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今再び盛り上がる 大学発・技術系ベンチャー(全4記事)

「日本のエコシステムは回り始めたばかり」大学発ベンチャーがこれまで成功できなかった理由

「時間がかかる」「儲からない」と言われてきた大学発・技術系ベンチャーですが、ここ数年で変わりつつあります。「IVS 2016 Spring Miyazaki」で行われたセッション「今再び盛り上がる 大学発・技術系ベンチャー」では、そういった大学発・技術系ベンチャーの育成に力を入れているイノベーション・イニシアティブの山岸広太郎氏、ウルシステムズ・漆原茂氏、TomyK Ltd.の鎌田富久氏、リバネスの丸幸弘氏が登壇。本パートでは、大学発とネット発ベンチャーの違いや、これまで成功できなかった理由について語られました。

ネット系と大学発・技術系ベンチャーの違い

山岸広太郎氏(以下、山岸):話はちょっと戻りますけど、スライドを映してもらっていいですか。

:だいぶ脱線してすいません。

山岸:いえいえ。

写真がある左上をご覧いただけるとわかりやすいのですが。ここに出ている会社、例えば、鎌田さんの支援先でさっきLaunchpadで2位を取っていたH2L、あの会社はほとんど昔のSFじゃないですか。それが普通になってきていて、「人工衛星でベンチャーを作る」などもイーロン・マスクのような話ですが、日本でも始まっています。

「シャフトのような会社をGoogleが買収する」という話も少し前までは考えられなかったと思うんですが、急速にそういう時代になってきていると思うんですよね。

だから、ITなどの僕みたいな人がどんどん入ってくるのはまったく不思議ではなく、そういう時代になってくると思いますし、すごくおもしろい時代になってきたと感じています。

少し話を戻して、「ネット系と大学発・技術系ベンチャーの違い」を……ネット系じゃない人たちに聞くのも変ですけど(笑)。どのあたりが違うのでしょうか。生態系にくわしそうな鎌田さん、漆原さんから教えていただけますか。

漆原茂氏(以下、漆原):くわしいかどうかは置いといて……。

山岸:でもネット系のほうが知り合いは多いですよね?

漆原:大学発やテック系ベンチャーは特有ですよね。

お金の話もありますが、まず技術の目利きが非常に重要で、話しているとすぐ数学を出して「eのiπ乗+1が0なんだ!」と言う人たちがたくさんいるので。そういう人たちのネタを正しく理解した上で「これって本当にイケてるの? イケてないの?」と寄り添って、目利きするところが、まずは大きな必要事項なのかなと。

あと、ネタによっては実るまでに、ものすごく時間がかかる場合があります。

山岸:時間は、言われてますね。

漆原:花咲く前の種の種みたいなときがあるので。

あとは、本人の話していることは本当にすごいのですが、「世のなかから見てどう価値があってすごいのか」という、「つなぎ」の点で、非常にお金や時間、手間がかかる。あるいは、社会的なバリアがあって、レギュレーションを変えないなどのハードルの高さはあるとは思いますね。

日本は駆動系ハードウェアに勝算がある

山岸:鎌田さんはどうですか?

鎌田富久氏(以下、鎌田):そうですね。これは、ネット系のベンチャーの人向けにお話ししたいのですが。ネット系ベンチャーが世界で勝つのは、かなり難しいと思います。

僕もインターネットが20年、パソコンが30年と、そういったものが出てきてからずっとやっていて。そのなかでも、誰かが成功するタイミングは来るのですが、そのときの人とお金の集まり方の瞬間的な速さ、瞬発力がシリコンバレーに敵わないんです。

結局、シリコンバレーに人とお金がガッと集まって、大成功して、世界を牛耳ってしまう傾向があります。

日本で成功することがすごく難しい上に、そこから「海外に出てグローバルに成功する」は、ソフトとサービスの分野では相当分が悪いと言いますか、今も難しいと思うんですね。

