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Session3 M&A成功戦略 ~失敗しないスタートアップ買収~(全3記事)

M&A先の企業に、どこまで「経営の独立性」を持たせるか 失敗しないスタートアップの買収戦略

2018年12月17日~19日、石川県立音楽堂にて「Infinity Ventures Summit 2018 Winter Kanazawa」が開催されました。18日のセッション「M&A成功戦略 ~失敗しないスタートアップ買収~」には、グリー株式会社 田中良和氏、株式会社じげん 平尾丈氏、XTech株式会社 西條晋一氏、dely株式会社 堀江裕介氏が登壇。ヤフー株式会社 田中祐介氏をモデレーターに、加速するスタートアップの買収事情について語り合いました。本記事では、M&A先の企業に「経営の独立性をいかにして持たせるか」について語ったエピソードを中心にお送りします。

経営の独立性や文化を、どれだけグリー色にするのか

田中祐介氏(以下、田中祐介):グリーの良和さんに聞きたいと思います。海外のMAも含めて、3桁億円規模のものを複数やられてらっしゃるかと思います。

PMIの質問でいうと、経営の独立性や文化といったところをどれだけグリー色にするのかだとかしないのかだとか、非常に大きな意味合いにおいて子会社企業に対してどういったマネジメントをされてきたりだとか、それでよかったこと、逆に課題だったこと、なにか学びになることがあれば教えてください。

田中良和氏(以下、田中良和):そうですね。ちょうど今、メルカリのイギリスが撤退して10億円損失が出たというニュースがありました。けれども、私はアメリカだけで300億円から400億円くらい損していますので、まだまだだなと思っています(笑)。

それは冗談としておいて、海外のM&Aをやっていくなかで、すごく自分としては勉強になりましたし、これから取り返していかないといけないなと思っています。それと、日本の会社というだけでそもそも相当不利なところがあるなと、やってみて感じたのは事実ですね。

例えば、アメリカだと、報酬を株でボーナスみたいに払うというのが日常的なんですが、日本の会社で株をボーナスみたいにどんどんもらえる会社というのはないわけです。そういう仕組みをアメリカで作ろうと思ったら、その当時、うちの野村証券が主幹事で、野村証券になにか口座を作らないとという話になりまして。

いちいちアメリカで人を採用するたびに「野村証券の日本の口座を開いてくれ」みたいな話をしないといけないという会議をして、そういうこと一つとっても強烈に不利だなと思いました。ぜんぜん他意はないですが……フィリピンの時価総額1兆円でナンバー1のネット金融があって、仮に日本に進出してきたとして、「ストックオプションがもらえるんだけど、フィリピンの証券会社に口座を作ってくれ」と言われたら、一瞬「え?」って思いますよね?

なので、そういうのを上回るようなメリットがないと、難しいんだなと思いましたし、どういうメリットを創出して、M&Aしていけばいいのかを考えさせられました。

最終的に依拠するのは「経営陣を信用できるのか」

田中良和:国内についてはいろいろやっていくなかで、僕らも成功も失敗もあるので、一概には言えないんですけが、やっぱり事業なので、M&Aした後にピボットしていくというか、変化しながら正解を見つけていく場合って、やっぱり多いと思うんですよね。そのときに「経営陣の人たちを信用できるのか」というところに、最終的に依拠するなと感じるところがあります。

自分としてやってみて思ったのは、M&Aはどんな契約を結ぼうが、契約は完璧じゃないわけだし、そもそも契約を守るつもりがない人たちというのもいるんです。

そういう人たちとどんな契約を結んだところである意味、意味がないというか。合法の範囲内でも、読み方でいろいろできてしまいます。そういった意味で、M&Aした会社の経営陣、社長の誠実性というものに依拠していかないと、やっぱりいろいろなことを任せられません。やっぱりそういう部分は、任せていく経営としては重要だなと思っています。今は任せていけると思った子会社に関しては、どんどんその会社の経営陣に任せていくというスタイルでやっています。

