました。新神戸駅か神戸空港かの2つの選択肢があったんですけど、今回は神戸空港が勝ちました。

でも同じ産業にいない気がするから、同じ目的を取っている人たちがライバルだと浮かび上がってこないばかりか、ぜんぜん同じ戦場にいないという感じで相手を見ているんですよね。

結果的に、新しく出てきたスマホによってカーナビが駆逐されるというのは、こういうことなんです。競争しているつもりじゃなかったんだけど、同じ目的を食べていたから、いきなり売り上げられてバンとやられてしまう。

みなさんがビジネスを考える時には、共通の目的を持った人たちに対して感度を高めておいてねという話です。それは市場の話でもあります。

製品の天敵は「捨てられる」こと

太刀川:あと食べられちゃうということ。自然界ではけっこうありますよね。やはり天敵というとこのイメージなんですよ。でも、みなさんは考えたことありますか? 例えば製品を作ったとして、その製品を食べてしまう天敵がいるかと考えたことはありますか。

実は天敵がいるんですよ。それはなにかというと、「捨てられる」ことです。要するに、ある目的を持った製品として世の中に出現するんだけど、その目的が失われて「もういりません」というふうに捨てられる。

今は機能しているこの紙コップも、数十分後に捨てられてしまうとしたら、そこでこの子の寿命は終わります。これってけっこうヤバいことのような気がしませんか。あらゆるものには確かに寿命があるんだけど、でもその寿命が極端に少なくても「ヤバいこと」だとは受け取られていないと思うんですよね。

だから、「破棄される」ことについては、センシティブになったほうがいいと思います。動物だったら当然逃げるから、物にも意思があったら当然逃げるものだということですね。

単純に、環境と闘っています。例えば資源がなくなるとか、まさに生態系サービスがなくなってしまう恐れがある場合、当然その産業は続けられなくなります。

日本の石油業界がネットゼロの突然の決定の後いろいろと動いているわけなんだけど、Royal Dutch ShellのWebサイトを見ると、とっくの昔にほとんど環境のことしか書いていないんですよね。一方で日本の石油会社を見ると、未だに巨大なプラントの写真で「我々はこうやってエネルギーを供給しています」みたいなメッセージなんですよ。

少し先を予測していたら、動けたはずだったのにという気がするんですよね。「持続可能性」というのは、我々の話なんです。その産業を続けられますか? ということなんです。

競争が進化を加速させる「赤の女王仮説」

太刀川:あと、寄生されて力を奪われる場合があるんですよね。これはうまくいったらうまくいったでけっこう厄介です。iPhoneがうまくいくとiPhoneのウイルスが出てきたりするじゃないですか。広告もそうかもしれませんよね(笑)。ああいうふうに、ハックしてくるやつがいるんですよ。

あと、「赤の女王仮説」って言うんですけど、そうやってハックしてくるやつとの競争やライバルとの競争とかで、先に進むことがあります。例えば、iPhoneもあんなに早く進化しているのは、Androidがいるからなんです。同じような環境にいて、逃げるやつと追うやつがいると、両方とも速くなります。

例えば、チーターはめっちゃ速いでしょ。よくチーターの餌になっていた動物にプロングホーンという子がいるんですけど、こいつが地球上で2番目に足が速いんですよ。チーターは時速130キロ出るんですけど、プロングホーンも時速90キロぐらい出るんですよね。

しかもすごいのは、プロングホーンは長距離ランナーで、チーターは短距離ランナーなんですよ。距離が長ければ逃げられるんですよね。このように、チーターがいなければそんなに速くなる必要はなかったんです。iPhoneとアンドロイドのように、「より早く進化できますか」ということが、まあまああるということです。

行き過ぎたクオリティ競争になる「ランナウェイ現象」

太刀川:それから性淘汰されることがあります。どっちの雄が魅力的ですかという話です。ビジネスで言うとクオリティで淘汰される場合ですかね。

けっこう僕らは、この競争ばかりを見ているような気がするんですよ。ラーメン屋さんを2つ比べた時に、どっちがおいしいかに対してはすごく目ざといんだけど、腹を満たすという意味であったり、栄養みたいな意味だったら実は大差ないかもしれないじゃないですか(笑)。

逆に競争が行き過ぎる時は行き過ぎるんです。後ろに映っている車は時速400キロも出るんですけど、そのクオリティいりますか? という話があって(笑)。

誰も届かないところにランナウェイしてしまう。ちなみに、こういう現象を自然界では「ランナウェイ現象」と言うんですけど、クオリティで勝つことは必須だけどランナウェイしないように気をつけてください。

「共生」を狙うことは「ブルーオーシャン戦略」でもある

太刀川:あと「共生」。競争が怖いから生き残りたくて、いろんな隙間を狙っていくことです。例えば、W.チャン・キムも「ブルーオーシャン戦略」って言うけど、あれって生態系の話ですよね。「ニッチ」とかもマーケティングで使われるけど、両方生態系の言葉なんですよ。

