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『起業の科学』著者が語るアフターコロナ時代でスタートアップが勝ち切る極意(全7記事)

売上が3分の2になった時に、18ヶ月持ちこたえられるか? 非常時の財務のチェックポイント

コロナ禍により直近にどのような変化が起こっているか、With/Afterコロナ時代にどう変化していくかを、『起業の科学(スタートアップサイエンス)』著者の田所雅之氏が読み解きます。豊富な事例をもとに、スタートアップ経営者や社内起業家が持つべき考え方や施策を紹介するほか、厳しい状況に置かれているスタートアップ経営者に役立つよう、コストダウンや生産性向上など実務的な方法論についてもアドバイスします。本パートでは、スタートアップが生き延びるための財務のチェックポイントや、コロナ禍のビジネスモデルについて具体的に紹介します。

既存の枠を外す、ブルーオーシャン戦略

田所雅之氏:あとは戦略的自由度と言って、ブルーオーシャン戦略とも言えるんですけれど、Beforeコロナのときに最適化されていた軸をもうちょっとずらして考えてみることも大事かなと。

1つの事例としては、みなさんはSnapchatをご存じですかね。それまでのメッセージアプリは機能やスタンプなど手軽さでやっていたんですけど、Snapchatはまったく違うと。

開けたときのサプライズという違う軸を持ち込んだということですね。

1つの事例としては、このコロナ禍において新たな競争軸が何かというと、これは僕の妄想なんですけれども、やっぱりファッションブランドだと思いますね。

ブランドA・B・Cがあって、2020年のファッションは、Zoom映え・上半身映えかなと思っていて。実はZoom映えするブランドが売れるんじゃないかなと思っています。例えばこういう軸の外し方だと。

「新たな組み合わせ」から新たなサービスが生まれる

あとアービトラージですね。リソースの需要と供給の格差。つまり供給が多いところから、需要が足りないところに移動するというモデルですよね。

みなさんはレアジョブをご存じですか? Skype英会話の走りのスタートアップなんですけれども、これはフィリピンに英語の先生が多くて、日本には英語学習者が多い。そこにマッチングするモデルですよね。

じゃあどんなアービトラージビジネスが生まれそうかというと、僕はこれかなと思っていて。マスクの転売。みなさんぜひやってください。もうできないですけどね(笑)。

これは冗談で。マスクの転売をしちゃだめですよ。でも、実はこういったアービトラージビジネスが生まれるタイミングじゃないかなと思っています。新しいコンビネーションですよね。これはまさにスタートアップっぽいんですけれども、例えば、エアクロのようなスタートアップはみなさんご存じですかね。

スタイリストが服を選んでくれて、毎月借りられるというサービスなんですけど。

ニューコンビネーションですよね。それまで、コンビネーションが結合されていなかった要素、スタイリスト、シッピング、フリークリーニング、フリークローゼットというのを足して提供するモデルになっています。

コロナ禍が追い風になっているビジネスモデル

どんな新規結合モデルが生まれそうですかというと、自宅でエクササイズということで、先ほど紹介したPelotonですね。

これは、実は創業が2014年ぐらいで、去年上場したんですけど、これもまさにコロナ禍で爆伸びしているんですよね。何を結合させたかというと、自宅・巣ごもりでのエクササイズです。

ログインするときに友達と一緒に入るということで、Peer pressure(同調圧力、仲間集団圧力)がかかると。あとはリアルタイムでリモートインストラクターが来て、日々の進捗(管理ができるということ)ですよね。これで爆伸びしていると。

あとはタイムマシンですよね。もうすでにある場所、あるリージョンでプロダクトマーケットフィットしたモデルを持ってくるというモデルなんですけど。そこでうまくいったのがGOJEKと言われていて、これはインドネシアのUberなんですよ。

もともとアメリカに留学していた創業者が、「これはすごい」と思ってインドネシアに持ってきたと。インドネシアは渋滞が多いので、4輪ではなくて2輪にしたんですね。

実はこういったモデルも出てくるんじゃないかなと思っていて、どんなタイムマシンモデルが生まれそうかというと、例えば中国のアリババをやっているアントフィナンシャルとか、芝麻(ジーマ)スコアというところが、健康コードというものをやっていますけれども。

