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宇宙ビジネスのフロンティア(全5記事)

「市場がない」はバッドニュースか? 前代未聞の“宇宙ゴミ除去サービス”が誕生した事情

グロービスの経営理念である、能力開発、ネットワーク、志を培う場を継続的に提供することを目的とした招待制のカンファレンス「あすか会議2018」が、2018年7月7~8日に開催されました。7日に行われた「宇宙ビジネスのフロンティア」には、アストロスケール創業者兼CEO・岡田光信氏、慶應義塾大学大学院教授・白坂成功氏、株式会社アクセルスペース代表取締役CEO・中村友哉氏、A.T.カーニー株式会社 プリンシパル/一般社団法人SPACETIDE 代表理事・石田真康氏が登壇。AIや機械学習の宇宙ビジネスへの応用や、宇宙ゴミ回収の技術的な難しさについて語りました。

AI×衛星データのフロンティア

石田真康氏(以下、石田):余談ですが、宇宙ベンチャーの人は「宇宙の技術と地上の技術」という言い方をする人が多いですよね(笑)。

(会場笑)

石田:AI ビックデータ、IoTを指して地上の技術とまとめる人がいるのですが、いつからこれが地上の技術になったのかと、僕はいつも聞いていて思うのですが(笑)。

宇宙がめずらしいのは、空間でビジネスが定義されていることというのはなかなかないものです。たぶん南極ビジネスや、深海ビジネスといったそういうものとかなり似ている。すみません、余談でした。

AIの話は、1個前の全体セッションでもかなりいろいろな議論があっておもしろかったと思います。

白坂先生のところはまさにAIと衛星データの組み合わせによるフロンティアということをやっていると思うのですが、AIや機械学習は今、宇宙ビジネスをどのように変えているのでしょうか? その交差点で、一体何が起きているのでしょうか?

白坂成功氏(以下、白坂):使い方はいろいろあると思いますが、我々がやろうとしているのは、まさにさっき中村さんが言ったとおり、データ量がとんでもないんですね。我々、レーダーの場合もやはりデータ量がとんでもない。

我々のビジネスのウリは、即応性なんですよ。レスポンシブネスと言っているのですが、通常、大きな人工衛星であれば分解能が高いものがいい、要は細かく見えるのがいいということです。これを空間分解能と言いますが、空間分解能が高いことをウリにする。

中村さんのアクセルもそうですし、我々もそうですが、たくさん打ち上げる人たちは、今度は頻度が高く見えるんですね。物理の法則で回るので、大きかろうが小さかろうが、地球を回る速度は変わらないんです。ですから、数がたくさんあればあるほど高頻度で見える。

これを時間分解能と言いますが、要は1機だけだと1日に1回しか来ないものが、例えば2機だと半分になる、3機だと3分の1になる。単純に言うとそういうことですが、これが空間分解能ですね。

我々はそれプラス、レスポンシブネスという即応性という言い方をするのですが、ほしい事象が起きてからその情報を提供するまでの時間をいかに短くするかということをポイントにしています。今までは、時間分解能が短くなるから結果的に短くなるという言い方をしていたものを、いかに積極的に短くできるかというところですね。

ディープラーニングによるデータの自動処理で効率化

白坂:そのために、撮影場所に行きますよね。これが数が多ければ多いほど撮影すべき場所に行く速さが速くなる。撮影したら、今度は撮影したデータを下ろさなければいけませんね。今度はそれを処理する。処理してお客さんに提供するわけですが。

まず最初のスタートは、地上で処理する時間を短くする。これはディープラーニングでできるんですね。光学カメラの識別が5年くらい前からかなり精度が高くなってきています。我々がやっている合成開口レーダーのデータのディープラーニングが、やっと去年ぐらいから論文がポロポロ出始めたぐらいの成熟度なのですが、これ(処理する時間)が短くなる。

