2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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水野弘道氏(以下、水野):さきほどの事前の打ち合わせのときに、上場してからの持続的な株価の上昇といったことが必要だという話が出たのですが、上場する際に1兆円である必要はないですし、アメリカでもそうではないと考えたときに、上場後の持続的な成長を阻害する要因はあるかを考えた方がいいと思っています。
その要因は、経営上の要因ではなく、投資家や銀行など、いわゆる資本市場とベンチャーとの関係性において、どういう阻害要因があるかです。
上場後に継続的に株価を上げていくために、日本のベンチャーとその資本市場の関係性において足りないことや、ここを改善しないと今後も状況は変わらないことがあれば、どなたか答えていただけないでしょうか。
小沼泰之氏(以下、小沼):プロの投資家による、これから伸びそうな会社に対するアプローチ、対話、コミュニケーションが、上場すると圧倒的に減ってしまう問題があります。さきほど話題にあがりましたが、マザーズでも個人(投資家)がたくさん入ってきて、そうなるとアナリストも、良い利益、良い赤字をきっちり伝えられないところもあるかもしれません。
個人はそういった部分を受け取らないというようなことがあるため、どうしてもマザーズに上場したあとも「利益がどれだけ上がってくるか」だけが頼りのようなところが出てきてしまうんですよね。そのへんが、もっとプロに近い人が上手にアクセスして発信してあげたりすると少し変わってくるんじゃないのかなとは思いますね。
水野:清水さん、武田さん、どうですか?
清水時彦氏(以下、清水):結局マザーズは個人投資家のための市場であり、そこに機関投資家はなかなか入ってこないと思っています。何が問題かというと、上場のマーケットが機関投資家マーケットと個人投資家マーケットに分断されていて、ちゃんとコネクトしていないというところですね。
そこをなんらかのかたちでつなげるということ。これはまさに市場自体をディープにするということだと思うのですが、やはりそれをやるべきだと思っています。例えば、海外のベンチャーキャピタルは上場しても売らないですよね。なぜかというと、上場後のほうが伸びるとみんな知っているからです。
ところが日本のベンチャーキャピタルは、逆に全部売っちゃうみたいなところがあります(笑)。そこは機関投資家的な部分も含めて、なるべく海外のような動きになるように持っていくことをすべきだろうなと思います。
水野:売ってしまう理由の1つとしてファンドの期間というものもあると思います。上場のときに優先株を普通株に変えさせられるというプラクティスが原因じゃないかと考えていますが、そこはどうでしょう?
清水:そこはむしろ、小沼さんがどう考えているのかなと思っていますけれど。
(会場笑)
小沼:優先株の中身次第ではあります。一般的なプラクティスでいうと、上場すると少数株主が出て、その少数株主と優先株主の間のガバナンスの歪みがあるのかが最大の議論になります。
日本でも種類株で上場したのはサイバーダイン株式会社だけで、これは国際的にも大きな議論になっています。今はむしろアメリカアゲインストになっていますが、そういうところがある意味でネックなんですね。
水野:今はマーケットプラクティスとして種類株を持っているベンチャーなどを変えさせているのですか? それともルールなんですかね?