一方、ハードウェアが絡むとどうなるか。ハードウェアはネットサービスのように、いきなりスケールするのは難しく「ものづくりの時間軸」がある。試作、実験、量産、検査……のような、どうしても縮まらない時間軸があって、これが日本人に向いてるんですよね。

そこに引きずり込むと、ネットサービスのように瞬間風速で負けない。そのほうが勝ちやすいというか、勝つチャンスがより出てくるんじゃないかが1つあるんですね。

ハードウェアのなかでも、駆動系があるほうがよいと思います。スマホや液晶テレビのように、組み立てるだけだと誰でもできてしまうけれど、自動車や一眼レフカメラなど、動くものがついていてモーターが入っていると、やはり難しいわけですよ。

あと、なにがありますかね。医療機器とか。

山岸:ウィルなどはやはり、よそで作るのは難しい……。

鎌田:そう思います。そうした分野のほうが日本の強さが出る傾向があるので。ソフトを組み合わせて、プラットフォームにしないと。

ただのハードウェアだとコモディティになって、最終的に韓国・中国に負けてしまいます。ハードウェアとクラウド・ソフトウェアと組み合わせたプラットフォームを作って、世界で大勝ちする。

少し前の、任天堂のDSやWii、ソニーのプレイステーションのようなゲーム機でできたような、「ハードをプラットフォームにしてソフトと一緒に儲ける」モデルにチャンスがあると思います。

例えば、ホームをターゲットにして、AmazonはAmazon Echo、GoogleはGoogle HomeやNestをハードウェア製品とサービスを一体にして出しています。日本で成功しているネットベンチャーも、そうしたハードウェアを絡めた戦略を上手に取って、次の勝負に出るとおもしろいんじゃないのかな、と思っているんですね。

そうしたことができそうなハードウェアのベンチャーも出てきています。ネットベンチャーが買収するのもありですし、一緒に協力してやるのでもいいですし、大きなエコシステムができることを期待しています。

大学発とネット発は「ゾウさんとネズミさん」

山岸:わかりました。丸さんから見て、そういうバイオ系などの国際競争力はどうですか?

丸幸弘氏(以下、丸):マジですか。聞いちゃいますか。

山岸:教えてください(笑)。

:簡単ですよ。まず、ネット系はプレゼンがうまい。大学発は、プレゼンが下手くそ。もう、これは最高にダメですね。本当に下手くそです。

2つ目。ネット系の人たちはチームでIPOまでいけますが、先ほど言ったとおり、大学発ベンチャーは、最初に大学で長く研究した後に地元の中小企業と組むんですよ。ユーグレナもそうで、石垣島の中小企業と組んでミドリムシを製造してるんですよね。

その後で、大企業とエコシステムを作らないと、結局うまくいかない。チームを組み立てるプロセスが大学のなかから始まり、その後で中小企業、そして大企業へと。このシステムを作らないといけないので、コミュニケーションコストが非常にかかる。

3つ目として、一番大きい違いは、長さですね。先ほど、会社が大きくなっていくための「創設期」「なんとか期」という話をしていたと思いますが、あれもすごく勉強になりました。その創設期が12年ですからね。わかります?

山岸:製品が出る前にね。

:そうです。創設期が10年とかなんですよ。だから、ミドリムシで例えると、まだ創設期なんですよ。次の12年で、やっと事業拡張期。次の12年でですよ! この時間差が、完全にゾウさんとネズミさんみたいになっていて、これを理解しないといけない。

ただ、ゆっくりとグロースした会社は長く繁栄できるので、そういった時価総額もついているのかなと思いつつ。僕は時価総額とかよくわかっていませんが。

プレゼンテーションが本当に下手。時間軸の違い、チームをどうやって組んでいくのか。この3つが、大学発ベンチャーとネット発ベンチャーの違いという印象を受けますね。……まあ、僕はITのことがよくわかっていませんが。

今後、おもしろくなるのはアグリテック

山岸:今、鎌田さんが仰っていた国際競争力の点で、バイオ系はどんな感じですか。

:バイオ系は若干IPS細胞に寄りすぎている気がします。実は、IPSだけにお金がついているのは、危険な状態なんです。あれがこけたら、大きい損失になるじゃないですか。

