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第5部 分科会「クラウドファンディングを通じた社会変革」(全4記事)

投資家は「数字にできない価値」をどう測るか? 新規事業・クラウドファンディングの実現性の見極め方

経営に関する「ヒト」・「カネ」・「チエ」の生態系を創り、社会の創造と変革を行う株式会社グロービス。グロービスが主催する「あすか会議2019」では、テクノロジーや宇宙、地政学、ダイバーシティなどのさまざまな分野の有識者らが集い、日本の未来のあるべき姿と、その実現にむけて一人ひとりがどう行動していくべきかをとことん考えます。本パートでは、「クラウドファンディングを通じた社会変革」をテーマに、株式会社、財団、NPOのそれぞれの法人格の違いや、お金の集め方の変遷について意見を交わしました。本パートでは、参加者たちの質問を通して、やり切れるチームかどうかを判断する基準などについて語りました。

事業をやり切れるチームに共通する3つのポイント

杉山文野氏(以下、杉山):では、2つ目の質問(やり切れるチームかどうかの実感や特徴)を青柳さんに。

青柳光昌氏(以下、青柳):いくつかあるんですが、今考えて、まぁ3つぐらいかと思うのは……みなさんはグロービスで学んでいらっしゃるので「当たり前だろ」と思われるかもしれませんが、一番大事なのはやっぱり「ビジョンがちゃんとあって、ブレていないこと」ですよね。これは別にビジネスでも、こうした社会問題解決事業でも、当たり前ですよね。どちらもそうなんですが、ビジョンがあって、ブレていないこと。

2番目は、先ほど「事業計画はどうとでもなりますよね」というお話をしましたが、ビジョンとちゃんと整合する、それを達成するための事業計画を作れているかどうかが、意外とできているようでできていなくて。夢物語を書いちゃったり。社会事業をやろうとする場合はかなり多かったりするんですよね。

だから、本当にこのビジョンを達成するために、そこに行く道筋がちゃんとある事業計画になっていますか、と。リアルにちゃんと考えていることが大事なのです。それが2番目ですよね。あまり整合が取れていないことがかなり多いんですよね。

あと、本当によく調べていなくて、例えば「障がい者を雇用するような事業を始めます」とあったとしても、本当にその障がい者の雇用制度をどこまで勉強しているのか。本当にそういう人たちをどれだけ雇い入れることができるのか、そうした人たちをどうやって集めるのか、その人たちの収容環境をどうするのか、といったことを……当然、初めてやるから経験がないのは仕方ないんですが。

当然、今のようなテーマはすごく先例があるわけですから、先例をきちんと調べていらっしゃるかということも(あります)。そんなに調べないまま事業計画を作っちゃう人たちが多いので、当たり前ですが「よく勉強しているかどうか」ということですよね。

一方で、あまりにも勉強しすぎて大事になりすぎてもダメなんです(笑)。3点目は、本当に「クイックに始めること」も、同時に大事だということですよね。ちゃんと勉強しつつも、まずはちっちゃいところから始めてみるということです。当然それでうまくいかないこともあると思うので、そこをちゃんと修正できる「修正力」があるかどうかだと思いますので。

ビジョンがしっかりあってブレない、そのブレないものにどうしていくかというところの具体的かつリアルな計画があって、すぐに試して修正できる人かどうか、お話を聞きながら判断していくというところじゃないかと思いました。

クリエイティブ分野のクラウドファンディングは、寄付型・購入型がおすすめ

杉山:はい、ありがとうございます。では、3つ目の質問にあった「クリエイティブ分野のクラウドファンディングに関して」は、大吾さんでいいですか?

佐藤大吾氏(以下、佐藤):はい。実はほとんど例がないんですよ。まず、日本の映画界はおかしいと思うんですが、製作委員会というものがかなり幅を利かせていますから。だいたい法人がお金を出し合って、書籍化するためには出版社がお金を出して、インターネットはどこそこの会社がやって、アニメキャラクターを作るのはこの会社が出して……というように。全部、役割分担を独占するために、その会社がお金をちょっとずつ出し合って「もう集まっちゃいました」と。個人が関与する場面はほぼありません。

そこにクラウドファンディングがちょっと端緒を開いたのは、購入型。寄付というよりは購入型が多いんですが、「エンドロールに名前が載りますよ」、もしかしたら「一部出演できますよ」というようなことを売りにしながら、返す必要のないお金を集めた。そういうことは、いくつかもう事例は出ていますね。

