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マイクロツーリズムと酒蔵の可能性(全5記事)

女性起業家と老舗企業のタッグが生んだ新事業 世界初、日本酒づくりが体験できる「酒蔵ホテル」

日本酒ファンの増加や将来のマイクロツーリズムへ繋げるためのイベント「サケソニック」が開催されました。「マイクロツーリズムと酒蔵の可能性」をテーマに行われた基調講演には、株式会社ヤッホーブルーイング代表取締役社長の井手直行氏、株式会社KURABITO STAY 代表取締役社長の田澤麻里香氏、モデレーターに面白法人カヤック 代表取締役 CEOの柳澤大輔氏が登壇。本記事では、田澤氏が作った世界初の「酒蔵ホテル」などを事例に、新しい事業の展開について語っています。

「少し高くても買ってみたい」と思わせる、地域のブランド化

柳澤大輔氏(以下、柳澤):いろいろな話があっておもしろいですね。佐久市自体が酒蔵ツーリズムとして全体を伸ばすためには、13酒蔵がそれぞれのコンテンツで特徴を出して、どこに泊まるかや体験の特徴が違うと、全体が盛り上がって実際にお酒の販売も伸びるし、ツーリズムとしても成功すると思うんですけど。

その一歩手前に、そもそも日本初のものを作るにあたって、田澤さんはすごく苦労されましたよね。

田澤麻里香氏(以下、田澤):そうですね。

柳澤:それについて、ぜひ田澤さんに聞かせていただければと思います。

田澤:はい。もともと酒蔵って、みなさんが「ちょっと敷居が高いな」ってイメージをお持ちのように、やっぱりすごく神聖な空間であるし、雑菌を絶対に持ち込んではいけない空間なんです。

当然、蔵元の方々はおいしいお酒を造るために守らなければいけないエリアとかがすごくあるので、そもそも不特定多数の人が入る場所ではないことが大前提にあって。特に酒蔵さんは製造業で、ツーリズムとはまったく無縁の状況にあったと思うんですね。

ただここに来て、地域に対して認知されて、「この地域に行ってみたい」という憧れの場所になることによって、地域がブランディングされる。それによって、そこで製造されたものや農水産物なんかも一緒に付加価値が上がっていくことが証明されております。

例えば、北海道で有名な富良野市がありますけど、「富良野ワイン」って聞くと、別の町のワインよりもちょっとおいしそうに感じて、少し高くても買ってみたくなる。そういうことが、地域のブランド化だと思うんです。

佐久での酒蔵ツーリズムが一般的になって、お客さまにも知られる。来てくださった方が「佐久においしい酒蔵がいっぱいあるって聞いたけど、本当にいろいろ飲めたね」「ツーリズムも楽しかったね」「また行きたいね」となる。

また、帰った後も佐久の酒蔵のことを常に思い出してくださって、どこにいても応援してくださる。ツーリズムは1つ、製造業の方とは無縁ではない時代になったと思っています。

井手社長がおっしゃいましたように、本当に蔵元さんごとに考えがまったく違うんです。それでも何蔵か、「ツーリズムにトライしてみたい」なんておっしゃってくださっている蔵元さんもありますので。

バスツアーで受け入れてくださる蔵元さんもいらっしゃいますし、「今度うちで焼酎作り体験をやってもいいよ」なんておっしゃってくださっている蔵元さんも出てきてくださいました。佐久の13蔵というのは個性が本当にすばらしくて、個性ある酒蔵の魅力を発信するお手伝いが少しでもできたらいいなと、私たちもいつも思っています。

今後は「お酒」というくくりでぜひ井手社長にもお力添えをいただいて(笑)、一緒に“アルコールツーリズム”ということで盛り上げられたらうれしいなと思います。

井手直行氏(以下、井手):ぜひぜひ。

酒蔵へのリスペクトから生まれた新事業

柳澤:おもしろいな。今の話を聞くと、13の酒蔵が個性を出しながらそれぞれのツーリズムで、徐々にこれから増えてくる手応えを感じているということですよね。

田澤:そうですね。私が2016年に(佐久市に)戻ってきて、10年近く地元を離れていたので酒蔵さんとのご縁もぜんぜんなかった時は、とてもツーリズムを受け入れてくださる状況ではなかったんです。もともと観光客向けに作られた工場とかと違って、限られた人しか入れない神聖な空間なので。

