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パネルディスカッション「ポスト2020のスタートアップ」(全8記事)

家入一真氏「バグが排除される社会は、本当に幸せなのか」 誰かが決めたフレームではなく、自分で決める幸せな在り方

2019年4月8日、DMM.com本社にて「ポスト2020のスタートアップ」が開催されました。U30の起業家・スタートアップのCXOだけを対象に行われたこのイベント。オリンピックイヤーの2020年以後の世界を見据えたこれからのスタートアップ事情について、DMM.comの亀山敬司氏、CAMPFIREの家入一真氏、グロービス・キャピタル・パートナーズの高宮慎一氏の3名が、お金や事業、最近注目している分野の話など、投資家・起業家としての立場からディスカッションを行いました。本記事では、パクられるプロダクトとパクれないプロダクトの違いなどについて語ったパートをお送りします。

バグが排除される社会は本当に幸せなのか

家入一真氏(以下、家入):この前、友人のファッションデザイナーの人から呼び出されて言われたんです。

「家入さん、最近若い子たちはみんな、社会のために何かしたいって言うじゃん。家入さんもよく『社会を良くしたい』って言うよね。それはすごくわかるんだけど、俺らみたいなファッションデザイナーって、地球にとってバグみたいな存在だと思っていて。昔はもっとバグみたいな人間もいたよね」って。

「だけど、社会を良くしたい。地球を良くしたい。SDGsってみんなが言ってるけど、これって地球っていう生命体に俺らが取り込まれてるんじゃない?」と。バグが排除される世界になってきているんじゃないかって言われて、なるほどと思ったんです。

確かに生きる上では、社会が良いほうがいい。差別がないほうがいいし、貧困もないほうがいいし、食べるものに困ることもなくなったほうがいいし、水が普通に飲める世界のほうがいい。

一方で、バグみたいな存在、つまり少し違った視点から社会を見ている人間が排除されていく流れになってないかという言葉に、ハッとさせられた。答えはないんだけど(笑)。

幸せってなんだっけって考えると、今の若い子たちの多くは、SDGsを含めた社会を良くしたいという思いがあって。それは僕も同意だから、すごくぶつかってきてくれる。

確かに、世の中はいまだに理不尽だったり非人道的なことに溢れていて、それを良くしたいという気持ちはあるけど、一方でそれの行き着く先ってどうなっていくのかなということは、すごく考える。幸せはどこにあるのかなんて、僕にはわからないっていうのが結論ですが。

ピラミッドの上のほうが偉いなんて、誰が決めた?

亀山敬司氏(以下、亀山):今の話でいうと、最初に話してた怒りを持ってるような人間がもしここに集まってるとしたら、これはバグなの?

家入:そうですね。

亀山:今日はバグだらけだね。

(一同笑)

家入:バグみたいなもんです。

高宮慎一氏(以下、高宮):マズローのフレームワークにしても、古今東西のあらゆる宗教にしても、高度成長期の金銭的な豊かさの成長にしても、全部世の中とか他人に自分の幸せを決めてもらっていますよね。

自己承認とか、マズローのフレームワークの上に行けば幸せなのか。生きているだけで幸せというほうが、本当は幸せなのかもしれない。バグだからと卑下するんじゃなくて、バグでいいんだと思えることがすごく大事。

僕の個人的な経験に過ぎないのかもしれないけど、圧倒的に受け入れてくれる家族なり友達なりができたときに、「これでいいんだ」と思えた。スタートアップ、ネット業界の友達ができて、貢献できているという感覚になれたとか、どんなしょうもないことをしても嫁が許してくれたとか、そういう体験があると。

亀山:でも、さっきのピラミッドだと、現代のじいちゃんばあちゃんってむちゃくちゃ幸せじゃない? 死ぬかと思ってたら生き残ったし、毎日の飯にも困らないし。

でも俺たちのほとんどは、生まれたときから死ぬ前提で生きてなくて。いきなり100年生きる予定で人生を暮らしてる。だから(マズローの図でいう)下のほうの幸せが当たり前になっちゃってるんだよね。自己満足でいうと、上の自己実現までいかないと受け入れなくなってる。

高宮:でもこれも、「ピラミッドが上だから偉い」って誰かが勝手に決めただけだから。

家入:そう。

小欲は煩悩、大欲は大義

亀山:安全の欲求で自己満足してたら、「は〜、今日も幸せだな〜!」ってなること、普通にあるよね。俺なんか、酒飲みながらわいわいして、もういい年になったおっちゃんの話を聞いてもらえるだけで幸せになってる。

家入:でも引退しないってことは、まだ未練があるってことですよ!