そういうふうに、それぞれが隙間を狙っていったり、隙間にはまったりしていったら、なんとなく生態系のポジションが埋まっていくという現象が生態系の話なんですけど。

みなさんがコンペティター(競争相手)が少ない状況を求めて、新しいデザインをがんばってみるというのは、すごく効果があるということです。言われなくてもなんとなくわかりますよね。

「共生」と「寄生」って非常にあいまいな概念です。共依存的になれる産業があった場合には、安定した共生関係を築けることがあります。クマノミとイソギンチャクがまさにそれです。

僕らが今、取り残している人たちに対して、ある種の深い相互理解を持とうすること。実は取り残しているんだとして、でも、取り残しているところに目ざとく、いち早く共生関係を築ける手法を提供すると、それはブルーオーシャンかもしれないんですよ。

だから、「社会にいいことをやろう」という観点で向かってもいいんですけど、共生系という取り残している壮大なブルーオーシャンがいっぱいあるところに対して、「新しい産業のヒントをつかみに行こう」と考えることもできる。SDGsも、そういうことのリストの一部です。

地球環境×産業は、間違いなく成長産業である

太刀川:もちろん、社会課題ってこれだけじゃないです。だけど、その課題を探求しに行き、自分たちのポジションでできることを探してみることが、実は新しい関係を作れたり、共生関係を築くことに繋がり、将来にも残る事業になることがあります。それは、時速400キロの車を作れる人に対して、405キロの車を提供しようとがんばることより、ずっと生産的です。

「競争」と「共生」の両方ともが進化のトリガーになるので、周りの取りこぼしているものに自覚的になるとおもしろいぞということが、まさに今日のテーマだと思うんです。

なんで地球環境の話と産業の話ってつながるのかというと、それがフロンティア(最前線)であり、間違いなく成長産業だからです。そして、そのやり方はオープンというか、まだ取りこぼしている部分がめちゃくちゃいっぱいあって、生態系自体は“物言わぬ消費者”みたいなものですからね。

その生態系を満足させる手段は、今まで物言う消費者ほどには模索されてこなかったんですよね。だからチャンスがあるし、そこにある種の人類の存続もかかっているんだと思います。

そういうのを作っていくためには、越境的にいろんな領域をつないでいくのも大事だという話も書いてあるので、この辺はよかったら本のほうで楽しんでみてください。

ありがとうございました。 

司会者:太刀川さん、ありがとうございました。

(会場拍手)

同じ餌を狙ってみんながだめになる、従来の「富裕層マーケティング」

司会者:「そうか、今話されていることってここに書いてあったな」って、少し本を読んでいたんですけど。太刀川さんの話で、特に最後の「生態」のところで、なるほどなと思ったのは、「生態」はある意味、関係をどう作るのかに直接的に結びつくなと。

僕らが、これがいい仕事なのかどうかという仕事の判断をする時に、今までだったら「たくさん作ってたくさん売る」というのが良い仕事だと思ってやれていたんだけど、それができなくなったら、「ちょっと作って高く売る」というほうにしか頭がいかなくなることがよくあるなと思って。実はその袋小路に入っちゃう時に、実は可能性をもっといろいろあるんじゃないの? という。

「富裕層マーケティング」ってあるじゃないですか。僕があまり好きじゃないんですけど。みんなが富裕層を取りにいくと、まさにさっきの同じものを取りに行って、みんなで同じ餌を食べて、それでみんながだめになっていっちゃうという方向に進んでいくんだよなと。

だからやはり、世界を「生態」と捉えて、その中で自分がどういう役割をこの世界に作っていくのかと考えることによって、自分にしかできないことができてくるんですよね。

太刀川:おっしゃるとおりです。よく地場産業のプロダクト開発をすると、値段の高いものができようとした場合に「ドバイのお金持ちとかに売れませんかね」みたいな話が出てくるんです。

そういう時に必ず聞くのが、「ドバイのお金持ちの友人はいますか?」ということ。その人たちは、誰も友人だったことがないんですよ。ドバイのお金持ちのことを誰も知らないのに、ドバイのお金持ちに売りたいという。

特に西洋圏だと「ノブレス・オブリージュ」みたいに、お金を持っている状況をどう社会に使うかという中で、真っ先に上がりやすいのが、最近では実は「生態系のために何か使えないか」ということだったりもするんです。

そういう広いつながりに対しての慈悲を、ちゃんとブランドが背負うと有効なことがあるんですね。パタゴニアの取り組みがが「セレブマーケティングだ」とは言わないけど、実はすごく富裕層に響いていることとつながる話だと思うんですよね。

司会者:けっこうおもしろいですよね。またあとで山崎さんと太刀川さんで対談していただくことになるかなと思いますので、ここで太刀川さんの講演は終わりにします。ありがとうございました。

(会場拍手)

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