2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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仮屋薗聡一氏(以下、仮屋薗):ちょっときつい質問かもしれませんけれど、朝倉さん自身はご退任の経緯とかいろいろあったかと思うのですが、アメリカにおける社長交代劇を見ていても、やっぱりつらい部分が必ず発生するなか、ボードはガバナンスということで、会社にとってベストな方法を考えなきゃいけない。
いろんな意味のすごい責任とかつらい部分とか、それをどのように誰がリーダーシップを取ってやっていくのかが難しい問題だと思うんですが、そこはどうあるべきなんでしょうか?
朝倉祐介氏(以下、朝倉):1つは、マインドセットの話として、経営者がいったい誰を向いて仕事をしているかということですよね。よく会社がM&Aをされると経済誌で「身売り」って書かれたりするじゃないですか。私、あの言葉大嫌いで。
スタンフォード大学で講義したこともありますが、翻訳できないんです。「身売りって何なの?」と学生から聞かれて、「うーん、human trafficking ?」みたいな。人身売買ですよね。でも、言葉が含んでいる含意ってそういうことじゃないですか。
だから、こんな前時代的な言葉は廃止したいんですが、ただ、あえてこの「身売り」という言葉を使うのであれば、IPOないしはベンチャーキャピタルからの資金調達は、部分的な身売りですからね。ですので、「俺はオーナー経営者だ、創業経営者だ」と思っていたとしても、それはある種、雇われ経営者でもあるわけです。
だから、100パーセント資本でやっているときとそうじゃないときでマインドを変えられるかどうか、自分が誰に対してどういった責任を負っているかを意識できるかどうかは、重要な問題だと思います。
もうちょっと制度的なところで言うと、やっぱりこれはコーポレートガバナンスなんでしょうね。ちゃんと社外取締役等々の牽制が効いているか。もっと言うと、資本市場の牽制が効いているかどうかというところ。
日本だとアクティビストや物言う株主は、非常に悪い文脈で語られがちではあります。ただ、株主が物を言うことは当たり前ですよね。その物言う株主の中でも、提案がアホな物言う株主もいれば、非常に気の利いた物言う株主もいるという、それだけの違いであって、これはもう少し資本市場も含めて理解を深めていくべき話題だと思います。
仮屋薗:堤さんもどっちかというと、完全に寄り添う型のベンチャーキャピタルだと僕は思っています。ご経験の中ではそういうつらいこともあったとおっしゃったと思うんですが、日本的なコンテキストの中でこの経営の成長や進化をどのように考えていったらいいんでしょうか? もしくはいま、日本のVCというエコシステムに足りないものって何だと思われますか?
堤達生氏(以下、堤):さっきの宮田さんの話じゃないですけど、本当はタレントプールがたくさんあって、そこで取っ替え引っ替えできれば、こんなに簡単なことはないなといつも思うんです(笑)。残念ながら、なんでこんな面倒なのに、ある種一緒に育っていくかと言うと、やっぱり現実問題、ほかのオルタナがないからというのが1つなんですよね。
今回のメルカリさん含めて、大きな上場で、またそこからいろんなアントレプレナーが生まれると思うんです。少なくともそういうことを期待しながらも、それまでの間は歯を食いしばって、VCとしては、起業家から経営者に育てるのを真摯にやるしかないかな、というのが1つです。
ただ一方で、僕も経営者を変えたことが実はあるんですが、これは本当にハードで、しかも同じ会社で2回変えたんですよ。1回変えたんですが、うまくいかなくて、2回変えて。でも、いますごく成長しているので、結果論よかったんですが。
もちろん株主でもあるわけなのでかなりハードな交渉もしなければいけない。でも、やっぱり会社のためを思ったらそういうことをしないといけない。
ただ、最終的にいい社長さんが見つかったのでできている。いまのところ結果オーライなんですが、日本の中ではまだそのプールが少なすぎるというのが最大の課題であって。私にはそこは正直まだ1〜2年後に改善されるとは思えないんです。
仮屋薗:宮田さんいかがですか?
