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最新のY Combinatorから見るスタートアップの潮流(全6記事)

時価総額3,000億円以上 シリコンバレー発のおつかい代行サービス「Instacart」は何がすごいのか?

2017年10月30日、株式会社アドライトが主催するイベント「Trend Note Camp」が開催されました。第9回となる今回は「最新のY Combinatorから見るスタートアップの潮流」と題して、シリコンバレーの名門ベンチャーキャピタル、Y Combinatorが投資する企業の特徴から、最新トレンドを分析します。登壇したのは、株式会社DGインキュベーションの林口哲也氏、BEENEXTの前田ヒロ氏、株式会社WiLの久保田雅也氏の3名。彼らが肌で感じてきた現地のスタートアップのカルチャーや、Y CombinatorのDemo Dayの様子など、起業家ならば知っておきたいシリコンバレーの現状を語ります。

抜群の注目度を誇る、おつかい代行「Instacart」

前田ヒロ氏(以下、前田):こんばんは。僕はもう7年前から、2010年からシード投資をしています。最初は国内だけ投資していて、2011年あたりからアメリカの投資をして。もうY Combinatorも11回参加しているという感じですね。本当に毎年楽しみにして行ってるんですけど。

同時にインドとインドネシア、トルコ、ベトナムとか、けっこう世界中で投資しています。アメリカだけでも50社ぐらい投資していて、そのうちたぶん25はY Combinator出資かもしれないですね。けっこうY Combinator大好きな感じで投資しています。

日本国内の知名度の高い会社でいうと、最近は料理動画のクラシルやSmartHRなど、そういうところが国内の投資実績としてあります。

5社選んだんですが、全部自分の投資先を選びました。ごめんなさい(笑)。自分の投資先は一番自分が気持ちが入っているし、一番期待値が高いという意味でやっぱり自分の投資先しか考えられない。自分の投資先だけ選びました。

最初の会社はLobという会社で、これは紙の印刷と配送を自動化するAPIです。なので例えば、とあるサービスに登録して領収書を発行し、領収書を封筒に入れて、それをその人の家に届けるというプロセスがありますよね。それを1個のAPIコールでしてしまおうというサービスです。

アメリカ中の印刷会社といろいろ提携して、配送先に一番近い印刷会社を選んでそこで印刷し、そこから配送されるというものすごいネットワークを作っています。日本国内でいうと、ラクスルのAPI版みたいな感じのサービスです。

これが合計30億近く調達していて、実はY Combinatorも追加で出資している案件で、かなり伸びています。

ここの創業者は元マイクロソフトのメンバーで、最初はRed Rock Coffee(注:シリコンバレーの中心地マウンテンビューにあるカフェ)で出会ったんですけれども、めちゃくちゃ目がギラギラしていて、その場で投資するって決めた会社で、これが1社目です。

2社目は、Instacartという会社。お買い物、おつかいを代行するサービスで、もうスマホのアプリがあるんですけど、例えば牛乳やクッキーを注文すると、一番近いスーパーから誰かが買ってくれて、家まで届けてくれるというサービスです。

ここは670億調達していて、時価総額は3,000億以上の会社で、僕の中でもものすごい期待値が高いんです。最近Amazonも参入してきて、かなり株主としてドキドキしながら見てるんですけど(笑)。まあ、そういったサービスです。

ここのすごいところは、(買い物代行は)けっこうチェスみたいなロジスティクス問題なんですよね。なので、スーパーの中にどういうものが置いてあって、どういう配置にあって、送り先の人はどういう順番だったら一番効率よく送れるかどうかみたいな、ものすごいデータビジネスなんですよ。データとロジスティクスビジネス。

だから、オンライングローサリーって見られることがよくあるんですけど実はそうではなくて、本当にデータとロジスティックスのビジネスなので裏側でやっていることはすごく複雑なんです。

Instacart創業者は、Amazonの元物流担当者

前田:実は細かいところでいうと、リンゴやキウイの選び方もこのInstacartのショッパーたちを一応教育してるんですよね。なので、いいリンゴ、いいジャガイモの見分け方をノウハウとしてショッパーに積み込み、データとして持っていてそれで全部やっている、というのが彼らの強み。かなり難しい課題を、彼らは解決しているんです。

この会社も実はAmazonの物流を担当してた元メンバーが独立して立ち上げました。で、Amazonが参入してきたという(笑)。この会社、Amazonが買収したらおもしろいなって思いながら見てます。

久保田:Amazonと提携してたんですよね?

