2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
株式会社センジュ曽原氏(全1記事)
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藤岡清高氏(以下、藤岡):曽原さんの幼少期について教えてください。
曽原健太郎氏(以下、曽原):生まれは横浜で、家族は両親と弟です。父はサラリーマン、母は専業主婦、いわゆる普通の家庭でした。また、私自身は、あまり記憶がないのですが母親に聞くと、突拍子もない行動をする子だったそうです。
小学校に入学前に父親の転勤が決まり、アメリカに行きました。幼稚園時に習っていた英語は通用せず、大変でした。そして、次に行ったシンガポールでは塾に通い成績も良く、帰国子女枠のある私立中学への進学も見えていた小学6年生の時、父親が勤めていた山一證券が倒産し、日本に帰国する事になりました。
「これからどうなってしまうのだろう」と不安でいっぱいでした。その時の経験から、大企業というものは大して当てにならないのではないか、安定というものはないのではないか、と思い始めました。自分ではコントロールが出来ない事が多々あった小学校時代でした。
曽原:筑波大附属駒場中学に通っていた頃、両親が離婚して経済的な環境が変わり、高校生になる前から、ありとあらゆるアルバイトをしました。そんな高校1年生の頃、当時ライブドアのホリエモン(堀江貴文氏)がメディアに出てきました。
その様子を見て、「自分で商売をして利益を出す、という方法でしか、この状況から抜け出せないのではないか?」と考えるようになりました。そして、服が好きだったので服の売買を始めたところ、月に20万円程の利益が出るようになり、本腰を入れるようになりました。
大学に行かず、古着屋になろうかと考えましたが、高校3年の進路相談の先生のアドバイスもあり、「古着屋になるにしろ、商売を始めるにしろ、大学には行っておこう」と思い、そこから受験勉強を始めました。
私が通っていた高校は東大が進学先として最も多かったので、私も東大を受けました。1回目の受験は失敗して浪人生になったのですが、その夏も服の売買は続けていました。
当然ですが成績は上がらず、焦り始め、そこから3ヶ月間、1日14〜15時間、本気で集中して勉強しました。東大に合格した時、「本気で一つの事に集中すれば、物事は何とかなる」という自分なりの成功体験を積む事が出来ました。
藤岡:大学時代の話を聞かせてください。
曽原:東大では経済学部に進み、ゼミを選ぶ時の説明会で、「ウチのゼミは財務省、マッキンゼー、ゴールドマン・サックスに〇人内定」といった話をされて驚きました。ただ、元々競争が好きなので、「『就活』という競争が始まるのだ」と受け止めました。
「自分で商売がしたい」「外国にいたから英語を使った仕事」等と何となく思っていたところに、外銀の就活が早速始まるという事で、まずは身を投じてみました。「外銀に行きたい」という明確な意思があったわけではなく、性格がアグレッシブなので、「就活自体を楽しんで、受けるならトップを受けたい」といった考えでした。
外資系のコンサルや外銀、日系の企業などからも内定を頂き、頑張って競争した結果が出て、「次に何をしようか」と考えていたタイミングで高校の同級生の先輩に「一緒に起業しないか?」と声を掛けられ、関心があったこともあり、始めることにしました。
ビジネスの問題意識としては、「日本のお金の半分はシニアが持っている。もっと老人が気分良く若者にお金を還流するような仕組みは作れないだろうか」といったもので、例えば、老人がビジネスとしてしたい事を具現化して、その結果、若者が利益を得る、といったスキーム構築をしようとしていました。
スーツ会社のオーナーと組んで、若者向けのテーラーメイドスーツブラントの立ち上げをサポートしたり、当初は上手くいっていました。しかし、クライアントが起こしたトラブルに巻き込まれて資金繰りが悪化してしまいました。
私はまだ学生でしたので、社長の勧めもあり、就職することにしました。これが、私にとって最初の起業で、最初の失敗です。
藤岡:何故、マッキンゼーに就職したのですか?
