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IVS DOJO 松本真尚氏(全1記事)

大企業を変えるのは、ベンチャーという「ウイルス」 WiL松本氏がソフトバンク・ヤフーでつかんだM&Aの極意

2018年12月19日に行われた「IVS2018 Winter Kanazawa」のセッション「IVS DOJO」で、株式会社WiL・松本真尚氏が登壇。大企業とベンチャー、大企業同士、ベンチャー同士のM&Aに関わってきた経験をもとに、企業の成長因子について語りました。

WiLの松本真尚氏が登壇

松本真尚氏:よろしくお願いします、松本です。

(会場拍手)

全部で6人登壇という話なんですが、3人目の僕までは真面目な話をします。この後の3人が、日本三大ベンチャーお笑い芸人として笑いを取ってくれるので、みなさま、ちょっと真面目な話として聞いていただければ幸いです。

今、小野(裕史)さんからもお話がありましたけど、基本的にはさっきの國光(宏尚)さんのようなめんどくさい人じゃなくて、若手のベンチャーに「君(松本)が何者かを説明してくれ」というのが最初のお話だったのですが、國光さんとかが茶々を入れる時点で、ちょっとあてが外れました。

もしかしたらテーマが違うかもしれませんが、僕が経験した今までの成長因子といいますか、「ベンチャー企業はどういうかたちで成長していくのだろう」、「ビジネスというのは(どういうかたちで)伸びていくんだろう」ということをお話しさせていただければなと思っております。

まずは、最初に簡単に自己紹介をさせていただければと思います。1999年あたりのすごく古い話ですが、みなさまにお話をさせていただければと思っています。もともと僕は、PIMというベンチャーを1999年に設立しました。根性がなかったので、1年でヤフーに合併というか、M&Aされてしまいました。ただ、このM&Aは非常にいい経験だったと思っています。

今回のIVSのテーマにM&Aとあったんですけれども、我々自身も、実はヤフージャパンの最初のM&A案件でした。そこから実は籍が変わっているわけではありません。

ヤフーとソフトバンクグループに12年間いたのですが、2000年から2006年くらいまではメインがヤフー、2006年からはソフトバンクとヤフーがハイブリッドという……。今日ソフトバンクが上場していますが、そちらの事業(ソフトバンクモバイル)に、人質としてソフトバンクに連れ去られて、そこからまた6年間くらいモバイル事業として、iPhoneの日本導入などをやらせていただきました。

企業の成長因子とはなにか

2012年に退職し、2013年にWiLという会社を設立させていただいております。この経験を前提条件に、成長因子について、僕が経験したことを4つほどまとめてお話ししようと思います。

1つ目は、まさにベンチャーによるベンチャーのためのジョイントベンチャーだった。2つ目、次はヤフーの話ですが、これは僕らがM&Aされたというのもそうですし、その後、僕はヤフーで新規事業、これはM&A(の業務)も含んで担当していました。M&AとPMI、人の問題という部分で非常に勉強になったので、それをお話しできればなと思います。3つ目は、人質といっていますが、大企業と大企業のジョイントをすることの難しさとおもしろさを説明させていただければと思っています。

この3つの経験を前提条件にして、今まさに、オープンイノベーション……これはベンチャー同士かもしれませんし、大企業同士かもしれませんけれども、イノベーションというものを日本で進めていきたいと思っております。イノベーションの進め方をどういうふうに考え、どういうふうに進めていくべきかという点について、お話をさせていただきます。

社長が5人いるジョイントベンチャーの意思決定は「総選挙」

まず、ベンチャーによるベンチャーのためのジョイントベンチャーとは何か。(当時の関係者が)会場に来ているかもしれませんけれども、当初、4社でジョイントベンチャーを作りました。1社が250万円ずつで(資金を出して)、1,000万円で会社を作って、その各ベンチャーから人を2人ずつ出そうと。これでいきなり8人だという発想で、ベンチャーを作りました。

ご理解いただけると思うんですけれども、ベンチャーが4社あるため、社長も4人いるんですよ。そして、新しい会社が1社できるので、社長が5人いる(この5人目の社長が私)という状況のジョイントベンチャーでした。