前田:提携してないですね。

久保田:あれ、してなかったんでしたっけ?

前田:ホールフーズ・マーケットですね。

久保田:あ、ホールフーズ・マーケットか。

前田:そうそう。

久保田:ホールフーズ・マーケットを買っちゃって(笑)。

前田:そうそう。ホールフーズ・マーケットという大手スーパーと提携して、それをAmazonが買収するというスーパープレーをしています。成功してほしいですね。僕もちょっと、時価総額めっちゃ高いので(笑)。

次の会社、Notable Labs。先ほど林口さんも言ってたんですけど、がんに関する会社が毎年新しく出てきていて、これもそのうちの1つです。

何をしてるかというと、人それぞれのがん細胞を摘出して、それに対して100万通りぐらいある薬の組み合わせ、処方の組み合わせをテストして、一番そのがん細胞に合う薬を判別してくれるんです。

やってることはけっこうすごくて、写真であんまり伝わらないと思うんだけど、機械がウイーンウイーンって動いて、がん細胞に対していろんな組み合わせのドラッグをとにかくテストしていきます。

飽和状態のバーター経済に新風

前田:理論上は、その人に適正な処方の組み合わせを見つけるのに30年ぐらいかかるんだよね。でも彼らは、ビッグデータとかpredictive analysisを組み合わせることによって2週間でわかるようにしているんです。

今は、白血病って言うんですか、それに特化したソリューションとしてやっています。今後の展開としては、脳腫瘍などに展開していこうとしていますね。

ここの創業者は、実は医療関係のバックグラウンドがまったくなくて、ヘッジファンドマネージャーだったんですが、お父さんを脳腫瘍で亡くしてしまったんです。それが理由で、もうすごい悔しい気持ちで「なんでこれが治せないんだ」と思ってたそうです。UCLAとかバークレーとかいろんな有名な医療大学の教授と組んで、いろんなソリューションを探ってた結果、この解決策が見つかってこれで今は起業して進めてるということなんです。

今、合計調達が10ちょいかな。16億ぐらいですかね。僕は正直、医療に関してはちんぷんかんぷんなんですけど、とにかく経営者の気持ちとストーリーにすごく感動して投資しました。絶対成功してほしいなと思いましたね。

次、Simbi。これは2つか3つ前のバッチなんだけど、何をやってるかというと、バーターの経済を作ろうとしているんですね。

例えば「僕が英語のレッスン教えてあげる代わりに、君がギターレッスンを教えてくれる?」とか「君のヨガレッスンを受けたんだけど、代わりに僕がこういうことしてあげるよ」みたいな。要するに物々交換とバーター交換です。

このアイデアってけっこう過去に、めちゃくちゃ挑戦されてるんですね。僕も最初、「このアイデアはみんな挑戦しているから絶対うまくいかないだろう」と思ってあんまり期待はしていませんでした。

KJという女性経営者なんですけど、彼女の話でものすごいなと思ったのが、プロダクトのエッセンスがすごくいいんですよね。とてもきめ細かくて、本当に登録後のメールの配信の仕方や、その後のユーザーフォローをものすごい繊細に設計されていました。こんなに最初からいいプロダクト作る人は、なかなかいないなと思ってすごい感動しました。

あと、実は数字を見ると、「なんかこれ、経済成り立ってるんじゃないか?」と思うぐらいものすごいマッチング率が高いんですよね。

彼らのトリックは、実は仮想通貨なんですよ。なのでバーターエコノミーって、要するに僕が提供するサービスに対して需要がないとバーターは成立しません。仮想通貨を間に挟むことによって、僕は別の人にサービス提供して仮想通貨をもらって、その仮想通貨でまた別の人からサービスを受け取るみたいな、そういうバーターエコノミーを作っています。

Facebookのプロダクトマネージャーが立ち上げた「HEAP」

久保田:物でもいいんですか? サービスだけ?