宮田拓弥氏(以下、宮田):いまの話を聞きながら直近目の前で見た事例でおもしろいなと思った話を、いま日本で流行っているオープンイノベーションという文脈で語りたいんですけど。僕らが投資している自動運転の会社があって、そこがちょうど昨日、部品を作っているカナダの大きなティア1(一次請け)と提携したニュースが出たのですが、彼らの創業チームが非常にユニークなんです。
1人は、3年前にニュースになりましたが、自動運転のCruiseという会社を1,000億円で買収したときのヘッドの人間が、GMのCVC(コーポレートベンチャーキャピタル:ベンチャー投資を、事業会社が自社の戦略目的のために行うこと)を経験して創業しました。もう1人のCo-Founderは、トヨタとFordの自動運転のトップだった人間のサイエンティスト。2人で起業したんです。
このAlisynというGMのCVCの女性のキャリアっておもしろいなと思っていて。大企業の人材で、大企業の立場でCVCをしていたんですが、その経験を活かして、連続起業家ではないんですが、タレントプールとしてスタートアップに降りてきて起業した。
要するに、お金を出す側の気持ちもわかっているし、経験もあるし、ある意味で言うと、M&AやIPOを含めていろんなバリエーションが設計できる人が創業COOで入ったんです。
いま、日本でだいぶオープンイノベーションが盛り上がってきていますが、堤さんの話だと、日本ではそんなにオルタナティブな経営者プールができないということでした。ですが、これだけたくさんCVCができていて、そういうところで大企業の立場から投資やベンチャーの気持ちがわかった人がベンチャーに転職するとか起業するといったことが実際にアメリカでは起きています。なので、ベンチャー業界の人材の厚みを作るという意味で、そういったことにも個人的には期待をしたいかなと思っています。
仮屋薗:先ほど、リプレイスされた新しいCEOは、大企業というか、テック系企業のVPクラスの方をアサインされているというお話でしたよね。
宮田:そうですね。私はバーチャルリアリティ投資を2つしかしていないので調べられるとバレちゃう可能性あるんですが(笑)、そういう意味で言うと、さっきの某社は非常に有名な大手企業の副社長クラス。だから50代ですかね。
たぶん彼は0→1をやったことないんですけど、事業責任者として、さっきのリクルートで言うとSBUの担当者として、1,000億単位のビジネスを回したことがあるので、そういう意味で、朝倉さんが言った10×10みたいなことをやれる人がこのタイミングで入ってくる。しかもシリーズBなので、まだ売上が100億あるわけじゃないですから。
そういう意味では、私自身、VCやって5年で初めて見たケースなんですが、おもしろいなと思って見ています。
仮屋薗:やっぱり、リクルーティングも含めた人。我々の提供価値として、お金のみならず、人の部分とか、それからその仕組みという部分を中にインプリしていくというのは相当大事なんだというのは一瞬思ったんですけど。
あらためて人という観点、数が足りないし、流動性、経営人材の流動性は確保できていないという、このかけ算で今そういう状況が生まれているとは思うんですが、ここをどう打開していくかというところが鍵になってきますか?
朝倉:誰の目線で物を言うかによっても変わってくると思うんです。「ここでそんなこと言われても……」って話になってしまうんですが、ただ、本丸の話をすると、政策的な面を言うと、解雇規制の緩和だと思うんです。
人材の流動性をどうやって日本国内全体で上げていくかというところで、どれだけ魅力的な会社であったとしても、やっぱりタレントプールって大企業に眠っているわけです。そういった人が後顧の憂いなく「ちょっと1つ試してみようか」と思うような環境が整わないと、なかなか思いきったチャレンジができないと思います。大企業の中で本来素質をお持ちでありながらも、いまひとつ自分の持ち味を活かせていない人たちの新天地での挑戦を促すことも重要ですね。
もう1つは、より現実的なところで言うと、主に投資家の人たちがどうやって知見を蓄えていくか。経営のシェアードサービスと言いますか、クラウドサービスと言いますか、経営ナレッジをどうやってシェアリングするかです。
例えばの話、孫(正義)さんにとって上場後の苦労話をいまいろんな人に共有したところで、ソフトバンクさんにとっては痛くも痒くもないはずなんです。
大きく成長したスタートアップの創業経営者の方々だって、いろんな失敗をなさっているはずですが、その時の知見を共有されても、痛くも痒くもないはずなんですよね。
そういった方々は思いを持って自分の事業をなさっていて、経営人材として飛び出してくることはまずありません。であれば、それを第三者的なところに知見を提供して新しく出てくる人たちに提供していくような仕組みづくりっておそらく投資家が鍵になると思うんですが、できる可能性はあるんじゃないかと思っています。
