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デジタルファブリケーションで変わるハードウエア・スタートアップ(全4記事)

日本のハードウェアスタートアップは、世界で勝てるのか?

3Dプリンティングから、ガンダムのような人型巨大ロボットの開発まで、昨今躍進を見せる「ハードウェア・スタートアップ」業界。その代表企業の4名―takram・田川欣哉氏、ビーサイズ・八木啓太氏、V-Sido・吉崎航氏、ユカイ工学・青木俊介氏―が一同に会し、もはや手の届かぬ夢ではなくなった、最先端技術の現在地について語り合った。(IVS 2014 Springより)

ドンペリから自動車まで プロダクトをコンサルするtakram

:ありがとうございます。じゃあ起承転結の結は、田川さんよろしくお願いします。

田川欣哉(以下、田川):なんか見事ですね。「転」のパートで転ばない話っていうのが。吉崎さん、かしこい人ですね(笑)。さて、こんにちは、takramの田川と言います。よろしくお願いします。

僕は、takram design engineeringって言う会社を代表としてやっています。8年ぐらいの会社になります。東京でクリエイティブイノベーションファームっていうことでいろんな会社さんといろんな物を作ってます。

平たく言うと、皆さん自社でいろいろプロダクト作っていらっしゃいますけど、takramはどちらかというとコンサルティングという形態で、いろんな会社の方々の新しい製品とかサービスとか新しい事業とか、そこら辺をデザインやプランニングからサポートする仕事をやっています。

ここからは事例なんですけれども、トヨタ自動車さんのプロジェクトで、2012年のデトロイトモーターショーで発表されたインフォテインメントシステムのプロトタイプです。

ハードウエアもソフトウエアもいろいろあるんですけど、これはNTTドコモさんのプロジェクトで、takramでユーザーインタフェースのデザインと設計を担当してやってます。

これは無印良品さんのプロジェクトです。iPad、iPhoneアプリなんですけど、ノートアプリケーション。これはiPadのまだ初期の頃に出したものなんですが、日本のApp Storeの総合ランキングで1か月くらい1位になっていた、結構売れたプロダクトです。

こちらは、最近話題になってましたけど、SansanのEightっていう名刺読み取りサービス、こちらのサービスの立ち上げも僕らのほうでサポートさせていただきました。事業の立ち上げ期って、なんかもやもやしていて、難しいところが多いんですけど、そこを僕らのデザインエンジニアリングという手法とか、あとプロトタイピングっていう手法とかを使って、PDCAを高速に回していくっていうようなやり方をとっています。

これはクライアントはドン・ペリニョンというシャンパンのブランドで、そこのブランディングのお手伝いもやりました。

ドンペリのVIP向けのパーティです。これは表参道ヒルズの一角を貸し切ってやったパーティ、去年の10月くらいにやったものです。空間とインタラクティブなシステムを作りました。

これは、今年のゴールデンウィークに放送されたものなんですけど、NHKのEテレのプロジェクトです。教育の番組で科学の目線というか、そういったものを3歳くらいから7歳くらいの子供に向けて分かってもらうためにという番組で「ミミクリーズ」というタイトルの番組です。こういった番組のディレクション、これは番組制作ですね。そういったこともやってます。

つい2カ月くらい前にドイツで出たものなんですけど、コニカミノルタさんの有機EL照明です。すごく薄いフレキシブルな照明で、それをお手伝いしてるところです。もう2年くらいのお付き合いになるんですけど、この技術を一般の方々に分かりやすいように展示として見せていくプロジェクトですね。

これさっきノビさんからも紹介いただきましたけど、東芝さんがクライアントで彼らがLED照明をヨーロッパ市場に投入するタイミングでのイベントとしてミラノサローネでやった大型の展示なんですが、そういったものもやっています。

これは結構古いプロジェクトなんですけれども、手に障害を持った方のための文字入力をするためのハードウェアです。その当時はまだ言葉はなかったんですけど、オープンハードウェア的な思想でつくられていて、設計とそういうデータを全部オープンにしてみんなでこれをプラットフォームにしていろんな改造をしていこうみたいな感じでつくったプロトタイプです。これは残念ながら量産されていないんですが、プロトタイプとしてこの取り組みが評価されて、ニューヨークのMoMAのパーマネントコレクションになっているものです。

