CLOSE

けんすうさんに聞く「起業に役立つSNSやnoteのつづけ方」(全5記事)

「#私を構成する5つのマンガ」があんなに盛り上がったワケ けんすう氏が語る、SNSで乗っかりたくなる「自分語り」の工夫

SNSやnote、ブログなどを通して誰でも情報発信ができる時代。いまや多くの起業家や経営者が、そういった場をビジネスにも活用しています。そこで本セッションでは、「起業に役立つSNSやnoteのつづけ方」をテーマに行われた、“けんすう”ことアル株式会社古川健介氏と、note株式会社徳力基彦氏による対談の模様をお届けします。本記事では、SNSで話題となった「#私を構成する5つのマンガ」という企画の背景にある、考え方やテクニックが語られました。

SNSは宣伝ではなく、思考回路を見せるために使っている

徳力基彦氏(以下、徳力):今日は「起業に役立つ」というテーマなので、そういう背景のあるけんすうさんが、ご自身の事業に対してどのようにSNSを活かしているかを聞いておきたいんですけれども。

さっき今使っているSNSと言う話でTwitterとnoteと自社のサービスと挙げていただきましたけど、今、重要視しているSNS、こだわりの使い方をお聞きしたいです。一番重要視しているSNSというと、どれになるんですか?

古川健介氏(以下、古川):起業でいうと、最近はnoteに「未来はこうなると思っています。今はこういうのを作っています」という投稿をすることが多いです。

徳力:それで自分の思考回路を鍛えるのかな。検証するのが楽しいのか、予測の確認という話なのか。

古川:予測を書いた上で、「こういうの作ってます」と発信すると、見ているお客さんが「これ、どうなるんだろう」と継続的に気にしてくれたりするので。

徳力:なるほど。いわゆるプロセスエコノミー的な文脈ですね。

古川:そうですね。最近はわりとそういうのをやっています。例えば、「『00:00 Studio』というライブ配信のサービスをなんでやっているのかというと、こういう理由があるからです」とか。

「ビジネスモデルをどうするのかというと、これからはコンテンツの“原液”が大事で。切り抜き動画が流行ってますけど、ダラダラとした原液を集めておいて、切り抜いたり編集したりをファンが一緒にやるといいんじゃないかと思ってます」みたいな話を書いていたりしますね。

徳力:ちょっとnoteの話はあとで深堀りしたいんですけど、けんすうさんの場合、SNSはあえて思考回路を見せるために使っている。宣伝のために使っているわけではないんですね。

古川:そうですね。宣伝される投稿をみんな読むかというと、あまり読まないので。

徳力:なるほどね。

バズる施策の指標となる「バイラル係数」

古川:あとは、ちょっと違うんですけど、去年か一昨年に、「#私を構成する5つのマンガ」というハッシュタグを流行らせたことがあったんですけど。

徳力:はいはい。

古川:いわゆるバイラル施策みたいなことは一時期よくやっていました。社長が発信するよりも明らかに簡単で、要はバイラル係数というのがあるんです。単純に言うと、1人に届いて1.1人連れて来てくれたら、理論的には拡散し続けるじゃないですか。

なので、バイラル係数が1を超える施策を打つと、めちゃくちゃバズるんですね。そういうことを一時期やっていて、「#私を構成する5つのマンガ」は確か65万人くらいがやっていました。サイトを訪れたお客さんが、1日で150万人だったので。もしやるんだったら、そういうやり方をしたほうがいいかなと思っています。

徳力:サラッとおっしゃっていますけど、すごく大事なところだと思うんで、ちょっと深堀りしておきたいんですけど。今日の「起業に役立つSNSやnoteのつづけ方」というタイトルを見ると、大抵の人は、「いかにSNSで自分たちの会社の事業を宣伝するか」と考えがちです。

でもけんすうさんからすると、宣伝行為自体がそもそもSNSでは求められないから、それよりはどっちかというと、さっきのプロセスを見せて巻き込んでいくほうに使っているんだと思うんです。

SNSは、ほぼみんなが「自分の投稿を見てもらいたい」と思っている

徳力:もし宣伝をしたかったら、こうやってこうみんなが盛り上がるお祭り的なものを作ったほうがいいというイメージで合っていますか?