小沼:たぶん明確なルールで禁止しているということではないですが、実態として特定の株主が議決権の多い株式を所有をしている場合には、上場審査でネガティブになるというのが実態だと思います。
水野:小沼さんがおっしゃったのですが、欧米ではこれが大きな議論になっています。Snapが無議決権株式で上場したため、それをS&Pや MSCIのインデックスに入れるべきかというところで、ものすごく議論になっているんですよ。
個人的な考え方としては、無議決権だけで上場することは、上場して買った人に一切経営への参加権は与えないことで、これはちょっと無理があるんじゃないかなと思っています。
Alphabetみたいに、(議決権のあるものとないものの)両方を出すことはありえるかなと思うのですが、清水さんがおっしゃったように、ずっと持ち続けるというか、ある程度の成長を共にするようなベンチャーキャピタルを作ろうとすると、そこは(議決権を)持てるようにしなければ難しいかなという気はしています。
水野:今の話に戻りますが、上場前後にいろいろなことが起きると思うのですが、上場前後のM&Aがないのは、どういうことなのでしょう? 上場1年前くらいから、上場のルールなどがいろいろあるのだと思うのですが、M&Aが止まって大きなストラテジックな動きが完全にストップしたように見えます。そこはどう思われますかね? どなたに聞くのがいいでしょうか。
武田純人氏(以下、武田):M&Aについては、さきほど事前にディスカッションさせていただいたなかで出てきたテーマの1つです。日本のマーケットのイグジットがIPOに寄っているところは、もうずっと議論されているお話です。これもニワトリと卵の理論で、イグジットとして別のかたちも増やしていくしかないと思うんですね。
ただ現状、イグジットにIPOが寄っているということで起こっている弊害の可能性は、先ほど申し上げたような経営の自由度が上場審査の前後のタイミングで強烈に狭まってしまうところですね。
これはもしかしたら、メガベンチャーを輩出していくなかで一番大事な時期に経営の自由度がなくなる。具体的にどういうことかというと、新規事業ができなくなる、赤字を掘れなくなることがあるのではないでしょうか。
僕らは出てきたあとにその会社の評価をするのですが、「もっとここを踏んでいてくれたらよかったのにな」など、個人的に思うことがあります。もちろん、継続的なかたちでの成長を喜ぶ人たちがいるということはよくわかったうえで、たくさんの会社を見させていただいている我々からすると、例えば決算書のガイダンスなどを見たときに、「この会社は、なんでここでもっと踏まないんだろう」と思うことがあります。
清水:今日の「1兆円」という話だと、なぜか上場というのがポイントになるのですが、別に上場というのは1つの過程であって、それにこだわるというのは……つまりこういう話をすると、なぜか上場に焦点がいくということ自体が、実は論点として違うのではないかと思う部分もあります。
それを前提に、あえて、上場前の問題で気づいたことを申し上げると、まさにM&Aの部分で、非上場のいわゆるセカンダリーマーケット海外では確立されています。ファンドであったり、あるいはM&Aであったりと、イグジットする企業や、あるいはグロースしているベンチャー企業が、いわゆるノンオーガニックなかたちでグロースするという意味において、M&A戦略をしばしば使っているわけです。
そういうところを、我々はもう少し深掘りする必要があるでしょう。これは背景として厚い投資家層ということになるのでしょうから、そこは水野さんにがんばってもらいたいなと(笑)。
水野:振られたので、振り返します(笑)。
(会場笑)
水野:さっき質問しようと思って忘れてしまいました。あらためて、ベンチャーキャピタルやファンドのサイズ、投資キャパシティの話に戻したいと思います。例えばアメリカですと、たぶんNASDAQやNYSEの上場企業がだいたい7,000社弱くらいで、プライベートエクイティとベンチャーキャピタルが持っている会社が8,000社くらいという状況です。実は、そういうプライベートな投資家が持っている会社のほうが数が多い状況になってきています。
日本でそのプライベートなセカンダリーマーケットを作るには、それ以前の問題としてプライベートの投資家がある程度キャパを持っていかなければいけないと思うのです。今、日本のベンチャーキャピタルでは、多いところでもおそらく数百億円くらいの規模だと思います。
一方でシリコンバレーでは、ソフトバンクさんに刺激されてということだと思いますが、Sequoia Capitalが数千億円規模のファンドを設立するので、どんどんサイズのスケールアップが進んでいます。
日本では、そうしたプライベートな投資ファンドのスケールアップはどういうきっかけがあればできるのでしょうか? GPIFがやるのは置いておいて(笑)、それ以外の方策はありますか?
(会場笑)
清水:これも結局、卵が先かニワトリが先かということになると思いますし、答えになるのかどうかは別として、本質的にはやはり人だと思いますね。
最近のベンチャー企業が非常に将来性があるなと我々が思う1つの理由というのが、まさに人材です。優秀な人が上場企業よりもベンチャー企業に行くわけですよね。これはもう明らかですよ。とくに、本当に若くて優秀な人でも、上場企業を選ばない。それ自体が一番の証左だと思います。
そういう観点からすると、もうすでに動きは始まっているので、あとは機敏な投資家がその動きに早く気づいて、それに向けた戦略をどう展開していくかが重要です。企業のほうもそうだと思います。
水野:確かに、そこは本当にニワトリと卵の話です。この1兆円の話ではないですが、投資先の企業のサイズが大きくならないことにはベンチャーキャピタルのサイズが大きくなりようがないですからね。
毎年ベンチャーキャピタル協会の総会で挨拶させていただいて、エールを送っているのですが、機関投資家がどれだけお金を出せるかという以前に、その器となる投資先の企業のサイズがある程度ないと、ベンチャーキャピタルが1つのファンドで100社に投資するといったことはできないので、自ずとサイズが決まってしまうんですよね。そこは最初のところに戻って、どうやって企業の規模を大きくするかという話になっていくのではないかと思います。
水野:企業規模の拡大方法という観点で、一番最初に武田さんがディスラプト、ディスラプションという言葉があまり好きではないということを言われましたが、実は私も最近、GPIFで同じことを言っています。
「GPIFはユニバーサルオーナーだから、インダストリー内のゼロサムの競争では1社が上がってもほかが下がるから効果がないんです」ということ言っています。全体が上がってもらわなければいけないのです。
そうすると、企業価値を上げていくにあたって、ディスラプト、ディスラプション以外に、実際どういう方法があるのかということになると思いますが、武田さん、どういうことをしたら上がるのでしょうか?