我々はそのラーンしたネットワーク自体のパラメーターを、人工衛星そのものに乗せられる仕組みを持っています。そうすると今度は、撮影した瞬間にデータを抽出する。

これであればデータ量が極端に減るので、そんなに速くない速度のリンクで降ろせる。Sバンドというもので降ろしますが、情報だけを先に降ろしてしまう。処理をしなくてお客さんに提供するというので、そうすると、Sバンドの場合は降ろすためのアンテナもたくさんあるんですね。

撮るのを増やすために、たくさん打ち上げる。そして今度は撮ったあとの降ろす速度を早くするために、軌道上でディープラーニングによって情報にしてしまい、早く来たところで早く降ろして情報を提供する。

普通に撮ったデータはもちろんあとから降ろすのですが、それにはちょっと時間がかかるので、のちほど。そのあとの教師データにまた使うので貯めておくというかたちで、このレスポンシブネスというものを入れたことが実は特徴です。

IoTセンサーが撮るべき場所を見つけだす

白坂:上でもディープラーニングは使うのだけど、学ぶのは下ですよね、というように我々は使っています。さらにもう1つあるのは、どこを撮影するのかというもの。

今は人間が「あそこで災害が起きたから」といったように指示をするのですが、そこにIoTのネットワークを使おうとしています。例えば、IoTセンサーで水位センサーがあるとして、一定値を超えると、インマルサットという通信衛星があるのですが、そこにパケット経由でうちの衛星に送ると、自動でそこ(水位を超えた場所)を撮ってくれる。

人間が「あそこが危ない」と言う前に、IoTを使って自動で処理をさせて、自動でデータを抽出して出すようにすると、危ない事象が起きてから(人に情報を)渡すまでのスパンを極端に短くできる。

今、我々はそれをやろうとしています。まだ軌道上でやっている人たちはなかなかいないので、それを最初に……まあ最初じゃなくてもいいのですが。

レーダーの情報はとにかく飽和しないぐらいしかまだないので、早くやればやっただけいくらでもまだ必要なのです。これをなるべく早くするのがうちの特徴であり、どこの技術でも使えるといえば使えます。

ただ中村さんが言ったみたいに、宇宙はやっぱり特殊なところもありまして。チップはやっぱり対放射線がいるなど、ややこしいことがいろいろとあるんです。ですから、どうしても我々は宇宙の技術と言ってしまうのですが(笑)。

やっぱり特殊性はありますね。ですから、そのあたりは地上での評価を宇宙に持って行くのですが、今はそういった感じで我々は使おうとしています。

石田:それは人工衛星から来た画像データなどを機械学習でどんどん解析して、時間変化を見るといったことですね。こうしたことはここ数年で聞くようになったと思うのですが、今、先生が言っていたのは、軌道上にある衛星自体が機械学習能力を持っているということでしょうか?

白坂:機械学習した結果を使う能力を持っているということです。

石田:結果を使って、画像自体を取捨選択しちゃうということですか? それはもう実用化されているんですか?

白坂:いや、まだどこもやってはいないのです。今、いくつかやろうとしていて、たぶんレーダーでやるのは我々が世界で最初になると思います。今はまだあんまりやろうとしていないんですよ。

というのは、すごく単純なことです。上と下の両方を持っている人が少ないのと、上にラーンした結果を載せるハードウェアを持っている人が今は少ない、というかほとんどいない。

石田:なるほど。

白坂:ですから、まだたぶん1機も上がっていないと思うのですが。それを持たないと上に上げようがないので、上自体を変えなければいけない。しかも下をラーンするためには下もやらなきゃいけない。両方やった人が初めてこれをやることができるという構図なんです。

石田:なるほど。やっぱり地上の技術、宇宙の技術という感じで上とか下があるんですね(笑)。

白坂:はい、上と下なんです(笑)。

石田:やっぱり、このビジネスは空間があるんですね(笑)。

白坂:まあ、わかりやすいですから(笑)。多少の違いですね。

地上の技術が宇宙に活かされる時代がきた

石田:岡田さん、おふたりに聞いたことを2つともまとめて質問しちゃいたいのですが。まず、アストロスケールを起業された2013年でしたか?

