2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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藤本あゆみ氏(以下、藤本):「コワーキングスペースをやっているんでしょう?」と、よく聞かれるんですけれど、実はやっていません。このスペースは、東急不動産と作っていて、こういったイベントの企画は東急さんにスポンサードをしてもらいながら、一緒に企画を進めています。いろんなプログラムを含めてこういったイベントをたくさんやっておりますので、またちょっと面白そうだなと思うイベントがあれば、ぜひご参加いただければと思っております。
今日は、タイトルのとおり「Misson/Vision/Valueの創り方」ということで、1回目はいろんなスタートアップの社長に出てもらって、「Mission / Vision / Valueって経営に必要なんだっけ」という話をしています。
その中で、必要なのはわかったけれども、会社によってはその必要性というのが、例えば経営の拠りどころであったり、社員のみなさんとの一つの軸であったり、いろんなかたちで(あります)。
Mission / Vision / Valueは会社にとって有効なんだけれども、「それをどう創るのかが分からないね」「かっこいい言葉ってどう創るんだっけ」「かっこよさってあるんだっけ」というようなところについて、今日は(Mission / Vision / Valueを)実践しているいろんな企業さんからお話をいただきたいなと思っております。
1部・2部と分かれておりますので、さっそく1部のスピーカーのお二人をお呼びしたいと思います。では佐渡島さんと三浦さん、ステージのほうにお願いします。みなさん拍手でお迎えください。
(会場拍手)
藤本:では、このあとは三浦さんにバトンタッチしたいと思います。
三浦崇宏氏(以下、三浦):はい。こんばんは。佐渡島さん、こんばんは。
佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):こんばんは。
三浦:「スタートアップにMission / Vision / Valueは必要か」が(2018年)5月にありました。 非常に盛況で、各社もMission / Vision / Value……。
佐渡島:それも出た?
三浦:それは、ふらっと観客で行っていたんです。
佐渡島:夜はけっこう空いているんですか?
三浦:最近、会社のメンバーがものすごく良くて、わりとお任せ系になってきたんです。
佐渡島:すごいね。
三浦:結果として、うちの会社の社員は誰もここに来てくれていないですが……新入社員さえも来ていないという、非常に孤独な状況なんですね。
(「スタートアップにMisson Vision Valueは必要か」というトークイベントを)観に行って、これはおもしろいなと。必要か必要じゃないかという議論でわりと盛り上がったんです。
佐渡島:必要じゃない人なんてありえるの?
三浦:多少ね。最初の意見で「必要じゃないと思う人」と聞いたところ、手を挙げていない人もぱらぱらといたので。「そもそも、なんでそんなことのために時間を割くんだ」って思っている人もいたのかもしれないですね。
佐渡島:なるほど。
三浦:それでそのあと、「これ、どうやって創るんだ」という話になるんじゃないかという話を我らが藤本あゆみさんとお話しさせていただいたら、「じゃあそれをやりましょう」と。
「三浦さんはそういうのを創るのが得意ですよね」と(言うので)、「わりと商売としてやっています」という話をしたときに……実はほかの場で話しました。あらためて自己紹介しますと、GOというスタートアップのブランディングや新規市場開発の仕事をする会社をやっています。
三浦:僕はもともと博報堂にいたんですが、独立する直前に、佐渡島さんが最初にコルクのMisson Vision Valueを一緒に考えよう、というお仕事をくださって、独立したタイミングでフィーを支払っていただいて、それでなんとか会社が始められたという、ファーストクライアント兼メンターという特殊なポジションにいらっしゃるんで。
佐渡島:いつもそう言ってくれるけれど、「なんとか」というか、本当はすぐ上手くいってたでしょう。
三浦:でも、うちの会社がGOという名前なので、資本金が55万円なんですよ。僕は博報堂にいましたが、趣味は浪費なので、貯金がガチでゼロだったんです。だから、佐渡島さんからいただいたお金でオフィスを借りましたからね。
佐渡島:なるほど。それは嬉しいね。
三浦:なので、わりと本当に、佐渡島さんのおかげで(会社を)始められたところがあります。というところで、「じゃあどうやって作っていったんだ」というところを2人で振り返ろうという……。
佐渡島:何年前だっけ? コルクラボを作ったときにすでにあったから、3年前だ。
三浦:3年前に私が博報堂にいたときに、佐渡島さんのところに行って、「うちのMisson Vision Valueみたいなものをそろそろ固めていきたい」とおっしゃっていただいて。僕、それがすごくプレッシャーで。佐渡島さんは自身が超クリエーターだから、実は最初「えー俺どうしよう」って思ったんですよ。それで、佐渡島さんと一緒にいろいろ対話を重ねながら作っていったというところでしたね。
佐渡島:そうですね。
三浦:もともとあれはなんで、あのタイミングで作ろうと思われたんですか?