武田:それにお答えできたら、僕が会社を立ち上げてみなさんに投資していただきたいなと思うところで明確な答えはありません。単純に申し上げると、まずイメージが湧きやすいのは、外の市場というところでよくある話ですよね。
日本の市場だけではなく世界の市場です。それだったらゼロサムでも取れるのであれば増やせるよね、という議論になります。
ただ残念ながら、なかなか日本のベンチャーで海外の市場を取ってきたというトラックレコードの認識がたくさんあるわけではないですから、ここは非常に難しくなっていますね。
そして、これは表現としては逃げ口上のようになってしまうのですが、やはりイノベーションかなと思っています。例えば我々がふだん3食食べているところを、健康に生きながら4食食べるみたいなことです。
そういったかたちで、先ほど申し上げたように市場全体を大きくしていくようなソリューションであったり、サービス、テクノロジーといったところを日本のなかで作っていくことを、僕はまだ諦めではいけないと思っています。すみません、非常にぼやっとしているのですが、外の市場か、国内にない市場を作って、みんなで幸せになるしかないのではないかと思っております
水野:今まさに上場しようとしていて「日本のマーケットを深掘りします」というものと「国際的に横展開します」というものでは、今のところ投資家の評価はどうなるのでしょうか?
武田:グローバル投資家においては、明確に前者ですね。これは残念ですが、日本の企業が海外で勝てるとか、海外の市場を取るかたちで数量成長ができるという認識はほぼないと思っていただいたほうがいいと思います。
この1年半、国内で日本のインターネットジャイアントと認識されているヤフーと楽天の株はぜんぜん上がっていないんですね。一方でグローバルのテック系のジャイアントは株価が上がり続けているわけですよ。
この背景として共通していることは、「もうそれらは(市場を)取られるだけじゃん」みたいな議論です。そういう意味では非常に乱暴な議論なので、これはファクトさえ見つければ、ストーリーさえ見つければ、僕はひっくり返せると思っています。だからがんばりたいなと思っているのですが、多くのグローバルの投資家はそのように言っています。
ですので、先ほど申し上げたように、「グローバルのテックジャイアントが基本的に(市場を)取っちゃうでしょ」と思っている人たちのなかでも、「ここは取れないんじゃないか」というかたちでフラグが立つ企業は、日本の中にもやっぱりあるんですよね。そこに一点集中的に人気が集まってしまっているというのが、今の新興系、テック系、ベンチャー系といったところの株式市場におけるグローバルのなかでの日本のトレンドなのかなと思っています。
水野:要するにトラックレコードがないことは、誰かが国際的な横展開に成功すれば、次からはそれもバリュエーションの一部になるということですよね。
武田:まさにそのとおりです。
水野:なるほど。それはぜひ小泉さんにがんばっていただいて(笑)。
(会場笑)
水野:確かにトラックレコードがないと機関投資家は弱いです。自分でも、機関投資家はダメな生き物だと思っています(笑)。社内や答申会での「トラックレコードがないよ」という言葉のインパクトの強さが、この業界全体の弱点だと思っています。そこは起業家にもがんばってトラックレコードを作ってもらうことだと思います。
武田:もう1個だけいいですか? 今のお話に関連したすごくわかりやすい事例をあげると、海外で成功事例があると、そのアナロジーで日本で同じことが起こっているところに対して、強烈にお金が入ってくるのが今のトレンドなんですよ。
例えば、中国でキャッシュレスの流れが起こっているので、同じようなことに取り組んでいる会社には、バリュエーションを無視した大きなお金が入ってくる。そういう意味でのアナロジー、トラックレコードもあるでしょう。
水野さんがおっしゃったみたいに、我々は、ふだんお話をするグローバルのマーケットの人たちにわからないことはリスクだと思っているので、当然投資をしないとなるわけです。彼らが踏み出しやすいのは、母国のマーケットで起こった事例が日本でも起こっているような場合です。逆に言うと、日本でユニークに起こりそうなところは、我々ほど深く調べずに、どんどんお金を入れてくるのが現状だと思います。
水野:小沼さんにお伺いしたいのですが、海外という点でいうと、LINEさんがニューヨークとのデュアルをやった(東証とNYSEに同時に上場した)ときに注目を集めたましたよね。そのあとは、あまりそういう事例は出ていないのですが。
たぶん、証券取引所間の競争みたいな意味では、JPXさんも当然NASDAQなどを研究されていると思うのですが、小沼さんから見て足りないと思うところはどこでしょうか? 証券取引所が足りないとかではなく、投資側の足りない部分や企業側の足りない部分でもいいのですが、いかがでしょうか?