それ以外にも、すごくおもしろいバイオ系の技術がありますし、特に遺伝子については「日本人だからこそ」という部分があります。日本はバイオで、すごく強くなるはずなんですよ。

ただ、それを「どう売るか」というチームが、日本にほとんどいません。それに、成功事例がないので、国際競争力を得られていない。だから、山岸さんのような人がもっとこっちのチームで、時間軸を理解した上で、あとプレゼンが下手なことも理解した上で、支援していただけたらと思います。

「ビジョンは」と聞いたら、「ビジョンはないんです。このテクノロジーを愛していて、人類を変えることを愛しているから、どれくらいの売上になるかわかりません」と返すような人、「先生、これね、世界を獲れるよ」と話しても、「いや、世界を獲るのが目的じゃないです。人々に使っていただきたいんです」と返ってくるような会話で、相手がイライラしなければ、確実にロボティクスもバイオもおもしろいと思います。

あと意外と抜けがちだけど、おもしろいのがアグリテック(農業における、テクノロジーを活用した取り組み)です。

絶対に勝てるのは、農業ですよ。この国には、沖縄がありますからね。北欧やヨーロッパは、すべて北半球じゃないですか。土の状態や気候が違うんです。僕らには唯一、沖縄というバリューがあるので、そこの土と気候を活かしたアグリテックは、確実に東南アジアに持っていけると思います。

アメリカ人には絶対わからない、この湿度。わかりますよね? こういうところが、世界戦に出られるおもしろいところなんですよね。

これまで大学発ベンチャーがうまくいかなかった理由

山岸:ありがとうございます。ここから「成功の秘訣・失敗の原因」をテーマにいきたいと思いますが、漆原さんはエンタープライズ分野だと、欧米の会社に接近されていると仰っていましたね。

漆原:そうですね。欧米でのBtoBの起業はすごく多いです。向こうの起業の7割くらいが、少なくとも僕から見てBtoBに見えます。

山岸:でも、大学発ベンチャーは、スタンフォードなんかでも多いじゃないですか。

漆原:すさまじく多いですね。スタンフォードの場合は「大学のネタをビジネス化するハードルの低いこと!」という感じですね。僕もスタンフォードにいたのですが、教わっていたヘネシー先生(ジョン・リロイ・ヘネシー)という、学長にまでなられて引退された方が、もともとMIPS Computer Systems(現MIPS Technologies)を作った人で。

師事してたアヌープ・グプタ先生は、教授になるときにVXtremeという会社を作って、Microsoftに買収され、Microsoft Researchで大活躍したりしています。

あと、Vカーネルという、OSの話で激論を交わしたデビッド・チェリトン先生が、(アンディ・)ベクトルシャイムと一緒に10万ドルをボコンと最初にGoogleに入れたファーストチェックの人たちなんです。

そういう人たちがごろごろ歩いていて、先生として教えてるということは、生徒も必然的にヤバくなるわけです。「起業は当たり前だ」みたいな感じで。

山岸:鎌田さんも仰っていたソフトウェアやITサービスの分野では、国際競争力で日本は海外市場を獲れなかった、というのは言ってしまっていいと思います。コンピュータが盛り上がってきた当時は、日本でもそういった研究者のなかに有名な人も含めてたくさんいたのです。

鎌田さんみたいに起業した人は、そんなに多くはなかったと思うんですけど。それが失敗だったとするなら、敗因はなんだったんですかね。

鎌田:それはやはり……NASDAQができたのが、1971年なんですよ。Intelは71年に上場しているし、Appleは80年、Microsoftは86年なんですよ。日本で東証マザーズができたのは99年ですから、30年近く、そこでギャップがあるんですよね。