堤:それに少し絡むんですけど、さっき「タレントプールってないね」と言ったんですが、冷静に考えると、いわゆる経営者という意味では少ないんですが、例えば急成長した、それこそミクシィやDeNA、グリー、サイバーエージェントなど、そういったところで身近に急成長を実現させた人たちって、すごく再現性があるんじゃないかなと思っていて。
そういう人たちをいまいる会社から引き抜くとかそういうことじゃなくて、そういった人材がスタートアップの幹部が、例えば「じゃあグリーも上場したので、1回、次のところ行こう」というのを含めて、そこらへんは一番有力なタレントプールになるなと思っていますね。
仮屋薗:ここにいらっしゃいます経営者の方々、右腕左腕の方々をリリースするのは大変だと思うんですが(笑)。でも、そういう人たちが回っていくことがエコシステムとしては大事だということになってくるんですかね。
堤:そうですね。実際、僕らの投資先の中でも、そういった急成長したメガベンチャー出身者がCレベル(CEO、CFO、COOなど、経営を司っているレベル)で入っている会社はやっぱり成長しているんですよね。ファウンダーではないんですが、CレベルなりVPレベル(バイスプレジデントなどのレベル)で入れることによってドライブ、成長の仕方を知っているというのがすごく大きいなと思っています。
僕らも、リクルーティングでヘッドハンティングするとき、そういった人たちをピンポイントに探して投資先さんに送り込むみたいなことはよくやりますね。
仮屋薗:大企業から出てくるべきと言いますか、大企業から期待されるものって人材のスピンオフもありますが、日本のベンチャー全体の資金調達額が3,000億円という話をしましたが、VCが半分で、もう半分はコーポレートなんですね。ほとんどコーポレート。ガバメンタルとも言います。
資金面で、これだけ大企業がマイノリティ投資をしていくので、日本は実は非常にユニークな市場だと私自身も思っています。VC協会、VC会員が120社あるうちの3分の1の40社はCVCなんですね。
しかも、直近入ったのがJRさんやJTさん、それから大手電力など、インフラ系のところ。自分でも「あれ? 絶対近いんじゃないかな」と思ったら、住友林業さんのようなところまでCVCで会員に入っていらっしゃって、日本全体オープンイノベーションの総CVC化かなと。
これは絶対すごくいいことで、すべての産業が第4次産業革命でどんどん進化する中で、大企業のみなさんが本気になっているのは、すごくいいことだと思ってるんですよ。
一方で、いま日本のベンチャーキャピタル業界のお金が足りない理由というのは、CVCの方々にはけっこう積極的に出してもらっているんですが、VC業界全体は機関投資家のお金や海外のお金を調達して初めて1兆円ってできると思うんです。
でも日本のVCは明らかにガラパゴス状態で、海外からのお金が1パーセント未満、機関投資家からの調達も全体の1パーセント未満という実は非常に遅れた、開かれていない状況にあります。
仮屋薗:このあたり、堤さんもご自身でファンドレイズはもちろんされていますし、いろんな方とお会いされていますが、この現状、自分で言うのも自虐的で嫌だなと思いながら、どう見ていらっしゃいますか?
堤:率直に言って、たぶんこの4〜5年で日本のベンチャーキャピタル業界はめちゃくちゃ変わっているんですよ。僕も15年ぐらいこの仕事しているんですが、本当に変わっているなって実感としてはある。
一方でヒストリカルに、ベンチャーキャピタルのパフォーマンスという観点で見たときに、マルチプルでファンド総額の3〜4倍、最低、みたいなところを出しているファンドってほぼないんですよね。ほとんどがたぶんね、100……よくて110、120とかです。
「それって景気がいいときにもっと違う投資してたほうがよかったんじゃないの?」というところは、正直あるんです。ゆえに機関投資家がアセットクラスとしてVCを見てくれないのはしょうがなかったのはあると思うんですよね。
なので、あとはもう一方、情報開示も含めて、そこはいま仮屋薗さんたちがJVCAの活動を通してすごく積極的にしていただいているとは思うんですが。
自戒を込めて、VCである以上、圧倒的なパフォーマンスを出し続ける。ほかのオルタナティブな商品と比較しても圧倒的にパフォーマンスを出さないと、そもそもそういうビッグマネーは入ってこない。
じゃないと、いつまでたっても事業会社の方々にある種の「R&Dのお手伝いしますよ」「本来それってVCの仕事なんだっけ?」というようなことをやりながら……。
仮屋薗:身売りというか「魂売り」のようなところはありますよね。
堤:別にそれが悪いってわけではないんです。それも1つのビジネスモデルなのでいいと思っているんですが、僕はやらないです。
この5年で日本のVCがステージ1ランク上がったんですが、もう1ランク2ランク上がるには、やっぱりそういうことをしていかないと、いつまで経っても次のステージに上がらないんじゃないかなとは思っています。
仮屋薗:みなさん、日本のVCがプロ化していないという話だと思うんですが、散々アメリカで揉まれに揉まれる状況から見て、どうですか?
