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ポストコロナのスタートアップ投資(全4記事)

100年続くVCの仕組み作りとは? カギを握るのは「脱・属人化」と「再現性の創出」

コロナパンデミックを受け、VCにおける投資戦略・オペレーションも「変化への対応」を迫られました。その中で変わったこと、変えなかったことは何か。また、今後どうなっていくのか。2020年、オンラインにて開催されたIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)内の本セッション「ポストコロナのスタートアップ投資」では、DCM Ventures 原健一郎氏、株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー 高宮慎一氏、グローバル・ブレイン株式会社 代表取締役社長 百合本安彦氏、YJキャピタル株式会社 代表取締役社長 堀新一郎氏、ANRI株式会社 代表パートナー 佐俣アンリ氏ら5名が、投資先の成長や変化について語りました。こちらのパートでは「日本人VCから見る海外投資の行末」などについて議論されています。

日米VCの一番の違いは、担当する投資件数

原健一郎氏(以下、原):ファンドを使うペースに関連してなんですけど、やっぱり日本とアメリカのVCを比較していて、一番の違いだと思うのは、投資件数。投資担当者の担当件数が、けっこうファンドによってバラついているというのがあって。

例えばアメリカのアーリーステージって、一人1~2社みたいな感じなんですよね。じゃないと、もうわかんないじゃんというのがあるので。

みなさんは、担当者の方、パートナーの方ってどのくらい投資されているんですか? 堀さんのところって、どんなもんですか? 今はけっこう人数も変わっていたりすると思うんですけど。

堀新一郎氏(以下、堀):14~15社。多い人で15社ぐらい、少ない人で8社ぐらいですかね。

:それが担当先ということですよね。

:そうですね。

:なるほど。グロービスはペース的には同じ感じですか? 

高宮慎一氏(以下、高宮):そうですね。僕らはペース的に同じで、けっこう絞っていて。僕らのバリュープロポジションというか、パンチラインとしては「がっつり支援します」という。1人の担当が週1で2時間使ってもちゃんと回せるという感じでいうと、5~7個だと余裕を持ってハードシングスが起きても対応できる。10個だとちょっとパンパンみたいな、それぐらいの感覚でやっていますね。

佐俣アンリ氏(以下、佐俣):それでも普通にパンパンになりません? Exitのペースでも投資のペースがやっぱり早いじゃないですか。

高宮:個人的に言うと、Exitをしっかりするのは、キャピタリストとしてすごく大事だなと思っていて。個人ポートフォリオのマネジメントとして、ちゃんとExitをするのは、やっていますね。

佐俣:要はファンドとして「いやお前、ちょっと手持ちすぎだからExitをがんばらない限りは新規をやらせないぞ」というような発破が存在するんですか? 

高宮:「やらせないぞ」とは言わないんですけど、当然MBO(目標管理制度)とか、人事制度のほうとかに回っているんで。「今年のファーム全体の目標はこれで、それに照らし合わせるとあなたはここね」という感じで、個別に目標を落としてはいますね。

佐俣:でも、ちゃんと見なきゃいけない時に10社が限界というのは。7、8社がいいですよね。

高宮:なぜかハードシングスって同じタイミングに重なったりするんで。

佐俣:ちなみに私、今75社ありまして、死んでおります。

(一同笑)

百合本安彦氏(以下、百合本):すごいですね。

佐俣:いつだって怒られてます、いろんな人に(笑)。

:シードはけっこうそういうのが起こりがちですよね。多いとは思いつつ。

佐俣:これがシードでもない会社が今うちはいっぱいあるので、破綻しております。

:さっき堀さんがおっしゃっていた、ストラテジーをいかないとファンドサイズが大きくならないみたいな。そのグロースをいかないといけないってあるじゃないですか。

グロービスさんはもうアーリーだ、みたいなことがあると思うんですけど、今けっこう……。YJキャピタルは幅広にやっているんですよね。もうシードとグロースで担当が違うんですか? 