佐渡島:なんで思ったんだろう……まあ、必要ですよね。コルクという会社を作ったときに、まず社名にすごく理由を込めているわけですよ。「そのワインが世界中に運ばれ、後世に残るためには良いコルクで栓をするように、作品が世界に運ばれ、後世に残るためにはコルクという会社が関わったほうがいい」というふうにして作って、そこでまず一回すごく思考しているじゃないですか。
それで、そのときの僕の壁打ち相手は、グッドデザインカンパニーの水野(学)さんなんですよ。それでロゴを作ったりというところで、すごく話し合ってもらったりして。クリエイターのエージェント業って世界的には当たり前なんですが、日本には当時ほぼなかったんですよ。アメリカだとエージェントとマネージャーがいて……。
三浦:作家のエージェント業?
佐渡島:そうそう。クリエイターもなんだけれど。エージェントとマネージャーがいて、それぞれエージェント費を何パーセント取っていいのかということが法律で決まっているんですよ。エージェントとマネージャーが同時に同じ内容というのもだめだということが決まっているんです。
三浦:エージェントとマネージャーでも役割が全然違うということが明記されているわけですか。
佐渡島:そうなんです。あっちはエージェント、マネージャー、弁護士、税理士をクリエイターがぜんぶ自分で雇って、それぞれのところでフィーが発生するんですよ。
三浦:自分のチームを作るんですね。
佐渡島:そうなんですよ。その4人はある程度当たったら絶対に雇わないといけなくて、それぞれのところがフィー制だから、最終的に50パーセントぐらいなんですよ。
日本のマネージメント会社って、すごく取るとよく言われています。アメリカもマネージメント会社だけだと15パーセントなんだけれど、それに85パーセントかけ、85パーセントかけという感じでやっていくと、結局は同じくらいで。日本のタレント事務所などでは、そこをまとめてやっていますということなんですよ。
でも、うちの場合、「そこのエージェント費を何パーセントぐらいにしなきゃならないんだっけ」というところを考えて。「インターネットの中だとビジネスの仕組みってどういうふうになっているんだっけ」というところから考えていってエージェントとしての契約書を作る。フィーで食っていけるというのを設計することに、1年前は一番時間がかかったんですよ。
三浦:ビジネスモデルを一つ、商売として形にすることが一番時間がかかるんですね。
佐渡島:そうなんです。
三浦:「コルク」という社名自体に、思想とビジネスモデルがすごく表現されているじゃないですか。 その表現と実態をすり合わせることがけっこう大変だったと?
