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CFOナイト#1 スタートアップCFOというキャリアを考える(全5記事)

上場が叶わない時、どう見切りをつけるべきか――CFOのキャリア価値最大化につながる判断基準

昨今、経営戦略の中心的役割として重要性がますます高まっている、CFOというポジション。そしてスタートアップの人材市場では、CFOが慢性的に不足していると言われています。一方で、“スタートアップCFO”というキャリアに興味がありながら、なかなか踏み出せない方も少なくないのではないでしょうか。今回お届けするのは、CFOを目指す公認会計士・税理士や、CFOを探す経営幹部の方に向けて開かれた、ケップルアカデミー主催「CFOナイト#1 スタートアップCFOというキャリアを考える」の模様です。スタートアップCFOとして実際にIPOやM&Aを経験された3名による、現場のリアルな体験談を交えた赤裸々なディスカッションが繰り広げられました。

CEOとのミスマッチは起こるもの

藤原弘之氏(以下、藤原):ありがとうございます。では最後から1つ目にいきます。その後、宮地さんからの質問で終わります。

「CFOとしてスタートアップに入社する方は、基本的にスタートアップ経験者ではないということが多いのだろうと思います。入社してからミスマッチがどうしても起こってしまうこともあるので、なるべく軽減させる方法や、防ぐために気をつけておくべきこと、あるいはその仕組みなど、もし参考になることがあればお聞かせください。」というご質問が来ております。さぁ、どなたから行きますか? はい、嶺井さん。

嶺井政人氏(以下、嶺井):先にお伝えしておくと、おそらくミスマッチは起きます。会社の他のメンバーと合わなかった、社長と合わなかった、このビジネスに愛情が持てないなどなど、もう大なり小なり必ずあると思います。

ですから、まずもうミスマッチはある前提で入られたほうがいいと思います。仲の良いCFOと話していると、CFOの一番の悩みは、社長との相性なんですね。「このファイナンスがうまくできない」、「IPO準備中で証券会社とうまくやりとりできてない」などはぜんぜんなくて、「予実が」でもない。

ほとんどのCFOが実は社長との相性で悩んでいらっしゃいます。カンファレンスなどに登壇して、すごくいいことを言っている人や、記事に取り上げられるような方でも、飲んで2軒目、3軒目になると、みなさんやっぱり漏らします。

藤原:あぁ〜。それは誰でしょうかね?

嶺井:「ほとんどみんな」ということでいいです(笑)。だからもう、そうしたもんだと思っていただいたほうがいい。やっぱりスタートアップの社長というのは、めちゃくちゃ特殊なんですよね。だって、一代で上場企業を作っちゃうような人なので、もう普通の社会人ではありませんよ。本当に、いい意味でもクレイジー。

藤原:ぶっ飛んでる。

嶺井:ぶっ飛んでるんですよね。ですから、その熱量を横で全部受け止めるというのは、やっぱり相当大変なこと。それをミスマッチと表現すべきなのかはありますが、自分が抱く「こんなふうに安定して仕事ができる」というような期待とのミスマッチは相当生まれます。もう生まれる前提でいいと思うんですよ。その中で「ならばどう成果を出していこうか」ということでいいと思います。

期待とのズレをすこしでも減らすための方法、事前にできることとしては、先ほど申し上げたように、入社を決める前に手弁当で手伝いながらその人との相性を見ることや、あとはそもそも、きちんと成長するベンチャーに入れるよう数字を事前に見させていただくということ、市場性などを自分なりにきちんと考えること、そうしたことだと思います。

藤原:なるほどね。

入社後は社員全員と1on1でキャッチアップ

嶺井:あとひとつ。自分がやったのが、業界の人にたくさんヒアリングをさせてもらいました。私はスマホゲーム業界について詳しくなかったんです。当時は、土地勘がまったくなかったので、人づてでグリーなどゲーム会社の方につないでもらい、「実は今、転職を考えているのですが、スマホゲーム業界のこと聞かせてもらえませんか?」と。

市場のリアルな動きって、調査機関のレポートじゃぜんぜんわからないじゃないですか。それぞれがどういった強みを持ち、ユーザーはどういうふうに買っているのか、このトレンドはどうなのかといった観点になると、やっぱり中の人に聞かないとわからないので。それを聞きに行くのは、すごくやってよかったと思うところです。