これは一人ひとりの健康状態を可視化することによって、クラスターを避けるものですけれども、こういうものがまさにリバースイノベーション、新興国から先進国への移転が起きているんじゃないかなと思います。

日本もManabieというスタートアップが5億円を調達しましたけれど、これはもともとオンライン教育の先進国だったインドネシアで始まったんですよね。

そういった新興国が今回は見本になって日本に持ってくる。そんな事例もけっこう増えているのかなと思っています。

ローエンド型破壊でイノベーションを起こす

あとはローエンド型破壊と言って、従来、これはケアテックと言って、いわゆる人間ドックはお金と時間がかかるんですけれども「ワンコインでできますよ」というサービスです。

こういうものもローエンド型破壊として、隙間時間のタイミーとかですね。いわゆるバイトくんを雇うのは固定費がかかりますので、スポットワークでやるところも流行ってきています。

あとはサービス化というところで言うと、これまでにもAs a Service化というか、SaaS化も前から来ていたんですけれども、それはもっと浸透するんじゃないかなと思っています。

つまり多くのお金を投資して、そこで固定費をかけるのではなくて、まずサービスとして使うモデルですよね。例えば僕も去年支援していた、治療院向けのCRMを作っているスタートアップがあるんですけど、これもけっこう伸びていますね。

これはなぜかというと、コロナによって治療院やマッサージ屋さんは、かなり資金繰りに困っているんですね。そこでちゃんとお客さんを管理しないとだめということで、いよいよCRMを使う状況になってきたということですね。

Afterコロナに最適化するためのしたたかな戦略

今は10個のイノベーションモデルを解説したんですけれども、ここですでにやられている方に、もうちょっと示唆を与えたいと思います。Afterコロナに最適化するために、今やっていることの多角化ピボットを行うことが有効かなと思っています。

既存産業ですね。従来オフラインでやっていたことをオンライン化したり、新しいセグメントに対して提供するというのもポイントかなと。

例えば、Airbnbがオンラインでバーチャル体験をやったり、日本では、例えばみなさんストリートアカデミーってご存じですよね。もともとオフラインのレッスンのプラットフォームを提供していたんですけれども、コロナ禍で完全にオンライン化しちゃったんですよね。

あとはイベントのプラットフォームであるPeatixも、もともとは主にオフラインのイベントだったんですけれども、これも完全にオンラインになったと。

ストリートアカデミーと、Peatixの投資家と話していたんですけれども、実際Afterコロナになったら、彼らは売り上げが倍増するんですよ。どういうことかというと、それまではオフラインだけだったんですよね。

でも、コロナが落ち着いたときにオンラインもオフラインも両方できるラインナップができたら、売り上げが倍になるんですよ。つまり、そういったしたたかさが大事なのかなと。そういった事例がいっぱいありますので、その辺を学ぶのが大事かなと思っています。

ギャップに着目することから、ビジネスチャンスが生まれる

東南アジアにStorehubというスタートアップがあって、もともとコロナ前はECのプラットフォームをやっていたんですけど、これが1週間でピボットしたんですって。何をしたかというと、デリバリーサービスを始めたんですよ。一気に1万店舗やって、このピボットはすごいなと思うんですけど、それをやったと。

こういう感じで、まさに需要に対する供給が足りないところに向けてやっていくというところですよね。もともとのセグメントを変えてやったというところ。Airbnbもオンライン体験を提供するとか、中国のスタートアップとか、オンラインでライブ配信をするとか。

今後、新規事業を考える方も多いと思うんですけど、改めて仕事や業務の本質を捉える機会かなと思っています。手段を目的化するんじゃなくて、現状とあるべきUXのギャップを書き出すと。これはどういうことかというと、新規事業を考えるときに、僕はけっこう質問をされたんですね。「どうやって新規事業のネタを探したらいいんですか?」と。

そのときに僕はこういう回答をしているんですけれども、「現状いけてないUX、現状のBeforeコロナに最適化されたUXをとりあえず書き出してみましょう」と。その中から課題だったり、いろんな不便、不満、不安が見つかるんですよね。