かれこれ4年半ぐらいこちらで活動していく中で、徐々に信頼関係を築くことができた酒蔵さんからは、「KURABITO STAYさんのお客さんだったら、ツーリズムやバスツアーを受け入れてもいいよ」なんて言ってくださったり。

うちの場合は、お客様に本当に徹底的に(ルールを)お守りいただくことを事前にお願いしてから受け入れをしているので、酒蔵に対してのリスペクトを持ってくださる。「レスポンシブル・ツーリズム」と言うんですけれども。

責任ある行動をしてくださる観光客やツーリストのお客様を受け入れていくことで、だんだん他の酒蔵さんにもご理解いただけるようになってきました。私の次の願いとしては、ほかの酒蔵の方とも一緒に、またちょっと違った、一歩踏み込んだ日本酒に関する体験がご提供できる場所になっていくと、より佐久エリアの酒所を力強く発信できるんじゃないかなと思っています。

老舗企業が革新的な取り組みをする価値

井手:ちょっと僕、いいですか。やっぱりこういう取り組みがすごくいいなと思っていて。ビールもそうですけど、ビール以上にもともと日本酒って古い業界なんですよね。職人さんが作る、「ザ・製造業」なんです。

ただ、それだけでずっとやっていくと、なかなか日本酒のマーケットも縮小しているので厳しいところがあります。ここ数年、「コト消費」と言われるんですけど、ツーリズムというのはただ作っているだけじゃなくって、お客さんに来てもらって体験するという、本当にコト消費そのものなんだと思うんですよね。

10年ぐらい前に見学ツアーをやり始めた時、やっぱり最初は「なんで製造メーカーがそんなことをやる必要があるんだ」と言われました。「作ることに専念していればいいじゃないか」と。「いやいや、お客さんに知ってもらえて、喜んでもらえるからやってみようよ」なんてところから我々も始めて。

それが、今で言うコト消費なんですけど。そういうふうにだんだん発想を変えていって、「作ればいい」の時代から、「体験をしてもらう」。より身近なものに感じてもらい、(蔵元の)個性とか、その時の体験のいい思い出と一緒にお酒のイメージ作っていくことを、日本酒メーカーが協力し合ってやっていく。本当にすばらしいなと思いました。

コト消費と言う前から、僕らの事業の定義は、「ビールを中心としたエンターテインメント事業」なんです。なので、そもそもは製造業なんですけど、いろんな活動や楽しいことをひっくるめて事業にしようと。そんな考えでやっているので、日本酒メーカーもそういう考えになってきていてすごいなと思いました。

柳澤:製造業がツーリズムに入ってくるのは、必然的な流れですね。結局、ただ物を売るだけじゃなくて、ストーリーを含めて売らなきゃいけない時代だから。「体験して買ってもらう」という意味だと、わかりやすい例ですね。

ツーリズム、泊まらなくてもいいけど、開かれた体験からそのまま(モノが)売れるというのも必然的な流れですね。1つの酒蔵だけががんばるより、13の酒蔵が地域全体で同時にやれば、結果的にはすごいプレゼンスになる。すごくおもしろいですね。

手間暇かけて作られる日本酒は「奇跡のお酒」

田澤:なかなか、一般の人を不特定多数入れることに踏み出すのが、いろいろな意味でできなかった業界です。橘倉酒造さんが最初にうちの会社とタッグを組んでくださって、こういった斬新な取り組みに挑戦してくださったのは、本当にありがたいことだと思っています。

実際にお客さまが体験されるとわかりますが、日本酒を作るのって手間暇がものすごくかかって、いくつもの工程があったうえで、本当に奇跡のお酒というような、丁寧に作られるお酒なんですね。

それによってお客さまが、「より日本酒がありがたく飲めるようになりました」「1滴1滴、もう絶対に無駄にしません」と、最後に感想をおっしゃってくださるようになって。さらに橘倉さんの蔵人の方々との交流を通して、「橘倉さんのファンになりました」「井出民生社長のファンになりました」なんておっしゃってくださるお客さまも大変多いです。

人柄が見えることによって、長期的なファンになってくださるお客様も大変多いですので、やっぱりこういったツーリズム……、ツーリズムという言葉じゃもしかしたら言い表せないのかもしれないんですけれども、ご縁を作るというか、交流を生み出す。

酒所でいろいろなことを生み出せると、ツーリズムに限らず、交流を生み出したり、地域や製造メーカーのファンになってくださる方は増やすことができるんじゃないかなと思います。

なので地元の方にも、今一度地域の身近なメーカーさんを見て訪れて、応援していただけると大変うれしいなと思います。

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