これはアート系の仕事です。ドイツで5年に1回、アート系のフェスティバルでドクメンタっていうイベントがあるんですけど、そこに出した「100年後の未来の究極の水筒」っていうテーマのものです。水筒を考えてくれっていうことがテーマだったんですけど、 それに対して人工臓器っていう回答で返したっていうプロジェクトですね。水の排出を究極的に抑えるような人工臓器をつくってしまえば、もはや水筒の形態はいらないじゃないかっていうような仮説をつくったプロジェクトです。

「デザインエンジニア」っていうハイブリットな人材が中心になってやっている会社で、ハードウエア、ソフトウエアとサービス、いろいろやっています。以上です。

ハードウェア・ソフトウェアの違いと共通点

:今、結構ハードウエア・スタートアップとも仕事してるってこと言ってましたけど、そのハードウエア・スタートアップとはどんな仕事をやっているんですかっていうのを。

田川:まだちょっと皆さんにはお話しできないものも多いんですが、最近はやっぱりウェアラブル系の仕事も多くて。どちらかというとソフトウェアやネットワークの業界で経験を積んだ方々が、新しい市場に出ていきたいってことで、ハードウェアを人間とのインタフェースとして考えるテーマ設定が多いですね。そういった方々はハードウエアのつくり方をご存じないので、僕らのほうでサポートしてプロダクションまで持っていくっていうようなことをやってます。

:今日この会場だとやっぱりIVSって、ややソフトウエアの世界のイベントなんで、皆さんちょっと勘所がない人もいらっしゃるかもしれないんですけども、どうですかね? ソフトウエア・スタートアップとハードウエア・スタートアップの違い。

その前に僕1個だけスライド切り替えてもらって良いですか。ベンジャミンっていう「プラス・エイト・スター」っていうハードウエア系のアクセラレータの方がいらっしゃって、彼に今朝ちょっとfacebookでメッセージ送ったら、

やっぱり、「ハードウエア・スタートアップとソフトウエア・スタートアップを同じ軸で評価してはいけない」ってことを彼も言っていて、出荷してから結構予想外のことが起きるのが多いっていう厳しい側面もあれば、ものを出荷してから、お金の部分を持続していくのが結構難しいなんていうことも彼は言っていました。ちなみに、彼のところでヘルプしてハードウエア・スタートアップで一番成功してるのは、

さっき言っていたこちらのスパークコアだったというふうに言ってたんですけど、皆さんどうでしょう? 実際、ハードウエア・スタートアップやってみて違いというのは。

八木:そうですね。2つの側面があるかと思います。1つ顧客体験としては、実はソフトもハードもそんなには関係ないかと思っています。ハードウエアていうのは、ソフトで言うUI/UXなんだというふうに思っているんですね。

何か体験を提供するときに、ディスプレイで完結すれば、それはソフトウエアで完結するし、例えば光だったら、照明器具が必要であって、充電だったら充電台が必要で、そういうものを何か機能価値を提供するために、ユーザーインタフェースとしてハードがどうしても必要なシーンがある。それの違いだけかなと思っています。

ただ、ビジネス観点で言えば、かなり違ってですね、物質をつくって売らなければいけないので、そこが非常に大きく違って、売る前には当然つくってなきゃいけない、在庫を持ってなきゃいけない。在庫があるので当然物流があるし、つくるために製造設備も必要になってくると。

先ほどおっしゃったように、市場に出て不具合が起こったら、それを回収して、修正しなければいけないとか。最悪の場合は、それが爆発したり火をふいたりして命に関わると、アプリケーションがどんなにフリーズしても、命にかかわるケースはまずないと思うんですけど。ハードウエアは、命に係るリスクもあって、そのあたりが非常にハードウエアは難しくて、資金的にも、その信頼性的にも難しいところかなと思ってます。

ググっても情報が出てこない

:青木さんどうですか。

青木:はい。僕はもともとソフトウエアのスタートアップにいたので、一番難しいなと思っている違いは、やっぱりググっても出てこないことが多いというところですかね。例えば八木さんの言われてた、すごいいい感じなLED照明のパーツとかいうのは多分それで、商社の方が持ってこられたと思うんですけど。

そういうのはネットに最初なかなか出てなかったり、やっぱりそういうキーになるようなコンポーネントというのは、なかなかネットでは手に入らない、というのがあったり。あとは加工方法みたいなものっていうのも、例えば、何かこの加工がうまい工場はどこだろうというのは、詳しい人に聞いて回らないと分からなかったりするんですよね。なので、そこが非常に時間かかって面白いところでもあるんですけれども、難しいところかなと思います。

