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Larry Page and Sergey Brin with Vinod Khosla(全2記事)

「もしもあのときGoogleを売っていたら…」 ラリーとセルゲイ、創業者2人が振り返る

1997年、グーグルはExciteに買収されかけていた。もしその交渉が成立していたらいまの世の中はどうなっていただろうか。グーグル共同創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが当時を振り返る。そして同社が今後踏み込んでいく領域に機械と人工知能がある。将来、人間は何をして過ごしているのだろうか。

GoogleはExciteに売却されそうだった

ビノッド・コースラ氏(以下、ビノッド):「皆さんご存知の、もうご紹介する必要はないですね」などと言いながらもゲストを紹介する司会者にはうんざりでしょうが……。

ラリー・ペイジ氏(以下、ラリー):どうぞ僕らを紹介してください。

会場:(笑)。

ビノッド:(笑)。「もしもあの時……」の話から始めたいと思います。数年前、あれは1997年だったでしょうか?

ラリーとセルゲイは買収される一歩手前でした。その時のことを少し教えてもらえますか? いつも思うんです。もしもあの時買収されていたらどのような世界になっていただろうか、と。

セルゲイ・ブリン氏(以下、セルゲイ):はい。我々は「ページランク」というテクノロジーを開発しました。残念なことに「ブリンランク」ではなかったんです。ブリンランクにしたほうが売れたんじゃないかと思いますが。それはさておき、検索に役立つこのテクノロジーを開発したのです。

ただ、このテクノロジーだけではサーチエンジンは完全体とならない。ウェブページのタイトルを検索して、それらのランク付けはかなりよくできていたと思いますが。この技術を、当時検索ビジネスをやっていた多くの会社に見せたんです。覚えている方もいらっしゃると思いますが、「infoseek」「Excite」「Lycos」などです。中でもExciteがこの技術に強い関心を持ちました。そしてビノッド、あなたもこの技術にとても興味を持たれていましたよね。あなたはExciteに投資する投資家でしたからね。

しばらく彼らとのやり取りが続きました。ビノッドともやり取りがありましたね。覚えてらっしゃるでしょう。結果、Exciteのマネージメントチームがあまり乗り気ではなかった。つまり“エキサイト”してはいなかったんです。これはダジャレではありません。

当時スタンフォード大学の院生だった僕ら4人が、威勢よくビノッドにメールを送ったことを覚えています。「僕らは本当は売りたくないんだ。でも160万ドルでなら売ってもいい」と。その数分後にビノッドから返信がありました。「それはでかい金額だな! でもわかった。それでやろうじゃないか」と。これがビノッドさんのスタイルです。

会場:(笑)。

セルゲイ:その10分後、当時のメンバーの1人だったスコットが、ものすごい笑顔を見せて笑いながら走ってやってきました。彼が僕らのメールに対して、ビノッドさんになりすまして返信していたのです。

会場:(笑)。

セルゲイ:当時のメールに関する倫理道徳は今とはちょっと違ったのですよね。ともあれ、彼が僕らをからかっていただけでした。もうおわかりのようにその契約は成立することはなく、僕たちは自分達のサーチエンジンを開発したのです。

ビノッド:確かあの時35万ドルで合意しましたよね?

ラリー:何をおっしゃる? ビノッドさんらしい(笑)

会場:(笑)。

セルゲイ:今、ここで交渉再開しようとしてるんですか? 35万ドルぽっちで?(笑)

会場:(笑)。

ビノッド:あの時は、Google買収計画をマネジメントチームが同意しなかったんですよ。

ラリー:つまりビノッドさんは、160万ドルで買おうとしていたけれどもチームは納得せず、我々も譲ろうとしなかった、とこういうことですね。

Googleを売らなかった理由は、誰も技術への理解がなかったから

ビノッド:当時チームはGoogleの買収は必要ないと判断したんです。さて、この話題からスタートしたのには理由があります。このようなこと、「もしもあの時」という状況は本当によく起こります。今思えば、あの時、彼らがGoogleを買収しなくて本当によかったと思います。そうしていたら今の世界は全く違うものになっていたでしょうから。そしてもしも買収されていたら、ラリーとセルゲイがビジネスを売っていたら、2人のビジョンを追求して今の世の中をつくり上げることがなければ、それは本当に残念なことになっていただろうと思います。

ラリー:興味深い話です。私達が会社を売らなかったのはお金が理由ではありません。私達は当時大学院生で、ブリトーのような手軽なものを食べる生活をしていました。なので100万ドルでも十分な金額でした。私達が売らなかった本当の理由は、当時検索ビジネスをしているすべての会社と話しましたが、誰も真の意味で私達がやっていることに興味を持たなかったからだと思います。

