2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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西山誠慈氏(以下、西山):ご紹介いただいた西山と申します。ウォール・ストリート・ジャーナル日本版の編集長をやっています。この後は日本語ではなく、英語でお話したいと思います。
ドリューさん、それではセッションを始めたいと思います。参加していただいてありがとうございます。2年ぶり、2度目の再会ですね。2年前にお話した際、まったく同じ春の桜の時期だったと思いますけれども、東京はどうですか?
ドリュー・ハウストン氏(以下、ハウストン):またお招きいただきましてありがとうございます。日本に戻れてうれしく思います。日本に来るのは大好きです。東京にもオフィスがあります。それについてもお話したいと思いますが、楽しむためにも来ました。
西山:前回お話したのは2年前でしたが、以来、多くのことが変わりました。
まずDropboxのビジネスはこの2年間の間にどう変わりましたか? 主な変化はどんなものでしたか?
ハウストン:先ほど冒頭でお見せしたビデオは、我々のフォーカスがこの数年の間にシフトしたことを示すいい例だと思います。Dropboxは進化していて、社内でも「ファイルの共有」から「チームのコラボレーション」ということを語るようになりました。
2007年に創立した当初、我々が解決しようとしていたのは、「USBメモリを持ち歩くかわりに、いろいろなものや情報などのファイルをクラウド上に格納する」ということでした。より生活が便利になるし、それがまた我々にとってのビジネスチャンスだったわけです。
でも今の状況を見ると、すでにすべてがクラウドに格納されるようになっています。我々の使命はほぼ達成できたわけです。
その過程で気づいたのは、単にストレージだけではなく、チームの連携にもDropboxは大きな価値を発揮できるということです。先ほどのビデオはいい例です。人々がより連携し、情報とつながって、自分にとって大事なものにすぐアクセスできるようにする。
これが大きな変化です。我々はこのように焦点をシフトさせ、「どのようにしたらチーム作りができるか?」ということに取り組むようになったわけです。
それから、ビジネスの規模も変わりました。今は世界で5億もの人々にDropboxを使っていただいております。20万社の企業が我々の有料サービスを利用しています。昨年は、フリーキャッシュフローが黒字になりました。そして今年1月には、年間売上予測10億ドルと発表しています。我々は大きく成長しているのです。
西山:前回は、クラウドストレージの普及が進んでいることや、競合が増えていることについてお話ししました。今はどうでしょうか? iCloudやグーグルドライブを使っている人も多いですが、そういった競合他社に比べていかがですか?
ハウストン:我々は、最初から競合に直面しておりました。競合相手になっているのは、すばらしい企業ばかりです。しかし、なぜDropboxを利用してもらえるのか、ユーザーから聞いているのは、我々がこの分野でのパイオニアだからであり、シンプルなデザインであるためです。そして、あらゆるプラットフォームでうまく機能できるという点も支持されています。
確かに競合はいます。ただ、お客さまと話してみると、彼らの抱える問題が、実はきちんと解決できていないことがわかります。
というのも、コラボレーションやチームワークを助けるさまざまな新しいツールが導入されている一方で、前から使われているファイルやEメール、オフィスなどの必要性がなくなったわけではありません。そこで仕事が分断されてしまい、時間の無駄が生じるというわけです。
それについてよくよく考えてみると、我々が仕事をしている時間の60パーセントは、実は「仕事をするための仕事」に費やされていることがわかります。つまり、タスクの管理、情報やEメールを探す作業、さまざまな人との連携・調整などです。
ここで興味深いのは、まずこの60パーセントについてですが、本当の仕事に実際に費やしている時間は、全体の40パーセントしかないということを意味します。すなわち、1週間の仕事を考えた場合、月曜日と火曜日、そして水曜日の分までは、時間を無駄にしている、ということになります。
さらに、同じような無駄が毎週繰り返されるわけです。これは衝撃的です。しかしDropboxはそういった無駄を減らすために貢献できると思います。
西山:新しい製品が出ましたね? ファイルを格納するだけでなく「Paper」と呼んでいるものがあると思いますが、ちょっとくわしく説明していただけますか?