あと、これはもう入社後ですが、スタートアップであれば、全員と1on1をやらせてもらう。それがすごくいいと思います。投資銀行、監査法人、戦略コンサルファームからスタートアップにやってきた人は、既存メンバーからしたら宇宙人なんです。何を言っているのかわからない。「なんであいつはスーツを着てるんだ?」というような。

藤原:ははは(笑)。

嶺井:「スーツ着てる奴なんて見たことないぞ」という。

(会場笑)

嶺井:「スーツは新卒の入社式のときだけ」なんて言いますからね。スタートアップはエンジニアの方や、マーケッター、デザイナーの方が意外と多いんですよね。IT系の会社であればなお多いし、例えば営業系の会社であったら、またそれはそれでぜんぜん違う人種の集まりですから。

ですから、みなさんが何を考えているのか、自分がどういった貢献を社内でしていこうと思っているのかということを、なるべく早く伝える。自分自身も会社のこと、メンバーのことを知ることがすごく大事なので、入社して最初の週に、全員と15分ずつでもいいので、面談をさせてもらうといいんじゃないかと思います。

藤原:なるほど、ありがとうございます。平川さんは、いかがですか?

CFOは“一本釣り”で採用するべき

平川秀年氏(以下、平川):そうですね。嶺井さん以上のことはお話しできないので……。

嶺井:いやいや(笑)。

(会場笑)

平川:でもやっぱり実感としては、本当にミスマッチしかないという(笑)。

藤原:そうしたもんだと思って入ったら、免疫になるよということですね。

平川:そうですね。あとはやっぱり、ミスマッチが起こったところをどうマッチさせていくかということが腕の見せどころ。プラスに、ポジティブに考えるしかない。そもそも「ポジティブ思考じゃなかったらベンチャーにいちゃダメです」という話ですよね。

藤原:宮地さんはどうですか?

宮地俊充氏(以下、宮地):もう、お2人と(同じです)。

藤原:ははは(笑)。ちなみに今、CFOはどうやって採用するのが一番いいんでしょうね?

宮地:それは、いい質問ですね。

藤原:ビズリーチなのか、Wantedlyなのか……Wantedlyということはないか。「どういうパスが一番いいんですか?」というご質問が来ています。

嶺井:やっぱり、(平川さんが)ご登録もされているのでビズリーチがいいんじゃないですか(笑)。

(会場笑)

嶺井:実際にビズリーチがいい人材がいると聞きますね。はい。

平川:もし自分が社長であったり経営者だと考えれば、CFOはやっぱり一本釣りしたほうがいいですね。もう「この人だ」とめがけて行くしかない。そこにどれだけ労力を使えるか。

藤原:「この人」をどうやって見つけたらいいんですか? こうしたところ(セミナー)に来るというのもあると思うんですが。

平川:そうですね、こういうイベントで話したような評判を聞くなど、そういったところで本当に一本釣りをしに行かないと、待っていてもいい人材が来るわけでもなく、確率論でしかありませんから。

宮地:そこは「この投資銀行のこの人」というようなのが、バイネームで行き交っているようです。それと、お2人のように1回上場させた方も、バイネームで行き交っているといった感覚です。

藤原:なるほど。みなさんを雇うこともできるんですか?(笑)

嶺井:おもしろい会社であれば……。

(会場笑)

なかなか上場しそうにない時、どう見切りをつければいいのか

藤原:そうですね、ありがとうございます。では最後に、宮地さんが何か質問されたいということでしたね。

宮地:そうですね。「いい会社で、市場もいいし、社長もいい」と思い、数字も見て「これはいい」と思って入ったとします。N-3(注:IPO直前々々期)から入って、永遠のN-2(注:IPO直前々期)という問題があるんですが……。

(会場笑)

藤原:ありますね(笑)。

宮地:そうなったときに、どこで見切りをつけるのがいいのかお聞きしたいのです。どこまで粘ったらいいものなんですかね?