:シードは確実に分けてます。レイターはなるべくシニアパートナーで見るようにしてはいますかね。

:結局、ファンドも高宮さんがおっしゃっていたように、リージョンで強みが出せる出せないというのと、やっぱりステージで強み出せるか出せないというのは本当にありますよね。たぶん起業家の方から見ても、グロースの人がシードをやったら、またぜんぜん違うアドバイスになるだろうし。その逆もまたそうだと思うので。そこの相性はたぶんもう。

VCが考える、世代交代について

:もう僕たちもずっとやってると、年取ってくるじゃないですか。老害化していくと思うので。

グロービスの三羽烏とか、アンリさんとか百合本さんとか。僕もそうなんですけど、たぶん徐々に運用総額を大きくしてグロースのほうにいかないと、若手が育たないのかなって気はしますよね(笑)。

(一同笑)

:それで言うと、ファンドの世代交代みたいな話もぜひ聞きたいんですけど、この間アメリカで「Benchmark」のBill Gurleyが52歳で引退をして、今「Sequoia」のヘッドのRoelof Bothaってトップになったのが44歳で。前任者は51歳で降りてるんですよね。アンリさんもいつかきっと考えるでしょうし、みなさん世代交代についてはどう考えているんですか。

佐俣:僕、メンバーより年下なんですよね。困っちゃいますよねぇ。

:まぁね(笑)。

:グロービスはどうなんですか、歴史として。

高宮:そこはたぶん、ファームとして何をビジョンにおいているか? だと思うんですよ。うちの場合って、属人性をなるべく廃して、僕らがいなくなった100年後も常にメガベンチャー産業を生み続けるプラットフォームになりたい、というビジョンがあるので。

組織化をして、いかに再現性を出すか。そこに気をつけているので、世代交代はすごく意識していて。

たぶん堀(義人氏)・仮屋薗(聡一氏)が1世代目で、今野(穣氏)・高宮が2世代目。今湯浅(エムレ秀和氏)・福島(智史氏)・渡邉(佑規氏)の3世代目がほぼパートナークラスになってきていて。3代続いたバイアウトを含めたファンド事業って、ほぼないんですよ。

佐俣:あんまりないですね。

高宮:なぜかというとみんな一匹狼で、インセンティブとかやりたいこと、意思決定のところでパートナーシップを維持していくのがすごく難しいからで。一匹狼や傭兵部隊の寄り集まりから、1世代を築くみたいな、今までのVCモデルから、事業会社的な永続性を求める組織になるかは、ちょっとチャレンジをしていて。そういう意味で言うと、すごくそこに気を遣いますね。

世代交代に必要なのは、100年続けるための仕組み作り

佐俣:そういう意味では「THE第1世代」の百合本さんはどうお考えですか? たぶん現役で投資されているプレイヤーで、実は最年長ですよね。

百合本:そうですね。基本は高宮さんと同じで、今メンバー63名もいまして、8月には80名ぐらい越えちゃうと。

佐俣:めっちゃ増えてる(笑)。

百合本:今、インベストメント部隊が60数名と、必死になって作ったValue Up Teamというのが20名いるんですけど、今年30名くらいに持ってこようと思っていまして。

あとはファンド管理チームも20名ぐらいいる。そんな構成で。ですからさっきおっしゃったように、再現性はきちっと意識していますね。僕自身も例えばKleiner Perkinsみたいなかたちで、継続的にビジネスを成長させたいと思っているし。

そういう意味では、うちに熊倉(次郎)さんとか立岡(恵介)さんという人間がいるんですけれども、その後のパートナークラスも今10名ぐらいいるので。そういったことも意識しながら運営させていただいていて。まぁ属人性を排除するというか。

みなさんも経験すると思うんですけど、これも非常におもしろいんですけど。いつも私は「百合本さんの相続対策とか事業承継プランはどうなっているんですか」って必ず言われるんです。

(一同笑)

「そうならないように、こういう対策を経ています」というのを、ずいぶん説明しているんですけど、まだまだそう見られているんだなとは思っているんですけど。我々としても、100年200年きちんと続けるための仕組み作りをしている感じですかね。

鍵はVCと起業家のパワーバランスとスピード感

:最後にあと5分なんで「日本のVC業界は、こういうところがまだ足りないぞ」みたいな話だと、どうですか? 