ハウストン:Dropbox Paperというのは、簡単にチームのコラボレーションを実現できます。
Dropbox社内でも、ファイルももちろん使っておりますが、リアルタイム・コラボレーションのためには、Google Docsなども使います。ただ、Google Docsはリアルタイムのコラボレーションには適していますが、文書が増えていっても整理ができず、探しているものを見つけるのが大変だという難点もあります。
それから、Wikiもよく使っています。単なる文書ファイルとは違い、相互にリンクしていますし、探しているものが見つけやすくなっています。そして、社内での情報公開も簡単です。しかし一方で、編集するのが大変でなかなか更新できません。どこかしら、妥協しなければならない点が出てくるわけです。
そこで、「両方のいいところのみを組み合わせることができたら」と考えて誕生したのがPaperです。シームレスなリアルタイム・コラボレーションを可能にします。Paperを使うと、複数文書の共同編集ができるだけでなく、各文書は整理されて、相互につながっているので、探している情報も非常に簡単に見つけられます。Wikiと同様の使い勝手の良さを持ち合わせているのです。
しかしそれで終わりではなくて、さらに一歩進んで考えたのが、会議室に集まって一緒に議論するという経験を再現できないか、というアイデアです。もともと、Dropboxの強みはものを格納するストレージ機能だったわけですが、「ストレージの場所であると同時に、みんなが集まって対話する場を提供できたらどんなに良いだろうか」と考えました。
通常の文書ファイルと同じようにテキストの編集ができるだけでなく、写真やビデオなど、あらゆるコンテンツがPaper上で共有可能です。とても便利なので、社内でも経営に活用するようになったのですが、今年1月には一般リリースしております。
我々の初期顧客の多くは、Paperを使って会社経営を行っています。Dropbox Paperは、まったく新しいかたちで社内のナレッジ管理を可能にするサービスなのです。
西山:我々ジャーナリストは、非常にテクノロジーには疎いのですが、Slackというソフトウェアがありますよね。Paperと似ているようにも見えますが、Slackと比較して、Paperはどんな点が優れていますか?
ハウストン:Slackは、チャットやリアルタイムのコミュニケーションに使うには非常に便利だと思います。Dropbox Paperは、社内の情報を整理して体系化できるという点で優れております。
このタイプの情報は、常に参照できるようにしておきたいものです。
チャットだと、過去のやりとりはどんどん流れていくので、すぐに画面上からは見えなくなってしまう。ですから、Dropboxでは、この両方を使い分けしている社員が多いです。コンテンツ用にPaperを使い、コミュニケーション用途にはSlackやEメール、といった具合に使い分けをしています。
西山:より幅広いトピックについてお話をしていきたいのですが、過去2年間、インターネットに対しての懸念が高まっている。ハッキング疑惑などのニュースが常にメディアを賑わしているというような状況ではありますが、これはクラウドストレージというビジネスに対して逆風とも言えるかと思います。セキュリティに関してはどう考えてらっしゃいますか?
ハウストン:セキュリティは、世界中にいる我々の顧客にとっても、常にトップの懸念事項と言えるでしょう。非常に重要な課題です。情報がセキュアでなければ、インターネットビジネスを続けることなどできません。ただ、新たな技術やプラットフォームなどは、ある一定の進化のプロセスをたどっていくものです。クラウドもまさにそうですね。
例えば、eコマースが始まった時を、みなさま思い起こしていただけますでしょうか。最初は「クレジットカードの番号を本当に入力していいのだろうか?」「なにか悪いことが起きるんじゃないか」など、怖かったと思うんです。
でも、セキュリティ強化にこれまで多大な投資がされてきて、例えばレストランで会計時に見ず知らずの人にクレジットカードを渡すよりも、セキュアなシステムに情報を入力する方がよっぽど安全だ、ということにみんなが気づくようになったわけです。
モデルが新しくなるに伴い、新しいセキュリティの脅威が生じてくるものですが、我々自身、そして我々のお客さまも、DropboxやGoogleのようなシステムに入れたほうが情報はよりセキュアであることがわかっているわけです。
なぜかといいますと、そういった会社は、巨額の投資をして強固なセキュリティの環境の構築を図っていますし、それを償却できるだけの大規模な顧客ベースを持っているのです。情報漏えいのいろいろな問題がメディアでも取り上げられていますが、往々にしてそれはクラウドを利用せずに自社独自で対応しようとして起きる問題です。
人々の考え方というのはそんなに簡単には変わらないかもしれません。しかし、「Dropboxのようなサービスを使った方が情報はより安心なのだ」と理解している人が増えてきているのも事実です。
西山:パーソナルなクラウドサーバーというものがあると最近知ったのですが、「サーバーを購入して自分専用に使えば、ハッカー攻撃の対象にもならないだろう」という考え方ですよね。ただ、DropboxやGoogleほどの規模を誇る企業では、他では絶対に達成できないようなプロフェッショナルレベルのセキュリティが担保できるということですね?