佐渡島:そうですね。日本ではほかにそういう契約のタイプがないから、出版社を回って契約して、作家にも「そういうもんですよ」と理解してもらって。さらに電子書籍のほうで、僕らが主体として売っていくために、電子書店との契約を作っていって。そういうものを作っていくのに1年ではすまなくて、2年かかったんですよ。
その2年で今度は社員がけっこう増えてきて。社員が増えてきたところで、ビジネスを拡げていきます、というので、エージェントビジネスだけでなく、ファンコミュニティを作ることと、そこで物販をしていくというビジネスを立ち上げたんです。
そこを立ち上げると、今度は社員が「こんなことをやりたくて入ってきたんじゃない」という話をするんですよね。
三浦:そうですよね。最初に僕らがディスカッションしたときのことを覚えているんですが、もともとはコルクって、「佐渡島さんだけの会社でいいんでしたっけ?」というのはけっこう大きな部分がありましたよね。
当時、(佐渡島さんは)『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』ですでにヒット編集者になっていて。
佐渡島さんに憧れている人がコルクに入ってくる。だけど、過去の佐渡島さんに憧れていても、佐渡島さんは未来を見ているから、変化・進化していくときに、「俺が従いたかったのは、この佐渡島じゃない」というような、現実とのギャップが生まれますよね。
佐渡島:そう。それで僕がやろうとしていることって、例えばグッズ屋さんになりたいわけじゃないんですよ。
三浦:はい。グッズは売るけれども。
佐渡島:そう。今、僕が考えていることって……クリエイターの人たちが現実を見て、何か感情が動かされるわけですよね。感情が動かされて、まだ言語化できていないんですよ。それを漫画とか小説というかたちで言語化するわけですよ。
それを助けるというのが編集という作業なんですね。それで、コンテンツというかたちでめちゃくちゃしっかりと言語化した、そのプロダクトが出来上がるじゃないですか。
佐渡島:今の時代って、Instagramとかがすごく流行っているじゃないですか。結局、非言語コンテンツが世界を席巻しているんですよ。
三浦:現状はいわゆるテキストモデルよりも、写真や映像みたいな非言語コンテンツのほうが有力であると。
佐渡島:そう。そして非言語コンテンツは圧倒的な速さで世界中に出ていっているんです。
三浦:速いですからね。とにかく。
佐渡島:うん。それで、例えば『宇宙兄弟』であれば、「挑戦する生き方」というようなものを言語コンテンツとして届けているんだけれども、それを商品にする中で、挑戦する気持ちとかが表れていたり、伝わってくるコンテキストを持った商品になってくるんですよ。
だからデザインが『宇宙兄弟』なんじゃなくて、コンテキストを込めた商品が出来上がると。それを非言語コンテンツとして、世の中に出していくことができます。
今までの編集作業は、言語化されていないものについて言語化するのを手伝うところにあった。それに対して、研ぎ澄まされた言語化されたものを、もう一回さらに研ぎ澄ました非言語コンテンツに変えるという編集作業こそが、今のネットの時代においてもっとも最先端な編集だということに僕は気付いた。
でも、それを社員と一緒にやろうとすると、「ストーリーとか作れるかっこいい仕事をやろうと思ったのに、グッズ作れとか言われて、わくわくしない」と文句を言ってきたりしたんですよ。
三浦:これは佐渡島さんの進化に追いつかないですよね。佐渡島さんはもう、前職の会社員としての編集者時代に、死ぬほど漫画を作って、死ぬほど物語を作って、死ぬほど漫画を売った結果、その先にたどりついている。コルクに入ってきた人たちは、ある意味その過去の佐渡島さんを見ているのに、いきなり未来の佐渡島さんにワープされるから、わりと大変ですよね。
佐渡島:そう。それがね、創業者のいるベンチャーにいくおもしろさだと思うんです。
三浦:実は3年前にちょうどこういう会話を佐渡島さんと2人でしていて。作家を1つの油田に例えたら、商社はもともとはそれをガソリンスタンドに売って車の動力にしたけれども、それだけじゃなくて、今度は消しゴムにしたり、建築の資材にしたり、テクノロジーの進化とともに、石油はいろんなものに変わっていく。
ある意味、編集の作業は、作家の才能をそういうふうに変えていく商社みたいなことですよね、というようなディスカッションを当時していました。思い出してきた。