宮田:そういう意味ではアメリカも実は混沌としていて。私が2013年にアメリカでファンド立ち上げたときって、いわゆるシードの100億以下のファンドってたぶん20〜30個ぐらいだったんです。なので、基本的に全員知っているぐらいのシードファンドだったんですが、たぶんいま10倍から20倍ぐらいファンドがあるんです。
結局、もういろんな種類のお金が流れ込んできているので、ファミリーオフィスもそうですし、年金とか大学とかCVCも含め、もうとにかくいろんな種類のファンドがあって、「○○ Ventures」という一般名詞が大量に出てきているので、誰が誰だかわからないというぐらいいます。なので、日本に限らず、アメリカも実はこの5年って混沌としていて、いろんなお金が流れ込んでいるという状況ですね。
そんななかで、私はそこまで日本の状況に詳しくはないですが、基本的にはポジティブに考えていて。私は20年前からこの業界にいますが、当時はいわゆる銀行さんとかのCVCというかファンド部門ぐらいしかなかった時代から、今は大きく変わっています。
そういう意味では、事業とか経営者だった人たちが増えてきてはいるので、比較論で言えば遥かによくなっていると思いますし、人材のプールも含めて、今回のメルカリなんかも経験している(山田)進太郎さんに、上場企業の役員だった小泉(文明)さんがやるような、稀有なパターンも生まれてきているので、外側から見て個人的には正しい道に進んでいっているんだと思っています。
仮屋薗:それこそいま50倍の差があるわけです。年間10兆、Vision Fundと同じぐらいの金額がUSでVC投資されていて、日本は3,000億だという状況。
しかし、よくはなってきているなかで言うと、明らかに規模の差はあるなかで、日本ってやっぱり何か集中したり尖るところに戦略的にアクションを起こさないといけないと思うんですけど、宮田さんから見られて、そこはどこだと思いますか?
宮田:うーん、まぁ難しい質問なんですけど、個人的に外から見ていて2つ思っているのは、1つはやっぱりまだまだ規制がたくさんあって。
今回のAirbnbの民泊の法律というのを片目で見つつ、この1ヶ月アメリカで起こったことの話をすると、実は私の日常の足が急にスクーターになったんです。
サンフランシスコではみんなUberを乗り回してたんですが、急にみんな電動スクーターに乗り始めて、毎日Birdで移動するという時代が来ました。いまのサンフランシスコは、もう路中にスクーターがあったんですよ。でも、1週間前の金曜日にまったくなくなったんです。
何が起きたかというと、一気にぶわーっと増えたので、日本的に「じゃあダメ」と言ったんじゃなくて、それを前向きにするためにルールを作りましょうと言って、いったんやめて、申請を出させて、1週間後にちゃんと免許を出した8社が正式に始めるんですね。
すごい時間かけて超ガチガチの規制を出すんじゃなく、産業を発展させるための規制をこれだけ短期間で出すというのを間近で見ました。
民泊も「宿泊」というものすごく大きいマーケット。スクーターも「モビリティ」という巨大なマーケットですよね。当然それは既存の地下鉄だったり、バスとか車業界とかを破壊するかもしれないですが、やっぱりイノベーションを起こすためにしっかりと前向きなルールを作るというのは、なかなかすごいなと思いました。
なので、ちょっと回りくどくなりましたが、実は民間だけの力じゃなくて、規制という部分でももっとできることはあるなと思っています。
仮屋薗:これ、非常に近いですよね。行政とそれからVC産業、キーパーソンのところも。やっぱりそれだけ密にやっていらっしゃるんでしょうね。
宮田:たぶん5年ぐらい前にUberがまだ規制で揉めているときに、ニューヨーク側の市の当局でめちゃめちゃTechCrunchのイベントでガーって言ってやってたやつが、3ヶ月後にUberに転職したんですよ。
(一同笑)
笑っちゃうような本当の話で、そのぐらいのダイナミズムがあるわけです。やっぱり伸びているし、社会を変えようとしているしという。日本ではないし、なかなか難しいのかもしれないですが。
昔からそうだったわけじゃないですが、このたぶん10年ぐらい、いわゆるソフトウェアが何でもできた時代から一気に規制産業のディスラプトになってきたんです。規制が変わらないとAirbnbもUberも生まれなかった。そういう意味では、実は守る側の人たちがどう変わったかというのも大きいかなという気がします。
仮屋薗:ありがとうございます。
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