藤原:それとすごく似たコメントが会場から来ていて、「入って失敗したと思っているCFOだけを集めた会をやりましょう」という提案が来ているんですが(笑)。

(会場笑)

宮地:それ、なかなかいいですね(笑)。

藤原:全員失敗だと自覚している(笑)。おもしろいはおもしろいのですが。

宮地:どこまでいっても上場したか、しないかという結果が明確に出ちゃうので。

藤原:そうですね、M&Aというのもありますが。

宮地:そうですよね。でもM&Aの場合は、ほぼ株を持っていないから身入りもないですし。やっぱり、「上場した会社のCFO」になれたか、なれなかったかで落差が半端ない。だから、どこで見切りをつければいいのか、お2人に聞きたいと(笑)。

藤原:これは、見切りをつけたことが、でも、ない……。

宮地:ないですよね。

藤原:どうなっていたら辞めていたな、というような想定でもいいですか?

宮地:それか、お知り合いがいっぱいいるので……。

藤原:あぁ〜、どこまで引っ張れば、こうしたふうにやるだろうと?

宮地:逆に、定年まで勤め上げるというのもひとつの選択肢じゃないですか。

藤原:まぁ、まぁ、まぁ……。

(会場笑)

藤原:(多くのCFOは)そうはされない人たちだから。

「N-2期が3回来たら辞めていたかもしれない」

藤原:平川さんからいきますか? もし自分であったら、こうなっていたら辞めていたかもしれないと。

平川:そうですね……。たぶんN-2が2回であったら辞めていたかもしれませんね。

藤原:N-2が?

平川:N-2が2回。

宮地:かなり早いですね(笑)。

(会場笑)

平川:もしN-2が3回目も来たら……。

藤原:3回目が来たら。だから、「N-2だぜ」と言って準備を始めて……。

平川:「N-2だぜ」「N-2だぜ」で(笑)。

宮地:3回目だ。

藤原:3回目でN-2であったら辞める?

平川:そうですね、確か今、新日本監査法人がそのルールで監査を切っているという話だと思うので。

藤原:切っているんですか。

宮地:なるほどね。

平川:ということは……(笑)。

藤原:何かしらあるんだろうと。

平川:プロたちが集まっているから。

宮地:そのルールに従えばいいと。

(会場笑)

平川:プロたちが見切りをつけたルールなので、プロの方程式に従おうという。

藤原:ご自身的にはすんなり行った感じですか?

平川:すんなりでしたね。上場申請スケジュールが1ミリもずれませんでした。

藤原:あ〜、すごいですね。だいたいダメになるときは業績未達じゃないですか。内部統制や、仕組み、組織といったものは、別に作りゃいいという話ですが、ダメになるのは、やっぱり業績未達が一番多いと思うんですよね。結局は。

そこはかなり運というか、市場環境もあるし、なかなかご自身だけの力では難しい部分でもあるところなので、もしも2回訪れたらというように、なにかルールを作っておくのは、プログラマティックに意思決定ができていいだろうという気が自分もしました。

“自分の信じるチャレンジ”ができる環境に身を置く

藤原:嶺井さん、最後に締めていただきたいのですが。

嶺井:え〜っ、なんだろう。難しいですね。どこで次に向かうかということですが、例えば人によって何をストレスと感じるかということは違うじゃないですか。別にN-2を繰り返しても、そうした状態が好きな人もいるので。

藤原:まぁ、確かに。

嶺井:いや、N-2が好きな人はいませんよ(笑)。

(会場笑)

嶺井:IPO実務が好きな人もいますから。例えば、その会社の成長を信じ続けられなくなったら辞めるんだと思うんですよね。それが1年だろうが、10年だろうが……。

藤原:10年も成長しないというのはかなりキツいですよね。

嶺井:結果としては成長してはいないんだけど、「いや、来年こそは自分で成長させられる、俺が中心になって」かもしれないし、「あの事業部長ががんばってくれているから、必ずいけるはず」と信じ続けられるなら、たとえ10年間ステーブルであったとしてもいいんだと思うんですよ。その人は、自分の信じたチャレンジをしているわけなので。

信じられなくなったのにやっていると、それは自分にも、仲間の経営者にも、経営陣にも、部下にも嘘をついていることになるんで、そのときは辞める、もしくは自分が信じられるストーリーを自分自身で作るかのどちらかなんだと思います。

