2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
株式会社オルツ 米倉千貴 氏(全1記事)
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アマテラス藤岡清高氏(以下、藤岡):まず、米倉さんが育った環境についてうかがえますか?
米倉千貴氏(以下、米倉):僕の家は両親が共働きだったこともあり、子ども天国のような環境で育ちました。
母はテレビCMでやっているような既製品のおもちゃではなく、粘土や画材のような創意工夫が必要な道具を買ってくる人でした。母はデザインに関わる仕事をしていたので、匠の技のようなものには心が動くけれど、大量生産される製品に共感ができなかったのかもしれません。
藤岡:米倉さんは小学生でプログラミングをスタートされたそうですね。
米倉:はい。オリジナルのゲームを作りたいと思い、プログラミングを始めました。絵が得意だったので、ゲーム内で自分の作ったキャラクターを動かしたかったのです。
そして、中高時代は絵画に取り組んでいました。主に油彩とデッサンをやっていて、高校時代はピカソにハマっていたくらいです。表現の力強さや幅の広さ、変化の激しさに惹かれていました。いま振り返ると、「自分を変化させていくことで、時代を変えていく」という時代の作り方を学ばせてもらった気がします。
大学も美大に行こうと考えていましたが、高校在学中に絵画の道に進むことは止め、縁あって推薦で合格した大学に進学しました。高校で美術と並行して哲学の勉強を始めていて、大学では哲学を専攻しました。大学ではハイデガーなどのドイツ系の哲学を学びましたが、あまりハマれなかった。むしろ麻雀にハマっていました(笑)。
藤岡:この大学時代に、最初の勤務先であるメディアドゥとの関わりができたのですよね。
米倉:そうですね。ただ、メディアドゥとの出会いの前に自分の中で大きな転機がありました。
僕はみなさんに「家出」をよく勧めているのですが、僕自身も大学3年になった頃に兄と一緒に家出をした経験があります。
当時、実家の事業がうまくいかず、従業員の代わりに僕と兄がアルバイトのようなかたちで働いたのですが、給料はゼロの上に学校に行く時間も全く取れないという生活が半年くらい続きました。駄目になっていくものに対して自分の人生を浪費することに大きなストレスを感じました。
そこで、友達から現金9万円と引っ越し用トラックを調達し、兄と2人で親の留守を狙って家出を決行したのです。
名古屋に引っ越し、すぐに日払いのアルバイトを探しました。その1つがメディアドゥで、携帯電話の販売員からスタートしました。
米倉:メディアドゥの社長がIT系のビジネスを開始する際に、アルバイトを含めたスタッフ全員に「こういう事業をやろうと考えているが、関心のある人はいますか」というメールがきました。僕も家でゲームを作ったりしていたので、「参加したい」と手を挙げたのがITビジネスに取り組むきっかけでした。
そして、メディアドゥが販売していた携帯電話のウェブサイト制作等からスタートし、徐々にコンテンツ制作に移行していきました。その頃からメディアドゥもIPOを目指すことになり、僕がその事業責任者で取締役にもなりました。当時、まだ23、24歳でしたね。
藤岡:23歳で事業責任者となり、そして、その後短期間で退職されました。どのような背景があったのでしょうか。
米倉:これはインターネットの存在なしでは考えられません。僕のような若者が取締役をやらせてもらえたのもネットの世界ならではだと思います。
ネットを利用することでそれまでの労力が一気に効率化する面白さに出会い、そこから個人の可能性を引き出すためにネットの力を活用することに魅かれ、さらには自分がそれを体現することで周囲に伝えたいと考えるようになりました。
しかし、当時の会社はIPOを目指して組織力強化の真っ最中でした。上場を果たすための組織論に関するコミュニケーションが増えるにつれ、自分の目指すところとのギャップを感じ、それが退職の理由になりました。
藤岡:組織力の強化を求める会社と、個の力を最大限にする米倉さんの考え方がぶつかってしまったということですね。
米倉:退職後、個人として再スタートを切りました。
そして、Yahoo!の社員一人当たり売上を超えることを目標にしました。それと、プロ野球選手の年俸ですね。当時、落合選手の年俸が3億円だったのですが、これは個人の可能性を最大限に引き出している1つのパターンだと考え、まずはそこを目指すことにしました。これは3年で達成できました。
藤岡:どのようなやり方で達成されたのですか?