佐渡島:うん。それで、その見ているものがあまりにも近い未来だから、急激に具体になってきたときに、僕が見ている抽象的な思想が理解できないから、もう一個先の僕が挑戦する、というか。僕が講談社を辞めて、何をやるって(いうのは)、個人事業主になって収入を倍にしたいとかいう話じゃなくて。
三浦:じゃないですよね。
佐渡島:どういうふうにしてエンターテイメントビジネスのビジネスモデルの構造を変えるのかということに挑戦しないと意味がない。それに挑戦すると、クリエイターの生活とか、クリエイターの創るものがどう変わっていくのかとか、そういう世界観を見せないといけないと。
それで、その世界観に、その未来のビジョンに共感して、それを実現するために、変わり続ける人間が集まってくる組織にならないとだめで。ここのビジョンを達成するために、現状やらないといけないことはなんなのか、僕らが課題と思っていることはなんなのかということで、ミッションを明確にすると、このかなり困難なビジョンとミッションをやり遂げるために必要な行動指針とはなんだろうかと。
だから、僕が持っている性質について、ものすごく抽象化すると何になるだろうかということを考えて、共有する必要があるなと考えたんです。
三浦:まさにそのとおりで、佐渡島さんが作っているものを受け止める人ではなく、一緒に変わっていける人、一緒に進化していける人を、当時探していらっしゃったというか。
漫画でいうと、ジャンプの『BLEACH』のボスキャラの愛染のセリフで、「憧れとは理解からもっとも遠い感情である」というのがあって、佐渡島さんばかりじゃなくて、佐渡島さんへもときには批判もあったり、一緒に議論を積み重ねていくための人を集めるための、一番未来の北極星みたいなものを一緒に考えよう、というところからでした。
佐渡島:そうだね。
三浦:僕も当時、けっこう気負いがあって、佐渡島さんはクリエイターとして当時からけっこう実績がある人なので、わりと難しい言葉のコピーを何個か持っていった覚えがある。それで、「なんか違うんだよね。(求めているのは)ちょっとかっこつけていない三浦くんとか……肩に力入ってるよね」ということをいわれて。
三浦:「ディスカッションをおくる」というか、指導みたいなものを含めて繰り広げていって、最終的に落ち着いたのが、「心に届ける」ですね。
佐渡島:そうですね。結局コンテンツというのは、今までは作って、それで終わりだったんです。
しっかりと、相手の感情を揺さぶるようなかたちで伝わっているのかと。そういうところまで設計されているのかというと、設計されていなくて、このSNSとかさまざまなツールを使って、実際にファンと直に繋がれる時代になったら、そういうのをしっかりと伝えることができるよね、と。
一回も会ったことがない人にプロポーズで心を動かすことができるのかというと、すごくむずかしいじゃないですか。それに対して、ファンと直に繋がっているクリエイターが心を動かそうと思うと、そっちのほうがやりやすくて。
本当はインターネットをフル活用したほうが絶対によくて、心の表層のところをちょっとざわつかせたんじゃなくて、心の根っこのところを揺さぶったという経験を僕らは世間に対してどれだけできるのか、というところで挑戦する会社だから。そうすると今までは本を届けるというのが、出版業界だったんです。
三浦:そのオブジェクト、物体を届けることがもう出版の目的であり、ビジネスモデルになっていたけれど、本来の出版業が目指しているものは本というプロダクトに拘るんじゃなくて、コンテンツ。かたちはなんでもいいからユーザーの、読者の心に届けることこそが、出版社本来の本質的な価値だという議論でしたね。
佐渡島:そう。だから、そもそものパブリッシュするという行為は、クリエイターの考えていることを世間に対して公にするっていう意味で、たぶん、インターネットによってすべての産業が本来の、そもそもやろうとしているものへと戻っていくはずだと考えていて。
三浦:インターネットは進化という目でみると、どんどん多様化していくんだけれども、ありとあらゆる中間業者や物体の制約を除くから、すべてが本質的なものに立ち返るんじゃないかという議論でしたね。
佐渡島:そう。だから、一対一のコミュニケーションが可能になってくるだろうと。それで、それをツールの力を使って実現する会社になろうと思って。こういう議論を深めるということを三浦くんと何度もやらせてもらって、本当に三浦くんから上がってくる言葉が、僕がいろいろ言った具体とかを一回抽象化した言葉にしてくれているんだよね。
三浦:はい。毎回佐渡島さんから、例えば「うちの社員が、メールじゃなくて、Twitterとかでもなくて、ユーザーの方にグッズの当選の結果を直接お電話したら、すごく喜ばれたんだよね。僕らって、単なる本やデジタルコンテンツに拘らないで、ありとあらゆる手段を使っていくことでも気付かされたんだよね」というような話を受けて。