小沼:アメリカと戦おうと思うと、いろいろな意味でのダイナミズムが足りないんだろうなと思いますね。LINEが上場したあとで、毎日毎日NYSEとうちとでどちらが売買できているかなとチェックしています。今はなんとなく、まだ負けてはいないなという感じではあります。
水野:そのくらい近いのですか?
小沼:上場以来、1日でだいたい20億、30億円の売買が両方でできていると認識しています。あれは良い事例だと思いますね。日本で(東証に)上場していただくときに、「海外で上場するのはやめなさい」とは一切言っていません。証券界の人たちは手間が多くて大変かもしれません。裁定が働くかもしれませんし。
やはりダイナミズムと、さっき人材の話がありましたけれども、人材のクロスオーバーというのが足りなくて、そのあたりがこれからの日本の会社が良くなるヒントじゃないかなと思います。
ガバナンスコードのなかで「社外取締役を増やせ」と言っています。あれは国際投資家から「日本流の経営がおかしいんじゃないか」という非難があって、それでそういった話をしているのです。私は、新興企業が社外取締役に投資家や上場企業の役員なども入れられるような仕組みができるといいなと思っています。
水野:ありがとうございました。
水野:全体討議に移りたいのですが、その前に、今小沼さんに話してもらいましたので、今度は清水さんと武田さんに、お二人の立場から「ここを今後直していきたいとか、変えていきたい」あるいは「変えてほしい」と思ってお仕事をされていることがあれば、ぜひ伝えてもらいたいと思います。
清水:ピンポイントになりますが、我々自身の投資のフォーカスは、誰もやっていなくて、競争がないところを見つけてそこに投資することです。これは例えば、テクノロジーやグロース、あとバイアウトのあるところなど、日本のマーケットに足りないところ、ですね。その部分に投資して、日本のマーケット自体がシームレスな深いものになることによって、マーケット全体が良くなるだろうと思っています。こういう仮説のもとに投資しているということが1つあります。
そういう観点からすると、ピンポイントですが、Silicon Valley Bankなどがよくやっているような、レイトステージのベンチャーへの融資をきちんとやるプレイヤーというのが必要です。起業家のアンチダイリューションの問題も全部そこで解決するので、ちゃんとやってもらいたいなと思います。これは我々ができないところなので、ぜひどなたかにお願いしたいところです。
水野:武田さん、何かご意見はありますか?