つまり彼らが特別熱意を持っている訳ではない会社を、それを立ち上げた私達抜きで買い上げて自分達でやろうとする会社が出てきませんでした。彼らは、私達のビジネスを買い上げて、私達にそのビジネスを続けて欲しがった。でもそこで、「なんで僕らは検索ビジネスになんの思い入れもない人達と一緒にやらなくてはいけないんだ?」と思ったのです。熱意がなければそこに良いものが生まれるはずがありません。

つまるところ、それが売らなかった理由だと思います。彼らは私達の技術に興味がなかった。そして興味がないから100万ドルを出し惜しんだ。当時振り返れば100万ドルは大金でしたから。私は検索ビジネスは今後必ず大きくなると信じていました。つまり、この分野で成果を出したい。しかし当時のどの組織にいてもそれが実現しないということがわかっていたから売らなかったのだと思います。

ビノッド:ビジネス志向の人々は目先の利益に囚われて、長期的ビジョンを失いがちです。この点についてはどうでしょうか? スタートアップに限らず、多くの企業が失敗しています。例えS&P 500の企業であっても、多くが倒産しています。これはなぜでしょうか。大小限らず、企業はどのようなことに気をつけねばならないと思いますか? どうやれば上手くいくでしょうか? Googleは他とどう違うのでしょうか?

ラリー:確かにさまざまな企業の方とお話をしていても、そのリーダーの多くが目先のことに集中し過ぎていると感じます。

例えば、世界に良い影響を与えるために、世界で最も重要な企業のひとつである「エクソン」を経営するとしたらどうするか。多くの人はきっと、「世界に良い影響なんて与えられないよ、環境破壊問題はどう捉えるんだ?」などと言うでしょう。

しかし、20年越しの長期で物事を見て、企業が世界中でのオペレーションや製造、政府との関係をより良くしようと努めれば、多くのことが可能となるでしょう。そこを4年越し計画にしてしまうとどうでしょうか? フォーチュン500のCEOの任期は平均して4年です。4年で結果を出せと言われたらどうしますか?

決められた期間で成果を出さなければならないというプレッシャーがあるのは良いことです。しかし、リーダーにとって「4年で結果を出せ」と言われるのは辛いでしょう。たった4年で大きな問題を解決するのは非常に難しい。でもそれが20年あればゴールは達成できるでしょう。現状のシステムが大企業でリーダーであることをとても難しくしていると感じます。

長期的に物事を捉えれば環境的、社会的に見て、今やっていることが将来にわたって正しいわけではありません。企業は上手く変化することができない。それが大きな問題なのだと思います。そしてそれが企業のリーダーが常に取って代わられる原因だと思うのです。

5〜15年後のためにGoogleだって「一か八かの賭けはある」

ビノッド:少しGoogleのお話を聞かせてください。今後5年から15年にかけて、Googleの最も重要な課題はなんでしょうか? どの分野に一番フォーカスしていますか?

セルゲイ:いくつかありますね。そしてそれらにはチャレンジが含まれます。テクノロジーを幅広く使って世界に影響を与え、そして成功するビジネスにするチャンスがたくさんあります。私達はGoogleと共鳴する会社に投資していますが、その中には一か八かの賭けに出たものもあり、リターンが欲しいところです。

「Google X」を運営する私の仕事は、多くの機会に投資することです。それが大きな賭けだとしても、です。ビノッドさんにも投資してもらっていますが、ポートフォリオの中のいくつかの賭けに成功することを願っています。それらのいくつかはGoogleのビジネスに関連するもの、いくつかはまったくGoogleとは関係ないところです。

例えば、自動走行車に関しては、個人で車を持たなくとも移動が簡単にできるように、そして駐車場の必要性をなくして、交通渋滞を減らす。このように世界中の交通手段のあり方を変えることができればと思っています。それが叶えば、私達はとても嬉しいですね。

しかし、これはとても大きな賭けです。技術的にも政策的にもリスクがたくさんあります。例えリスクがあろうとも一か八かの賭けに出た場合、それが後に成功することを願うのは当然です。

「PCで探せる情報量に対し、費やす時間が足りなすぎる」

ビノッド:ラリー、君は今後数年のGoogleの飛躍において最も重要なポイントはどこにあると思う? どこを失敗したくない?