「ああ、確かにそれって出版とかコンテンツビジネスの本質かもしれませんね」という会話をして、しばらくすると「例えばこういうことはどうでしょう」というコピーを作っていって、そこで議論を深めていく。
抽象と具体を行ったり来たりするという繰り返しでしたね。コピーライターとかプロのクリエィティブの人間に頼むと、その瞬間、ぽんと出てくるって思われている方ももしかしたらけっこういるかもしれないんですが、対話を深めていく中で、お互いに握手できるというか、佐渡島さんなり、経営者の方が、一番表現したい世界観を見つけていく作業に近いと思いますね。
佐渡島:うん。あと、言葉って共有のものじゃない。その言葉を自分の頭の中で何度も思考していると、自分なりの意味がそれぞれの言葉に付加されていっちゃって、その付加されている言葉と世間の言葉のズレになかなか気付けないから。例えば僕がなにかを言ったときに、その言葉を三浦くんが記憶してコピーに直したら、実は僕が言った言葉を違う言葉に変えているの。
それで、「こういうふうに記憶を変えてしまうということは、僕の言葉の使い方が特殊だったんだな。だとしたら、その特殊なところに個性があるから、これがしっかり伝わるように言葉を補足しよう」というふうにして、僕の使う言葉と世間や社員の受け取りのズレに気付ける。
だから、喋って書いてもらって、書いたものを見てそのズレに気付いて、もう一回修正の会話をして、直してもらって。またそれを見て、もう一回喋って直すことを繰り返していって、最後の最後に書いてもらったものを結局はぜんぶ書き直すことで、ぜんぶ僕の言葉にするんだけれど、下書きを何度もしてもらう行為なんですね。
三浦:そうですね。最終的に決まった「心に届ける」というコルクのミッションの言葉は、僕の観点から見てすごく優れていて、大きく二つの機能があるんですよ。一つはコルクって当時、ある意味、佐渡島さんが出版業界のホリエモンみたいに見えていて、デジタルとかテクノロジーを使って、出版ビジネスをガラッと変える黒船みたいに見えてしまう。それって、本質論を追求するタイプの佐渡島さんにとって、ある種、損な部分があるんじゃないかって話をしていて。
出版の本質である「心に届ける」ということは、そんなに外れたものじゃない。そんなに破壊者でも、そのアップデートをするだけであって、本質では出版業が変わっていないですよと。そこを受け止めてアップデートしていく存在なんですよということが、出版業界の外側からは見えると。
一方で社員からは、例えば「メールを一本送る」「プロダクトを一つ開発する」「出版のコンテンツの表紙を考える」というのも、すべてユーザーの心に届くものになっている、というアウトプットのクライテリアになるんですよね。
基準というか。これが心に届くものになるための工夫を一歩深めるための武器にもなっていると。その対外にも、対内側にとっても機能する言葉になったな、ということが僕が最終的にすごくいいなと思ったところで。
佐渡島:うん。あと、基本的に僕、人間って自問自答をして成長すると思っているんですよ。その自問自答のし方が似ている人たちって、同じ方向に向かうことができるだろうなと。自問自答した結果の答えが人ごとにちょっとずつ違うから、それによって個性が表れて、おもしろい協力体制が生まれるだろうなと思っていて。
例えば、コルクだったら、「これってしっかりファンの心に届いているかな?」「これってファンに届くような書き方になっていますかね?」「これ、今回ファンに届くような下準備ができているかな?」「今回しっかりと届いたか分析しよう」。
それから、「自分の強みをさらけ出せているかな」「自分の弱みを仲間に話せているかな」「今回のプロジェクトってやりすぎることができたかな」「今回のプロジェクトってしっかりと仲間を巻き込めたかな」と。コルクってぜんぶ「心に届けられたか」。それで最近、「心に届ける」のあとに「好きを熱狂にする」というのを打ち出した。
だから作品によって、それを好きになっているんだけれど、さらにそこに自分の人生が関わってくるように熱狂すべき存在へとするためのなんらかの刺激をうちの会社が与えられているかな、と。
「それで」というかたちでさらけ出して、やりすぎて巻き込む。一番はじめに他人と情報共有をしないと動き出さないので、この順番で自分の行動を振り返ることができるんですよ。
三浦:コルクの行動の基準を三つ決めていて、それが「さらけだす」「やりすぎる」「まきこむ」という三つの行動指針になっている。これも一緒に考えさせてもらいました。