ですから、僕のオススメとしては、寄付型や購入型クラウドファンディングは、いつもやればいいと思っているんですよ。常にやればいいと思っています。そこで、投資型クラウドファンディングをやるかどうか。あるいはいろんな投資家さんにお金を「出してよ」とお願いするかどうか。もうひとつはお金を「貸してよ」と。返すからという、要は借金するかどうかだという。

この投資と融資については、相当慎重に判断しないといけません。やっぱりかなり重たい話になるので。僕としては、寄付型と購入型は絶対やったほうがいいと思うのです。「いつもやれ」と思っていますが、まずそうした大きな違いがあるんですよ。

それで国内で言うとまず、投資型クラウドファンディングのプラットフォーマーが少ないんですね。まだ数社しかないんですよ。融資型のクラウドファンディングでも20社ぐらいしかありませんので、しかも今1社ずつ減っていっているんですね。ですから投資型の、エクイティ型のクラウドファンディングをやっているところはもう本当にちょっとしかないので、そこを調べていただければ事例はあっという間に見つかります。

僕が知っているものではソニーさんが始めた、映画のお金を4,000万円集めますよ、というもの。今いくら集まっているのかがわかりませんが、一応「投資型で集めます」という発表をされたのは聞いています。ただ今どうなっているのかな、というような。2019年の6月末からやるとおっしゃっていたんで、どうなったかまた後で見てみてください。

人の信用などの数字では測れない価値をどう見分けるか

杉山:ありがとうございます。ではまた3つほど、ご質問を受けたいと思います。

(会場挙手)

ではもう先着で。最初にいきましょう。

質問者4:これまでお金に信用がついてくるような時代は、決算書や事業計画のようなものが重視されたと思うんですが。今のお話を聞いて、信用にお金や融資のようなものがついてくる時代においては、どういったかたちでそこを評価していったり、そこの情報をシェアしたり、またそこをジャッジできる人材を育てていくのか。

財務諸表では「どんなやつがバスに乗っているのか」が資産価値になったりというように、かたちでは見えてこないけれども、そこをさっきの「やり遂げられるか」「どんな人がいるか」というようなことが重要なところであれば、仕組みの中に落として、評価として……「適切な」と言うと語弊があるかもしれませんが。

実際に「この人たちにはお金を集める価値があるね」「この人はあんまりないね」というところをうまく見分けていったり、ふるいにかけていく仕組みは、これからどうなっていきそうなのか。みなさんのビジョンと言いますか、どのような姿が見えているのかを教えてください。お願いします。

資金調達を支援するプラットフォーマーへの疑問

杉山:では、はい。

質問者5:この話題が中国でも100兆円程度の規模になっておりまして、その中で佐藤さんに突っ込んだ質問といいますか、いくつかお聞きしたい。

まず1つは、寄付にしても投資にしても、要するにお金を出す側の情報がプラットフォームの提供する情報に依存するといいますか。そのプラットフォーマーが、情報や中身を検証するというか……お金が絡む話なので、金を集めることが目的になっちゃって、プラットフォーマーにVCの知識があるとは限らない部分もあるので、それが1つ。

もう1つ、例えば株やFXもそうですが、調達した金が第三者機関に預けられるという法律があるんです。このクラウドファンディングの場合は、日本ではどうなっているのかどうかわかりませんが、その金がプラットフォーマーのところにいきます。そのプラットフォーマーもとにかく「儲かろうぜ」と。それで、ある日突然消えました。そうした状況を防ぐような仕組みが日本にあるのかどうかについてお聞きしたいです。

クラウドファンディングで適切なリターンを設定する方法は?

杉山:はい、ありがとうございます。では3つ目で。

質問者6:私もそこまで詳しくないので基本的な質問になってしまうかもしれませんが、例えば新しいサービスを立ち上げるためにクラウドファンディングを活用したときに、実現性が高いものであれば先行購入型というかたちで出すとは思いますが。

ほとんどの新しいサービスは、もしかしたら実現しないかもしれない。その難度が高いときに、とはいえある程度のリターン……寄付で得られる金額が少ないと思いますから、何かリターンを適切に設定しなければいけないと思うんですが。

質問は2つあって、1つは、そうした実現性の低いもの、難度が高いものに関しては、クラウドファンディングが向いていないのかどうか。もしそれをするとしたらどのようなリターンを設定して、仮に実現しなかった場合に、信頼性を落とさずにどういったバックアップが可能なのかを教えてください。米良さんが一番(お聞きしたいです)。

投資判断は、財務情報と“非財務情報”をセットで検討すべき

杉山:そうですね、はい。では一番最初の仕組みというところで、また青柳さんからよろしいですか?