亀山:そういうこと?

家入:起業家は業が深いですね。

亀山:そうだね。

(一同笑)

亀山:でも、引退して山にこもったら、みんな話聞いてくれなくなるんじゃない。だから寂しくて、たまに喋りたいと思うんだよ。昔はなんか言ってんのがかっこ悪いとか思ってたけど、今は喋ってるからね。

家入:やっぱりそうなるのかな。

高宮:一方で面白い話があって。松山大耕さんっていうお坊さんに、起業家の集まりで「金が欲しい、有名になりたい、上場したいっていう煩悩だらけなんです、この煩悩をどうしたらいいですか」って聞いたら「小欲は煩悩だけど、大欲は大義なんだ」と。

家入:それはいいですね。

高宮:すごくいいなと思ってて。「世の中を良くしたい」「SDGsだ」「世界平和」っていう自分の煩悩も、大欲になれば煩悩じゃない。自分がどれだけ大きな目線で考えるか。

パクられるものは、そもそもパクれるレベルのものでしかない

冨田阿里氏(以下、冨田):そんな亀山さんに「Sli.do」でいろいろ質問をいただいているので、みなさんも見ていただいて、良さげな質問にいいねしてもらって、いいねが多いやつから順番に聞けたらと思います。あとは、会場で直接手を挙げていただいた人からもお受けします。

じゃあそろそろ質問に入りたいと思います。(スライドを指して)ここに上がっていないけどこれだけは聞きたい、という方は手を挙げてくださいね。

ではさっそく、一番多かったものから。「亀山さんに投資のピッチをしたいのですが、DMMさんに圧倒的な資本を投下されてパクられてしまったら終わりなので、ピッチすべきか悩んでいます」。

亀山:そんなものはすぐパクるよ。

(一同笑)

亀山:いやいや。よく「プレゼンしたいんですけど、その前に守秘義務契約を結んでください」って言うやつがいるんだけど、パクられるようなもの持ってきたらパクるから(笑)。

家入:そうだよね。パクられる前提というと変だけど、パクられるものって、パクられるぐらいのレベルでしかないということだと僕は思いますね。

亀山:だから、「ここまでは自分たちでやったし、これからは自分たちだからできますよ」って言えるようになってから持って来ればいい。パクるのも大変なんだよ。だから1年2年やって、力をつけてきたやつらが来たらパクれないよ。

でも実際問題、今うちが注目している中で、パクろうと思えばパクれるサイトはいっぱいあるわけ。そんな時は先行者に買収の声をかけにいく時もあるよね。「ちょっと売ってくれない?」って。で、断られたらパクるって話になったりすることもある。英会話やオンラインサロンがそうだよね。

家入:えぐいな。

亀山:いやいや(笑)。でも、中にはアイディアだけ持っていって、何もやってませんって言う会社もあるけど、アイデアだけでは買う気にもやる気にもならない。

(一同笑)

弱者の戦略で、強者の片足を穴に落とすには?

亀山:でもさ、俺にプレゼンしなくても、よくIVS(Infinity Ventures Summit)とかICCサミットとかでみんな発表してるじゃない。

家入:それですよ。

亀山:あんなもん、はっきり言って発表したらパクられるの覚悟でやらなきゃ。みんな、動画とかで見てるからね。News Picksでもメイクマネーって番組やってるじゃない。あれも面白いけど、危険だから。

家入:そうなんですよ、参入障壁がどんどん下がってるから。さっき言った退職代行サービスも、パクりがめっちゃ出てるんです。出てるけど、お客さんとかメディアはその起業家のストーリーを取り上げるから、ただパクったものとそうじゃないものは、けっこう見抜かれるようになってきてる。