それに対して何を提供するのか、どういうことをしたら、よりよい体験になるのか。実はそこに事業のヒントがあるのかなと思っています。

こういう感じで書き出してもいいですね。現状のユーザーとか、カスタマージャーニーマップを書き出して見ると。そこに対して、プロセス上の課題がありますよね。それに対して、あるべきUX、あるべき体験を書き出してみると。実はこういったギャップのところに多くのビジネスチャンスがあるのかなと思っています。

まずは「どのくらい生き延びられるか」を見極めるべき

今だいたい40分ぐらい話してきて、残りたぶんあと300枚ぐらいあるんですよ(笑)。全部話したいんですけど、その余裕がないと思うので、ここはちょっと巻きで話します。

今話している2つのポイントですね。マクロの潮流を抑えると。そこからAfterコロナのイノベーションモデルを知るということで、10個のモデルを解説しました。

さらにそこから多角化モデルの話をしたんですけれども、こうするのもきちんとサバイバルできたかどうかなんですよね。まず生き延びることが先決だと。生き延びてから再構築して拡大・再生産に入っていきますが、まずはちゃんと生き延びられますかという話なんですよ。

スタートアップにおいては一番大事なことは、この状況でランウェイと言われていて、あとどのくらい生き延びられるんですかということを冷静に見極めることなんですよね。

ランウェイとは何かというと、月々のバーンレイト、いわゆる売り上げから費用を引いたものですね。その額があるじゃないですか。銀行残高から月々のバーンレイトを割ったものなんですよね。それが何ヶ月あるかが非常に大事だと言われていて。

みなさんにちょっと考えていただきたいのは、Beforeコロナはランウェイは短くてもいいので「とりあえずアクセルをベタ踏みしろ」「次の調達に動け」という感じだったんですけど。

Afterコロナにおいては、相撲で土俵の真ん中を取れという表現がありますけれども、やっぱりキャッシュフローが悪くなってきたら意志決定を間違っちゃうんですよ。

安易にマネタイズするとか、安易に儲かるほうにいってしまって、結局自分たちがやろうとしたビジョンが達成できなくなるんですよね。そういう意味で、ちゃんと資金を得ましょう、ということかなと思っています。

チェックポイントは、売上が3分の2になっても会社が18ヶ月持つかどうか

去年は「調達後はアクセルをベタ踏みにしろ」という感じだったんですけど、そうじゃないという意味で、1つのヒントを差し上げたいなと思っています。

財務ストレスチェックを行うということなんですけど、これはセコイア・キャピタルという、アメリカの超有名なベンチャーキャピタルが、Letterで送っていたんですね。こういったシミュレーションをしようと。自分たちの売り上げをいったん3分の2にしてみて、ランウェイが18ヶ月持つかどうか。まずこれをやりなさいと。

現状の読みがこんな感じだと。それがいったん3分の2になると。そうなったときに、どれくらい生き延びられますかと。それによって、戦略・戦術を変えていくということなんですよね。

それが18ヶ月(以下)とか短い場合だと止血モードに入りましょう、ということですね。つまりキャッシュの止血なんですよ。

止血するには3つの方法があって、生き延びるための3つの方法の1つが、ベンチャーキャピタルから投資を受けること、2つめが銀行から融資を受けること、3つめがコストカットなんですよね。その3つを本気で行うことが大事かなと思っています。

18ヶ月~24ヶ月だったら、非常事態を保ちつつ再構築に入ると。24ヶ月以上持つとしたら、もう1回(アクセルを)踏んでみて、拡大再生産に入ることがポイントかなと思っています。

僕もスタートアップに何社かアドバイスをしたんですけど、本当にランウェイが3ヶ月4ヶ月というやばいスタートアップがけっこういてですね。そこで言ったのが「いかにして非常事態モードに入れますか」と。

非常事態のマネジメント、いわゆる戦時のマネジメントということで。大事なことが、スタートアップの良さはおそらくティール型であったり、ネットワーク型なんですけれども、そんな悠長なことは言ってられんと。非常時にはマネジメントの指揮系統をまとめるということですね。

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