:吉崎さん、ハードウエ・アスタートアップなのか、ソフトウエアなのか、どっちがあれなんですか、というところも含めてどうですか。

吉崎:私は、実はソフトウエア・スタートアップなんじゃないかという疑惑もあるんですが、という冗談はおいといて、(笑)。違いとしましては、やっぱりハードウエアって初期投資が本来すごく必要なものですよね。型代という言葉があったり、やっぱり避けられなかったりするんですけど。

初期に売るにあたって必要な金というのがやっぱり桁違いだと思っていて、バリエーション増やせば増やすほどやっぱりコストもかかっているような状況が本来、ソフトとハードの違いとしてある。

その辺が個人でもいけるくらいにハードルが下がってきたっていうのは、バリエーション増やしてもあまりコストが変わらない方法があったり、試作まではすぐに行けたり、意外と試作の段階でも売れるんじゃないかみたいな試みが始まったりっていうような、そういう変化が起きてるからなのかなと。すると理想的には、あまり違いがない状態に近づいてきているのかなというふうには感じています。

:じゃあどうですか、田川さん。

田川:ちょっとすいません、僕のスライド出してもらっていいですか。これ、ハードウエアのお金のかかり方で、上軸がコストで、右軸がプロセスというか、時間なんですけれど。

コンセプトを考えるときはそんな時間かからないんですけど、プロトタイプを作るときにそこそこお金がかかるようになって、プロダクションにいくときに、億単位の投資が必要になる。これが一般的なやり方で、これって誰がやってもこうなんですよ。

大きな企業がやってもスタートアップがやってもそうで、だから今、スタートアップの話になってますけど、大きな企業の人たちと話していても、日本にもいろいろ電気メーカーとかあるんですけれども、社外に出てこない企画レベルのプロトタイプとしては、面白いものがめちゃくちゃいっぱいあるんですよ。

結局何でそれが世の中に出ないかっていうと、たぶんそれをプロダクションに持っていくときに、プロダクションもそうなんですけど、流通とかサポートとかもひっついてくるから、関わる人間がもう10倍とか100倍とかになるので、コストが相当かかるんですね。だから、それが本当にマーケットで通用するのかどうかっていうことを、みんな一生懸命、事前的に分析するんです。

「何で、ソフトウエアで面白いものいっぱい出ているのに、ハードウエア系のエレクトロニクス会社が苦戦してるのか」のひとつの理由が、ここら辺にあるのかなというふうに思うんですね。ここら辺を解こうとしてるのが、多分キックスターターとかなんだろうなということなんですけど、理想的にはこのいびつなグラフが、こういうなめらかカーブになるといいんじゃないかなっていう感じです。

コンセプト・プロトタイプ・プロダクション・アップデートと、それらのコストが、いわゆるリニアにリーンに立ち上がっていくっていう。ここを実現するテクノロジーが必要で、そこら辺にデジタルファブリケーションの存在意義があるんだろうなと。

この歪みの部分には、逆にものすごいビジネスポテンシャルがあるんじゃないかと思ってて、何兆円規模あるのか分からないですけど、この方程式を解いてしまえる人たちが出てきたら、ものすごいゲームチェンジになると思うんです。

新しいコンセプトが事前的に、いいとか悪いとか言われずに、事後的にマーケットでちゃんと受け入れられたから、もうちょっとつくってみようか、みたいな流れに。ソフトウエアが今やっているような、インターネット系のサービスがやってるような流れにシフトできると思うんですね。これがパーソナルファブリケーションとかデジタルファブリケーションを見るときの、ひとつのポイントなのかなというふうに思うんですね。

八木さん、多分まだこうなってないですよね? 今はまだ全然こうなってない。だけど、10年後とか20年後とかっていう視野で見たときにはひょっとして、こっちにいくかもしれない。メインフレームの時代からパーソナルコンピュータにシフトした時も同じような話があったような気がするんですけど、なんかそういう視点で見ると、面白いのかなっていうふうに思います。

日本のハードウェア・スタートアップの未来は明るいか?