逆に任せられないというか、そこまで信頼関係が充実していない、もしくは若干違うなと思う案件でも、いい案件というのはあると思うんです。そういうときはさっきの仕組みの話をしたように、IPが残るかどうかというのは、経営陣とはまた分離された議論になります。そういったところがちゃんと担保されている会社や事業というのは、そのあとうまく続いていくのかなと思っています。

田中祐介:はい。ありがとうございます。勉強になりますね。ボトムラインだから人がいなくなっても価値のある会社を買おうと。よければさらに誠実な経営者がいる会社を買えると、さらに任せられるしよいと。そういうことでしょうか?

田中良和:そうですね! さまざまな苦難の結果、そう思ってますね!

買収したエキサイトをどう育てていくのか

田中祐介:なるほど。非常に勉強になりますね。次は西條さんに質問させていただきます。まさにこれからエキサイトという会社を、PMIというか自ら代表になられてやっていかれると思います。当然TOBされた価格よりも会社の価値を上げていこうという思いのもと、スタートを切られると思います。どんなPMIを考えてらっしゃるのか、どんなビジョンをもってらっしゃるのか、差し支えないところでお話しいただけたらなと思います。

西條晋一氏(以下、西條):はい。エキサイトは上場していまして、我々が100パーセント取得したので、先月末で上場廃止になりました。エキサイトって、僕もしばらくの間、忘れていたんですよね。2000年から2000年半ばくらいまでは、まあまあ輝いていて、途中でジャスダックに上場して、ピーク時は売上100億円越えていた感じです。直近どうなっているかは、まったく見ていなかったんですよね。伊藤忠からこの相談を受けたときに、久々に決算説明資料を見たら、まず売上が63億円もあるのに驚きました。

いわゆるポータルとしてのエキサイトというのは、あんまりたぶんみんな使っていなくて、ほとんどがSEO的にリンクから飛んできて見ていました。「63億円も売上あるんだ!」と思ってBSを見たら、キャッシュも35億円あって、有価証券も8億円くらい持っていて、これけっこういいよなと。今回従業員にも秘密裏に進めたので、実際TOBのことを知りながら対応してくれた人って、2~3人しかいないんです。

自分がコンサルの体で、ちょっと事業部長に会わせてくれみたいな感じで、TOBということではなくて、コンサルとして事業の状況を聞きに行ったんです。けっこう社員の方も、いい人が多かったんですよ。エンジニアは落ち着いた感じで、技術力ある人が多かったですし、毎年、たった8人ではあるんですけれど、新卒もとり続けてはいるので、けっこう若くてやる気のある人もいました。外から見る印象からすると、すごく人材もよいというところ。

歪みを生む急変ではなく、まずは慣らし運転から

西條:あと、経営陣が途中から伊藤忠商事から送られてきたので、上の人が変わることに対して、たぶんそんなに抵抗ないだろうなという。実際にTOBの発表の日に、僕もエキサイト本社に駆けつけました。社長をやっていた手塚さんが突然「みんな集まって!」みたいな感じで、フロアにドーンって社員が集まってきて、「本日TOBされました!」みたいな発表の後に、僕が出て行って挨拶をしました。ちょっと寒い感じだったんですけど。

みんな「そもそもTOBってなんだっけ?」という表情だったんですけど、徐々に彼らもなにが起こったかがわかってきて、けっこうポジティブなメッセージを言ってもらったりとか、当日たまたま飲み会だった人はTOBコールで飲んでいたりとか、わりと暖かく迎えてくれたなと……。

田中祐介:TOBコールですか?