その時に僕が学んで、かつ、これはなかなかいい方法だなと思ったのが、総選挙です。この総選挙というのは、4社の社員全員でCEOは誰がいいか、COOは誰がいいか、CTOは誰がいいかについて、全員で投票するんです。

何がよかったかというと、基本的に先ほどお話ししたPIMという会社は、今では普通なんですけれども、モバイルインターネットを推進するための会社だったんです。非常に大きなミッションとビジョンを持っていました。

日本からインターネットがモバイルによって変わるだろうと我々は思っていました。なので、もともとミッションとビジョンが明確な会社でした。ポジションは戦略に基づく、組織は戦略に基づくといわれますが、そういう意味では、ミッションが明確であれば、組織というのは、極論、選挙でもなんとかなりました(笑)。

全員がベンチャーで、それが集まったってなんとかなるんだよねという意味で、すごくいい経験でした。そうして集まったベンチャーを1年でヤフーに売却しました。たぶん、M&Aの日本の大型一号案件だと思います。

その後、ヤフーに入ってからは、苦労や悩みがたくさん出てきますが、そこについてお話しします。2000年の7月にヤフーに売却する以前は、こういうかたちでいま発表させていただいたとおりです。

ヤフーとソフトバンクで過ごした12年間

僕のヤフーでの仕事を簡単にご説明しておきますと、ヤフー、ソフトバンクにいたのが12年間で、ずっとこの2人(孫さんと井上さん)がボスだったので、2人の無茶ぶりをさばく。それで、2人がケンカをしそうになったら間に入るのが、僕の仕事でした。ヤフーでは「ずっとこれをやっていました」というようなかっこいい仕事はなくてですね。今までの仕事を並べると、こういう感じなんです。

2002年の日韓ワールドカップで、この責任者を急にやらされたりとか、ボーダフォンの写真、右隅にはAppleの写真もありますが、例えば孫さんに言われて「iPhoneを日本に持ってくるぞ、まずは下準備をしろ」と、急に振られるんです。

ここにあるのは、チャイナモバイルとボーダフォンと一緒に、ソフトバンクが携帯会社のプラットフォームをジョイントベンチャーで作るんだと。これはジョイントイノベーションラボといって、キャリアが作る新しい技術プラットフォームだと。この会社を作るにあたって、まずは基盤を作ると。

例えば「たびゲーター」などいくつかありますけれども、ヤフーが大企業とジョイントベンチャーを作る場合、だいたい社外取締役というかたちで……。まだまだベンチャーだったヤフーという会社と、JTBさんが作った「たびゲーター」と、この両方の文化をうまく組み合わせていくのが、僕のヤフーとソフトバンクでの仕事でした。

大企業にはベンチャーという「ウイルス」が必要

ヤフーに入った後半についてです。この後半部分では、M&Aを含めた新規事業をやっていました。

僕自身、ヤフーに入って、大企業の中にも我々のようなベンチャーが、ある一定の割合でちゃんと組み込まれていかないといけないと思いました。この下にありますけれども、やはりどうしても進まなくなる。なので、(ベンチャーのような)ウイルスは必要だと。

僕は大企業の中に、変わり者であるベンチャーというウイルスを入れていこうと思いまして、ここに3人書いていますが、この会社は全部M&A、ないしは51パーセント以上の出資も含めて、ヤフーにくっつけていこうという話をしました。

ただ、彼らと一緒にやって一番苦労したのは、この下、もう少し苦労はしているのですが、大企業の意思決定の遅さ、ないしはスピード感、ヤフーというブランドに対する意識、そしてソフトバンクグループ全体での戦略というものをインテグレーションするのに、非常に苦労しておりました。

このインテグレーションというところをどういうかたちで進めればうまくいくんだろうかと、クエスチョンマークを持ちながら、ヤフーで働いた後半では、M&AとPMIをやらせていただきました。