米倉:まず、自分が1人でやれることを極限まで絞り込みました。僕の得意分野は企画でしたから、企画に集中して個の力を最大限に発揮するために、その他の業務を引き受けてもらえる提携先を探しました。具体的には、もともと僕のことを知っている比較的小規模な企業や、開発力はあるが何をすれば良いかわからない開発会社などを狙いました。
提携先に僕が自由に活動できるチームを作ってもらい、開発等のコストは提携先企業に持っていただく形でスタートしました。支出はすべて企業側に持っていただき、儲かったら僕に一部くださいというモデルです。
藤岡:個人として目標を達成し、そこから未来少年の起業に向かわれたのですか?
米倉:実は、未来少年の起業前、海外に移住していた時期があります。当時、僕の兄が既にバンクーバーに移住しており、僕もそこに合流しました。
バンクーバーはすごく田舎で、静かで充実した空間だったのですが、住んでいるうちに自分の中の「オタク魂」のようなものが弱まっていく気がしました。そんな中で、「多分僕はもっと仕事をしたいのだ」と感じるようになりました。そして、帰国して立ち上げたのが未来少年でした。
個人でやっていた時は他社と提携し、提携先のリソースで出来ることに絞って仕事をしていたのですが、未来少年は「僕が作りたいものを作る」というテーマで起業し、僕がもともと大好きだったマンガやゲームを作り始めました。
藤岡:未来少年は100名規模の企業にまで成長しました。
米倉:会社としては、起業してから売却まで一貫して右肩上がりの成長をしましたが、もともと僕が1人でやっていたことが100人集めても結果的に5倍にしかなりませんでした。パーソナリティがしっかりして、そのノウハウがきっちり伝播できていれば、100倍になるはずですよね。しかし、100人で達成できたのは15億円でした。
「なぜ1人でできたことがスケールできないのか」「スケールできないのであれば僕にとってやる意味は何だったのだろう」と自分自身にずっと問いかけるようになりました。
起業家にもいろいろなパターンがありますが、孫さんのように組織全体、規模を目指される社長はIT業界の中でも結構多いと思います。
しかし、僕自身はそういうタイプではないと思っていて、100人を1000人にしたら満足するかというと、全く違います。それよりも、「目の前のこの人を3億円プレイヤーにできるか」どうかが僕の中で重要なのです。
藤岡:それは、「米倉さんを100人作りたい」というより、その人自身の個性を際立たせることができればいいということですか?
米倉:そうです。しかし、世の中の人は大概、自分自身をそういうプレイヤーになれると思っていないとも感じています。
そこが人の才能を開花させるハードルになっていると強く感じましたが、人は簡単に変わるものではないことにも気が付きました。そして、それが自分の目指していることと会社の状況のギャップでもありました。
未来少年の後半は、「人が変わることができれば、組織のあり様も全く違って来るはずだ」という思いから、「人を変える方法は何なのか」を考え、理想の組織と現実とのギャップを埋めるのは自分の使命だと思うようになって行きました。
そして、会社の現状からすれば、もっと良い経営者の下で働いてもらった方が良いのではないかと思うようになり、全ての事業を売却することにしました。
藤岡:その後、オルツを起業されたのが2014年11月ですね。オルツ創業の経緯や、創業当初にぶつかった壁等について教えて下さい。
米倉:Tシャツやポスターにも書いていますが、「真のイノベーションを起こしましょう」というのがオルツのテーマになっています。
一言で“イノベーション”と言っても、実際のところ日本発で世界的にITイノベーションを起こした製品なんてほぼありません。かつてのNTTドコモのiモード方式などは素晴らしかったのですが…。
最近はもうタイムマシン経営になってしまっています。以前はアメリカで流行ったものが5年後くらいにビジネス化されていましたが、最近は中国からの輸入が増えてきています。
しかし、それは僕以外の人でもできることで、僕自身は「イノベーションを起こしたい」と考えました。
「イノベーションを起こすには僕一人ではスピードが足りない。人の力を借りる必要がある」と考え、ベンチャーキャピタル資金を入れることにしました。未来少年時代から「出資したい」というお話はいただいていましたが、未来少年は出資を受けないスタンスで、全て自己資金でやって来ましたので、ここにきて大転換です。
ベンチャーキャピタルにはプロダクトの導入を進める中でもお世話になっていて、例えばジャフコの担当者のお陰でオルツは信用の壁を崩すことができ、一桁も二桁も価値を上げることができたと考えています。会社も大事ですが、何かを動かすのは最終的には人ですから、人との繋がりを大切にしてきた結果だと思います。