武田:まずお願いしたいなと思うのは、産業の方たちに、誰にも取られない市場を見つけていただきたいと思います。僕らは実体のないところには評価も投資もできませんから、まずはそれが大前提だと思っています。ですので、みなさんにはまずそれをお願いしたいというのが1つありますね。
今日、せっかく小沼さん、清水さんがいらっしゃるのでお伝えしたいと思います。まず小沼さん、東証さんといいますか、取引所さんにはさっき申し上げたように、上場審査なども含めて、日本に対してリスクテイクしていただきたいです。こういう機会でもないと申し上げられないので、ぜひお願いをしたいと思います。そして清水さんに対しては、大きな投資と長く並走をお願いしたいと思います。
その意味で、さっきのニワトリと卵の議論になるのですが、結果を作っていくしかないわけです。ただ前提としては、こっち側と言いますか、産業側に本物がないと、やったらやったで逆にリスクを取って終わってしまうという話になるのですが……。自分が何をやるかというところに関しては、これから3ヶ月くらいでしっかり考えていきたいなと思っております。よろしくお願いします。
(会場笑)
水野:ありがとうございました。
水野:では全体討議として、会場から質問を受けようと思います。
(会場挙手)
今4人が挙手していますから、その4人からの質問を短く伺わせていただきます。
質問者1:お話ありがとうございました。先ほどグローバルのテック大手に取られない市場というお話がありましたが、具体的にはどういう会社であれば取られないと言えるでしょうか。
また投資家に対してどうコミュニケーションをとれば信憑性が増すのか、という2点を教えていただければと思います。
質問者2:1つは上場基準をもう少し明確にするのがよいと思います。大学の入学試験みたいに、入るのが大変で、でも一旦上場すると、入ったあとはわりとゆるいみたいな印象があります。
(会場笑)
もう少し出口をはっきりさせて、入口を入りやすくして循環しやすくしてもいいのではないかと思います。日本の上場企業数があまりにも多すぎるなかで、選択と集中を行ったほうがいいのではないでしょうか。
最後に、僕はもう少し持ち合い株をガバナンスの強化とセットで行い、少し長期投資ができるような市場ってものを作っていく方策を検討してもいいのではないかと思いました。
質問者3:最近思っているのは、上場基準の開示の問題について、若干整合性が取れていない思います。例えば数年前、通常はスモールキャップの案件だと、そのときの業績予想を出さなければならず、直前で下振れし、その後突き上げをくらいました。
一方で、メガキャップに近いところは、今期の上場予想は出せませんという回答になり、そこの整合性が取れていないと個人的には思っています。
またロードショーベースでは、機関投資家にはたぶんその後ろの数字が見えていて、プレマネーでできたマーケットの大きさとポストで出てくるところの情報の整合性があまりにも取れていないということだと思います。
もう少しわかりやすい話をすれば、エクイティストーリーを今期の業績といった短期のものだけではなくて、長期、中期のものまで出してもいいのではないかと思っています。
それがある意味でマーケット、投資家保護の観点からあまり信用されていないという部分があり、キャップが伸びないというところもあります。そこは今後、東証として開示の議論においてどういうお考えをお持ちか伺いたいと思っています。
水野:じゃあもう1つの質問を伺ってから回答します。
質問者4:ベンチャーキャピタルをやっているなかで、まさに今日出たようなお話と同じく、1兆円企業を作るために各プレイヤーが少しずつリスクを取るという点が足りないのではないかといった感覚があります。
ベンチャーキャピタルもガッツがなくて投資金額が少ないとか、上場後は(株式を)持たないといった話もあれば、ベンチャーキャピタルの背後にいる投資家も、ベンチャーキャピタルが長く持ち続けることを許容しないとか、ベンチャーキャピタルに対する投資額が少ないとか。東証さんは上場時の基準、運用上の基準があるとか、あとは上場後は投資家も利益を重視して赤字を許容しないみたいな話もあると思います。
それぞれの立場で、全企業に対してあらゆるリスクを取れとは決して思わない一方で、ここぞというところで、よってたかってショーケース案件を作るのは、ロールモデルを作るという意味ですごく大事だなと思います。
メルカリも、その役割をある程度果たしたと思いますので、それぞれの立場で、こんなリスクであればギリギリ取れるというものを聞かせてください。せっかくのG1なので、ぜひ前向きな行動指針をお願いします。水野さんもぜひお願いします。
水野:では、(質問者4の質問は)みんながそれぞれどういうところでもう少し思い切ってリスクを取れるかということですので、最後に全員が答えましょう。その前の3人の方々のご質問、それぞれ自分が対象だと思われるものに答えていただければと思います。では小沼さんからでいいでしょうか?
