2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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漆原茂氏(以下、漆原):技術系のメンバーや先生方が研究なさっている内容は、もちろん玉石混合ですが、おもしろいものがかなりたくさんあるんですよね。世のなかが知らないだけで。理解しようとしてないというのもあるかもしれませんが。
はじめは、「こちらにわかるように説明して」と言っているのに対して、先生側が「そんなの知らないよ」という感じだったと思うのですが、実は研究の質はかなり高いと感じます。
丸幸弘氏(以下、丸):本当に高いです。僕らリバネスがやっているのは「サイエンスブリッジコミュニケーター」と言って、「先生はわざわざ行かずに、僕らが理解したから僕らが話すよ」と、間に入って話をするなど、ちょっとした工夫があるだけで意外とうまくいったりする。
漆原:そうしたプロデューサー的な、周りが少しやるだけで爆発的にいくネタは結構あるのではないかと思います。
逆に「短絡的にお金をつけて、すぐ起業して……」というほうが危ないというか、そうさせない方がいいネタが多いように見えますね。
丸:すごく危険なのは、仮にファンドが大学発ベンチャーに1,000億くらいつけたとして。お金漬けにてしまうと、彼らが研究費の代わりだと思ってしまったら終わりですからね。
前回の1,000社計画で失敗した理由は、金融系がお金をバンバン入れてしまって「あ、これは新しいポスドク問題対策と研究費だ」と思った先生が、「リタイアした後に自分の研究をこのお金でできるんだ」と勘違いしてしまったベンチャーがたくさんあった。それが今、ゴーストベンチャーになってしまっているんですよね。
今回はそうではない。甘いトマトを作るときには、ポタッポタッと水をあげなきゃいけないんですよね。その匙加減を間違えると、またブヨブヨのトマトができて、途中で落ちるかもしれない状態になると僕は予想しています。
そのために、ここで一度気を引き締めて、「お金がある。ただ落ち着いてくれ」と。
どこにどうやって分配していくのか。そして、どういうチームをつけるのか。本当にそれは人類の課題を解決するのか。そういうところにちゃんと目を向けていけば、確実に世のなかはよくなると思います。
漆原:KIIには、投資ポリシーかなにかあるんですか?
山岸広太郎氏(以下、山岸):KIIは10年運用するファンドとして作っているので、その間に回収しなきゃいけないんですよね。「慶応の研究成果を活用しているベンチャー企業を育成する」というミッションなので。
漆原:さっきの丸さんの話だと、10年だとまだ最初のフェーズという感じですけど(笑)。
山岸:そうなんですよ。僕もいろんな投資候補を見ていて、IT業界だと「シード→アーリー→エクスパンション→レイター」という会社のステージがあって、エクスパンションくらいから売上が立ってくるのが基本的なんです。
しかし、特にサイエンスなどには、10年経ってもまだアーリー、要するに製品開発段階の会社がたくさんあって。
僕らは、これから10年のファンドなので、10年経った会社に対して、これからお金を入れるのがちょうどいいというのが意外とあるんですよね。
丸:おっしゃるとおりです。「人機一体」という立命館大学のベンチャーでは、2メートルの人型ロボットを作っています。尖ってますよね。普通はいらないですよね。ガンダムの世界じゃないんだから、と思うかもしれませんが。でも、彼らはガンダムを作りたいわけじゃないんです。
ここでは、人々をフィジカルな苦役から解放することを目指していて、人間の能力を拡張するためにロボットを作っているんです。9年間、その先生が1人で形上のベンチャーを作って、コツコツと腕を開発して、次に脚を開発して……とやっているんですよ。
そこでいよいよ「あとはお金がいくらあったら組み上げられる」となったタイミングで出会って、初めて投資することができたんです。組み上げたいだけなんですよ。ビジネスになるわけじゃないんです。まだ始まりですよね。ようやくスタートラインです。まだプロダクトのイメージもない。でも9年経っているんです。こんな感覚なんです。
ですから「会社を作るよ」「じゃあお金払うよ」と出しても、たぶん10年では回収不可能なんですよ。これがおもしろい。
僕は14年間、ずっとそういう種をまいてきたんです。14年ですよ。今だいたい付き合っている方は……付き合っている方って、女性じゃないですよ(笑)。ベンチャー企業の方は、5年以上ずっと一緒に細かい技術をやっていますが、そのくらいのスパンでやらないといけないところが、おもしろさであり、逆に難しさでもあると思います。
漆原:一方、ハードウェア・ソフトウェア系ですと、大学の研究のなかでずっと培っているものがある前提で「フッ」とくるものもあります。そのため、もうちょっと早いパターンもあるんじゃないかと思いますね。