:そうですね、こういうふうになればいいんですけど、そうなるまでは亀山さんの話から始まって、ハードウエア・スタートアップだめなんじゃないかと思って、ちょっと暗い話ばっかりですけれども。このまま、さらに暗くするのかどうか。ハードウエア・スタートアップってそもそも、ビジネスとして芽があるのかというか。

日本って環境はやっぱり、もともと家電メーカーが強いとかいろいろあって、そういう中でハードウエア・スタートアップやっていくのって、ビジネスとしてどうなんですか? 明るい要素があったら、できれば、そっち優先してほしいですけども。

八木:そうですね、明るい要素は実はいっぱいあると思ってまして、特に日本にというところでいうと、本当に、何年か前までは、日本の家電メーカーが世界を席巻していて、それを下支えしていた町工場のものづくりのノウハウとか技術とか非常に、まだまだたくさん残ってますので、海外の国だと、そういう技術が衰退してしまった国もあります。

一方で、日本は本当にすぐ近くの町工場は非常に高い技術を未だに持ってたりして、まだまだそれがデジタル化されてないとか、インターネットつながってないっていう点はあるんですけども。

私自身、製品を作っていく中でそういう町工場とうまくコラボレーションしながら、真似できないというか、加工技術も含め、非常に高度な製品をつくって、世の中に問うことができていると思うんですね。海外に比べて日本の町工場が非常に充実していて、そのノウハウが、スタートアップも頑張ればアクセスできる状態にある。というのが非常にいいポイントかなと思ってます。

:青木さんはどうですか。

青木:日本にめちゃくちゃ可能性あると思います。僕は、今の会社をつくる前に、2年ぐらい中国に住んでいたんですね。中国で会社をつくるということも十分できたんですけれども、やっぱり、日本が1番いいと思ったのは、日本のこの社会にはすごく良い製品がたくさんあるので、良い製品がたくさんあって、住んでいる人がみんないい暮らししているので、やっぱりそういうところで一番いいものっていうのは、生まれるはずなんですよね。

大量生産するだけだったら、中国にいった方が有利かもしれないですけれども、プロダクトが生まれるというのは、みんながいいなって思うような暮らし、そういうライフスタイルとすごく結びついていると思うので、そういうところじゃないと、いいものは生まれないなと。

西海岸とかもそうだと思うんですよ。例えば、夏休み中サーフィンしてるとか、そういう人たちがいるからGoPro(ゴープロ)が生まれるんだと思いますし、そういうふうな、豊かなところでやっぱりアイデアっていうのは出てくると思ったので、さっき八木さんもおっしゃっていましたけれども、ものづくりの基盤はものすごくあるので、すごく可能性はあると思います。

優秀なモノ作りができる人が多い国が勝つ

:起承で転にいく前に、ちょっと会場無茶ぶりしちゃいますけど、セレボの岩佐さんっていらっしゃいます?(笑)。セレボの岩佐さん来ているのを確認しているので、ちょっとマイクを持っていっていただいて。スライドを今つくりました。

岩佐:びっくりしました。

:この続きでどうですか。実際にものつくってきて、今GoPro(ゴープロ)の話なんかも出て来ましたけれども。

岩佐:僕がいろんなメディアで話しているのは、青木さんが今おっしゃった話と基本的にはいつも同じで。やっぱり「豊かな国でものはつくるべき」だというのが1個と、もう1個めちゃくちゃ強く伝えたい話があって。

世界で1番、巨大家電メーカーが多い国ってどこですかね? 日本ですよね。サムスン、LGありますけど、他はあんまり韓国聞かないですよね。世界で一番家電業界に従事している人が多い国どこですかね? やっぱり当たり前ですけど日本ですよね。

ということで、僕、結構ものは人がつくるかな。ちょうど今日発表したんですけど、人をうち大幅増員するっていうニュースリリースを出したところなんですけど、人がものをつくるので、優秀な人がいる国というのが1番強いと思っていて。

また、青木さんの話に戻るんですけど、ググって出てこないってさっきおっしゃったの、すごいそうだなと思って、出てこないんですよ。結局、人の中にノウハウがまだまだ溜まってて、100年後はわからないですよね。なんかパッと想像したらすぐ検索できるかもしれないですけど、今はやっぱり人の中にノウハウが眠ってるんで。

その人が1番多い国が、短期的に10年とかのタームでは勝つんじゃないかと思ってて、なので僕は日本押しですね。売上は今半分ぐらい海外になってきたんですけれど、やっぱりヘッドクォーターをここから動かす気はちょっとないですね。

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