ラリー:Androidに関しては今後も期待しています。私達はこれまで検索に関わるビジネスをしてきました。皆さんよく言いますね。「Googleって何をしているの? どうしてそんなに検索ビジネスに一貫しているの?」と。検索ビジネスはとても面白いです。世界のあらゆる情報を集め、理解し、そして皆さんのためにその情報を整理するのです。

そこで私達は、「情報を集めて整理しているんです。そして多くの疑問質問は地図や場所に関するものなので、地図や場所を正確に把握しようとしているのですよ」と言います。またある時は、「私達にもわからない情報についての疑問・質問があるので、本の取り扱いなどを始めたんです」と言います。つまり、ゆっくりと手を広げてきたのです。

「Google Now」に関しても、皆さんもう情報を探すことに疲れたのではないかと思いまして。情報を探す前に、聞かずとも答えが出てくるようになったら皆が喜ぶのではないかと思ったのです。その方がいいでしょう? 元々「I’m feeling lucky」ボタンがその役割を担うようにつくりました。情報を探さずとも、探している答えにたどり着けるように。残念ながら、あまり上手く行きませんでした。その機能に見合わない、ダサい名前をつけてしまった。

でもI’m feeling luckyボタンは今のGoogle Nowと同じ趣旨でつくりました。コンピューターはまだまだです。自分でいろいろ面倒な操作をしなくてはならない。必要な情報を探すためにタッチパネルをスクロールする必要がありますよね。車に乗っている間、携帯電話は手の中で跳ねて上手く操作できないでしょう。コンピューターを使って得ることができる情報量に対して私達が費やす時間量が見合っていないのです。そしてそれを解決するのが私達の仕事です。そして私達が今やっていることすべては、この問題を解決することに繋がっています。

ビノッド:今後やっていきたいのは機械学習とAIですよね? これまでは不可能に近かった技術ですが、今後Googleは機械学習テクノロジーの発展にどのくらい影響を与えることが出来ると見ていますか?

セルゲイ:(ラリーを指して)ここに最新モデルがあります(笑)。完璧ではありませんが、結構良くできていると思います。

会場:(笑)。

今後、人間よりも優秀な機械は生まれる

セルゲイ:機械学習においてはいくつかの試みをしているところです。例えば、機械学習にフォーカスするブレイン・プロジェクト。これのプロジェクトでは機械にインプットする方法を開発中です。例えば見えるもの、視覚を機械にインプットする。この技術は実は自動走行車開発に活かしてきました。他にもGoogleの提供するさまざまなサービスに役立ってきました。

一般知能に関して、例えば「Deep Mind Acquisition」は今後論理的に作動するAIになることを願っています。ご存知の通り、コンピューターサイエンティスト達がこれまでAIの完成を約束し続けてきたのにも関わらず、いまだそれが世に出ていないくらいなので、私達が今後AIを実現するか否か、いつになるのかを予測することは恐れ多いです。

しかし、人工知能が将来実現可能であることを証明する多くの証拠があります。すなわち、今後自身で論理付け、考え、行動できる機械、しかもそれを私達人間よりも上手くやってのける機械が誕生することでしょう。

ビノッド:機械学習によって変革が起きると言われています。機械が牧場で働く人々の仕事を取って代わり雑草除去などの仕事をしています。機械によってハンバーガーが作られる、さらには弁護士、医師、精神科医、耳鼻科医などすべての職業を機械が人に変わってできるようになる。仕事の大小に限らずに、このように機械がなんでもできるようになる時代が来ると考えると少し怖いような気がします。

この続きはのちほど、テクノロジーが社会に与える影響についてでも、もう少しお話できればと思います。現存する50%以上の職業は今後のテクノロジー発達次第で機械ができるようになるのでは、と思います。

セルゲイ:実はベンチャー投資家に取って代わる機械学習を開発しています。いや、冗談です(笑)。でも完全に冗談とも言えないですね。

会場:(笑)。

ビノッド:そのベンチャー投資機械学習については、僕も1体買えるのであればいいんですが(笑)。

会場:(笑)。

ラリー:ベンチャー投資機械学習はまさにGoogleベンチャーがやっていることですね。

セルゲイ:確かに彼らはそのように始めました。でも今そのようにやっているのかはわかりませんが。彼らはなぜか新しい投資パートナーを雇い続けているのでね、よくわかりません。アルゴリズムベンチャーは上手くいかないのかもしれませんね。