丸:そうそう。大企業がバッと組んでくれたら、意外とバコーンとプロダクトになる可能性があります。
漆原:そう思うんですよね。「大企業がアクセプトしてくれさえすれば」というハードルが、日本の場合、ものすごく高い気がするんですよね。
丸:僕らが作ったリアルテックファンドは、23社の事業会社を仲間にしたという点が大きいんですよ。そうすると、我々はコミュニケーターとして、そこのハードルをすぐに越えることができる。
これは僕が14年間ずっと大学のなかの先生方と語って、理事と話して、ずっと「どうしたらいいか」を考え続けた結果でもあります。
まったくお金のことがわからない僕が、……今日そのあたりにいらっしゃると思いますが、ユーグレナの永田(暁彦)さんやハーバードの北川(拓也)さんといった仲間と一緒に「エコシステムが作れるんじゃないか」という感覚になってきたんですよね。
漆原:コメントしたいのは、必ずしも長いものばかりではない気はします。研究室ではずっとやっていて。
鎌田富久氏(以下、鎌田):そうですね。蓄積がありますからね。
漆原:先生が30年研究しつくした蓄積があるのに、これが実になるかならないかというときは、突然スピード勝負だったり。そういうネタもあるんです。世のなかのタイミングを、残念ながら大学にいると気づけなかったりします。
鎌田:タイミングを逃さない、というのが重要ですよね。
漆原:本当にそう思います。一気にいかなきゃいけないときはお金でもなんでも投下してスピード勝負。そういうことがビジネスではよくあると思います。
そういうときに、一気に支援できる体制のようなエコシステムが非常に重要になるんじゃないかと思いますね。
山岸:そうですね。いま大学を見ていて、時間軸を逆算してスケジュールをひく発想ができる人は、多くないので。そこは僕みたいな事業会社で普通にやっていた人が入ると、バリューがある気がします。
漆原:大学と事業会社の相乗効果はすごく高いと思うんですよね。
丸:それに、大企業にとっても、このネットワークとつながっておくのは超お得ですよ。細かい新規事業のR&D部門を持たなくても、大学すべてとエコシステムを組むだけで、もしかするとポンッと新しい事業が生まれてくる可能性がある。30年間、先生がやっていた技術が、スッと市場に出ていく。だから僕は、M&Aのほうが多くなるんじゃないか、なんて予測してます。
山岸:そういう意味では、アメリカなんてそもそもR&Dやビジネスを育てるところがすべてアンバンドルされているというか。コミュニティ全体でR&Dをして、事業をインキュベーションして、最後にグロースするところは大企業、というのが完璧に分業されていると思います。
これまでの日本の高度経済成長のモデル、つまり大企業のなかにすべて取り込んでいくやり方ではなく、だんだん分かれてくると思いますね。新陳代謝を起こすという意味でも。
では、そろそろ時間がなくなってきたので最後にお1人ずつ、会場にいる方や僕のような文系が、「こうした新しい大学発・技術系ベンチャーのエコシステム構築に貢献できるとしたらこんなことやってくれたらいいんじゃないか」がありましたら、ぜひメッセージとして、いただいてもいいでしょうか。
漆原:ぜひみんなボランティアで……。昨日もおざーん(小澤隆生氏)が、盆栽を愛でるみたいに、「金なんて返ってこなくていい」な感じだったんですけど。そうした精神はとてもいいんじゃないかと思っていますので。
山岸:僕も最初は寄付で始めたんで。研究支援や教育支援とか。
漆原:それはとても重要だと思います。大学関係者の方はここにいらっしゃらないので、うまくメッセージが届けばいいなと思うのですが、大学をオープンにして、教授は全員兼業を可能にする。
学生も、単位さえ取れるんだったら、どんな仕事してもぜんぜんオッケー。さらに、「みんな税制を優遇します」というようなことをぜひやれないかなと思っています。
山岸:そうですね。投資家も作っていきたいですよね。
漆原:また、スタートアップ系やネット系の人は心配いらない点ですが、大企業はベンチャー系の技術、あるいは大学発ベンチャーの技術に対して懐疑的なところがあると思うのです。「それをいかに使いこなせるか」とか。むしろ積極的に使ってどう役立てようかという動きが、大企業自体のバリューアドにもなるんじゃないかと思うんですよね。
先ほどのPreferred Networksさんがファナックさんと組んでAIをやっているという話。ファナックさんがスタートアップと組むのは、すさまじいニュースだと僕は思ってます。そのように大手企業の人もどんどん関わってくるといいと思っています。
山岸:ありがとうございます。鎌田さん。
鎌田:最近、国のベンチャー支援や制度、助成金も多いのですが、僕は究極的にはそうしたものがなくてもベンチャーがバンバンと出てくる状況にしなければいけないと思うんですね。そういう社会の構造、あり方にしないかぎり、対症療法的に瞬間の助成金を増やしたところで、あまり継続的な効果は出ないと思っています。