山岸:おっしゃるとおりですね。そういう上場市場があるから、大学発ベンチャー、というかベンチャーが出てきた背景がある。

鎌田:僕はそういうことも知らずに起業したので(笑)。

84年に起業しても、アメリカではベンチャーがバンバン上場していくんですよ。資金調達もして。「えっ、日本はできないの!?」と、あとから気づくんですけど、その30年でシリコンバレーでは、ベンチャーの大きな成功サイクルが3回転くらいしているので、投資も分厚いわけですよね。

そういった環境とまともに比較するのは、相当分が悪い。まさに、ここにいらしているようなIT系のベンチャーの方々が成功して、エコシステムの回転がこれから始まるということじゃないかなと思います。

海外の大学発ベンチャーは「卒業生が後輩の面倒をみる」

漆原:大学発ベンチャーについても、当然スタンフォードなどは、とっくにエコシステムができてるわけです。

僕たちが支援しているオリジナルスティッチという会社も、スタンフォードのStartXに行きましたが、あれも3,000社くらいノミネートして、50社くらい通っていたんです。

完全にNPOで、ノーエクイティでいくという。ただ、そこを通すと、スタンフォードは必ず、その後の増資金額の10パーセントのエクイティを入れてくれるんです。

山岸:それは大学が入れるんですか?

漆原:大学が入れます。上限はないです。アンリミテッドです。とんでもないですよ、バランスシートどうなるのみたいな。

山岸:10パーセント、ついてくる?

漆原:必ずついてきます。永遠についてくるんですよね。それって、とんでもないエコシステムですよね。

卒業生がちゃんと後輩の面倒をみる、ということでぐるぐる回っている。そういうシステムを日本でも早く作りたい。早くやらないともったいないネタがいっぱいあるんですよ。

鎌田:悔しいことに、スタンフォードは卒業生がみんなベンチャーをやっているから2.5兆円の運用基金があって寄付がバンバンくるわけですよ。東大は100億ですよね。慶応はたぶんもっと多いと思いますけど。

山岸:1,200億とか、1,400億とか。

鎌田:ケタが違いますけど(笑)。東大とスタンフォードでは100倍以上違うので、その差が現状なんです。

ただ、アメリカが20年でそうなったわけだから、日本もこれから10年20年かけてそのかたちにしていかなきゃいけない、という話かなと。

:チャンスなんですよ。荒らされてない「知の泉」が日本にあって、実はアメリカの方々は狙ってるんです。下手に技術移転をすると、基本的には海外に持っていかれます。

成功の秘訣は「全部リバネスに任せてくれればいい」ということになるんですが(笑)。それは置いておいて、大学の先生の働き方をもっとフレキシブルにしていかないと。

例えば、スタンフォードやMITはもちろんそうですが、学生が「ベンチャーする」と言ったときに、初めの初めに大学の教授が「いいよ、わかった。100万くらい渡すからやってみたら?」というふうに、きちんとインキュベートして、社長をやらずに顧問的に入るんですよね。

育ってくると、大企業の友だちに「こいつ、だいぶよくなってきたから、面倒みれない?」と言って。「まだこんな時点じゃダメだよ」という場合には、ベンチャーキャピタルが来て。

そういう、教授が自分のやりたい技術をそそのかすんですよね。ドクターとかポスドクを。それで種銭を入れてやらせる。最初はお金がないとできないので。

日本ではその種銭すら、大学の先生が出すと「あいつはお金の亡者じゃないか」とつつかれるという傾向がありますが、その感覚がもっと自由に変わらない。そこだけだと思うんですよ。先生方にはすごく優秀な方がいっぱいいらっしゃるので、そこが変わるだけで、これからもっともっと入り込みやすくなる。

ただ注意しなきゃならないのは、研究の世界はいい研究がたくさん埋まっている。とてもピュアな、すごくいい状態なので、これを勝手にハーベストされると、なんとなく気持ち悪いじゃないですか。

山岸:「汚したくない」みたいな感じですかね。

:はい。だから、これからリアルテックファンドでエコシステムを上手く作りたいのです。

やはりマンパワーがぜんぜん足りないので、エコシステムにいろんなITの方々や、一緒にコミュニケーションするチームを作っていけば、大学発ベンチャーは確実にうまくいくと思います。

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