亀山:うん。

家入:もう1つ、僕、ランチェスター戦略でしこたま教え込まれて、いまだに残ってるんですね。知らない方は検索したり、本もいっぱいあるので調べてください。

強者の戦略と弱者の戦略があって、例えば、楽天みたいな強者がいるときに、BASEとか、メルカリとかフリルみたいな、ニッチなところでめっちゃ戦ってこようとするありんこみたいなやつがいる。強者の戦略はそいつらを片っ端から踏みつぶす、真似して潰すという方法。

弱者の戦略は、強者に気づかれないように、もしくは強者がそんな小さなニッチな領域なんてぜんぜん魅力的じゃないよって思っているところで、めっちゃ深掘って深掘って、強者という象の片足だけでもすっころぶような穴を掘る。

僕らはありんこなので、ありんこの戦略を取らなきゃいけない。ありんこの戦略は、ニッチなところを突く。亀山さんにピッチしても、DMMがパクるほどの魅力はない、でも「君、ちょっと面白いね」って投資してもらう。そういうニッチなところをすっごい掘る。

「それ、俺らもやれるじゃん」って思われたら、大資本を投下されてパクられちゃうわけです。だから、僕らはありんこだということを認識して、ありの戦い方をしなきゃいけない。象の片足しか落ちないくらいの小さい穴だけど、めっちゃ深い穴を掘らなきゃいけない、って考えたほうがいいということです。

競争優位性と強みの違い

高宮:ベンチャー投資でいうと、よく「強みは優秀なエンジニアがいることです」って言ったりします。それも強みだけど、大資本が札束でしばいたら、もっと優秀なエンジニアがもっといっぱい来ちゃう。競争優位性と強みは違うんです。

競争優位性は、一定時間守り切れるとか、競合にできない自社ならではの強み。そこがなくて、お金の力だけで解決する戦い方では、ベンチャーは勝てない。それをやっちゃいかんということです。

亀山:俺はよくパクるって言ってるけど、パクるより先に買収にいくから。パクれないことはないけど、実績とか、先にやってきたこととか、自分で考えて動ける人のほうがほしいわけ。

どっちかというと、最速で一緒にやろうぜって気持ちのほうが強いから。そのときにあんまりふっかけられるとちょっと悩んじゃうかもしれないけど。

でも、たぶん俺だけじゃなくて、他の企業もみんなそんな感じで動いてるし、DMMはむしろ先頭切ってやってくれる人材が欲しい。さっきの家ちゃんの話みたいな、ちょっと反社的発想じゃないけど、情熱を持ってる人。

「俺はこれをやるんだ!」というところ込みで欲しいから、コソコソやるならコソコソやって、力をつけてから来てくれたら一番いいかな。

年齢によって守るべきものは変わってくるという現実

冨田:ありがとうございます。次の質問です。「25歳以下、30歳以下を集中的に応援する理由は、純粋に若手を応援したいからですか? それとも35歳以上は柔軟性がないというような、経営者の資質に関する問題はありますか?」。どうでしょう。

家入:これ、僕は明確に理由があります。別に50歳でも60歳でも戦うべきだと僕は思うし、起業しちゃだめだと言うつもりもない。だけど、転んだときのダメージがいかに小さいかが、けっこう大事だと思ってるんです。

最近だと10代の起業家も出てきたけど、守るべきものを守りながらどう戦うかを考えたとき、10代、20代前半、20代中盤、20代後半、30代前半と、守るべきものがどんどん増えていくんですよ。

35歳くらいだと、結婚してたり、子どもがいたりする。だから戦うべきじゃないって言うつもりはない。だけど、守るべき人を守りながらどう戦うかって考えたとき、結婚してようが関係ないからお前起業しろ、なんて言えないじゃん。

起業してだめだったらYouTuberとか夢で生きていく、好きなことで生きていく、というのがあったでしょ。トラック運転手だったけど、辞めてYouTuberになりました、視聴回数30、しかも家族がいます、みたいなやつ。つらくないですか? 好きですよ、そのぶっこんだ感じ。でも前提として、守るべきものを守りながらどう戦うかなんです。

それぞれの年齢によって守るべきものが変わってくるから、取れるリスクも戦略も変わってくる。若いほうが、転んだときにかすり傷で済むことが多い。

冨田:はい、次行きます。 CASH撤退では「敗軍の将は語らず」とおっしゃっていましたが、聞かせてください。

亀山:語らないんだから、語らないよ。はい次。

(一同笑)

冨田:はい、ありがとうございます(笑)。

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