そのために、1つは「働き方革命」といいますか、日本全体の頭脳を最適化することが必要になってきています。
今だと企業のなかの優秀な人は企業に縛られて、大学のなかは大学で閉じている。つまり、ローカル最適になってるわけですよね。
そうではなくて、優秀な人は大学教授をやりながらベンチャーを起こしてもいいし、優秀な人は企業をまたがって複数のプロジェクトをやってもいいし。先ほど漆原さんが仰った兼任もその一部ですが、必要だと思います。
ロボットや人工知能が発展すれば、作業的な仕事はどんどんなくなり、クリエイティブな仕事になっていきます。そのなかで、時間と場所に制約されない働き方も望まれていますし、子育てや介護の問題もあわせて考えれば、もっと能力ある人が幅広く柔軟に活躍できる制度にしなきゃいけないと思うんですよ。
雇用制度、大企業の人事制度や就業規則、大学の人事制度、このようなものがすべて旧態依然としたままなので、そこを大きく変えることがベンチャーを起こす原動力になり、「どこかのプロジェクトで稼ぎながら新しいこともやってみる」というチャレンジ精神も生まれる。そこはけっこう大きいテーマだと思っています。
こういった制度を国で設計するほうが、助成金よりもよほど重要な気がしています。そういうことを考えてくれる人が出てくるといいなと。
そして、教育ですよね。20歳くらいになって急にベンチャーをやろうと普通は思わない……思う人もいますが。
アントレプレナーシップやリーダーシップ、チャレンジ精神は、小さいころから刷り込まれていくもので、突然出てくるものではないんです。小さいころからそういうことに慣れ親しんでいくのが必要だと思います。しかし、学校は一番コンサバなエリアなので難しい。
ベンチャー企業の経営者が小学校や中学校に行って話をしたり、身近にそういうおもしろい人がいて強烈な印象を受け、自分も目指す……という体験がもっとないと、ベンチャーが夢のような、遠い話に聞こえてしまう。そうした活動をみなさんがやってくれると、若い世代にアントレプレナーシップが芽生えて、浸透していく気がしてます。
山岸:確かに「起業はこういう人がやっていて、そこまでぶっ飛んだことじゃない」ということをみんな知っていくのはすごく大事ですね。
鎌田:そうですね。ぜひそんなことを皆さんとできたらなと思います。
山岸:ありがとうございます。それでは丸さん。
丸:ぜひ山岸さんのように、鞍替えをしていただけると……鞍替えですよね? 裏切って……。
山岸:裏切ってはないです(笑)。
丸:裏切ってないですか(笑)。
「儲からないけど人類を変える」……はっきり言います。実は儲かるんです。僕と永田さんは理系と文系ですけど、考え方は同じで研究がおもしろい。「好奇心」とさっき言ってましたけど、文理関係なく「研究が人類を変える可能性があるんだ」と信じてくれている人がほしいです。
圧倒的に足りないのが、CFOやCEOの人材です。ただし、大学にいる人材は、マーケティングや資本政策、という言葉すらわからず怖がっているので、そこを任せられるような信頼がある人がほしいです。信頼はどうやって作るか。研究者は「研究が好き」だけなんですよ。
これ、めっちゃ単純です。先生を口説くときは「オレ、ケンキュウ、スキ」。このカタコトで「オラも好きだ」と。「オレ、オカネ、ゼンブミル」「オラ、研究やる」……こんな感じですよ。目も合わせてくれませんからね。目を合わせてくれなくても、背中と背中で赤外線通信ができる仲間になる人は、文理など関係ないんですよ。キーワードは「研究は人類を変えていく」があればいいんです。
もう1つ持っていてほしいのが、お金の感覚です。それを持っている人がチームに入らないと、成功しないんですよ。
僕と永田さんはすごくいいチームなんです。僕は研究者に寄り添うタイプで、永田さんは「売れない=世のなかに浸透してなということだよね」と、きちんと言ってくれる方なので、お金のことをちゃんと考えてくれる。そうした、きちんとお金に対しても「稼ごうぜ」と真正面から言える人が、大学発にもどんどん来てくれるとうれしいですね。
山岸:ありがとうございます。今回のセッションで丸さんはかなりアウェーだったんでどうなるかと思ったんですが(笑)。
大学発ベンチャーは日本を変えていくポテンシャルがあるだけでなく、世界的なベンチャーになるポテンシャルもある。慈善事業として参加するのもよし、お金儲けとして参加するのでもよし……。
丸:儲かりますよ! 絶対に。
漆原:これから儲かりますよね。
山岸:大学発ベンチャーはいいタイミングに入っていますので、ぜひ多くの方に興味を持っていただき、いろいろな方法で支援をしていただけるとうれしいと思っております。
それでは、パネリストの方に拍手をいただければと思います。ありがとうございました。
(会場拍手)
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