青柳:非常に重要なポイントのご質問をいただきまして、ありがとうございます。要は「いわゆる非財務情報をどう評価していきますか」というところなので。これはこれで、もう1つ分科会ができるくらい、実はすごく話題が多いところなんですが。

最近ではよく「ESG投資」などと言われるじゃないですか。あれは環境、社会、ガバナンスというところを、最初はネガティブスクリーニングと言って、「環境に悪いことをやっているところは投資先から外しますよ」と。

そうしたところから始まって、今やっているのはポジティブスクリーニングです。より環境にいいことをやっていたり、社会によいことをやっている会社の株は買いましょう、ということになっているんです。そこはそんなに数字に出てこないんですが、やっぱり今は、そこをちゃんと可視化していきましょう、定量的に評価できるものはちゃんと指標を作り、第三者機関にもお願いしながらちゃんと評価していきましょう、ということをやるようになってきています。

これはESG投資よりも、今の私がやっているような「インパクト投資」と言われているもので、その会社や事業の目的として「社会問題解決です」と最初に言っているところ。その事業はもちろん、会社についての非財務情報は、例えば「セオリー評価」と言うんですが、どうやったらその会社なり事業のビジョンが達成されるか、ストーリーがちゃんと描けているかのセオリーを評価します。

そのセオリーはどうやって測るのかというと、今度はその評価項目をちゃんとブレイクダウンして設定していく。「それは誰が測ると客観性があるの」「それはどういう数字を持ってくるの」というので、1個1個細かく全部、短期・中期・長期と設定してくんですね。

それで、それらをガリガリ評価して、訂正情報も含めてなるべく可視化していくと、数字に表れないもう1つの情報が浮かび上がってくる。その財務情報とセットで、ここに投資すべきかどうか、応援すべきかどうかが判断されてくる。

先ほど「経営チームがしっかりしているかどうか」と言ったのは、そういったこともちゃんと自分たちで考えられるか。もしくは最初はなかなか難しいので、そうした専門の外部の人たちと経営チームがちゃんとコミュニケーションを取りながら、今言った非財務情報を「ちゃんと明らかにしていこう」という努力をされるような会社かどうかが、最近はすごく重要なポイントになってきていますね。

投資型クラウドファンディング業界の現状とルール

杉山:ありがとうございます。では2つ目のご質問ですね、大吾さんにお願いします。

佐藤:はい、ありがとうございます。時間がもう間もなくなので、手短にいきます。おっしゃるとおり、まさにそれは重要ですから。「今20数社、投資型のクラウドファンディングがあるんだけど、1社ずつ消えていっています」と申し上げたのは、そこをすごく指導されたからなんです。行政処分を受けまくっているんですよ。それで、全事業者がやられた。そのうち改善するところもあるけれども、消えていくところもあるんです。今、ちょっとずつ減っていっているんですね。

それで、新規参入組で僕はやっとライセンスを取りましたが、もう感覚ですよ? この中に金融庁関係者がいらっしゃるかどうかわかりませんが、軽はずみに言えませんけれども(笑)。

「3人のフィンテックベンチャーのスタートアップです」というような会社は、もうやれません。参入できない。おそらく感覚的に言うと、10人ぐらい。せめて最低10人ぐらい、しかも全員金融出身。証券会社か銀行出身の人が10人ぐらいいないと、もうこの投資型クラウドファンディングの業界には入れない。

さらにもっと言うと、上場していないとダメ。上場企業の子会社ならOK。もうこんな感覚なんですよ。とにかく投資家保護を重要視するので、投資家に迷惑をかけちゃいけないと。そのためにしっかりやれるところは、せめて上場していてよ、というような感覚に今はなっています。上場していなくても、経験者10人ぐらいでしっかりしたやつらがやります、ということになって初めてライセンスが取れるぐらいの感じになっています。これが1つ目。

もう1つは資金を、一番レベルの低い話は、分別管理をします。これはもう全部ルールになっています。融資型のクラウドファンディングはそこまで要求されてはいないのですが、エクイティのクラウドファンディングのほうは「信託しなさい」というルールになっているので、ご心配はありません。