藤原:あぁ〜、経営者だからそうやって義務を果たすということですよね。

嶺井:はい。意外とまたまたこれ、事例の話ですが。すこし具体名で出すと、スタートアップのCFOを辞められたあと、意外といいキャリアを歩んでいる方は多くいらっしゃるんですね。例えばmanaboという教育系の東大初のスタートアップのCFOをされてた角田さん。

角田さんが辞められたあとで、manaboは買収されているんですが、角田さんはmanaboのあと、今はヤプリという大規模な資金調達にも成功された会社のCFOをされていて、CFOのキャリアとしてすごく順調に歩んでいらっしゃいます。

結果論ですが、manaboを辞めて今のチャレンジをしているからうまくいっているということもあると思います。あとは例えばGAさんが買収されたイタンジという不動産テックの会社の元CFOの千葉さんは、イタンジを辞められて、そのあとイタンジさんはM&Aで売却をされているんのですが、千葉さんはVCに転身されて、今ベンチャーキャピタリストとしてすごく活躍されています。

辞めずにチャレンジし続ける、自分が信じられるならそれが一番いいと思うんですが、もし信じられなくなったら次のチャレンジをして、次のステージで活躍する、貢献していくということでもいいと思いますね。

藤原:この質問された方には、そうしたふうに、無理に我慢してずっといなきゃいけないような市場環境でもないというアドバイスですか?

嶺井:そうですね。

「決めといて」と言われ手配した、離職防止ストックオプション

藤原:はい、では一応この辺りで、どうでしょうか。みなさんが聞きたい話が聞けたかどうか。

嶺井:聞けましたか? どうなんでしょう。大丈夫ですか? みなさん。聞けましたか?

藤原:(CFOになって)こういうところがあるのか、(と感じたこと)などがあれば。

平川:そうですね、ストックオプションについては、最初のときは入社前に配っていなくて、僕もそんなに頭の中にありませんでした。いつか配るタイミングが来るんだろうと思っていたぐらいで。

「ストックオプションを配ろうか」というときに、監査法人と税務のスペシャリストのような人が来て言われたのが、「ストックオプションはセンシティブなものだから、社員間でも持ち数がわからないようにしてくれ」ということです。

ゆくゆく上場審査のときに「どういった基準で配りましたか?」ということを聞かれるので、入社年数ポイントと……。

藤原:それは信託型でやられたんですか?

平川:信託型ではありませんでした。通常型と信託型を両方やりまして、通常のところも聞かれましたが、通常のところは入社のときの入社年次順、かつ3段階ポイントで、入社年次、入社後今までの活躍、かつこれからの期待度、というような感じで。

あとはやっぱり、当時考えたのが、離職率がものすごく高かったので、離職防止のためといえば、かなりやっぱりCFOは売上のKPIだけじゃなく、販管費のKPIなども色々と追わなければいけないので、本当に離職率を低くするために薄く配っておこうというような思惑もありました。

そういった意味で、バーッと我々のところは1の部で最大50人まで乗せて、50人以上になると「その他」と書けるんですが、そのギリギリぐらいまでストックオプションを配るかたちで離職を防ぎました。

だから、入社のときの交渉はしませんでしたが、今の会社のときは、入社のときに交渉はしましたね。

藤原:あぁ、入るときにもう「これぐらい」という。

平川:そうですね、「前職のときはこれぐらいもらった。これぐらいの時価総額で、この今の持ち分だから、同じ額をください」と言うと、「いいよ」という感じでしたね。

藤原:そこは「いいよ」で終わったんですか?

平川:そうですね。

藤原:あんまり、「うーん」というようなことはなかった?

平川:なかったですね。

藤原:いいですね、それは。

ここで宣伝なんですが、ケップルアカデミーでもストックオプションの講座をやっています。無償から有償から、さっきチラッとお話が出ましたけれども、信託型もやられていたということですが、信託型も全部網羅するというのをやっていますので、もう終わってしまったのですが、また企画していきますので、ぜひCFOを目指されている方や、ストックオプションを設計したり、もらいたい、交渉したいという方はご参加いただければいいと思っております。

これはぜんぜんカットしなくていいです。

(会場笑)

宮地:突然その話だけポコッと……。

藤原:急に来るという。

嶺井:なぜか宣伝がボコッと来る(笑)。

藤原:では、だいぶ押してしまったので、今日はここで終わりたいと思います。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

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