ハウストン:まさにその通りです。自前でやろうとすると、1つの問題を解決できたと思っても、それが引き金になって別の問題が起きてしまっているかもしれないわけです。
自分で自分のIT担当者になるというのは大変です。ルーターになにか問題があったら、新しいエクスプロイトについて調べなければならない。セキュアな環境を作るために、オープンソースのプロジェクトに頼る必要も出てくるでしょう。
それに対して、Dropboxやその他のインターネット大企業では、何千万ドルという投資をしています。専門のセキュリティチームを大勢抱え、24時間365日目を光らせているのです。それぞれのリスクとメリットを複合的に考えた場合、大多数の人々、大多数の企業にとって、プロフェッショナルなサービスを使った方が断然メリットが大きいということになります。
西山:自宅に多額の現金を置いておかない方が良いのと一緒ですよね。
ハウストン:その通りです。
西山:それでは、次のトピックに参りましょう。過去2年で大きく変わったこと。アメリカでは、新しい大統領が誕生しましたね。サンフランシスコやシリコンバレーは、新しい政権に対して相当強い感情を抱いている人も多いようですが、具体的な政策に関してはどうでしょうか?
特に移民政策。これはシリコンバレーだけではなく、多様な人材を採用している会社に大きなインパクトを与えていますが、現政権の移民政策に対してはどう考えてらっしゃいますか?
ハウストン:アメリカ国内・国外あまり関係なく、不確実な状況に置かれているのはみんな同じだと思います。移民に関して、我々Dropboxでとても大事にしているのは、宗教や出身、バックグラウンドに関わらず、多様な人々に対してオープンであるということです。
今回の渡航禁止令などは、こうした価値観と正反対にあります。それは、アメリカの国家としての価値にも相反しているかと思います。
アメリカというのは、移民の国です。それがまさに国としての強みでもあるわけです。
すばらしい人、すばらしい学生、秀でた人材が世界中からアメリカに集まっています。それに対して背を向けるというのは、我々にとって大きなロスです。ただ日本のような、アメリカのライバルとなる国にしてみれば、これはチャンスかもしれませんね。
もどかしい状況ではありますが、テクノロジー業界でも歩調を合わせて、いろいろ行動を起こしているところです。
西山:すでにインパクトは出ているのでしょうか? 例えば、採用だとか、実際のビジネスに影響は出ていますか?
ハウストン:個人レベルで大きな影響を受けることですし、非常に不安な状況を生み出しています。きちんとビザを持っていて、法的に居住が保証されている社員にとっても、今、物事が非常に流動的ですし、ビザ審査のシステムを全面的に見直すという噂もある。
合法的に滞在している人が急に国外退去しなければならない状況や、家族と一緒に住めなくなる、あるいは旅行で海外に出たらアメリカに戻ってこられなくなることもあるかもしれない。自分がその立場にいたら、ものすごく不安な状況だと思います。
西山:Dropboxは、他の企業と一緒に行動を起こしているとおっしゃいましたが、政策への働きかけとして具体的にどういったことをされていますか?
ハウストン:具体的には、入国禁止への対抗訴訟を支援するため、法廷助言書を提出しました。テクノロジー業界全体としても、政府への影響力を強めようとしています。
もちろん、簡単なことではありません。なかなか先が読めない状況で、物事は刻々と変化しております。でも、みんながなんとかしてより良い状況を作ろうと模索しているところです。
西山:あなた自身についてうかがいたいと思います。おそらく参加者のみなさんが最も興味を持っているのもその点だと思うのですが、かつて30歳以下で最も成功した起業家と言われていましたよね。今はすでに30歳を超えてしまわれていますが。
Dropboxはまもなく10周年を迎えようとしています。そこで、これまでどんな苦労や喜びがありましたか? 成長を続ける企業の経営者としてどうでしょうか? また、10年間を振り返って、最も印象に残る教訓とはなんでしょうか?
ハウストン:まだ30歳以下の人でも、いずれは30歳になってしまいます。数週間後の5月には10周年記念を迎えるわけですが、過去10年を振り返ってみると、10分間程度の短時間だったように感じると同時に、10回分の生涯に相当するくらい長かったような気もします。
でも、素晴らしい経験であったことは確かです。過去にやった他の仕事と比べると、もう白と黒の極端な違いのようです。喜びも大きいし、悲しみもそれだけ大きいものがあります。
いくつかの変化が起きました。まず、仕事の性質が変わりました。そして、取り組むべき課題もずっと大きくなります。しかし、体系的に自分をトレーニングし、学習すれば、自分を磨くことができます。
5年前だったら、なかなか夜眠れないような問題でも、今はぜんぜん心配せずに対処できます。そして今、相当な不安を感じているようなことについても、5年後にはもう悩まないようになっているでしょう。すぐに結果が出るわけではありませんが、体系的に学習し、そして自分が背伸びすることです。
(前セッションで)ベン・ホロウィッツが言ったように、CEOには幅広く、奥深いスキルが必要になりますから、ビジネスに成功するためには多くのことを学ばなければなりません。
ただ、すべてトレーニングで習得可能です。地道に一歩一歩努力すればいいわけです。最初からすべてに長けている人はいませんし、だからこそ、すばらしいチームを作ってお互いに補完し合えばいいと思います。
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