(会場笑)

西條:なんか言ってましたね!「TOBコールで飲まされた!」と……。たぶんほとんどの人がポジティブな反応で、もしかしたら一部不安に感じてる人がいると思います。とりあえず既存事業をよくするというのをやりつつ、徐々に新規事業をやっていこうと思っています。M&Aをアドバイスしてくれた銀行とか証券会社の人に、PMIについて聞いてみたんですね。彼らも何百件とディールをやっていますので、その後どうなったかみたいなのも一応見ています。

やっぱり急激になにかを変えようとしたケースというのは、うまくいかなかったことが多いと言ってました。まずは慣らし運転じゃないですけど、ちょっとずつ変えていって、徐々にやっていこうかなと。どうですか?

再上場を目指すエキサイトの戦略

西條:例えば、楽天とかって、けっこう役員ドーンって入れ替えて、送り込んだりするじゃないですか。どんな感じでやっているんですか?

平尾丈氏(以下、平尾):ケースバイケースですね。さっきのJT新貝さんの「M&Aは有事である」という感じになって、既存事業からリソースを出すケースと、M&Aしてから人を採るケース、両方あります。やっぱり後者だと追いつかないので、どうしても既存事業からリソースを出さなければいけないとなると、やっぱり既存事業側からの反発であったりとか、事業部長もいっぱいいるので、そこからなぜ出さなければいけないかだったり。

全体のアロケーションを考えなければいけないので、全部が全部というのは難しいです。PMI責任者に何人持っていけば大丈夫かというのを、しっかりプレゼンしてもらいながら、「これでいけるのか」とか、「いや、もっとエンジニアやマーケッターを入れなきゃいけないんじゃないか?」とか、数十人の会社に10人くらい送り込んで、その群で巻き込んでいくというのをやりますね。ただ執行側の方が残っていただけるケースもあるので、その場合にはサポーターみたいなかたちで数人であったり、1人2人の補助のときもあります。これもケースバイケースですね。

西條:なるほど。ありがとうございました。エキサイトに関しては、再上場を目指してまして……。

田中祐介:西條だけに再上場?

西條:西條で再上場なんですけど(笑)。

(会場笑)

田中祐介:すみません(笑)。

西條:IVS道場の1回目で、平尾丈も。

平尾:5丈イズジョウジョウ。

西條:とか言ってたんで、僕は再上場で行こうと思ってるんですけど……。

平尾:ここ笑うところですね。皆さん(笑)。

田中祐介:はい。しんとしてますね。

(会場笑)

西條:現在100パーセント保有なんですけど、資本政策をこれからやっていくので、一応ストックオプションとかもこれから発行していこうかなと。インセンティブがPMIでどれくらい有効なのかというのが正直よくわからないんですけど、ある程度そこもしっかりやっていこうかなとは考えています。

田中祐介:はい。ありがとうございます。エキサイトを調べたら1997年の創業ということで、日本のインターネット業界においても、老舗の会社。これを西條さんが代表として、改めて再上場を目指すということを、非常に期待したいと思います。

100億円規模でもきっちり経営責任を果たせるように

田中祐介:あと時間が5分くらいになりました。スタートアップの経営者の方も、ここに多くいらっしゃるかと思います。スピーカーのみなさんから一言ずつ、これから成長していかれるスタートアップの経営者に対して、M&Aという選択肢もあるよというなかで、なにかアドバイスとかメッセージがあったら一言ずついただけたらと思います。堀江さんから、お願いします。

堀江裕介氏(以下、堀江):自分はいくつか責任があると思っています。1個は、大型の調達を直近の数年でやっているというのと、半分M&Aみたいな新しいかたちをつくっていて、100億円くらい動いているので、若い経営者でもこの規模できっちりと経営責任を果たすということが、このマーケットにおいて一番、僕が果たせる役割だと思っています。ここをしっかりやらねばと思っています。

それで成功事例をどんどん作っていくので、みなさんも若い方でも、ヤフーでもじげんさんでもグリーでも西條さんのところでも買い手が出てきているので、ぜひ「もっと大きい夢見たい!」とか、「もう一回やりたい!」みたいな人がいたら、ぜひお声かけいただければと思います。ありがとうございました。

田中祐介:はい。ありがとうございます。

(会場拍手)