曽原:マッキンゼー(外資系戦略コンサルティングファームであるマッキンゼー・アンド・カンパニー)出身の起業家が多かったのです。起業に失敗しましたが、「もう一度どこかで絶対起業したい」という強い意思がありました。
そして、「コンサルは自分には向いていない」と思っていたのですが、だからこそ、その環境に身を置いてみよう、と思いました。
マッキンゼーで学んだ事は、「とにかく何でもリーダーシップをとる」という事です。全てにおいてリーダーシップを取る事は、価値創造に繋がる、その場にただいるだけでは何も生み出せない、そういう教育を受けました。
もう一つは、緻密さです。「プロフェッショナルたる者、こうでなければならない」という意識を皆が同じ水準で持っていて、手抜きは全て見透かされました。議論を黙って聞いているだけといった甘えは許されず、徹底的に鍛えられました。
藤岡:ベインキャピタルへ転職した理由を教えてください。
曽原:コンサルタントとして一通りの仕事がわかるようなると、自分のした仕事が後にどう繋がっているのかも気になるようになりました。しかし、関わる期間は決まっていて、提案の実行段階まで見られない場合もあります。
また、ベストと思う提案をしてもそれが実行されず、やりきれない思いを抱える事もありました。当然の事ながら、人事権もありませんので、「本当に会社を動かそうと思ったら、この場所では実現できない。もっとハンズオンでやりたい」と考えるようになりました。
そんな時、たまたま声を掛けてくれたのがベインキャピタル・ジャパン(投資ファンド)でした。その時点で公にはなっていませんでしたが、『すかいらーく』を買収するタイミングで、そのプロジェクトに携われるという事でした。リアルな経営への関わりを望んでいましたので、転職することにしました。
ベインキャピタルでは、財務、マーケティング、ネゴシエーション、法務、タスクマネジメント等あらゆる業務を経験しました。当時26歳くらいで、貴重な経験を多々させて頂き、仕事人としてのスキルはここで学びました。
藤岡:ベインキャピタルで順調に過ごされていたと思うのですが、何故、起業したのですか?
曽原:マッキンゼーに入って鍛えられ、そこで叶えられなかった思いをベインキャピタルで経験し、達成感はありました。しかし、「私のしたい仕事は、これなのだろうか?」という思いもありました。
ファンドが多く行っている『レバレッジドバイアウト(LBO)』という手法は、企業再生というメリットもありますが、現場のコスト削減が買収時の負債返済に回されるといったファンド側のメリットが大きい仕組みです。そういったファンドビジネスのスキーム自体に疑問を感じることもありました。
MBAに合格していたので、MBAに行くか、転職するか、起業するか、自問自答を繰り返していました。そんな時に古い友人から「曽原は、いつ起業するの?」と不意に尋ねられました。そして、私は「自分で自分の人生をコントロールするために、自分で商売をしたかったのだ」と気付かされたのです。
その頃、「面白い起業家がいる」と康井さん(株式会社Origami 代表取締役社長 康井義貴氏)を紹介されました。起業する前に勉強もしたかったので、「半年だけ」という約束で、Origamiで修行させてもらうことになりました。
藤岡:センジュを起業されて、ファミリーに向けたサービスにしたのは何故ですか。
曽原:Origamiに入るまで1ヶ月程時間があったので、アメリカに行きました。その直前に日本で起業とビジネスモデルの勉強会に参加し、「何故、君がその仕事をするのか?」と徹底的に聞かれては自分のアイデアに必然性を感じられず、模索する日々でした。
アメリカで起業した友人と話していて「起業して仕事をしていて、一番楽しいのはどういう時か」と聞くと、「自分達のサービスがユーザーに喜ばれた時。それが身近な人であればあるほど嬉しいし、遣り甲斐がある」と言われ、非常に共感しました。
その頃、妻の妊娠がわかり、子育ての問題に向き合う状況になっていました。マッキンゼーの時、保育園の立ち上げプロジェクトに関わったのですが、保育園事業者や社会福祉法人、行政の担当者等サービス提供側の年齢が高く、子育て世代との現状認識のズレを感じていました。
「若者に不利な状況で子育てしたくない」と感じていましたが、子育てが『他人事』ではなく『自分事』になった今、仕事としてその分野に取り組んでも良いのではないかと思ったのです。
藤岡:最初に『comolib(コモリブ)』を開発した理由を教えてください。
曽原:単純に、「私が欲しいサービスを作ろう」と思ったのが始まりです。幼い子供がいると、外で入れるお店が限られます。そうした時に、私が知らない情報を妻は知っていて、「ここがいいらしいよ」と。
ママ友達との繋がり等から、色々な情報を得ているのです。「そういう便利な情報があるのなら、皆で共有出来るようになれば良い」と思ったのがきっかけです。
現在comolibは、全国から投稿された10万件以上の口コミを参考に、家族で楽しめるレジャー施設、飲食店、ホテル、旅館、スポーツ施設、小児科、美容施設など、自分の好みに合った子連れに優しいスポットを簡単に見つける事が出来る、お出かけ情報アプリとして活用されています。