岡田光信氏(以下、岡田):13ですね。

石田:それまで岡田さんは、別に宇宙のバックグラウンドがずっとあったわけではなく、実は官僚だったときもあったり、それこそコンサルをやっていたときもあったりなど、いろいろなビジネスチャンスがあったと思いますが。

とくに2013年にもいろいろなビジネスチャンスがあったと思いますが、どうしてその頃に宇宙ゴミなんてものに気づいて起業しちゃったのかということ。

あと、さっきお二人が言っていましたが、地上の技術がデブリを除去することに使われようとしているんですか? そこにイノベーションが起きているのかということをお聞きしたいです。

岡田:では、後半から先にお答えすると、第4次産業革命の技術は、かなり宇宙に使えると思っています。昔、宇宙で使った技術を地上に降ろすというようなおこがましい言い方がいっぱいあったと思いますが。

実際にテンピュールなどのいくつかの素材や高性能レーダーなどが宇宙で開発されて、地上に安価で降ろされるということがよくありました。

今は逆で、白坂先生(がおっしゃったように)地上の技術を使うということが多い。AIで言うと、僕らは打ち上げ前のシュミレーションにすごく使いますね。打ち上げをするのは1回飛ばすわけですが、その前に何千回もパソコン上で飛ばすわけです。

例えばスラスターというノズルのこと、ご存知ですか? 推進系のものです。12本ぐらい付いていると「1本が壊れたら?」、「1本の出力が70パーセントになったらどうするの?」といったことを回して勝手に学習させるということについては、すごく能力が上がっていますよね。

あとは管制についてはわかりますか? 宇宙に飛ばしたあとでも、地上にはモニターがいっぱいあります。見たことがあるでしょ? あれはすごく古い技術なんです。

石田:NASAのこういうデカイやつみたいな。

岡田:あれね、Windowsアプリケーションなんですよ。ちょっとびっくりするでしょ(笑)。なぜブラウザベースじゃないのと思うんですが。

石田:(笑)。

岡田:あれは刻々のデータは見れるんだけど、系列のデータが見れない。刻々で見なきゃいけないデータがあまりにもありすぎて。

じゃあその刻々と変化している……例えばどこの温度がこう上がっていったらこういうことが起きる、という予想が本当はできるんですよね。そういうことを学習させればいい。そういったことに使おうとしています。

ですから、地上の技術はたくさん使えると思うし、新しい素材もいろいろ使えるから使っています。

“市場がない”はバッドニュースか?

岡田:なぜデブリかと言うと、私は宇宙じゃないんですね。みなさんにとってはとてもポジティブなニュースだと思いますが、別に宇宙エンジニアじゃなくても宇宙(の仕事)はできます。ただ私の役割というのは、オーケストラの指揮者のような感じです。

石田:かっこいい仕事ですね(笑)。

岡田:まあ、こんなんでごめんなさいね(笑)。私はバイオリンの音は鳴らせないし、ピアノも弾けないのですが、どうやればその音が鳴るのかという仕組みはわかります。

どうやれば音がきれいになるのかまでも勉強しなければいけないので、ものすごく論文を読みました。死ぬほど読みました。専門用語は、知らないものはないところまでもっていっています。でも、自分では作れないということですね。

私がなぜ宇宙かと思ったかと言うと、39歳のときに中年の危機を迎えたからです。わかりますかね? 40代で何をやっていいかわからないと。(会場の参加者に対して)なんだかそういう人がいっぱいいそうな気がしますが(笑)。いっぱいいるからグロービスというのかもしれませんけどね。

(会場笑)

岡田:わからないときに、そういえば昔「宇宙やりたい」と思っていたな~と思い出しまして、宇宙の学会にいくつか出てみたんです。何がホットトピックかを見ようと思いまして。

ロケットなのか、月探査なのかと思うじゃないですか。そしたら、宇宙ゴミ問題がやばいということに気がついたんですね。

そのあとに宇宙ゴミ専門の学会というのがドイツで4日間あったのですが、出てきたプレゼンテーションがシュミレーションとリサーチとコンセプトばかりで、なにもアクションがなかったことにすごく腹が立ちまして。自分がやろうと思いました。