古川:そうですね。もうちょっと考えながらしゃべりますけど……。SNSは、ほぼみんなが「自分の投稿を見てもらいたい」と思っているんですよ。

徳力:なるほどなるほど。

古川:自分の宣伝をしたいとか、自分の投稿を読んでもらいたいってみなさん思っているんですけど、みんながそう思っているということは、そこを刺激してあげるほうがいいなと考えています。

徳力:おもしろい、なるほどね(笑)。

古川:「#私を構成する5つの漫画」って、要は自己表現を簡単にして、自分を知ってもらいたいというところを突いているので、65万人がやってくれるし。

徳力:ここに「私」が入っていることが大事なんですね。

古川:大事ですね。

徳力:「お勧めの5つのマンガ」じゃなくて「私を構成する」というのは、要は自分がどういう漫画に育てられかという「自分語り」だから言いたくなるんですね。なるほど。おもしろい。

話題に乗っかりやすくする「自分語り」の要素

古川:僕のブログも、実は「これ、モヤモヤ考えてたけど言語化できなかったやつ」という感じで紹介されることがすごく多いんですね。

徳力:最近もそういう投稿が多いですよね。

古川:そうなんです。みんなが「このブログいいから読んでよ」とやるんじゃなくて、「自分もこれと同じことを考えているから、自分を知ってください」と言って、僕のnoteを紹介してくれるという。

徳力:その発想はなかったな。でも、言われたらそうですね。なるほどな。

古川:自分のことを知ってもらうためにやるってことですね。

徳力:リツイートって、そういうことですよね。

古川:リツイートはそうですね。

徳力:自分の発言じゃないんだけど、リツイートすることによって自分の発言的にツイート欄に並びますもんね。

古川:そうですね。

徳力:「俺もこれと同じことを思っていたんだよ」というコメントを書く人もいれば、当然書かない人もいるんですけど。みんなが思っていることを代弁してあげるほうが、自分の話を読んでもらえる。けっこう哲学的なパラダイムがありますけど、おもしろいな。

古川:そうなんです。みんな、自分の話を聞いてもらおうとしちゃいがちというのがあるんじゃないですかね。

徳力:やはりアルの場合は漫画がメインの事業だから、当然漫画の話題を増やしたいので漫画について語ってほしいんだけど、その漫画を語ってもらう時のポイントで「私を構成する」という、ちょっと自分語りの要素を入れてあげることによって乗っかりやすくなるという話ですね。

古川:そうですね。

徳力:けんすうさんやアルが、一生懸命「漫画がおもしろいからみんな読んでよ」と言うのではなくて、みんなが自分語りをしながら周りに勧めてくれて。だからこのハッシュタグはあんなに盛り上がったんですね。なるほどな。

盛り上がるポイントは、ツッコミをする余地があること

古川:ちょっとテクニカルなんですけど、ツイートに漫画のタイトルが入るので、人気の漫画は上から順にトレンドに載っていくんですよ。そうすると、「あれ、トレンドに載っている」と言って、その漫画のファンがまた集まってくるので。

徳力:すげぇ! 2重、3重に仕組みがあるんだ(笑)。おもしろい。

古川:トレンドのベスト10を、1日中漫画のタイトルで独占していましたね。

徳力:人気漫画だから、当然みんなそれについて語りたいんだけれども、語るきっかけがなかった。そこに「#私を構成する5つのマンガ」の話で、久しぶりに『進撃の巨人』とかがトレンドに上がってくると、自分の『進撃の巨人』に対する昔語りでみんなが乗っかってきて、このハッシュタグとは関係なく、漫画のほうでも盛り上がったりする。

古川:そうなんです。

徳力:Twitter上が漫画一色になるということですよね。 

古川:そうなんです。漫画の話題になるという仕組みですね。そういうやり方もあるので、ちょっと参考になるかなと。

徳力:おもしろい。聞いている方は、「けんすうさんとアルは漫画でいいな」と思っちゃうかもしれないですけど、大事なのは考え方ですよね。自分たちが話したくなる要素にスライドしてあげて、彼らが盛り上がるように、水をたむけてあげているところがポイントですよね。

古川:そうですね。お客さんがしゃべりたい話題を、ちゃんとやってあげる。「オモコロ」というおもしろ系ブログメディアがあるんですけど、あれも同じことを言っていて。なるべくコメントする人が、自分が賢いとか自分がおもしろいと思えるツッコミをする余地を、けっこう入れているんですよね。

徳力:なるほど。ある意味、自分側はツッコまれる側としてちょっと抜けている感じにしてあげるんですね。

古川:そうですね。「ここのツッコミどころは自分しかわからないよ」って、たくさんの人が思う構成にしていると言っていましたね。

徳力:ああ、確かに。話題の映画とか漫画でも、伏線のプロットで「俺はこの伏線を見つけた」みたいのは語りたくなりますよね(笑)。

古川:そうですね。みんなが「頭のいい自分だけが気付いた」と思える仕組みにしているという。でもみんな気付くというのが、ポイントだったりしますね。

徳力:(笑)。ちょっと隠してあるんですね。

古川:そうですね。

20回以上変えて当たった「#私を構成する5つの漫画」

徳力:おもしろいな。高度ですね。聞いている方の中には、すでに自分の事業を始められている方も、これから始めたいなと思っている方もいると思うんですけど。事業を始める時に、事業を知ってもらおうと思うと、どうしても事業そのもののサービスの特徴だとか機能とかを宣伝したくなっちゃう。でも実は「みんなに話題にしてもらう」というのは、そういうのじゃなかなかうまくいかないですからね。

古川:そうですね。

徳力:なるほどな。そういう思考回路はどこで身につくんですか(笑)。さっきの、noteで自分の考えていることを言って、みんながどう乗っかってくるかというのをずっと繰り返すことによって、そういう視点が磨かれていくんですか?