前田:物でも……ああ、サービスだけだと思う。もちろん成果物があるものはあるんだけど。例えば似顔絵を描いてあげる、なにか音楽作曲してあげるとかそういうのはあるんだけど、でも基本はサービスみたいなものが多いんだろうね。だからこれは難しい課題でもあり、なんかおもしろいなと思って。

今流行ってる暗号通貨はぜんぜん関係なく、別にビットコインとかそういうのは使ってなくて、独自のただの仮想通貨を使ってるって感じですね。はい。

HEAPね。これもけっこうマニアックというか、みなさんプロダクトマネージャーをやったことがあるかわからないんだけど、KPI設定するときに……要するに、まずKPIを設定して、そのKPIに必要なデータを取得するようにいろいろコードを組み込んで、それでやっとKPIを計測できるのがだいたいの流れです。

このHEAPというのは、一行だけ組み込むことによってすべてのデータを引っ張れるんですね。あとからKPIを設定しても、そのすべての過去のデータが取れているので、いちいちKPI設計を最初からしなくても、後付けでもバックトラックして今までの過去のトレンドとか、それがすべてわかるサービスです。

これもともとFacebookのプロダクトマネージャーの人が立ち上げたんです。そのプロセスにすごいもどかしさを感じて自分でこのサービス作って展開したという感じですね。

僕も実はプロマネを何度かやっているので、ものすごくサービスに共感しました。僕も「KPIを設定して計測したものの、実はKPIが間違ってた。もう1回KPIを設定して、また計測しないといけない」みたいな繰り返しがけっこうありました。でもこれがあったら別にそういう問題がないのですごくいいなと思い、ここに投資しましたね。40億ぐらい集まって、すごく期待値の高いSaaS企業ですね。

この10年でシードファンドが急激に増加

前田:ということでたぶん5社紹介しましたね。僕はもうちょっとマクロ的なトレンドを話そうかなと思います。Y Combinatorって始まりが2005年で、当時シードに特化したVCってあんまりなかった時代だったんですよね。なので、だいたいはエンジェルから集めて、そこからベンチャーキャピタルで何億単位で調達するみたいなプロセスがありました。

このY Combinatorを立ち上げたポール・グレアムというのは、もともとエンジェル投資家で、このエンジェル投資の仕組みをもっと機械的というか、「もうちょっと仕組み化できないか?」みたいな感じから始まりました。なので、実はポール・グレアムは自分のエンジェル投資をもっとスケールしたかったからこのY Combinatorを始めました。

実は環境がものすごく変わったんです。当時そんなに手で数えるほどしかシードファンドがなかったんだけど、今はアメリカだけで100億円以下のファンドが500本ぐらいあって、ものすごいシードファンドが多いという状況でした。

なので、Y Combinatorの立ち位置ってこの10年ですごい変わったなと思っています。今はノイズキャンセラーの役割をしてるかなと。

やっぱりVCとかほかのシード投資家があまりにも案件が多すぎて、ノイズが多いです。なので、それをフィルタリングする役割としてY Combinatorに参加する会社が多いんですよね。

なので僕が5年前参加した時は、Y Combinatorに参加しててVCからとかエンジェルから調達してる会社はありませんでした。でも、今までだとけっこう平気で「すでに1億円調達してY Combinatorに入ってる」「5,000万調達してY Combinatorに入ってる」という会社がありました。なので、Y Combinatorに入る意味があんまりないじゃんみたいな会社が多いんだけど、でも彼ら的にはもうちょっと目立ちたいらしいです。

やっぱりそのノイズをフィルターする役割として、Y Combinatorが存在してるかなという感じはしますね。ちょっとクレイジーな感じですね。それが理由でたぶんバリュエーション上がってると思います。

ファンダメンタルなアイディアが増加

久保田:卒業生のアラムナイネットワークみたいなのってあるんですか?

前田:それ、あるけど、シリコンバレーはけっこう誰にでもつながるからね。ちょっと。だからそんなに価値はない気がする。

久保田:大したことない?

前田:大した価値はないと思う。だから本当にとりあえずノイズキャンセラーの役割をしていて。

アイデア的なトレンドというと、最近だとやっぱりすごくファンダメンタルなアイデアが多いかなと思っています。要するに「人の寿命を伸ばそう」「学校の教育をもっと改善しよう」「がんを治そう」「もっと効率よく食べ物を作ろう」とか、そういうけっこうファンダメンタルなアイデアが最近はY Combinatorでたくさん生まれているなと思っています。

1年前はけっこうハイパーテクノロジーが多かったじゃない? AIのなんちゃらかんちゃらとか自動運転のソリューションとかが多かったけど、今はけっこうファンダメンタル寄りになっている感じはしますね。

木村:なるほど。

前田:僕からは以上です。

木村:ありがとうございます。

(会場拍手)

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