この中でおもしろいトピックがあります。右下にTOEICと書いてあります。一番右側に外人がいます。ヤフーの人事ってすごいんですよ。TOEICを受けろと言うんです。TOEICを受ける理由はなんですかと聞くと、◯点以下だとアメリカ出張をさせないというんです。それで、わかったと。しかし、日本語で書いていないから、問題が読めないと。

(会場笑)

これを訳してくれたらいけるんだということでしたが、当然みんなだめだったらしく、結局どうしたかというと……その当時はヤフーメッセンジャーがあったんですけれども、メッセンジャーで問題をコピーしたものを送ってきて、僕らはそれを英語に訳して返すということをずっとやっていました。

外人は点数が悪いということになって「本当にTOEICを受けさせる必要がありますか」となりました。「ネイティブスピーカーですらこの状態ですよ」と。そういったことを、あれだけ大きな会社でもやってしまうと。つまらない話だけれど、実は大きな問題がありました。

ソフトバンクですら組織としては硬直している

ここまではずっとヤフーの話をしましたが、これからは大企業と大企業という部分に関してもお話しします。今回、大企業の方々がたくさん参加していらっしゃるということなので、ちょっとお話をさせていただければなと思います。

大企業でのイノベーションというのは世界的にも大きなテーマだと思います。そのためにも……新しいことをやらなきゃいけないなということを思っていて、それをソフトバンクやヤフーグループで実現したいと思っていました。

僕自身、ベンチャーを立ち上げるのは、イノベーションを起こしたいからだと思っていました。ただ、ここに書いてあるように……何が書いてあるかわからないですけれど、例えば日本の古い携帯電話で、ショルダー型のものがあります。

彼らの発想の中にはスマートフォンはないんです。電話は固定だし、携帯電話とインターネットって何? というくらいの時代だったんです。それで、右のほうでウサギが固まっている。組織の硬直を表しております。いい写真がなかったので、このようになったのですが……。

(会場笑)

そのベンチャーっぽいソフトバンクの中でも、やっぱり硬直しているんですよ。いい意味で、社風、ブランド、意思決定の方法が全部決まっているので、何をやるとしても硬直化している。

一番にあるのは、右下にあるPLです。要は、利益をちゃんと確保しなくてはいけない。毎年、成長しながらイノベーションを起こすというのは非常に大変だなと感じました。

先ほど、大企業と大企業という話をしましたが、実はこの4社はソフトバンクモバイルという会社を立ち上げました。結局、ボーダフォン、日本テレコム、ソフトバンク本体の一部をくっつけて……いま上場したという話をしましたけれども、ソフトバンクモバイルという会社になりました。

文化以外にもいろいろな違いのあるチームをまとめる苦労

僕はヤフーにいる頃からこのプロジェクトに参加させていただきました。いわゆる初代のコンテンツ、昔、ドコモで夏野(剛)さんがやってらっしゃったようなコンテンツやサービスを中心とした仕事をさせていただいたのですが、ここが一番大変なんです。

なぜかというと、日本テレコムはインフラを(作る)。ボーダフォンは端末も作るし、無線ネットワークも(作る)。といったような特徴的な部分は責任分解点が明確なのでやりやすい。でも、全社にコンテンツの部門はあります。ボーダフォンにもありますし、日本テレコムも持っていますし、ソフトバンクもヤフーも全部ある。

そうすると、先ほど言ったように稟議のプロセスから意思決定のプロセスから、全部違う。そこが揉めるたびに、孫さんが怒るわけですよ。すると最後に、「コンテンツは全部お前が見ろ」と言われてしまい……。文化だけではなく、いろいろと違いのあるチームをまとめないといけないという仕事、これがもっとも大変でした。

そして、この4社のチームの面倒を見なきゃいけない。この当時、僕の部下が300~400人、急にぶら下がって、大企業のロジックをみなさまが展開する。これをきちんとまとめないとだめだなと思いました。