佐渡島:うん。それも一番はじめに「俺って今さらけだせているかな」「プロジェクトが進み出したら、俺ってやり過ぎれているかな」と。それで途中で「俺って1人で動いていないでしっかりまきこめているかな」というふうに思うと言うので、大きい目で見ると心に届けて好きを熱狂にできているかなという問いをして、この三つの(行動指針にしました)。
三浦:プロセスの過程においては「さらけだせているか」「やりすぎているか」「まきこめているか」ということが検証のチェックツールになっていますよね。
佐渡島:そう。この順番もぜんぶ大事っていう感じですごく設計している。
三浦:実は「さらけだす」「やりすぎる」「まきこむ」って、すごくシンプルな言葉で、誰でも使える言葉なんだけれども、実はものすごくインターネット的ですね。
インターネットの世界では嘘やごまかしがあると、それはバレてしまうし、ちゃんと正直なものや本音のもののほうが受け入れられるし、伝わる。本当に作り込まれた、時間やお金や熱意がちゃんとこもったコンテンツしかちゃんと残らない。
無料のコンテンツが溢れている中で、「お金がかかっている」「誰かが勧めた」という前提には、「やりすぎる」という1人の熱狂、1人のアクションが必要なものになっていることが含まれている。
最後にまきこむということも、インターネットを通じて一つの呟きが何十万人を熱狂させることがあるように、周りの目に見える距離の人間からどこか遠くにいるユーザー、あるいは世界のどこかにいるファンを含めてまきこむきっかけになるか、ということがぜんぶチェックできているということですね。
佐渡島:うん。さらに、一緒に考えていくときに「さらけだす」という言葉がいいのかどうかをけっこう話したじゃない。
三浦:そうですね。ちょっと言葉として語感がどうなんだろうとか。
佐渡島:強いとかね。
三浦:はい。拒否感を示す社員の方もいらっしゃるでしょうねとか。そこのけっこう繊細な言葉のチョイスもかなり議論になりましたよね。
佐渡島:うん。さらけだすっていうことを露悪的に、自分の下品なところを言わないといけないって勘違いする人がいたら、その勘違いでもう面接を落とせるからちょうどいい。
三浦:ははは(笑)。わりと経営者としてのシリアスな判断で、スピードが早まりますよね。 そのMisson Vision Valueというところで言うと、経営判断のスピードが早まるということは、かなりありますよね。
佐渡島:うん。うちの会社の文化に合っているかというときに、面接しながら「この人は自分をしっかりさらけ出させるかな」「何かにはまったときにやりすぎれるかな」「しっかりまきこんでやれるかな」というこの三軸でずっと人を評価していくから。 だから、そのさらけだすというのは、本当は正直になる(ということ)。
三浦:はい。言葉としては意味があっていますけどね。
佐渡島:うん。なんだけど、実は「俺って正直か?」と聞く人は、自分自身にいっぱい嘘をついてしまうから、「自分に正直か?」と聞くとけっこう……。
三浦:自分自身にめっちゃ嘘をつきますよね。
佐渡島:そう。辛いときって絶対にそういうことが起きちゃうから、その自分に対して正直かって聞いたら、「イエス」って意外と答えちゃう。
正直じゃないという人もイエスとなる。僕がメンバーに「お前、それ本当に言っているの?」って聞いたら、「言っていますよ」と言って会話が終わってしまうと。でも、「お前、さらけだせよ」と言われたら、「さらけだしていますよ」と言って黙るわけにはいかないから。
「お前は正直か?」と聞かれたら、「正直だ」と言って、会話がそれで終えられるんだけれど、「さらけだしているか?」だと、終えられないから。
三浦:何を、どこらへんからというような話を膨らませていくよりも……。
佐渡島:そうそう。「それ全然さらけだしていることになっていない」ということになる。それで会話をしていると、問題点が明らかになっていって、助けてあげることができる。
結局、メンバーって自分の弱みを言えなかったりするから、上から無理やり吐き出させてあげる、(そのための)言い訳みたいな言葉が必要で。「さらけだせよ」っていうのは、(自分が)弱って言わざるえないような(ところがあって)。
でも、「言われたから言っただけです」というようなことをメンバー側が(言い訳に)できる。そういう問いかけとして、混ざり物が少ないタイプの言葉を選んだりしましたよね。
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