預けたお金を持って逃げられるということもありません。一応ルール上は信託されますから。一応、そこの会社が万が一潰れたとしても、その債権は補償されるというルールにはなっています。

杉山:はい、時間もアレですが、最後に米良ちゃんから3つ目の質問と、最後の最後に宮城さんに一言、総括をいただいて終わりたいと思います(笑)。

プロジェクトを「本当に実現できること」に区切って計画していく

米良はるか氏(以下、米良):(笑)。はい。実現性の部分に関して、「READYFORは」なんですが。プロジェクト掲載にあたって、そのお金が必要な目的を書いていただくのですが、必ず、記載いただいたことを「できるかどうか」という審査はさせていただきます。

例えば「何かを開発しなきゃいけない」というときに、その何かを開発して販売するということが最終ゴールであったときに、おそらくロードマップのようなものが作れると思うんですよね。最初の段階では、プロトタイプの1つ目を作って、30人にテストしてみる。あるいは、海外のショーに持っていく。そうしたかたちで、「プロジェクト単位」で区切っていただくことにしています。

弊社のキュレーターというメンバーが相談に乗らせていただいて、どういった区切り方があるのかというところは相談に乗りながら作っていきます。ですから、「100パーセント実現」と言っているラインが最後はどこなのかというところから、本当に実現できることに区切って計画していくことが大事になるのかなと思います。

それで1個だけ、先ほどのご質問なのですが。かなり日本の、フィンテックベンチャーと言いますか。チームのメンバーが若くて生き生きしていると、お金が集まりやすい(笑)。そういう空気があることによって、やっぱりこう……。我々は購入型・寄付型のクラウドファンディングなので、金融庁の所管のサービスではありませんが、やっぱり「お金を扱っているサービスである」というようには認識されていますから。

私はプラットフォーマーとして、今後、購入型や寄付型のようなところもどんどん、いろいろな「お金を扱っている会社」としてのプレッシャーを受けていくだろうというように思います。

ですから、この周りの中でもどんどん、参入することがすごく難しくなっていくんじゃないかと思っています。それで、別にクラウドファンディングだけではなくて、おそらく、いわゆる産業に対してのテクノロジーによる変革が、今後ベンチャーの中の本丸になってくると思いますから。

「ちょっと小さく始めてみよう」という世界と、(最初から)資金調達をしてチームを作ってプロフェッショナルな人たちが入ってやっていくというような、2つの世界に分かれていくんじゃないかと思うんですが。このクラウドファンディングの世界は、わりと後者にどんどんなっていくんじゃないかと思っています。

杉山:では最後に宮城さん、総括をお願いします!

“成功”を追うよりも、自由な意思決定と行動が大切な時代

宮城治男氏(以下、宮城):はい。2つ言いたいです。1つは先ほどの信用情報の話で言えば、これはプラットフォーマーではなくて、みなさん個人一人ひとりに照らしたときに、信用を高めるために生きていくなんて窮屈じゃないですか。中国じゃありませんが。

私は、「成功」という概念が、例えば「たくさんお金を集めた人が勝ちである」「たくさん従業員を増やして大きな組織を作ることを志向すべきだ」というような時代が、もう終わってきていると思っているんですよ。

つまり、そうした成功を勝ち得たいがために信用を気にして生きる、という人生はすごくつまらないと思っています。むしろ我々は、「自分がどんな意思決定を重ねて生きていきたいか」という哲学のようなものを、自由に持てる時代に生きていると思うんですね。その自由を感じたときに自分が何を選ぶかを、やっぱりこのグロービスで学びながら考えていただきたい。

それを実現するためにお金という手段もあり、それを使うことができる。そして、そうした哲学を持った人のところに、お金もまた集まってくるということなのだろうか、という気がします。

もう1つだけ言いたいのは、「勉強することが増えましたね」ということを申し上げましたけれども、ここにいらっしゃるみなさんも今、お勉強をされていると思うんですが、やっぱり何かしらのアクションを起こしながら学んでいただくと、断然その価値が高まります。

それは「自分で立ち上げる」というものもあるでしょうし、人がやっていることを手伝うこともあるでしょう。プロモート的にどこかに参加するというのもあると思うんですが。ぜひ何かしらの現場を持ち、回しながら、そのリアリティの中で学びを深めていっていただきたいということを申し上げたいと思います。

杉山:はい、ありがとうございます。それでは時間も過ぎてしまったのですが、これで終わりたいと思います。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

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