古川:そうですね。コミュニティサービスでも起業でも、どれも同じだと思うんですけれども、やはり相手目線というか、お客さん目線が一番大事なので。お客さん目線で何がいいかをたくさん試して、当たったものだけを今言っています。外れたものもたくさんありますね。

徳力:でも普通の人に比べると、ヒット率は高くなっていると思うんです。それは考えて試して、考えて試してとやっているからなんですかね。

古川:たぶんヒット率は低くて、このバイラル施策も3ヶ月で10とか20のサービスで試してて。さらに「#私を構成する5つの漫画」も、バージョンでいうと20何個目ですね。毎日変えてました。

徳力:すげぇ。めちゃめちゃバットを振っているんだ。なるほど(笑)。

古川:そうですね。

徳力:僕らはけんすうさんの超特大ホームランの話だけを振り返るから、狙って狙って振ったらドーンと飛んでいったようなイメージだけど、実は20数回も振っているし、他のテーマもいろいろ試しているという。なるほど。

古川:そうですね。「5つ」じゃなくて3つだと駄目で、7つでも9つでも駄目でとか、「私の」とか「思い出の」だとぜんぜん駄目とか、ボタンもこの大きさだと駄目、とか。

徳力:マジですか。

古川:バナーとか説明文とか1つとっても、ぜんぜんバズる・バズらないが違うので、その回数はこなしていますね。

何が当たるかわからないからこそ、気にせずバットを振り続ける

徳力:社内的にはそれをしょっちゅうやっているから、「この間もそれやっちゃったじゃないですか」とか、つい言いそうなもんなんですけど。そういうのをどうシャットアウトするというか、気にせずにやるんですか?

古川:このバイラル施策でいうと、「バイラル係数1を目指してください、ヨーイドン」でやって、増えるまでやり続けましょうという。0時に更新するというルールだけでやっていましたね。

徳力:ヨーイドンってどういうことですか? 何人か担当されるんですか。

古川:バイラル施策チームの人に頼んでいます。僕もこの企画の概念だけは勉強して教えてもらって、「これでやろう」と言って実験して、「だいたいこれいけそう」となったらチームに渡して。

徳力:なるほどなるほど。

古川:チームが「#私を構成する5つのマンガ」という企画を考えて、サービスを作ってテストしてて。ある瞬間、突然バイラル係数が1に行ったのでバズったという。それまでこの企画はあまり知らなかったです。

徳力:社内ですら知らなかった。実は現場はめちゃめちゃ振っているんだけど、バズっていないから、社員の目にも入ってこないんですね(笑)。

古川:入ってこない(笑)。あまり知らない。

徳力:そっか。やっている側の人間は、ずっと外れ続けているから恥ずかしくなってバットを振るのを止めがちなんだけど、それを気にせず振り続けなさいって、上の人が言っている感じなのかな。

古川:ああ、そうですね。あと、このボタンのサイズだと良くて、このボタンのサイズだと駄目というのが、事前にわかるわけがないので。結論、20日間毎日更新するのが、一番ヒット率が高いと知ったというのはありますね。

徳力:逆に言うと、20回やるんだと決めておいて、それを埋めてもらうんですね。

古川:そうですね。記事のタイトルも同じですね。30~40個ぐらい出して、社内で投票して読みたいものを生き残らせるみたいな。そういったことをやっていますね。

ヒットを出す最適解は「100個作ること」

徳力:社内に複数人いれば、それでまず「疑似お客さま目線」というフィルターを通過させるんですね。

古川:そうですね。昔Webメディアをやっていた時は、タイトルはFacebook用とTwitter用と検索エンジン用とナントカ用で4つ作って、それも5日にいっぺんくらい全部変えて、CTRを見るまでやっていましたね。

徳力:へえ。いわゆるABテストをちゃんとやっているパターンですね。

古川:そうですね。そうでないと、やはり当たらないですね。

徳力:これを聞いている方々が、俺には無理だと思っちゃうか、なるほどと思うかが心配なんですが(笑)

古川:ブログを書いて「読まれません」という人に、「タイトルって何十個考えましたか?」とか、「何回変えましたか?」と言うと、「いや、考えてないです」とか「タイトル変えてないです」という話が出るんですけど。

今までいろんな経験やって、いろんなサービスでも試したんですけど、100個やって2パーセントは数字が倍出るやつがあって、2パーセントは数字が半分しか出ないやつがあって、あとはこう山なりになるみたいな。ほぼこの山なりが出るので、最適解はやはり「100個作ること」だなと思っていますね。

徳力:なるほどな。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • なぜ大企業の優秀な人材が新規事業で成功できないのか? 守屋実氏が指摘する、新規事業が頓挫する組織構造

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!