藤岡:現在ではコールセンターでの導入も始まっているプロダクトですが、「パーソナルAIをベースとしてこんなことをしたい」と考えていたイメージと、プロダクト開発現場における現実のギャップはどうだったでしょうか。
米倉:そこには巨大な壁がありました。お金があれば簡単に解決するというものではありませんでしたから。正直まだたくさんの壁にぶつかっていますが、まずは僕でやれるところを対処してきました。また、うちは技術者が素晴らしいので、彼らが今越えなければいけない大量の壁を1つずつ解決している状況です。
藤岡:優秀な技術者はなぜ創業間もない段階で入ってくれたのでしょう。当初はコンセプトだけで、何もない状況でしたよね。
米倉:日本の技術者は課題解決に向けたソリューション業務に特化していることが多いのですが、うちでは課題解決からチャレンジしてもらっています。
また、僕がやりたいと考えていることは非常に難しいことですが、技術者や研究者たちが目指す世界の中には必ず入っているものです。これをテーマに掲げていることが、レベルの高い技術者に来てもらう理由となり、結果として強みとなっていると思っています。
藤岡:確かに、言われたことをやるだけならどこでもできますが、オルツの大きな課題解決にチャレンジできるという面白さは感じてもらえると思います。 しかし、その課題解決を「虚言」と思われることなく説得できたのは、何か理由があるのでしょうか?
米倉:これは僕も常に意識して実行していることですが、起業家として10年生き残っている経営者に共通していると感じるのは、隣にいる人と同じことを言わない意志の強さや起業家として高い理念を掲げて前進を続けていることです。これらはベンチャーとして残るか残らないかの決定要因だと思っていますし、優秀な人材の確保にも繋がっている気がします。
藤岡:次に、オルツの今後について教えてください。もともと「個の力の最大化」というのが以前から大切にされているビジョンだと思いますが、それに向けて短期的・中長期的にはどのような課題があるとお考えですか?
米倉:まず、僕が今掲げているビジョンは、他の多くのAI サービスのように企業課題を解決する手段ではないということもあり、これを可視化して説明していくことが非常に難しいと感じています。「個の力の最大化」というビジョンを魅力的に、そして賛同していただけるような形で周囲に伝える方法を見つけていくことが大きな経営課題になっています。
また、メンバー構成としてはイギリス人やベトナム人等多国籍にはなっていますが、まだまだ日本中心です。世界で通用するプロダクトを作ってグローバル化して行きたいという希望は持っています。日本のスタートアップが越えるべき課題だと思っています。
藤岡:これからのオルツに必要とされる人物像・人材像について教えて下さい。
米倉:ビジョンに共感してもらえることが最低限の条件です。さらに、そこに関する自主的な思想があるか。「自分はこうしたい」という具体的な課題感を持っていて、そこをオルツのP.A.I.(Personal Artificial Intelligence)によってどのように解決したいかという考えを持っているかが大事だと思っています。
藤岡:御社のビジョンに共感して、加えて自分なりの問題意識を持っている人材ということですね。
米倉:そうですね、共感だけではどうしてもスピードが遅くなってしまいますので、やはりどちらも大事だと思っています。
藤岡:現在の従業員数は30名程度ということですが、このタイミングでオルツさんに参画される魅力というのはどんなものがあるのでしょうか。
米倉:この人数ですから社長との距離も近いですし、これからもっと高いビジョンのもとで世界観を押し上げていく経験ができるはずです。
具体的には、いろいろな企業との提携の拡充やプロダクトの実利用などが始まっていますから、それらに関心の高い方にとってはこれからのオルツは非常に面白みがあるのではないかと思います。
藤岡:実際にお客様へのプロダクトの導入が始まっているとのことですが、手応えはいかがですか?米倉さんの世界観と実際の利用シーンとの間でどの程度ギャップがあると感じますか?
米倉:流れとしてはかなりの追い風で、良い雰囲気になっていると感じています。
僕は、先端研究は5年先にやっていないといけないと考えているのですが、そういう意味では5年前にやっていた研究が今しっかり時代にハマっている感覚があります。
僕らが5年先のビジョンの下で事業を発展させるため、人材面からの仕組みづくりをアマテラスにサポートいただいていますが、この経営力の強化も今後の重要な部分だと思っています。
藤岡:承知しました。本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
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