小沼:私は2番目と3番目のものにお答えします。出口の基準ですよね。もう東証一部が2,000社を超えてしまい、会社が多すぎるという点で問題意識があります。
逆三角形になっていますよね。現在はとりあえず、ガバナンスコードとスチュワードシップコードをうまく運用して、投資家との対話のなかでいかに会社にがんばってもらうかということに主眼をおいて動いています。もしその逆三角型構造を考え直すということになると、たぶん何らかのかたちで、もう少し住み分けを変えていく、あるいはその2,000社あるなかの一部で、さらに高みを作っていくなどでしょうか。
そして、そこに行けない会社はもっとがんばらないといけないという状況を作っていく方法もあるのかなと思います。本当は2,000社をずっとローリングで審査していけばいいのですが、なかなかそれは現実的ではないというなかで、本当に悩んでいますね。とくに、ガバナンスコードが導入されたが、どうしようかといった会社に、いかに真剣に取り組んでもらうかですね。今はまだ具体的にこうしますとは言えないのですが、大きな問題意識として持っています。
それから、開示の問題はいろいろなアイテムでいろいろな開示があって、おっしゃっていたようなご指摘の開示の整合性で「この部分は整合性がとれていないんじゃないか」という部分はあるのかもしれないですね。そういうところをしっかり我々も見ていかなければいけないですね。
武田:では、(質問者1に)僕がお答えしないといけないと思います。ご質問ありがとうございます。たぶん、答えはないと思うのですが、先ほど申し上げたように、取られない市場というところで、もし我々が最短距離で考えていくとしたら、やはり日本に根ざしたかたちのものだと思います。
一番怖いディスラプターは、普通に考えるとグローバルトップのプレイヤーです。彼らがやりにくいところから逆算したときに、まず日本でしかできないこととかですね。もちろんグローバルに市場があれば、そこへ行ってもいいとさっき申し上げましたが、まずはその観点で考えてみることが一番ではないかなと思います。
自分自身のアイデアがないものですから、どういうところなのかはなかなか申し上げられないのですが。あとは、そのマーケットを自分で作った、押さえたと思った瞬間に、どうコミュニケーションをとるのかという部分に関しては、「もう自分たちが取りました。ほかの人たちはやっても無駄ですよ」というところを、数字のファクトとともになるべく早く伝えきってしまうことかなと思っています。
もうお時間がないので今日は詳しくお伝えできないのですが、そういうことをとても上手に行っている会社さんを何社か知っています。(上手に行えるのは)コミュニケーション力だと思いますし、自分が伝えなければいけない人たちが何を知りたいのかということをわかったうえで、自分たちが行っているビジネスのことを伝えるかどうかです。
結局、ただ資料を開示して、「資料を出しているから伝わるよね」ではないんですよね、きっと。伝えたい人をはじめ、ほかの人たちがこれを聞いたら腹落ちして、もうやらなくなるというような伝え方があると思います。しかし、そこは日本の市場として、みんなで考えていかないといけないと思います。もしお時間があればお話しさせてください。
清水:1つ考えているというか、実際に投資を開始して感じることをお伝えします。まずは、多くの日本企業が、グローバルで通用するようなテクノロジーを持っているというのは非常によくわかりました。
実際に投資するところもいくつかあるのですが、ほとんどが日本ベースではありません。これは調達も含めてだと思うのですが、日本には(そういう企業は)あまりいないです。逆を言えば、日本で調達環境が悪いということであれば、さっさと海外に行ってしまったほうがいいのかなと思います(笑)。
ただ一方で、我々の会社というのは日本の企業ですし、負債も円なので、そういう意味でシリコンバレーが何をやっているかという部分もよく見ながら、日本のファンドがやっていないようなことにフォーカスしてやっていこうと思っています。
水野:(質問者4の)質問にあった、「それぞれがもう少しリスクを取る」というところで、何かできることがあればお答えください。
武田:僕の立場というか、仕事的には、先ほど申し上げたように実体のないところを推奨できない。そういう意味では、僕は探すしかないですね。ですので、最初はリスクは取れません。とにかく探し続けます。いろいろな会社と会い続けて、経営層と話し続けて、イノベーションを起こしそうな、新しい市場を切り開きそうな会社を探すことが、まず僕がやらなければいけないことだと思います。
この会社だ、この経営者だ、このマーケットだ、ということを信じるまでに至ったら、そこからはリスクテイクをしてアホみたいにその会社のことをグローバルのマーケットで推奨して、たくさんの仲間を資本市場で作っていきます。こういったかたちで一緒に歩み、ロールモデルを作りたいなと思ってます。がんばりたいですね。
小沼:審査プロセスが会社の成長を止めないようにすることですね。M&Aの話がありましたが、実質2年や3年、成長が止まるといったお話を聞くのが一番切ないです。審査は大変なのですが、可能な限り工夫して、そうならないようにしたいです。
水野:最近ずっと言っているのですが、私たちGPIFがお預かりしているお金は、世代を超えた投資です。未来の子孫のためになるような投資をするという意味では、ベンチャーのリスクは取っていかなければいけないと本気で思っています。
一方で、日本全体にダイバーシフィケーション、投資分散の考え方をもう少し根付かせる努力をしようと思っています。分散投資と世代を超えた投資というコンセプトを広めていきたいと思っています。
それでは時間が来たようですので、本日はここまでといたします。もう一度パネリストのみなさんに拍手をお願いします。
(会場拍手)
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