ただ、僕はとにかく若くて、どうしたらいいんだろうとずっと悩んでいました。一番やってはいけなかったと思っていて、本当に反省しているんですが、僕が出した結論が、進まないものは孫さんにチクるというもの。「これ、進まないですよ」と。「僕に権限を渡すか、僕をクビにするか、どっちかにしてくれ」という話を、孫さんと毎週、ずっとお話をさせていただいて。たぶん禁じ手としか呼べない方法で、なんとかこなしていたというのが、大企業の連携というか、ジョイントという部分になります。

ベンチャー目線で語る、違う組織との連携のポイント

それで、先ほどのオープニングのページに戻ってのお話なんですが、ここからちょっとアカデミックな話になります。大企業と大企業、ベンチャーと大企業、ベンチャーとベンチャーという話をしましたが、やっぱり一番ワクワク、ドキドキしたのが、この知の融合なんです。

昨日、「地域経済に貢献した」というお話がよくありましたが、やはり昨日の夜、僕は楽しかったですね。先ほどの國光さんもそうですし、グリーの田中さんもそうです。みなさまと昨日、夜遅くまで飲んでいたのですが、やはりみなさま違う目線を持っていて、みなさまの描く考えがちゃんと融合することで、もしかしたら新しい未来が見えてくるんじゃないかと。

この体験・体感を、すべての組織、すべてのカテゴリーの企業とうまく組み合わせることによって、日本は変わっていくんじゃないかなと考えております。ただ、これを実現するのはすごく大事だなと思っています。

今回のIVSでもM&Aは1つのテーマになっているという話ですけど、僕は全部ベンチャーの立場として、大企業と連携、ないしは大企業と大企業の連携を進めているんですが、僕だけがずっとベンチャーとしての立ち位置でお話をさせていただくことが多かったので、その際に、大企業としてやるのもそうですし、違う組織の人たちとうまくやるというのを、ここに記載させていただきます。

読んでいただければわかるんですけれど、基本的には、相手が何をやろうとしているかをちゃんと理解している。2つ目は、自分のやりたいこと、自分の考えていることをずっと持っている。フリーライダーのサラリーマンになってしまうので、自分がやりたいことはなんなのかを考えて、それがもし、違うところでがんばっているならば、とことん話し合うのも大事ですし、これが3番目なんですが、話し合った結果、まずは納得してみる。

ヤフーの数々のM&Aのなかで一番の成功事例は「PIM」

大企業は馬鹿ではないです。今のこのシステムになった理由も当然あるので、まずはそれに迎合してみる。それで、いまお話ししたとおり、そうなった理由もあったのだとすれば、先方の立場になって考えてみる。

今までベンチャーをやっていたのなら上司はいないので、今度は上司も部下もできるという状況の中で、ないしはパートナーとしてでも、相手の立場になってちゃんと考えておくということは、非常に大事だなと思います。

僕ら自身がM&Aをされたこともあるので、ミッションと期待値は、ちゃんと把握しておくべきだなと思っています。またヤフーのOBの方にも、たくさんM&Aはしたかもしれないけれど、我々のPIMという会社(のM&A)が一番成功したと言っていただくこともあります。

それがなぜかというと、やはり人がちゃんと残って、僕らと一緒にヤフーに合流した川邊が社長をやっているということを考えても、人がちゃんと紐づいて、そのミッションの期待値にこたえているということで、我々からすると非常に誇らしいことです。

彼がヤフーの過去最高の時価総額を超える8兆円くらいまで上げてくれるはずなので、僕は期待しております。

今までお話をした経験をベースにして、WiLという会社を設立しました。この会社は、僕の今までの経験、今までやりたかったことをまとめた会社です。なので、大企業とベンチャー、大企業と大企業、ベンチャーとベンチャーで、手と手を取り合える環境を作るというのが僕のミッションであり、日本経済への貢献もできるのではないかと思っています。

冒頭で、ベンチャーを作る目的はイノベーションを起こすためだというお話をしましたが、僕自身が天才でも優秀な人間でもありません。イノベーションというのはやり続ける、意志の偉業である……頭がいいからできるものではないということで日々がんばっております。

みなさまも、自社の中だけではなく、外とうまく組みながら、自社の成長にこの因子をうまく組み込んでいただければというふうに思っています。

以上になります。ありがとうございました。

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