佐俣:「世代交代が進まないな」というのはあって。やっぱりもっと若い人にチャンスを渡さなきゃいけないし、ダイバーシティが本当に足りない。日本の「スタートアップ村」っぽい話で明日ダイバーシティのセッションを持っていますけど、女性も増やさなきゃいけないし、多様な観点を持った人を増やしていかないと。正直この業界は、40~45歳ぐらいの男性のプロフィールに固まりすぎてる。ここを是正していく作業は、僕らがやっていきたいな。

:高宮さん、いかがですか? 

高宮:ダイバーシティの話って、業界が大きくなっていく話にマストでセットだと思うので、それはやらなきゃいけないと思います。+α的なとこで言うと、やっぱり原点回帰した時に、僕らのミッションをどこに置くかになっちゃうと思うんですよ。

結局、僕らってリターンを出す金融屋なのか、それとも何か産業を作る、もしくは何か大きくなる企業を作るところなのかというところで。それで言うと、別にお金を提供するだけがバリューじゃなくて、企業の成長・産業ができるところを支援するというバリュープロポジションなはずなので。

Howの部分のお金を投資するところに縛られずに、もうちょっとダイナミックにお金+αの部分。さらに言っちゃうと、+αの事業を本当に一緒に作っていくために、どういう機能が必要なのかをゼロベースで考えていかなきゃいけないなって最近は思っています。

:堀さん、いかがでしょう。

:これは自戒ですけどね。「人様にどうしろ」という話ではないですけど、やっぱり東南アジアとかアメリカの投資に携わらせていただいている立場からすると、やっぱり海外って意思決定のスピードがめちゃくちゃ速いんですよね。投資委員会を含めて。

日本ってすごく遅いんですよ。これってパワーバランス的に圧倒的にベンチャーキャピタルのほうが強くて、起業家は弱いところに問題があると思っていて。

もっとリスクマネーを供給するようにならなくちゃいけないのが1つと、あとは出す前に「ああだこうだ」って言うんじゃなくて、出した後にしっかりとリードインベスターとなって、会社の成長をサポートしていく。DCMさんが今、国内で13社とか12社ですよね。すごい厳選フェーズに来ていると思うんですけど。

各社がフォロー投資に甘んじることなく、リードインベスターとして会社の成長をサポートしていくことができるようにならなくちゃいけないなと自戒を込めて。最近追加投資は、フォロー投資が多いので、もっとリードをやらなくちゃいけないなと思っています。

:じゃあ、百合本さんお願いします。

百合本:私は、そうですね。Carlyleとかブロックチェーン、BlackRockはけっこう来ていると思うんですけど、そういう意味でプレIPOのところにけっこう染み出してきているんですよね。そのぶんIPOのプレッシャーってけっこうあると思うんですよ。

一方で、東証マザーズの上がった会社って、その後業績がダウンして、株価が下がることが50パーセント以上あったりして、そこがエコシステムの大きな課題だと思っています。

そのために、いわゆるIPOのプレッシャーがけっこうあるわけですよね。そうすると僕としては、10年ぐらいのスパンできちっと、一事業を一緒に作っていくぐらいの感じで、伴走しながらやっていくようなビジネスを大きく展開したいなと思っていて。

そうするとリターンもけっこういいと。例えばAmazonだと、この20年で400倍にもなっているわけだから。そういう案件を、中長期的な観点からやることによって、我々としては生かされていくんじゃないかなと思っているところです。

:ありがとうございます。今日見ていただいているみなさんもご理解いただけたとおり、VCもかなり多様というか。もちろんもっと多様になるべきなんですけれども、性格、得意分野が違います。

特にここにいるみなさんは、起業家としてVCを一から作っている方もいらっしゃって、同じように経営に悩んでいるのもあります。

実は2010年代ってアメリカだとシードファンドが台頭した時代と言われていて。2020年はソロキャピタリストと言って、20歳そこそこの人がソーシャルで知名度を上げて、ファンドを始めるのがブームになっていたりして。

日本でもいろんなVCの方がもっと増えていいと思います。グロービスみたいに第4世代~第5世代という入り口もあると思います。興味ある方はぜひお伺いいただければと思います。

起業家の方は「自分の性格とか自分の相性にあった人がいろいろ違うんだ」とわかったと思います。ぜひいろんなVCの方と話してみてください。ということで、時間なので、みなさん今日はありがとうございました。

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