Google Playストア『2015年ベストアプリ』に選出して頂きました。今後もユーザーの皆様の声を基に進化していこうと思っています。
藤岡:起業後、いろいろなご苦労があったと思いますが、それらについてお聞かせ頂けますか。
曽原:まず、資金繰りの問題がありました。最初のシードマネー(新ビジネス立ち上げにあたり必要な資本)は私のキャリアへの信用から得ることができました。しかし、マネタイズ(サービスの収益化)モデルについて、Cへの課金か、広告かと模索が長引き、資金的に苦しい局面が何回かありました。
一度目の危機を救って下さったのは、ガイアックスの上田さん(株式会社ガイアックス 上田祐司 代表執行役社長)です。ガイアックスさんは当社の株主で、会社として支援して頂きました。
また、この危機最中に、創業の頃から一緒に仕事をしていたCFO兼事業開発責任者だった十年来の友人が辞める事になりました。いろいろな状況があってのことでしたが、本当に辛く、苦しかったです。
しかし、そのタイミングで、藤岡さんに優秀なセールスマネージャーを紹介して頂き、彼の活躍から売上が上がり始め、新しいビジネスの種が見つかりました。その後も、資金面で何度か難局がありましたが、素晴らしいベンチャーキャピタリストの方々からの支援を得ることが出来、乗り越えてきています。
苦しい時にも諦めず歯を食いしばっていると、誰かが助けてくれたのは、運以外の何物でもなかったと感じています。
藤岡:昨今開発された、子供の習い事に特化した情報サイト『コドモブースター』について教えてください。
曽原:コドモブースターは、子供の習い事の検索・比較・申込サイトです。子供の習い事として、英語なら英語、サッカーならサッカーと決まっていて探す方もいらっしゃるのですが、それ以前に『何にしようか』と迷っている方もかなり多いです。
小学生だと平均2個以上の習い事をしているので、横断的に「英語とサッカーとスイミングのどれか」といったカタチで検討します。そういった時に、どういう先生がどれくらい教えてくれて、実際の生徒さんの満足度はどれくらいなのか、費用はどれくらいかといった口コミが見られて、比較が出来ると便利だと思いました。
その開発のきっかけは、子供に関する企業の方々とお話ししている中で、教育系企業やスクール等には、一般的企業とは異なる、特殊な事情がある事に気付いたことです。
お稽古事や塾等はお客さんが子供なので、毎年学年が上がっていくと、いつかお客さんが抜けていきます。つまり、毎年必ず新しい生徒を探さなければならず、常に集客のためのマーケティングが必要なのです。
しかし、その為の人材はというと、webマーケ人材が他業種から入るようなことは少なく、先生をしていた方が本部業務を行っています。多くの場合、新しい生徒への対応や通常の指導に追われている現場が、マーケティング等も行っているのです。
従来型のチラシでは新聞の定期購読をしない親の層には届かなくなっており、新しいアド手法へのキャッチアップも難しいという状況で、現場は疲弊していました。
それならば、私達のマーケティングの知識と集客力でこの課題を解決し、現場の方には本来業務である子供達の指導に集中してもらいたい、と思ったのがコドモブースター開発の始まりです。
現在は教育系の企業の皆様からもご理解を頂き、Z会やNovaホールディングス、イトマンスイミングスクール等、この一年で70社以上にご導入頂き、集客効果も月次40〜50%で成長しています。
藤岡:今後のセンジュに必要な人材、人物像について教えてください。
曽原:まず、私たちが取り組んでいる教育業界、子供関連事業は「子育て、子供に関わる事はこうあるべき」という、古いしきたりのようなものが根強い業界です。しかし、当社としては、時代は変化しており、ゼロベース思考することが大事だと考えていますので、そういった思考が出来る人材を求めています。
また、会社のカルチャーとして即断即決ですぐ動いて、どんどん試すことを重視しています。「失敗したら失敗したで、また考えよう」と。ですので、そういうスピード感を楽しめる人は向いていると思います。
そして、もう一つ『thoughtful』というのがあって、これは日本語では『気が利く』といった意味ですが、相手の課題を理解し、そこから仕事をできる人を求めています。勿論、売りたいものもありますが、困っているユーザーやクライアントのことばを丁寧に聞いて、そこからサービスを生み出したり、プロダクトを改善したりといったことが求められます。
藤岡:センジュさんで働く魅力について聞かせてください。
曽原:必ずしも『家族』というテーマではなくてもいいと思っていますが、「社会的に意義のあることをしたい」、「誰かに役に立つことをしたい」ということで集まって、やっています。私がファンド時代に感じたように「ビジネスとしては正しいけど、遣り甲斐はあるか」みたいなことを模索しているような人にはフィットするかと思います。
実際に、集客等の成果が数字で見えるので、手応えが感じられます。そして、ユーザーの方から「コドモブースターで探して、このお稽古事に決めました」といったご報告を頂く機会も多く、お役に立てたことを実感して、とても嬉しくなります。
藤岡:素敵なお話をありがとうございました。
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