M&Aのもっといい事例を作っていきたい

田中祐介:平尾さん、お願いします。

平尾:そうですね。僕から2つあります。1つはさっきも申し上げたように、世界中が経営資源になりうる時代だと思っています。そのなかで、ヒト・モノ・カネ・情報というのは、1つに集まっている必要がないんじゃないかというのは、今の働き方改革。人の面ではもうなりがちですし、もうなっていかざるを得ない。これまでと同じ経営スタイルが非常に大変な時代になってきたなと思います。

一方で物であったりとか、お金に関しても、もうちょっと流動性が高まってくるのではないかなと思っています。経営資源に関しても、分散及び統合が広がっていくと、もっと違う世の中であったりとか、冒頭のポスト資本主義みたいな話のように、やっぱり自分たちも時間を買うM&Aと呼んでいる、時間経済と今の資本主義の連動性だったりとか。

「もっとこういうところにこういう人がいたら伸びるのにな」だったり、「こういうプロダクトだったら、うちはもっと強いのにな! でも時間がかかるから……」みたいなタイミングって、よくあると思うんですよね。この辺が解決してくると、やっぱり社会の問題と企業の活動のリンクがもっと強くなっていって、世の中がよくなっていくんじゃないかなと思っています。「もっとM&Aのいい事例を作っていきたいな」というのが1点です。

2つ目は、我々はしっかり事業家集団としてコミットしていくタイプでございます。今後のエグジットについて悩まれている方は、明日の夜までおりますのでお声がけいただければと思います。よろしくお願いします。ありがとうございました。

(会場拍手)

「俺だったらこうする!」と情熱をぶつけられるか

田中祐介:ありがとうございました。はい。良和さん、お願いいたします。

田中良和:そうですね。僕らも引き続き、M&Aと投資を行っていきたいと思っています。今は、ゲーム関係とVtuber関係と、バーティカルメディアとか広告関係の会社に、主に投資・出資しています。そのなかで、スマートニュースという会社に、グリーとして出資させていただいております。そこの取締役会にアドバイザリー……。

堀江:寝てます!

田中良和:寝てますか? しょうがない。それは疲れてるんです(笑)。

(会場笑)

取締役会でいろいろ話す機会があって、僕も勉強になっています。当たり前ですけど、僕も毎日事業をやっているわけですが、スマートニュースの取締役会に行く前は、自分の会社の取締役会とか、侃々諤々議論しているわけですよ。そういった意味では、なかなか一般の投資家の人とは違う。

仮に「じゃあ、お前が明日からやってみろよ!」と言われたときに「俺だったらこうするな!」という気持ちでいつも情熱をぶつけられるというのがよいと思っています。そういった意味で、そういうのに興味がある投資先の方がいたら、ぜひ声をかけてほしいなと思っています。ありがとうございました。

田中祐介:はい。ありがとうございました。

(会場拍手)

金融はもっとクリエイティブにできる

田中祐介:最後に西條さん、一言メッセージをお願いします。

西條:はい。IVSの今年のテーマが「お金」ということで、基本的には事業サイドの人間なので、事業をしっかり本質的にやるというところです。

けど、お金ってすごいなんて言うんですかね……。金融って、すごいクリエイティブにいろいろできる仕組みなので、金融機関を活用してもいいし、金融のリテラシーをちょっと上げて、IT業界の人もその辺活用できるようになると、もっと可能性が広がるかなと思います。あと、冬はTシャツで登壇しない方がいいなと(笑)。

(会場笑)

けっこうすごい、トイレに行きたいなという。はい。感想です。

田中祐介:はい。ありがとうございました。

(会場拍手)

はい。時間もきましたので、このM&Aスタートアップの成功する……。「失敗しない」か! スタートアップの買収戦略のセッションを、以上で終わりにさせていただきたいと思います。スピーカーの皆さんに、改めて盛大な拍手をお願いします。どうもありがとうございました。

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