会場:(笑)。

ビノッド:そういえばExciteに早い段階でいたグラハム・スペンサーがGoogle Nowのプロジェクトに関わっていましたね。

セルゲイ:もしかしたら彼らはただそこに座って遊んでいるだけかもしれない。もしかしたら彼らはアルゴリズムを使っているのかもしれない。わかりません。

会場:(笑)。

「この100年で農業従事者はわずか2%に減った。同じことが起きる」

セルゲイ:本当にGoogleベンチャーがどうなっているのかよくわかりません。ただここで言えるのは、この100年の間に人間のできる多くの作業を機械が取って代わってやるようになり、そしてこれは今後も続いていくということです。

ラリー:昔、人口の90%は農民でした。つまり職業の幅の変革は歴史的にすでに起きたことなので、機械が人間の仕事を代わりにやるようになってもなんら不思議はないですね。

ビノッド:昔のアメリカではほとんどの人が農業をしていたのが、現在農業に従事するのはたった2%です。この変化は1900年から2000年の間に起きました。同じように、今後10年、15年、20年ですさまじい速さで労働市場が変化していくことでしょう。

ラリー:ピーター・ディアマンディスの本にも書いてあるように、私達は「豊穣の時代」に生きている。人が幸せでいるために何が必要であるか考えた時、人類学者は自分の子供に家、安定、チャンスなどを与えられることだと挙げています。家や安定、チャンスなどを子供に与えることはそう難しくありません。それらを与えるために必要な労働資源や仕事は全体の資源の1%にも満たないのではないでしょうか?

つまり、「人は周囲の人を支えるために血眼になって働く必要がある」というのは幻想です。これに気が付いていない人が多いということが問題です。仕事がないと幸せを感じられない人が多くいることも社会的な問題だと思います。つまり、人は常に何かをしていたい。必要とされていたい、生産的なことをしていたいというのが人間の性です。こういった人間の性と産業のニーズは必ずしもマッチしません。

なので私達人間は環境破壊に代表される非生産的なことをしてしまうのです。今後の世界をとても不安に思います。何か対策を考えなければ、今後良い状況にはなりません。リチャード・ブランソンとこのような問題について話していたのですが、イギリスの雇用情勢は良くありません。彼は1人のフルタイム社員を雇うのではなく、2人のパートタイムスタッフを雇うように呼びかけています。

つまり、若い人達が少なくとも無職にならないよう、少しでも仕事ができるように努めているのです。雇用主が少しだけコストをかければよいのです。これはイギリスに限ったことではなく、世界的に見ても職がない人が多くいる。そしてその率は増加しています。労働時間を短縮するのです。「有給があと1週間あったら嬉しい人は?」とよく聞きます。2人は違うと思いますが、ほとんどの人が手を挙げます。ほぼ100%。

「2週間の休み、または労働時間が週に4日だったら嬉しい人は?」、これにも皆が手を挙げます。多くの人が働くことが好きであると同時に、もっと家族と一緒に過ごしたり、好きなことをする時間が欲しいと思っているのです。もしも労働時間を減らすことが出来ればこれが問題解決の一歩になります。少し1人あたりの労働時間を減らし、その時間を他の人に割り振れば皆が仕事を得ることができます。

Googleが社会問題や行政に与える影響は?

セルゲイ:それはどうかな? 労働力は今後も不可欠だと思う。人は常にもっと多くのものを欲しがる。もっとエンターテイメントを、もっとクリエイティビティを、もっと何かを、と願い続けてていくよ。その時々でその対象は移り変わるだろうけどね。

ラリー:世の中のシステムは完全ではないので、すべてが上手くいくわけではないですよね。経済議論には現在は必ずしも正しくないものもあります。しかし、こういった議論が政治的議論に繋がったりしますね。でも正解など誰にもわからない。

ビノッド:社会的なトピックになったので、短期的な問題、例えばサンフランシスコが抱える問題がありますよね? 経済/ビジネスに関わる人々が他の分野の人々より成功していることを喜ばない人も多くいますよね。

ラリー:それはもう行政の問題です。私達は多くの仕事を生み出し、多くのビルを建てていますが、住宅は建てていません。それが多くの問題を生み出すことも不思議ではありません。家賃統制しているところは、この物価高に伴い住宅を値上げしていません。家賃統制を取っているところは損をしています。こういった問題は社会構造に問題があり、とてもシリアスだと思います。しかしこの分野は私達の範疇ではありません。

ビノッド:しかしこういった問題は所得分配が偏っていることを指示しているのだと思いますが。

ラリー:その通りですね。それも大きな問題です。

【続きはこちら】「君らは手を広げすぎだ」ジョブズがGoogle共同創業者によく注意していたこと

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