当然最初は「市場がないよ」と言われましたし、「技術がないよ」とも言われました。技術が難しいんですよ。飛んでいる飛行機を捕まえろと言われたら、それはちょっと難しいなと思うでしょ?(笑)。

それよりも、もっと遠くて、もっと速くて、さらに宇宙ゴミは回転しているんですよ。それをどうやって捕まえますか!? というような話がありまして。超難しいです。誰にもできたことがないんです。私たちは来年末に世界で初めてのデブリ除去実証衛星を打ち上げるのですが、それで証明をします。

技術がないビジネスモデルが……あとレギュレーションがすごく複雑なんですよね。でもその中で「市場がない」と言われたときに、これがグッドニュースかバッドニュースかということなんですよね。みなさんにとってはどっちですか? 

僕にはグッドニュースとしか思えなかった。僕はその前にIT業界をやっていて、常に100社くらい競合がいるわけですよ。市場はあるんだけど、みんな恐ろしい速さと資本で突っ込んでいくから。

「え、本当に!? 本当に市場ないんですか!?」、「本当に競合いないんですか!?」と確認しまくったのでよく覚えてます。「そんな気持ちいい世界でやっていいんだ!」という。

結局よく言われる例で、アメリカ人が言うたとえだと「アマゾンに靴のセールスマンが行ったら、靴を履いていない民族がいました。そのまま帰ってくるのか? 全員に靴を履かせるのか?」ということですよね。すごくワクワクすると思ってスタートしました。

踊りながら宇宙ゴミを捕らえる人工衛星

石田:さっき言っていた超難しい宇宙のゴミを捕まえる技術は、ものすごくシンプルに言うとどうやるんですか?

岡田:ものすごくシンプルにですか(笑)。宇宙に行くといろいろな光があります。月の光、地球の光、太陽の光、星の光、ゴミの反射の光がありますが。まず、どれがゴミかというのをアイデンティファイしなきゃいけません。

ゴミは全部いろいろな方向に秒速7~8キロで飛んでいるので、相対速度をゼロにするまで近づきます。これが超難しいんですが、仮に近づいて成功すると、今度はゴミが回転しています。

それをどうやって捕まえるかですが、私たちの人工衛星はそのゴミの回転に合わせてダンスをします。相対角速度をゼロにする。すごくアクロバティックな動きをします。

そして捕まえて捕獲、捕獲したあとに安定させる。安定させたあとは大気に入れて燃やすのですが、まずは合体した物体の重心を見つけなきゃいけない。宇宙では、力を加えるときに重心がずれてしまうと、力を加えてもクルクル回るだけになるんです。

これで「あ~」とわかる人はかなり理系だと思いますが(笑)。

(一同笑)

岡田:それで大気圏へ入れて(ゴミを)燃やす。燃え尽きさせなきゃいけないということもありますが。

今申し上げた技術、見つけて、近づいて、ダンスして、捕まえて、合体、重心を見抜いて落とすという技術は、どこにも存在していないわけですよね。それをいかに作って、かつ小型化して、超安くするかというのがポイントですね。

石田:その技術はこれまではぜんぜんなくて、いろいろなものを岡田さんのところが組み合わせて初めて生み出した技術なんですか?

岡田:個別には似たような技術はあるのですが。例えば、宇宙で物体が合体することをランデブーと呼びます。国際宇宙ステーションに補給船が行ってくっつく、これがランデブーです。こうした技術はあります。

協力接近と言って、お互いの物体が生きているわけですね。お互いに位置情報を持っていて、信号のやり取りができるからできるわけですが、ゴミは死んでいるからなにも情報を出してくれない。

これを非協力接近といいますが、この技術はありません。それを作る。似たようなものはあっても、新しく作らなきゃいけないということですね。

石田:この話だけで2時間ぐらいしゃべりそうになりますね(笑)。

(会場笑)

石田:今日は夜もいるんですよね?

岡田:います、います。

石田:聞きたい人はあとで捕まえて聞いてあげてください(笑)。

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